昼ドラHolic ～美しい罠～

パーティーが終わり、俺は寝室で不破の寝支度を手伝っていた。
秘書とは名ばかりの、雑用係。これが俺の仕事。
不破「それで、敬吾はどうした」
槐「あの後、東京の自宅にまっすぐ帰られたようです」
不破「分かってるだろうが、あいつにはようく目を光らせておけ。
悪さをするようなら、必ず知らせるんだ。
それにしても、今日は忌々しいヤツばっかりだ。敬吾にしろ、あの女にしろ・・・」
槐「どうかしましたか」
不破「お宝をやろうとしたら、拒否しおった。」
槐「ああ、あのクレオパトラですね。」
不破「？」
槐「昔、エジプトのクレオパトラはローマ帝国のアントニウスに
自分の富を見せ付けようと、真珠を酢に溶かして飲んだんです。それを真似たのでしょう」
不破「くだらん・・・！」
・・・俺は心の中でほくそ笑んだ。類子は確実に、不破の心に棲み付いていた。

そこに、川嶋が入って来た。
「お疲れのところすみません。たった今バンコクから、例の件で話をしたいと電話が入りました」
不破は俺に言う。「仕事の話だ。席を外せ」

俺は類子に電話をした。
槐「そろそろ次のステップに進みます。準備はいいですね」
類子「こちらはいつでもＯＫよ。あの男が喜びそうな制服も用意したわ」
槐「それは結構。ただし、あまり看護師と言う面を強調しないように。
それ以外のイメージを持たせるのが難しくなる。
あなたは彼の看護師ではなく、彼の花嫁になるんですから」
類子「難しい注文ね・・・」
その時、山荘のチャイムが鳴った。その音は電話の向こうの類子に届く。
類子「誰か来たんじゃない？」
槐「ええ、あなたと彼を結ぶ幸福の使者です」
不破恒大の主治医、小谷教授が到着した。

小谷教授がベッドの不破を診察する。
「血圧が高いですね。ちゃんと薬は飲んでいますか。
こりゃもう、普段からの生活を改善するよう心掛けねば、命の保証はできませんよ。
そうだ、いっそ、ナースを雇ってはどうです？２４時間常駐で・・・そうだ、それがいい。
なんなら私に、心当たりがある。社長にはまだまだ頑張ってほしいですからね」
不破「そりゃ、ご親切にどうも」

部屋を出て小谷教授が言う。「あんなところで良かったですかな」
槐「結構です。社長の血圧を抑えるには、気晴らしも必要かと思いまして」
小谷「確かに、若い美人は効果的だ。ただし、あんまり興奮させないよう。
それから約束どおり、社長への口ぞえも頼む。医者も腕がいいだけじゃ出世できなくてねぇ」
そう言って帰る小谷教授。
これで、類子を看護師として山荘に招き入れる手はずが整った。

後日。湖の見えるテラスで不破が、猟銃を磨きながら俺に言った。
「何？まだ看護師が見つからんだと。お前、俺を殺したいんじゃないだろうな？
さっさと引っ張って来い！そんなに難しいことじゃない。相場の１０倍出すというんだ。
大金を出すといえば、どんな看護師でも蟻のようにたかってくる」
その時、千津がやって来て声を掛けた。
「だんな様、小谷さまの紹介だと言う方が来ております」

千津の後から来たのは、類子。凛とした面持ちで不破を見て類子は挨拶をした。
「初めまして。飛田類子と申します」
類子の顔を見て驚く不破。「あんた、あの時の・・・」

再びの、二人の邂逅。
不破と類子の表情は、ゲームが確実に成功に向かっていることを俺に匂わせた。


（ひとこと）
皆様のおかげで書けそうです。ありがとうございました(^o^)