第四歴 新事実発覚だよ!の巻
新事実発覚だよ!の巻 その酒場は午後五時からOPENします。 OPENと同時に、ドアに付いたベルが引っ切り無しに来客を知らせます。 この酒場はいいんかい!国最大の酒場であり、盛り上がりの場であり、娯楽の場であり、ギャンブルの場であり、情報交換の場でもあります。 それ故に客層は様々、仕事を終えた農夫、商人、放蕩息子、ギャンブラー、詐欺師、魔法使い、一目でそのスジと解かる悪党、一目じゃそのスジと解からない悪党、紳士、淑女、情報屋、ダンサー、エトセトラエトセトラ。 それぞれの席で、乾杯が始まります。 賑やかな雑然とした席の間をくるくると動き回りながら、看板娘が注文を取ってゆきます。 彼女が通ると、男達はジョッキを掲げて声をかけます。 「あかねちゃ~ん!ビール!」 「俺も!」 「俺もだ!」 「は~い、少々お待ちくださ~い!」 看板娘・あかねは男達に輝かしいばかりの笑顔を向けました。 ・・・あかね?! ビールの樽から次々とジョッキに注いでいくあかね。 後からにょきっと現れた用心棒の男が、声をかけます。 「手伝おうか?」 「うんしょうくん、よろしく~w」 用心棒・しょうが彼女からジョッキを数個受け取ります。 ・・・しょう?! しかし、ビールジョッキを運んでいくと男達はあかねとしょうに気さくに声をかけます。 「おう、悪いな!」 「おじさん景気はどう??」 「上々だな。わっはっはっは」 酔っ払って豪快に笑う男に笑顔を向けるあかね。 この国の姫・あかね姫と先帝の隠し子・しょう王子が酒場に揃って並んでいるというすごい光景なのに、酒場にいる者たちはおめでたいことに気付いていないのでした。 しょう王子は町で育てられたし、それに以前酒場で用心棒をしていると紹介したから良いとして、あかね姫が酒場なんて働く必要なんて無いはず。 それ以前に姫が酒場で働いているなんて知れたら、大問題に決まってます。 本人曰く、「だってお城にばっかりいたらつまんないしほら、民衆のことも全然わかんないじゃん!」とのことです。 「もうワンゲームするらしいぞ」 「さっきから一人の奴が物凄い勝ってるらしいぞ」 「一人勝ちかよ」 「おい、誰が勝つか賭けしようぜ」 おや?何やら向こうの席が賑わってギャラリーができてますよ? どうやらポーカーに興じているようです。 五人の男が緊張感の中、カードを公開していきます。 「ツーペア」 「俺もツーペアだ。」 「フラッシュ」 「ストレート」 最後の緊張の一瞬、プレイヤー、ギャラリーの全意識が五人目に注がれます。 五人目は全集中を受けながら、カードを公開します。 2が三枚、クイーンが二枚。 「・・・フルハウス。」 どよどよっとその場が沸き立ちました。 フルハウスはこの中で一番強いカードです。 負けた男達はカードをテーブルに叩きつけます。 「ちくしょうっまた負けた!」 「結局全部しましぇ馬に持ってかれるのかヨ!」 「お前イカサマしてんじゃねえか?!」 「いや、トランプは得意なんですよ。」 ・・・しましぇ馬かよ。 どうやらしましぇ馬、こんな所でも現状を掻き回しているようです。 備え付けられた舞台のほうから音楽が流れ始めました。 どうやらショーが始まるようです。 「お、ダンサーズが踊るらしいぞ!」 ダンサーズはこの酒場を拠点に活動するダンスグループです。 とても人気があり、わざわざ見に来る人もいるくらいです。 照明が落とされると、わっと拍手が起こり、口笛が多数聞こえます。 舞台にスポットライトが当てられ、ぱっと数名の女性が照らされました。 衣装を纏い、豪奢な装飾がされた剣を握りしめています。 観客が息を飲む中、彼女達はひらりと舞い始めました。 最初はゆっくりと美しく。段々激しく魅惑的に。 観客をその世界に引き込みます。 「なあ少しくらい酒の相手してくれてもいいだろう?」 「んふふ~、お客さん困りますってぇ」 暗がりからそんな会話が聞こえてきて、あるダンサーが観客に解からない程度にピクリと眉を動かします。 