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2006.04.10
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カテゴリ:洋書

 エドガー賞受賞作家リック・ボイヤーのドック・アダムズ・シリーズ第四作。


粗筋

 歯科医のアダムズが飼っている猫が、ある日突然苦しみ始める。アダムズは猫を安楽死させた。異常だと感じたアダムズは、猫の遺体を妻の弟に見せる。義弟のジョーは、警官だった。猫は解剖された。中毒死したらしいのが分かる。また、エアライフルで撃たれたのも分かった。
 アダムズは妻のメアリに、猫から摘出されたエアライフルの弾を見せる。妻のメアリは猫と同じように苦しみ始めた。弾そのものが中毒作用を引き起こすものだったのだ。メアリは手に傷があったので、毒が体内に入り易かったのである。
 ジョーの調査により、エアライフルの弾がソ連国家保管委員会KGBによって使用される「モスクワ・メタル」と呼ばれるものであることが判明する。FBIは勿論、CIAまで捜査に関わる。
「モスクワ・メタル」は即効性である。アダムズの猫は近所で撃たれたことになる。アダムズは近所に住む者を疑う。最も疑わしいのが近所付き合いの悪いエミルである。エミルの居所は掴めなかった。何者かに狙われているらしい。
 アダムズが、エミルの家の側を探し回ると、射殺死体が見付かった。エミルを狙っていたが、逆に殺されたのだ。
 FBI捜査官チェットから、エミルの素性が明らかにされる。エミルはアメリカの戦略防衛イニシアチブ(SDI。スター・ウォーズ計画ともいう)のソフトウェア開発に携わっていた。ソ連が最も恐れ、最も重要視しているプロジェクトである。総力を挙げて情報収集している。エミルはソ連の為に働いているらしい……。
 アダムズは、自宅の地下室にエミルが隠れているのを見付ける。エミルは、自分が二重スパイであることを告げる。元々ソ連KGBのスパイだったが、アメリカで暮らしている内にアメリカが好きになり、アメリカ中央情報局CIAの為に働くようになったのだ。しかし、最近はKGBに疑われているばかりか、CIAも自分を疑い始めていると感じていた。エミルは、二重スパイとして最大の危機を迎える。ソ連もアメリカも信用できなくなったのだ。
 エミルは、アダムズに告げる。自分の職場から情報が漏れている、だからCIAは自分を疑っていると。エミルは、自分が最も怪しいと感じている者の名を告げる。ウィリアムソンだ。彼の手紙には、マイクロドットがあったのだ。そのマイクロドットには、日付のメッセージが隠されていた。ウィリアムズは、その日付――28日の木曜日――に何かを計画しているらしい。エミルはそれが何か分からなかったが、自分の容疑を晴らす為、単独で調査していた。無論、家の側で見付かった射殺死体は、エミルによって殺された者である。
 エミルは、自分を殺そうしているKGB暗殺者の暗号名を告げる。タリンだと。正体不明の男だが、背中に大きな傷があり、それが目印になっている。
 アダムズは、エミルを手助けすることにした。町から一旦逃すことにしたのだ。エミルは、いずれ戻ってくると告げた。
 アダムズは、エミルの家の側で発見された死体を見る機会を得た。その死体の背中には大きな傷があった。どうやらタリンらしい。
 アダムズは、エミルが携わっていた研究の重要性を知らされる。彼の会社は、SDIの心臓部ともいえるコンピュータまで開発していたのだ。
 エミルは戻ってきたが、「モスクワ・メタル」に撃たれ、死んだ。アダムズは自分でエミルを殺した者を突き止め、KGBの計画を阻止することにした。
 問題のコンピュータは、28日の木曜日に、鉄道で輸送されることになっていた。アダムズは、KGBが輸送中のコンピュータを奪うつもりだと判断し、張り込む。
 そこにFBI捜査官チェットが現れる。実は彼こそタリンだった。彼も二重スパイだったのである。アダムズはチェットを倒し、KGBの計画を阻止した。


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解説

 ……派手なプロットなのだが、なぜか盛り上がらない。登場人物があまりにも普通で、所帯めいていて、緊張感に欠けるからだろう。こんなのがよくシリーズ化できたなと思う。
 アダムズという人物の設定が分かり辛い。ただの歯科医なのに、警察や連邦捜査局やCIAとコネがあり、隣人がソ連とアメリカの二重スパイという通常なら有り得ない状況にも何事もないように対応できるのが分からない。
 傭兵の友人がいることから、アダムズも元傭兵のようだが、それにしてもごく普通に結婚していて、歯科医をやっている、という設定は不自然。説明が足りない。シリーズ一作目から読んでいれば良かったのだろうか。いくらシリーズ物とはいえ、単独で楽しめなければ意味がないだろうが。
 また、登場人物が無用に多過ぎる。ほぼ全てが警察関係ばかりなので、個性がなく、区別が付き難い。レギュラーキャラのようなので、シリーズを順に読んでいれば問題はないのだろう。各キャラの近況報告ということで。が、今回のようにいきなり四作目を読んでしまうと「なぜこいつとこいつを統合して一つのキャラにしないのか」と思ってしまう。
 ストーリー展開ものろく、もたついている。整理して200-230ページ辺りにすべきだった。
 エミルは自分が戻ったことをアダムズに知らせる為、目印を残す。無論、追われている立場なので、誰もが分かってしまう目印だとまずい。複雑なものにした。アダムズも当然ながら目印の意味が分からず、解読に四苦八苦し、町中をかけずり回る……。
 この場面は特に緊張感に欠けた。
 その他にも妻の闘病生活や、アダムズ自身の闘病や、アダムズの食生活など、どうでもいいことが事細かに記載されている。これらも省略すべきだった。
 タリンの識別法は背中の傷跡だった。エミルが射殺した死体にもあった。最初はこいつがタリンでは、と思われたが、チェットにも背中に傷跡があることが判明する。ボート事故による傷跡だとアダムズに説明する。アダムズはその説明を疑うことなく受け入れてしまう。なぜここまでお人好しだったのか。親族に警察関係者がいたのだから、このことを説明していれば監視の目は早い段階でチェットに向いていただろう。最後になって実はタリンだった、と真相を聞かされても、驚きは少なかった。
 そもそも、アダムズはなぜ単独行動にこだわったのか。エミルを発見した段階で友人や親類の警察官らに事情をきちんと説明し、FBIやCIAは信用できないので引き渡すのはまずい、と忠告していれば、彼らは秘密裏にエミルを保護することができたかも知れない。
 アダムズがいらぬ心配をしてしまった為(心配していた割には敵側にいとも簡単に自宅や自家用車を盗聴器だらけにさせてしまうが)、エミルは適切に保護されず、結局殺されてしまうのだ。
 アダムズが素人の考えで行動を起こしていなければ、事件はより簡単に解決していただろう。
 主人公自身のエラーで事態を悪化させ、それをいかに克服するかで小説全体を盛り上げようとする手段も程度の問題だろう。
 本作品のようにやり過ぎると馬鹿馬鹿しくなるだけである。
 しかしエアライフルの弾だけで「ソ連が絡んでいる!」となってしまうのは突飛過ぎないか。



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Last updated  2006.04.10 22:55:22
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