hikaliの部屋

　私の見る夢は、もう会わなくなった人の夢か、予知夢めいたものが多い。
　私は中学の３年で引越しをしたのだが、私の夢に出てくるのはこの引越し
前の人が出てくるものが圧倒的に多いのだ。相棒が出てきたことは一度しか
ないし、同僚もほとんど出てこない。家族もない。親友もない。
　不思議な話だし、夢は無意識の投射だとか言うし、私が、「これがほんと！」
と思っているのは「記憶の整理（引越し）」であるから、そこに大切でいつ
も触れる人達が出てこないのは、もしかして私は冷たい人間じゃないのか、
とすこし深刻に思い続けてきた。
　当事者にとってみれば理不尽な話だ。
　どんなに相棒に夢で会いたいと思っても会えないのだ。

　先日の相棒との話の中で、私の人間の捉え方に触れた事があった。
　男子たるもの三日もすれば刮目してみよ、ではないが、私は基本的に一秒
前の人間と一秒後の人間は別人だと思っている。どろどろとした粘質のアメ
ーバみたいな流動体が人間の本性であると思うし、人間は一秒で成長する事
が出来る。
　どこかで同じ事を言っているひとがあって、全く同じ世界の秘密をみた仲
間のように、嬉しく笑ってしまったのだが、きっと人が精神的に死ぬところ
や、再生するところ多く見ているのだろうと思う。
　人間は一秒ごとに小規模な死と再生を繰り返す生き物なのだと私は思って
いるし、それが私の基本的な人間観なのである。

　さて、さっき、電車でそんなことをぼんやりと考えていて、不意に夢の謎
が解けた。
　私の夢に大切な人が出てこない謎である。
　よく考えてみたら、出てくるはずがないじゃないか、と妙に辻褄が合い、
ほっと息をつけた。
　私がその人間観に従って実際に人と接するようすは、Webページを開いて
ブラウザの再読込ボタンを何度も何度も押し続けることに似ている。
　一秒ごとに成長し続ける人など皆無なので、ほとんど更新などない。
　それでもボタンを押し新しい姿に夢中になるのが私で、だから再読込ボタ
ンを押すきっかけさえあれば、基本的にその人の過去は気にしないようだ。
もちろん、その過去に代るコンテンツがなければ、他の部分が変っていても
その部分の成長がないという事になる。
　比較的頻繁に更新される人には夢中になるし、その反対には興味がない。

　そうやって触れ続けていると、何年もボタンを押すきっかけがなかった人
は私の中で固定されてくる。押すきっかけがありそうな人は保留、もう会う
ことがなさそうな人だけが、私の中で更新されない一人として、明確にイメ
ージ出来るようになる。
　私は人というWebページをわくわくとしながら見、更新はないか、更新は
ないかと再読込ボタンを押し続ける、ちょっとおかしな人だ。そんな私が夢
で会うのは、もう更新されることがない、会わなくなってしまった人という
のであれば、納得がいく。
　私にとって人を具現化してしまう夢というものの中で見る人というのは、
もう二度と再読込ボタンを押すことのない、離れてしまった人なのだと気付
く。ボタンを押すきっかけのある人は、次に再読込ボタンを押した瞬間こそ
が、本当の姿なのだと、きっと思っているのだ。

　相棒に惚れた理由を、しばしば聞かれるのだが、そうやって考えると挙げ
だしたらキリがない盲目的なのろけリストに論理的な分析を加えられそうな
ものがあることに気付く。
　更新の頻度だ。
　感情の起伏が激しく、本気になったあいつと半年も恋愛が出来る人間は希
有に違いないと思える相手が相棒なのだが、起伏が激しい人間は基本的に安
定しないし、安定しなければ変化が多くなる。頻繁に更新される、いや十分
おきに更新されるぐらい目まぐるしい相棒なのである。
　そう考えて、私の性質と相棒の性質が、偶然にも合っていることに嬉しく
なる。
　会うことがいつでも新鮮で、たった十分離れただけでも、どんな人間に
なっているかわくわくしてしまう。あまりにも多彩な顔をするからその全て
を到底覚えきれず、顔を鮮明に思い浮べる事ができない。五分後の相棒が全
く違う相棒なら、思い浮べるより、電話でもして新しい姿に会えばいい。も
し、こんな事が続いたら、おじいちゃん、おばあちゃんになっても恋人気分
でいるかもと危惧も覚えるのだが、まあ、それはそれでいいと思ってしまう
から盲目なのだろう。
　夢で逢いたいだなんて、ちょっとよく考えてみたら、自分勝手な話ではな
いか。
　私は更新されない夢の中の姿よりも、現実のはげしくめまぐるしい姿の方
が、何百倍も好きだし、それがいきものではないか、そう思うのだ。