第十三歴 作戦決行前。の巻 下
作戦決行前。の巻 下 PM5:00 酒場OPEN いつものように、酒場に人間が集まってきます。 賑わいの場、娯楽の場、水面下で交渉が行なわれる場、情報交換の場。その全てが揃う酒場の客層は様々。 名も知れぬ雰囲気の女に扮したよしこは酒場のドアの前で目的の人物を待ちます。 路上の影にミニバイクを停めた男は、よしこを見ると手を挙げました。 「今日はダンサーじゃないの?」 「先輩から情報もらいに来たから」 「ぐふふ、だよね。」 ご存知、旅人よしきです。 元敏腕隠密であるよしきはよしこの先輩に当たり、いいんかい!国に立ち寄って盗賊コメイチに関しての情報を集めていました。 よしこにとって唯一、有益のある先輩です。 とりあえず酒場に入り席についた二人。 看板娘あかねが注文を取りに来ます。 「いらっしゃ~い!・・・あれぇ?よしこと、よしき先輩?」 「こんばんはw」 「え~何でいいんかい!国に来てるって教えてくれなかったんですか~?」 「ぐふふ、ちょっとね」 城の誰かに教えたら一瞬で隠密機関に旅人よしきが訪れていることが広まりそうです。 そうなったらあっちに挨拶、こっちに挨拶、のんびり情報収集しながらいいんかい!国で過ごせません。 「黙っといてね」 「なんでぇ~?」 「え・・・タモガミ大司教に会いたくないから」 「えぇ~なんでぇ~?あかねたもさん結構良いキャラしてると思うよ?」 「あかねーカシスオレンジ一つ!」 「あ、じゃ俺も」 「むぅ、注文ね。はいはい只今!」 あまり納得いかない表情で看板娘あかねは退散しました。 旅人よしきはホッとした表情、よしこはしらっとした視線でよしきを見ます。 「・・・助かった」 「・・・先輩」 「ん?」 「嘘下手ですね」 「・・・」 「タモガミ大司教に会いたくないからって、なにそれ、即席過ぎるんだけど」 「・・・まあ、本題に入ろうか」 よしこの「尊敬できねぇ」視線が痛いのか、よしきは本題を切り出しました。 「十中八九、アジトが分散している。」 「やっぱりそうか」 よしこの表情が切り替わります。 「気付いてたか。まあ今の城の隠密どもは固定観念に凝り固まっているから、多分報告しても聞き入れないだろうな」 「まね、でもうち奴等は当てにしてないから。でもアジトが点々とあるんだったら、あぶり出すにも人手が必要だよね」 「んー、そこが問題なんだよな。検討はついてるけど、まだはっきりアジトの場所も解かってないし。」 「いや」 よしこは不敵に笑います。 「解かるかも知んない」 「本当か?」 「奴の性格って慎重だけど、だけど気付かぬ間に墓穴掘ってるタイプだよ。うちの推測が当たってればね。アジトの数も場所も簡単に解かるかも知れない」 「そうか。それだったら作戦立て易いな。それで?それってどういう推測?」 よしこは小さめの地図を広げました。地図には盗賊コメイチが出没した所に印がついています。 「盗賊コメイチって、出没するのがランダムでしょ?それって多分、足がつかないように、混乱させようと思ってるんだよね。だけど、それが裏目に出た。」 よしこは指を差しました。 先程小姫御殿でそうだったように、一見、出没した場所は散らばっているように見えますが、よく見れば所々に出没していない所が数か所あります。 「これ奴が出没した所を全部書き込んだ地図ね。」 「うむ」 よしきは暫く眺めてましたが、すぐにはっとしました。 「出没してない所があるな」「うん。奴は慎重に、足がつかないように行動してるでしょ?いつも。盗み方は雑で、ばれようがばれまいが逃げ足の速さを重視してる。要は、さっさと逃げちゃえば四方八方にある自分のアジトにどれにでも逃げ込めるからだよね。」「それだとすれば、最大の武器である隠れ家のアジトがばれないように慎重に行動するよな。」「だけど、その慎重さが墓穴を掘った。盗賊コメイチは、無意識に自分のアジトの周辺に盗みに入らないようにしている。」 「だからここと、ここと、ここと・・・穴が開いている。出没してない所が、盗賊コメイチのアジトだってことになる」 「ほう、面白いことに気付いたね」 「だろ?」 旅人よしきはにわかに楽しくなってきたようで、にっと笑います。 「そこら辺の怪しい所を探したら、案外簡単に見つかるかもな。何箇所もアジトがありゃ、留守にしがちだろうから、次何処に出没するか予想も立てられるかも知れない」 「そんで、先輩に探し出して欲しいんだよね、アジトと今中心的に使っているアジトの場所。それからうちがあぶり出し作戦立てるから」 「・・・俺が探すの?」 「うち女医で本屋店主でダンサーで多忙だから」 「・・・」 問答無用で承諾させられた旅人よしきです。 「それで、作戦立てるときどうすんの。人員確保大変じゃない?」 「まあ、それはこっちでどうにかするよ」 「おまたせ~ww」 と、ちょうど看板娘あかねがグラスを運んできました。 「カシスオレンジですっ」 「さんきゅ」 「ぐふふ、どうも」 「じゃ、先輩よろしくね」 「そしたら本もっと高く買ってくれ」 「考えとくw」 にっと不敵に笑い合うと、二人は杯を上げるのでした。 数週間後、店主よしこが店の奥でいつものように漫画に目を落としているとミニバイクのエンジン音が聞こえてきました。 どうやら店の前で停まるようです。 「来たな」 そう言うと、よしこはにっと笑って本を閉じました。 進行状況は良好。 果たして、盗賊コメイチは捕まるか?* * *随分更新してない(ー∀ー)最早誰が見てるんだか笑盗賊コメイチは捕まるのか??from魔女えい