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前回の基礎的な話を踏まえてPBRによるバリュエーションをどのように考えているかについて述べたいと思います。
まずは、「事業の清算」という側面から見たPBRです。バリュエーションの側面から論じるまでもなく、事業を即座に清算する場合の理論的なPBRは1です。 以前にも述べましたが、PBRが1倍割れとなる理由は以下の3つのいずれかです。 (1)保有資産の質に問題がある場合 (2)経営陣の質に問題がある場合 (3)市場参加者の質に問題がある場合 今回はバリュエーションに関する話なので、(1)と(2)だけを議論の対象としています。 現行の会計制度下での貸借対照表は、勘定科目の各数値が必ずしもその企業の財産状態を正確に表しているとは限らないので、実質的な価値を別途見積もらなければなりません。さらに、その清算価値は事業の清算にかかる諸々のコストも勘案した保守的な値とすべきです。 そのようにして算出された清算価値は「今すぐに事業を清算すれば」株主が得られると期待できる金額ですから、株式時価総額がそれを下回っていれば、一応お買い得であるという結論を出すことは出来ます。 しかし、現実にはごく一部の例外を除けばどんな企業も事業を継続することを前提としております。となると、事業が清算されることを期待してこのような企業の株式を買うことは現実味が薄いという側面もまた存在します。 実際のところ、「事業の清算」という概念をバリュエーションに反映させる場合、「将来の収益性が殆どゼロの企業」に限定してよいのではないかと思います。このような収益性のない企業は、株主利益的には事業を清算すべきだからです。 しかし、実際にはこれらの企業でさえ株主利益的な側面以外の理由で事業を継続しています。この「事業を清算しない」という現実的な問題がPBR1倍割れの銘柄を出している一つの要因であるともいえます。こちらは、経営陣の質の問題となります。 上記をまとめると、「事業の清算」という前提でPBRによるバリュエーションをする場合、以下がポイントになります。 *その企業が保有している資産を実質的な財産価値に換算して実質的なPBRを算出して、計算上の「お買い得度」をチェックする *基本的に、清算価値は将来の収益性がほとんど期待できない企業にのみ適用し、将来の収益性が期待できる企業であれば、その収益も勘案したバリュエーションが行うべきである *「事業の清算」を前提とした清算価値を計算したとしても、現実には「事業の継続」と「経営陣の質」という問題が立ちはだかっており、清算価値と株価のギャップが簡単に埋まらないリスクもある PBRのもう一つの極端なケースを考えたいと思います。すなわち、事業を「永久に」継続するというケースです。定率成長モデルを前提とした場合、 PBR=ROE÷(R-G) となっており、「理論上のPBRは、ROE(株主資本利益率)と割引率と利益成長率で決まる」となります。やや厳密性に欠ける部分もありますが、上記の3つの変数は以下のように特徴づけることが出来ます。 *ROE(株主資本利益率)・・・経営陣の資本政策の質 *割引率・・・その企業が行っている事業リスクの高さ *利益成長率・・・その企業が行っている事業の潜在的な拡大余地 事業を永久に継続することを前提する場合、PBRには「資産の価値」という概念がなくなり、その代わりに「将来の収益性」と「その不確実性」を決定する3つの変数が重要だということになります。 ウオーレン・バフェットが行う投資手法において、良質な経営陣が不可欠であると認識し、不確実性の低い分かりやすい事業にだけ手を出して、消費者独占の体制が整っている企業を好むという条件がここには全て含まれています。 これらは将来の収益性をベースとしたバリュエーションですから、定量的な分析が当てはまりにくいという側面は必ず存在するので、どうしても個別企業ベースでの分析が不可欠になります。競争相手や取引先に対して優位性を持っているかどうかの分析も不可欠になります。 「事業の清算」と「事業の永続」という、2つの極端なケースからバリュエーションの本質に迫ってみましたが、現実の企業は殆どはその中間にあると言えます。 *グレアムは言います 「経営陣の質や将来の収益予測は当てにならないものである。ましてや、収益のトレンドをベースとした投資は危険である。」 *バフェットは言います 「極めて稀ではあるが、優れた経営陣・優れた事業素質・潜在的な市場拡大余地を持った企業を適正以下の価格で買うことで、大きな成果を得ることができる。」 上記の2つの主張は必ずしも対立しているわけではありませんが、「将来予測に大きく依存しないこと」と「可能な場合に限り将来性に賭けること」という点に投資スタンスの違いが現れています。 それぞれの投資家がどちらを支持するかという点に関してですが、これは「追求する投資リターン」と「熟練の度合い」に大きく依存するものであると思います。ただ、将来の収益性を予測するのはごく一部の例外的なケースを除けば非常に難しいというのは事実です。 私のポートフォリオの大部分が「資産系」に寄っているのも、どちらかと言えば、グレアムの主張のほうが私にとっては分かりやすいと感じているからです。 しかも、今の日本の株式市場であれば、年率20%程度であれば、資産系に特化しても十分に達成できる数字だと思います。成長系を目指すのであればそれ以上は欲しいところです。少なくとも、下手クソが出来もしない成長株を分析するよりは、リスク/リターンの特性に合っています。 成長株投資を志しているものの、投資成果が今ひとつパッとしないならば、「事業の清算」という立場に限りなく近いPBRを利用した投資の意思決定をおススメします。「事業の永続」という立場に限りなく近いPBRを利用した意思決定をするのはその後だと思います。 あのDAIBOUCHOUさんでさえ、最初は「低PBR投資」から入っています。その後、「低PER投資」に移行し、最終的には「事業内容を見る投資」に移行しているのですから、その段階を踏まないでいきなり成長株投資というのは無謀の一言に尽きると思います。 今日の言葉: 「物事には何でも段階というものがある。基礎を踏まえないでいきなり応用に行こうとしても、それは絶対にうまくいかないだろう」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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