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2009年09月04日
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昨年、資本市場を理解するのに役立って且つ面白い読み物としてリチャード・ブックステーバーの「市場リスク 暴落は必然か」(遠藤真美訳、日経BP社)をご紹介したが、久しぶりのブックガイドとして、ジョージ・A・アカロフ、ロバート・J・シラーの「アニマルスピリット」(山形浩生訳、東洋経済新報社)をご紹介しよう。訳書のサブタイトルは「人間の心理がマクロ経済を動かす」だ。

著者のアカロフは情報の非対称性を扱った通称“レモンの経済学”などの実績でノーベル経済学賞を受賞した人で、シラーは資本市場とマクロ経済の両方に詳しく、「根拠なき熱狂」(植草一秀監訳、沢崎冬日訳、ダイヤモンド社)ではネットバブルの構造を見事に指摘した。また、サブプライム問題の発生以降、投資家が毎月注目するケース・シラー住宅価格指数の作者の一人でもある。共に文句なしに一流の学者であり著述家だ。

この本での「アニマルスピリット」


「アニマルスピリット」はケインズが使って有名になった言葉だが、著者達は、これを踏まえつつも、もっと広い意味でこの言葉を使っている。経済学を囓ったことのある人にとっては、この点が却って分かりにくいかも知れないので、筆者の解釈を付記しておく。

ケインズのアニマルスピリットは、企業家が事業を興したり投資を行ったりするときの「非合理的なまでに熱いビジネス的情熱」といったものだ。一般に、起業の多くは失敗するし、事業における投資のリスクはポートフォリオのリスクのように数字で計測できるようなものではない「不確実性」(フランク・ナイトが「リスク」と区別して使う「不確実性」)の下にある。この状況を考えてケインズは、事業というものが、多くの点で、合理的な計算では説明できない「アニマルスピリット」とでも呼ぶしかない感情に突き動かされて動いていると述べた。また、「利子・雇用及び貨幣の一般理論」のケインズは、消費者の心理や投資家の心理など、心理的な要因を深く考えた経済学者だった。

一方、アカロフとシラーは、その後のケインズ解釈者たちによって無視されがちだった、経済現象の説明における心理的な要因を重視すると共に、これまでの経済学が想定する合理的経済人の行動原理からすると非合理的な心理的・感情的要因全般を、ケインズを意識して「アニマルスピリット」と呼ぶことにしたようだ。そして、この本では、これをマクロ的な経済現象を説明するためのツールとして前面に置いて強調した。

この本のアニマルスピリットは、行動経済学や行動ファイナンスでよく言う「バイアス」ほど細かく定式化されているわけではない説明概念だが、大まかには脳の進化的に古い部分(ある意味では「動物脳」)が司るとされる「感情」が、計算的合理性である「勘定」から逸脱する現象を重視しているという意味で、行動経済学・ファイナンスの文献をお読みになったことがある方は「必ずしも理性や計算に服さない動物脳的な感情の影響をアニマルスピリットと呼んでいるのか」と思いながらこの本を読むと、意味が頭に入りやすいのではないと思う(注;厳密には、この本が、とり上げたアニマルスピリットの全てが脳の進化的に古い部分の機能だけで実現しているのではないが、イメージとしては分かりやすいのではないか)。


5つのアニマルスピリット


アカロフとシラーが取り上げた、通常の経済理論では軽視されるけれども無視できない「アニマルスピリット」は5つある。「安心」、「公平」、「腐敗と背信」、「貨幣錯覚」、「物語」だ。

まず、人は投資を行うかどうかということを考える場合、リスクとリターンのバランスを考えるというようなアプローチよりも、「それは安心か?」という印象に大きく左右される。また、「安心でない」ということになると、取引も信用(お金の貸し借り)も縮小するので、安心が損なわれた場合には、「安心乗数」がマイナス方向に働くことによって、経済活動の広範な縮小が起こると著者らはいう。

次に、人は自分が「公平」に扱われているかどうかということに対して、非常に強く反応するし、第三者の行動に対しても「それは公平でない」と思った場合には憤りを感じ、これが経済行動に影響する。なお、脳の研究によると、他人の公平からの逸脱に対して罰を与えることは、脳内に快感(幸福の感情)をもたらすらしい。基礎としては、当然そういうことだろう。

著者達によると、賃金の決定を考え、その先の失業を考える上で、「公平」という心理的な要素が重要な役割を果たすという。失業が起きる大きな原因の一つは賃金が高止まりすることだが、なぜこれが起こるのか、特に、なぜ企業家が必要よりも高い賃金を払うのかを説明した部分(第8章)は面白い。

「腐敗と背信」と著者達が呼ぶのは、違法でないとしても相手を騙すような意図を持った行動のことだ。法律に触れない程度の会計上のドレッシングから、エンロンが行ったような違法で極端な利益操作までレベルに差があるが、前者が徐々に後者に移行して、これが破綻すると、厳しい批判に晒されるというようなことが、現実世界では繰り返し起こっている。世の中のトレンドとして、「腐敗と背信」的な行動のレベルが高まるときと、これに対する非難が高まるときがあり、いずれも経済活動に大きく影響する。

「貨幣錯覚」とは、インフレ・デフレを正しく織り込まずに名目の金額で損得を判断する現象のことだ。近年の合理性を重んずる種類の経済学にあっては、その存在が嫌われて、理論上は半ば存在しないことになっていたと著者達はいうが、貨幣錯覚は広範に存在し、たとえばデフレであっても労働者は名目賃金の引き下げに抵抗する。

また、人は「物語」をもとに物事を考えるという、小説家が聞いたら喜びそうなことも言っている。例えば、ネットバブルは、インターネットに関するいささか行き過ぎた経済価値創造の物語の存在なしには説明できないし、バブルの頃、多くの日本人の信念の一部だった「土地神話」も現実に多大な影響を与えた物語だった。

これらの要素は現実の経済にどのような影響を及ぼすか。
詳しくは、この本を読んでいただきたいが、一番コンパクトに5要素を使った現実説明の例は次のような1890年代のアメリカの不況を説明するストーリーだ。

「1890年代の不況を理解するには、われわれのアニマルスピリット理論のあらゆる要素が不可欠となる。安心の崩壊が経済的な失敗の物語の記憶と関連するが、その物語の中には不況に先立つ年月に起きた腐敗増加の物語も含まれる。経済政策が不公平だという感覚が高まり、消費者物価下落の結果を理解できないという貨幣錯覚が生じる」(p87~p88)

もちろん、これは説明の概要で、この後、具体的な事例の説明がある。
本書では、現在の金融危機とその後の経済政策についても大きなページ数を割り当てて説明を試みているので、現在の経済を理解するためにも、ご一読をお勧めする。







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最終更新日  2009年09月04日 15時01分20秒


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