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• 聖マイケルの岩

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第９０４話　「聖マイケルの岩」　聖マイケル・アポロン・ラインという大規模なレイラインが欧羅巴を斜めに横断してイスラエルのカルメル山に達しているという話は、3-903”聖マイケル山”の回で触れたのですが、その場合、少し西の端を拡張しておく必要があります。　それが今回のお題でもある”聖マイケルの岩＝スケリッグ・マイケル（Skellig Michael ）”の話になるのですが、アイルランドの南西、ケリー州の沖合16キロメートルに浮かぶ周囲３キロほどの小さな無人島がスケリッグ・マイケルということになります。　この無人島には６世紀に初期基督教の石組みの修道院が建てられた（588年説）というあたりまでは分かっているのですが、それ以前の歴史は良く分かっていないようです　・・・　というか、基督教の施設がしばししば”それ以前”の宗教施設を潰してその上に建設されているのはご存じの通り。　いわゆる聖マイケル・レイライン（西の端を聖マイケル島、東の端を聖マーガレット教会とするレイライン）の場合は、当然といえば当然のように、このスケリッグ・マイケルはカウントされず、聖マイケル・アポロン・ラインを想定するときに、北西の端というか西の起点とされるわけです。　ただ、素朴な疑問として、聖マイケル・アポロン・ラインほどの壮大なラインを想定するときに、聖マイケル山ならともかく、スケリッヅ・マイケルではショボくないか？という気が私はしていまして、本当の西の端は海底に沈んでいる気がしないでもありません（笑）。　６世紀に基督教修道院が建てられて以降のスケリッグ・マイケルの歴史は比較的はっきりしているのですが、８２３年にバイキングが来襲したときも持ちこたえ（というか、バイキング達が奪い去りたくなるほどの金目のものがあったとも思えませんが）、徐々に規模を拡大しながら１２世紀までは持ちこたえています。　しかしながら、雨水を飲料水や生活用水にし、ある程度の食糧も自給して生活していたものの、１２世紀に放棄されて無人島となり、１６世紀頃から巡礼の場として次第に知られていったようです。　１２世紀頃までは、アイルランドもケルト系の民族によって幾つかの小王国が分裂する状態だったのですが、王位継承騒動を背景に、いわゆるノルマン・コンクエストが１０６６年から発生し、凄まじく要約すれば、サクソン人の領主にノルマン人の領主が取って代わっただけというか、基本的に支配者階層の入れ替わりだったようです。　ただし、１２世紀中頃にノルマン人の侵入を契機としてヘンリー２世（1133～1189）が軍を率いてアイルランドに上陸し、息子で後に”欠地王”と呼ばれることになるジョン（1167～1216）にアイルランドの支配権を与え、ジョンが”アイルランド卿”を名乗ることでアイルランドはイングランド貴族の領土の一つとでもいった立場になったとも言えます。　そういった時代背景を考えると、１２世紀にスケリッグ・マイケルの修道院などが放棄されたことと、支配者階層の入れ替わりが無縁だったとは考えにくいのですが、なぜ六百年近く維持されてきたスケリッグ・マイケルの宗教施設が放棄されたのかに関して良く分かりませんでした。　その後、”アイルランド卿”の称号は貴族というよりもイングランド王によって継承され続けていくことになるのですが、イングランドで貴族間の内ゲバが続発したことでアイルランドの実効支配は失われていき、薔薇戦争が終わる頃には、アイルランドはイングランドの支配から完全に脱して、事実上の独立領となってしまいます。　まあ、それはそれで問題が無いといえば無かったのですが、話が決定的にこじれる端緒となったのが、意外なことに、エリザベス１世（1533～1603）のパパであるヘンリー８世（1491～1547）の離婚問題と言う全く非宗教的な理由で始まったイギリスの宗教改革だったりします。　