町山智浩と木村元彦
現在,著者名のみで出ると必ず買う書き手が,ともに1962年生まれのタイトルの2人。年末に相次いで新刊本が出たので紹介。まずは町山智浩から『ブレードランナーの未来世紀』主に70年代の“ニューシネマ”を扱った『<映画の見方>がわかる本』に続く,『ブレードランナーの未来世紀』は,80年代アメリカのカルト・ムービーを,前作同様に「手に入る限りの資料と監督自身の言葉を手がかりにときほぐし」た映画解説本。この2作を読むと,80年代以降に大学教授や研究者の肩書きを持つ論者によってアカデミックな装いで書かれたポスト・モダン系の映画論の多くが,いかにアカデミズムからほど遠い「高級感想文」に過ぎなかったかが目からウロコで分かります。実証に裏付けられた客観的学術的な映画論こそが,説得力を持つ。それが「大学系」の書き手ではなく,在野の映画評論家・コラムニストである町山智浩によって敢然と実行されていることの逆説。さらに,そのようにして分析された最終章リドリー・スコット『ブレードランナー』が,「ポスト・モダンの荒野の決闘者」の副題に示されるように,何よりも分かりやすい「ポスト・モダン」論になっているもう一つの逆説。映画の解説が,そのまま時代を照射する優れた文明批評になって行く。素晴らしい。といっても,全然堅苦しい本ではなくて,「手に入る限りの資料と監督自身の言葉」,さらに著者自身の関係者へのインタビューによって知り得た豊富なエピソードの数々(是非,自分で読んでください!)が惜しげもなく投入されていて,「話のネタ本」として読んでも充分以上に楽しめるという,非常に贅沢なつくりになっています。21世紀人の教養として,必読。