涙・涙
3~4年前のある日のことです。あるお寺の住職が電動アシスト付自転車を駆って、古い掛軸を持ってこられました。 お伺いすると、「倉の雨漏りに気づかず大事な掛軸を傷めてしまった。何とかして欲しい。」とのこと。 拝見するとひどいカビに染み等 かなり状態が悪く、触るのもこわいぐらいでした。 1年後ぐらいに、洗いも成功し、表装し直して,妻に届けさせました(私はその時期 忙しく、仕事場に缶詰状態でした)。妻が帰るより早く、電話のベルがなり 住職の喜んだ声を聞きました。「とても良くなってました!ありがとうございました。」あんなに喜んでいただけると、私としても とても嬉しかったです。 そんな住職も悲しい事に、昨年の春に亡くなってしまいました。葬儀が終わって3ヵ月後、息子さんが住職の足跡を書にしたためた物を1周忌までに巻子(巻物)にして欲しいと持って来られました。 息子さん曰く、「あの時の掛軸を父がたいへん気に入っていたので、あの軸を掛けて、その前に遺骨を置いているんですよ。父も喜んでいると思います」 泣きました! 表具師冥利につきると思いました。私の家のある三町から東山のお寺まではかなりの登り坂が続きます。「この自転車はいいよ。わしのような年寄りが平気で坂を登って行くと人々は必ず、びっくりして振り返るよ」と言って、おちゃめに笑った顔や電話での喜んでくださった声など 思い出して涙が止まりませんでした。 そして今、来月の1周忌にむけて、巻物を表装しています。やはり目に涙を浮かべながら・・・