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久恒啓一

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今年の本屋大賞で「海賊と呼ばれた男」が受賞した百田尚樹(1956年生)の最新作「夢を売る男」(太田出版)を読了。放送作家あがりの百田は一作ごとにまったく異なるジャンルの作品を書く。異色作家である。

詐欺まがいの出版ビジネスの際どさを描いた作品である。気楽に読み始めたのだが、後半になるにつれて畳み込むような面白さが湧いてくる。
著者と出版社が費用を折半する「ジョイント・プレス」というインチキなシステムを商売にする男の物語だ。
そのエサが自社の「賞」で、ここで惜しくも賞を逃したと思わせ、200万ほどの自己負担をさせて本をつくるという仕組みになっている。団塊世代、フリーター、主婦、など本の出版を夢見る人間を食い物にするビジネスだ。
ここには出版というビジネスモデルの崩壊現象、この業界で働く編集者の苦悩、プライドの高い愚物の多い作家と言われる人たちの生態、月刊小説誌の内幕、小説を読む人の絶滅危惧種化、など出版ビジネスの実態がこれでもかというくらい登場する。

主人公の牛河原によれば、このビジネスはお金を出させて自尊心と優越感を満たし相手から感謝される商売であり、人を救い、カウンセリング機能をも持っている。
牛河原は物事の本質をずばりと断定するのだが、こういった商売が成立するようになったのは、ブログの隆盛という時代背景があるという。ブログで日本人は書くことの喜びを覚えたのだ。ブログを毎日更新するような表現の喜びを覚えた人間、つまり自己顕示欲の強い人間は最高のカモになる。

作家と一緒に読者も年を取っていく。その悪循環から逃れるには常に新しい読者を開拓すればよい。若い読者をつかむ作品を出し続けることが作家の生き残りの条件になる。その通りだろう。

「元テレビ屋の百田何某みたいに、毎日、全然違うメニューを出すような作家も問題だがな」「まあ、直に消える作家だ」という場面が出てきて驚いた。自分を自著でからかっているという構図だ。

牛河原は「書評家や文学かぶれの編集者が言う文学的な文章とは、実は比喩のことなんだ」と喝破する。昨日書いた林真理子が「比喩とアフォリズム」と語っていたが、その通りではないか。

悪徳ビジネスいえる出版だが、最後のシーンで「うちも出版社だ。編集者が本当にいい原稿だと心から信じるものなら、出す。そして出す限りは必ず売る!」と大河原は言う。この矜持のこもった言葉を聞いて読者は安堵する。
最後のドンデン返しは、ミステリーのようだ。

「3作続けて重版にならなかったら、潔く筆を折る覚悟」の百田尚樹の作品は注目だ。
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池袋の東京芸術劇場で音楽座の「21C:マドモアゼル・モーツアルト」を観た。
モーツアルトは実は女だったという物語。
音楽座は「教育ミュージカル」という分野を開拓中である。観客席には中学生、高校生、大学生の姿が多く見られた。内容も人の生き方を問うものが多い。
作品を深く理解してもらうためのにパンフレットは無料配布で、本拠を置く町田の企業や、学校の広告が多い。
多摩大も音楽座の俳優による就業力開発プログラムで学生を指導してもらっている。
理念を磨き、自分で稼ぎ、営業をして、音楽座ミュージカルを継続して興業するというビジネスモデルは素晴らしい。志の高い起業家集団である。











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Last updated  2013/12/25 06:42:39 PM
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