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カテゴリ:★★★★★な本
刑務所だけが、安住の地だった─何度も服役を繰り返す老年の下関駅放火犯。家族のほとんどが障害者だった、浅草通り魔殺人の犯人。悪びれもせず売春を繰り返す知的障害女性たち。仲間内で犯罪組織を作るろうあ者たちのコミュニティ。彼らはなぜ罪を重ねるのか?障害者による事件を取材して見えてきた、刑務所や裁判所、そして福祉が抱える問題点を鋭く追究するルポルタージュ。 <感想> ★★★★★ 著者の山本譲司さんは、秘書給与事件で国会議員から受刑者に転落し ます。 刑務所内で割り当てられた仕事は障害を持つ受刑者の介護役。 その経験を踏まえて書かれたのが新潮ドキュメント賞を受賞した『獄窓 記』です。 本書では障害を持つ受刑者たちの「その後」と「その前」を描きながら、 累犯障害者の実態と、彼らを取り巻く社会の問題点に鋭いメスを入れ ています。 さて、タイトルになっている累犯障害者といえば刑法39条が規定する 心神喪失と心神耗弱をイメージしがちですが、本書で取り上げるのは 主に軽度・中度の知的障害者の事件です。 その背景や性質からメデ ィアは触れたがりませんが、知らないことと存在しない事はイコールで はありません。 著者は事件の当事者(加害者)と何度も直接話をして います。 ここで特徴的なのは、彼らと話をする著者は元国会議員でも 福祉問題に取り組むジャーナリストでもなく、あくまで刑務所に1年3ヶ 月服役していた元受刑者の山本譲司だということです。 語弊を覚悟 で書いてしまいますが、その特異な経歴を持つ著者の取材力は無敵 です。 対象者は「そうなんだぁ~山本さんも入っていたんだ」と胸襟を 開いて辛い体験を語りはじめます。 身元引受人がいなかったり自分の意思を正確に伝えられないせいで、 本来なら起訴すらされない微罪で刑務所まで行ってしまい、最終的に は大きな犯罪を起こしてしまう累犯障害者。 社会から見捨てられ売春 で人の温かさを知るようになった女性。 居場所がないという理由で出 所直後に自殺してしまったかつての同囚。 彼らを取り巻く状況を克明 に描く筆と、どうすれば彼らの事件を防げたのかを論じる姿勢は真摯で あるがゆえに、読者の胸に響いてきます。 あちこちでレビューを拝見しましたが、福祉関係の方に多く読まれてい るようです。 しかし、著者は自らの特異の経歴や、取り上げているい くつかの大きな事件から興味本位で読む読者も否定はしないはずです。 なぜならいちばん大切なのは「知る」ということだからです。 秘書給与事件によって、私たちは前途有為な政治家を失ったが、 代わりに、優れたジャーナリストと果敢な福祉活動家を得たのだ。 と書いているのは江川紹子さんですが、激しく同意しちまいます。
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