「いいじゃないか~いつも飲みに来てるよしみと思って」 「ダメですって」 どうやら暗がりをいいことに、客があかね姫に絡んでいるようです。 ダンサーはひらりくるりと舞って、剣を持つほうの腕を大きく振り回します。 「いいから来いよ」 「いけません~」 激しい動きに乗せて、バク宙、そしてひゅんと彼女は刀剣をある一点に投げました。 だんっ 「ひぃっ!」 「うおぉ、びっくりした」 あかね姫と絡んでいる男の間に男に当たるか当たらないかすれすれで壁に見事刀剣が刺さり、男は固まり、あかね姫はぱっと離れました。 観客は驚き、そちらを見ます。 ダンサーは悠然と立って、キッと男を睨みます。 「おじさん、あかねに手ぇ出したらタダじゃおかないよ。てか用心棒何やってんだよって話!」 「なんだなんだ?」 「あっ お前何あかねちゃんに触ってんだ!」 「い、いやその・・・」 あかねは皆の看板娘。男達の間では、「あかねちゃんは口説いちゃダメ」が暗黙のルールになっています。 だから協定破ったら皆で制裁☆ 今だ恐怖に固まったままの男に男たちが詰め寄り、あかね姫はその合間を縫って抜け出しました。 そして、舞台に向かって手を振ります。 「よしこありがと~!」 ・・・よしこ?! ダンサーよしこ女医はにっと笑って衣を翻してまた舞い始めました。 流石は隠密でもあるその腕。暗闇でも正確な位置に刀剣を投げる実力は非凡なるものです。 ああ恐ろしい。 王女がいたり王子がいたり、馬がいたり女医がいたり。 一体なんだこの酒場。 そして、あかね姫のこの酒場で働く本当の目的。 酒場の閉店時間が過ぎて、客が帰り、酔っ払いを追い出した後、広い酒場は嘘のように静まり返ります。 掃除をしながら、あかね姫はしょう王子と話します。 「どうだった?なんか解かった?」 「んー、盗人コメイチの拠点がまた移ったらしいってことくらいかな。」 「むー。あいつまだ盗み働いてるのか。」 箒で身体を支えて、あかね姫は難しそうな顔をします。 「どうして人の物盗んだりするんだろ。働くの、楽しいのに。」 「さぁね~」 「盗んだりしなかったら、あかねも酒場で働いて楽しいだけなのに。」 平和といえど、犯罪や陰謀がやっぱりあるこのいいんかい!国。 隠密を使ったり、城の兵を使ったりして掴む情報はありますが、大衆の集まる酒場での情報は思いがけなく貴重であったりします。 以前、先帝の回し者が陰謀の相談をしていることを耳にし、未然に防いだこともあります。 人任せにはしていられない性質のあかね姫は、情報を自ら赴いて収集しているのでした。 「そういえばさ、今日凄いこと聞いちゃった。」 「何?」 「あそこの一番端っこの席でね、いつも常連さんいるじゃん」 「うん」 「ちょっと通りかかったときに聞き捨てならないこと聞いちゃったんだよね。」 「・・・何聞いたの?」 「先帝が、って聞こえて」 しょう王子はぴくりと眉を動かします。 「この酒場に来ていたの?」 「うん。」 「なんかどうしようもないオヤジだなぁ・・・」 苦笑するしょう王子。 しかし、あかね姫の話はまだ終わっていないようで、姫の表情は真剣です。 「うん。それで、パパ、酔っ払ってこう喋ってたんだって。」 「ん?」 「『俺には正妻の他に愛人が二人いる』って。それから『その愛人に一人づつ子供がいる』って。」 「ふーん・・・」 愛人かぁ・・・俺の母さんのことだな。そんなこと言ってたのか。やっぱりそうなんだ。 『正妻の他に愛人二人でその愛人に二人づつ』・・・ あれ?何か違和感があるぞ? しょう王子、頭の中で図を描きます。 正妻が一人、愛人が二人。 んで、愛人に一人ずつ子供がいる。 先帝と正妻の間の子=あかね 先帝と愛人1の間の子=俺 先帝と愛人2の間の子=・・・・・え? 「えぇえ!!!!」 「あかねたちにもう一人、兄弟がいるらしいんだよねぇ。」 驚愕するしょう王子とわりと嬉しそうなあかね姫。 新事実、発覚です。* * *あとがきこの回はしましぇにフルハウス出させるのが面白かった。どうか楽しんでwfrom魔女えい