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カテゴリ:★★★★★な本
赤い三角屋根の家で美しい奥様と過ごした女中奉公の日々を振り返るタキ。そして60年以上の時を超えて、語られなかった想いは現代によみがえる。 第143回(平成22年度上半期)直木賞受賞作 <感想> ★★★★★ 申し上げるまでもありませんが、本書は第143回(平成22年度上半期) 直木賞受賞作です。 トリビュート作品の多い中島京子さんですが、こ の作品は完全オリジナルです。 さて、かつて女中奉公をしていたおばあさんの手記という体裁をとって いる本書の舞台は、昭和初期から敗戦までの東京です。 時代の流 れが最も激しかったこの期間においては、市井に生きるひとりひとりの 人生が即ちドラマです。 そのせいか作家には好まれ、この時代を舞 台にした小説は枚挙にいとまがありません。 しかし、本書は丁寧に取材がされていることは感じられるものの、ドラ マティックとは無縁に淡々とストーリーが展開していきます。 最近の 作品で言うなら、時代を旺盛に取り込んだ宮木あや子さんの『白蝶花』 のような作品が好みの私としては物足りなさを感じてしまいました。 さ らに言うなら、直木賞決定前に同じく候補作だった姫野カオルコさんの 『リアル・シンデレラ』を、決定後に受賞作である本書を読みましたが、 勢いのある前者と比較して、イマイチかなぁ~と思ってしまったほどで す。 そんな思いで、最終章の手前まで読み進めましたが、現代と過去の橋 渡しをする最終章の巧みさに唸っちまいました。 それまで語られた手 記を検証するカタチで明らかになる真実は、物足らないと感じていたエ ピソードの裏側に、語られなかった想いがあったことを読者は知ること になります。 せつなさが沁みてくるラストは、なんともいえない余韻を 残します。 最初に、混乱の時代を生きた人々の物語云々と書きましたが、中島 京子さんが描きたかったのは、単に女中を主人公にした女中物語 だったような気がします。 それは市原悦子さんが演じる現代の家政 婦さんではありません。 それを踏まえるなら時代設定は必然ですが あくまで舞台装置に過ぎません。 そこをハズすと私のように前半を 冗漫と感じてしまうのかもしれません。 現在重版待ちのようですが、気になっている方にはぜひおススメな一 冊です。 中島さんの前作は永井荷風、林芙美子、吉屋信子の作品 をトリビュートした『女中譚』ですが、それらも取り込んでいるように感じ ました。 併せておススメしちゃいます。
作中で出てくるバージニア・リー・バートンの絵本↓
イタクラ・ショージ(板倉正治)で検索しましたが・・・・・(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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