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2006年01月03日
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2005年6月3日

 投資にご関心のある方の多くが、「行動ファイナンス」という言葉をお聞きになったことがあると思います。2002年には、行動ファイナンスの代表的な研究者であるダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞したこともあり、日本でも、ここ数年幅広く紹介されている研究分野です。「行動ファイナンス」という言葉そのものはお聞きになったことがなくても、「相場には人間の心理の研究が重要だ」ということは多くの投資家が感じておられるのではないでしょうか。行動ファイナンスは、簡単にいえば、認知心理学の研究成果をファイナンスの研究に応用したものです。
 投資やファイナンスに関係した理論としては、数年前に「金融工学」と呼ばれるような分野(代表的な業績としてはオプション価格を計算するブラック・ショールズ式など)が小ブームを形成したことがありましたが、「行動ファイナンス」は、時間的にはこれに続くより新しい理論といえます。「理論は新しければいい」というものではありませんが、「金融工学」の枕詞に、「最新の」という言葉がふさわしくなくなっていることは、知っておいていいと思われます。どの理論がどう修正されるのかについては、まだハッキリした答えが出ていませんが、「金融工学」という言葉に象徴されるような伝統的なファイナンス研究の相当部分が、行動ファイナンスによって根本的に批判されているように思えます。
 ファイナンス分野への認知心理学の応用は、「アノマリー現象」(これも株式投資家にはおなじみの言葉ですね)と呼ばれるような、「儲けるために役立つ」現象の解明から進んできた経緯がありますし、個人投資家レベルの行動の多くが研究対象になっていることもあって、個人投資家が知っておくと役に立つ種類の知識であり、それ自体が面白い内容を持っていると思われます。
 しかし、十数年前から今日までの「金融工学」がそうであったように(詐欺スレスレといっていい各種の仕組み債やEB(他社株転換権付き債券)など不適切な金融商品がデリバティブの応用と称して横行しました)、ファイナンスの新研究は、素人が行動のレベルを上げるためというよりは、プロが素人から儲けるための手段として広く応用されているような面もあります。個人投資家のみならず、広く生活者は、行動ファイナンスに関連する落とし穴についてポイントを知っておくことがいいでしょう。
 前置きが長くなりましたが、今回は、行動ファイナンスの理論的位置づけと、理論的に主な内容をご紹介することにしましょう。


■伝統的なファイナンスへの批判

 行動ファイナンスは過去25年くらいの間に急速に発達した研究分野ですが、特に、ここ10年くらいの期間にあっては伝統的なファイナンス分野をしのぐ勢いを見せています。
 行動ファイナンスは理論としては、(1)裁定(アービトラージ)の限界に関する理論と、(2)人間の非合理性に関する認知心理学的研究の応用の二つの柱を持っています(以下、主にアンドレイ・シュレイファーの『金融バブルの経済学』兼広崇明訳、東洋経済新報社、の説明を参考にしました)。
 「裁定」とはリスクなしに儲ける機会を利用し尽くすように取引を行う行為を指します。これが完全に行われることは、伝統的なファイナンス理論の構成にあっては、非常に重要な前提でした。たとえば、資本資産市場モデル(CAPM)や裁定価格モデル(APT)のようなポートフォリオを前提としたリスク資産に関する価格付けの理論や、オプション価格の理論なども、何れも「裁定」ないし、これよりもさらに厳しい条件である「市場の均衡」が前提条件でした。
 しかし、現実には、市場参加者の持っている情報や判断力・計算力などの不完全性、さらには心理的なバイアス(バイアスとは「偏り」の事ですが、意思決定に於ける偏りを指します。行動ファイナンスの頻出単語です)の影響で、現実の資本市場における裁定は不完全であることを行動ファイナンスの研究が明らかにしました。
 これは、伝統的なファイナンス研究の理論構成に対してはかなり決定的な痛手ですが、現実には、伝統的なファイナンスほどに明快な理論で代わりになるものが十分に登場していないことや、大学の先生(米国のMBA講座の教師なども含みます)の交代がそう急には進まないことなどもあり、伝統的なファイナンス研究の結果をそのまま信じて実務にも使う専門家がまだ少なくありません。たとえば、M&Aなどの際にベータ値に基づく企業価値の計算を行うケースがまだあるようですが(CAPMの応用といえます)、はっきりいって、これは単なる誤りです。
 裁定が個別のケースで完全に働かなくとも、(1)人間の誤りがランダムだったら市場全体は正しいのではないかとか、(2)誤った情報に基づいて行動する市場参加者は市場で淘汰されるのではないか、だから市場全体としては、伝統理論の前提は大まかに満たされているのではないか、といった伝統理論側からの希望的救済案がありましたが、(1)については、人間の情報処理が完全でないことと共に情報処理にはかなり明確な傾向を持ったバイアスがあることが明らかになりましたし、(2)についても間違った情報を持った参加者が必ずしも淘汰されないばかりか、かえって富を拡大させる場合もあること(「ノイズ・トレーダー」に関する理論)などが分かり、「裁定」を救済したいという伝統理論側の試みは今のところ成功していないようです。
 金融市場での「裁定」が十分に働かないとした場合に、現実の投資家の行動や金融市場の振る舞いを説明するために、主に人間の判断の傾向性を研究した認知心理学の成果をファイナンス研究に応用することが進められており、幾つかの理論、あるいは基礎概念といえるような成果を生み出しつつありこれが行動ファイナンスの前向きな貢献といえます。


■運用そのものに応用するのは大変

 最近多数登場している行動ファイナンスの一般向けの入門書の中には、行動ファイナンスを知ると、株式投資などで儲けることができるといったニュアンスで、あたかも行動ファイナンスの研究を投資必勝法の原理のように扱うケースがあります。
 しかし、行動ファイナンスの理論も通常の投資理論と同じで、誰でも知りうるし、応用しうる知識なので、これを知っただけで特定の人が(たとえば読者が)簡単に儲けることが出来るような種類の知識ではありません。この点は、過剰な期待を持たないように注意が必要です。
 行動ファイナンスは、市場の効率性の反証事例、たとえば低PER効果や低PBR効果など、いわゆる「アノマリー現象」と言われるものに関する説明に心理学を援用するような形で研究されることが多かったので、「儲けるための理論」と言える面も若干はありますが、この理論を応用して、投資そのもののパフォーマンスで稼ぐのはなかなか大変です(たとえば、低PER効果はこれが「効いている」期間が長くても、裏目に出る期間もあり、将来の有効性が保証されるものではありません)。
 詳しくは、別の機会に述べたいと思いますが、金融業界は、行動ファイナンスを金融ビジネスに応用するある程度体系的なノウハウを身につけたように見えます。そして、こちらの方は、ある種の確実性を持っているようなのです(顧客にとって好ましいことではありません)。










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最終更新日  2006年02月10日 01時05分10秒
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