1577943 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2007年09月25日
XML
 投資の10大理論を紹介するシリーズは、簡単に紹介しようという当初の予定に反して、毎回、説明に相当の紙数を要したが、今回が最終回だ。

 なお、その10.「適応的市場仮説」は、本連載の第33回「行動ファイナンスと市場をつなぐ発想法」(2006年6月16日)の修正稿だ。この考え方は、個々の局面における投資戦略の有効性を考える上で、有効な視点を提供しており、今後、発展・改良の余地があると思う。


■その9.「ニューロ・ファイナンス」

 あるいは行動ファイナンスの一部であると考えるべきかも知れないが、それ以上の拡がりを持つ可能性のある研究プログラムとして、脳の研究を挙げることができるだろう。2000年前後から、猛烈な勢いで、脳の研究をベースとした、経済理論の研究が行われており(残念ながら、ほとんどは外国でだが)、こうした研究の中に、ファイナンスの研究も含まれている。

 MRIやfMRIといった、脳の活動を、脳を傷つけることなくモニターすることができる器械が発達したお蔭で、人間の感情や各種の意思決定と脳の活動の関係が、かつてよりも随分よく分かるようになってきた。何をするときに、脳のどの部分が活動しているか、という情報だけで、投資に関わる脳の意思決定メカニズムの全てが分かるとは思えないが、幾つか興味深い手掛かりが得られているようだ。

 先にも述べたように、行動ファイナンスで研究されるバイアスは、観察や実験の結果見つけられた「傾向」だが、それがなぜ生じるのかについて理由が曖昧であった。理由が曖昧であるということは、たとえば投資家にとっては、他の市場参加者の「バイアス」をどの程度の強度、安定性、継続性で期待していいかといった判断を困難にするので、追加的な情報は貴重だ。

 著者は、この分野の文献を読み始めたばかりだし、脳に関する医学的な知識がないので、以下の記述では、脳の部位名をはじめとする専門用語を避けるが、大体の感じをつかんで欲しい。

 先ず、投資理論の世界では一口にリスクとリターンと言うが、人間が何らかの刺激をリスクであると認識するにあたって使う脳の部分と、報酬としてのリターンの多寡を認識する部分は、互いに離れた部分で、どうやら制御のされ方の上でも近くない部分であるらしい。つまり、リスクとリターンとを総合的に判断する、という伝統ファイナンスの理論の要求であり前提でもある行動は、脳にとって、そこそこ以上に難しい作業であるようだ。

 また、こと金銭的な報酬に対象を限るとしても、時間的に目先の報酬と、ある程度以上に遠い将来の報酬とを評価し処理(脳の他の部分に信号を送るということ)する部分は明白に別々であるらしい。これは、おそらく、双曲割引のような、ゲーム理論的合理性を欠く時間価値判断が、かなり固定的で、学習によって簡単に修正できるものではないことを示唆しているのではないかと思われる。

 また、脳の活動を調べると、他人と同調することの喜びに関連する部位、また、他人との比較の上でフェアであるかどうかに反応する部位があるようだ。こうした部位とその活動の存在は、投資家が他人に影響されたり、他人の儲けに嫉妬したり、他人との比較で自己評価をしたり、といった現象が、かなり普遍的なものであることを意味しそうだ。

 ギャンブルなどで確率的な有利不利を判断する際に活動する部位も特定されているようだが、投資家(というよりもトレーダーかも知れない)の判断に関連すると思われる、「アイオワ・ギャンブリング課題」と呼ばれる興味深い実験がある(詳しくは、たとえば坂井克之「前頭葉は脳の社長さん?」講談社ブルー・バックス、参照)。これは、損得の期待値が異なる複数のカードの山からカードを引いて、どの山が得か損かを判断する実験である。平均的な被験者は、80枚くらいのカードを引くと、「この山はヤバい」というような判断を意識化し始めるらしいが、皮膚に電極を付けて(微少な発汗で神経の活動が分かる)この実験を行うと、20枚から30枚くらいカードを引いた段階で、脳は「この山はヤバい」と期待値がマイナスになる山を感じているらしいことが分かったという。著者の友人の株式トレーダー(外資系証券会社で財をなした)に話を聞くと、彼は、「若い頃は、値動きから、次の値動きが見えるような感覚があった。これは、チャートに表れるようなタイミングの先に見えるもので、実際、チャートなんて見て売り買いを決めているようでは、トレーディングの世界では儲からない」と言っていた。著者は、その種の短期トレードに仕事で関わった経験がないので、この友人の見解を実感から評価することはできないが、ある種の感性が有効な世界があるのかも知れないし、脳が感じたことを速く認識する人と、そうでない人といった差があるのかも知れない。

 こんなことを書くと、「トレーディングの感性を鍛える」と称するインチキ・グッズが商品化されるようになるかも知れないが、損得や確率の有利不利を人間の脳がどのように捉えるのかは興味深い問題だ。

 何れにせよ、「ニューロ・ファイナンス」(或いは「ニューロ・エコノミックス」)といった言葉を聞くようになってからまだ数年であり、今後、面白い発見があるかも知れない分野として注目しておきたい。

 なお、この種の研究は、証券市場の規制といったものも含む政策論や、法律の分野でも行われている。著者は、ある雑誌の連載コラムに「脳学部経済学科の投資理論」と題する原稿を書いたことがあるが、経済学やファイナンスの前提条件や基礎の相当分が脳と関連づけられるようになる日が遠くないかも知れない。


<< その8.「行動ファイナンス」(3)へ
そのその10.「適応的市場仮説」へ >>





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007年09月25日 19時25分53秒
[ 「ホンネの投資教室」] カテゴリの最新記事


PR

プロフィール

ホンネの投資教室

ホンネの投資教室

ニューストピックス

カレンダー

バックナンバー

2024年05月
2024年04月
2024年03月
2024年02月
2024年01月

コメント新着

コメントに書き込みはありません。

日記/記事の投稿


© Rakuten Group, Inc.