国王が離婚して別の女性と結婚したいがために強行した宗教改革は、離婚を認めなかった羅馬カトリック教会などとの政治闘争の様相もみせることになるのですが、イングランド国教会（通常プロテスタントに分類される）が１６世紀に成立したことで、羅馬カトリック教会からの直接的な干渉が排除され、イングランド支配における王権が強化されたのは確かです。　ちなみに、この時、距離的に離れていて実効支配の外に位置していたアイルランドは羅馬カトリックに残留することを選択するのですが、そのため宗教的には仏蘭西や西班牙といった周辺のカトリックを信奉する国と近しい関係になってしまい、それが結果的に、アイルランドの再占領の一つの理由になったのかもしれません。　思惑がどの辺りにあったのかは定かではありませんが、1536年にヘンリー８世はアイルランドへの再侵入を決行し、1541年にはアイルランドの在地貴族達の支持を得られないまま、”アイルランド卿”から”アイルランド王”を自称するようになるのですが、アイルランド全島の支配が確立するのは、エリザベス１世の死後英国王位を継いだジェームズ１世（1566～1625）の統治下のことになります。　このウィリアム1世の支配の下で、サクソン人は土地を奪われることになるのですが、その後もイングランドとアイルランドの間のいざこざは続き、独立闘争など紆余曲折があるのですが、スケリッグ・マイケルに関して言えば、１８２６年には灯台が建設され、１９９６年にユネスコの世界産に指定されたこともあってか、観光客を含む巡礼者が増加し、その余波というか結果的に遺跡の損壊が進んだため（これを書いている時点では）、渡航制限が実施されるようになったそうです。　興味深いのは、修道院は島の山頂（標高240m）近くに建てられているのに、修道士達は垂直に切り立った崖の下に、円錐形に近いドーム状に石を積み上げた独特の形状の小屋というか僧房で暮らしていたことですが、皮肉なことに、修道院の方は礼拝堂の跡が残っている程度で、僧房の方がよほど原型を留めています。　おそらく、アイルランドの西端のディングル半島にあるガララス礼拝堂のような石組みの礼拝堂（６～９世紀頃に建設されたらしい）と似た礼拝堂の跡がアイルランド西部にあるクローパトリックの頂上でも確認されていることから、それらと似たような建物をスケリッグ・マイケルでも修道院と総称していたと考えていいのではないかと。　実際、そうした礼拝堂はスケリッグ・マイケルの僧房とも共通した小さな石を組み合わせながら積み上げたもので、技術的に（というかパッと見た目が）共通したものがあるように見えます。　ちなみに、ガララス礼拝堂は、建物の東側に入り口があって、西側に小さな窓（というか換気口を兼ねた穴）があるだけのシンプルな構造なのですが、春分と秋分の日には礼拝堂の入り口に太陽がまっすぐに差し込み、西の窓に抜けていく構造になっていますから、スケリッグ・マイケルの礼拝堂も同様の構造を踏襲していたと考えられます。　なお、ガララス礼拝堂の周辺には古代ケルト人が用いていたオガム文字が刻まれた石柱が残っていることから、ガララス礼拝堂やスケリッグ・マイケルの礼拝堂などが何らかのケルトの聖域か遺跡の上に建てられている可能性はかなり高いのではないか？と勘ぐっています。　ところで、１２世紀にスケリッグ・マイケルが放棄された理由として気候変動によって居住に適さなくなったという説があるのですが、１０～１４世紀にかけては、中世の温暖期（Medieval Warm Period:MWP）と呼ばれる温暖化が進み、欧羅巴が全体的に温暖化していった時期ですから、寒波に追い立てられたのではなく、温暖化で島の降水量が減少して飲料水や生活用水を天水に頼っていた施設が維持できなくなったのかもしれません。　その一方で、高緯度地域の温暖化は作物栽培に好影響を与えて農業の生産性を向上させ、食糧供給の増加は人口増加に繋がり、海が結氷する範囲も狭くなったことで、バイキングなどの渡航する範囲が広がっていき、バイキング達が加奈陀から北亜米利加にかけて入植するようになったのもこの頃のようです。　が、１４世紀半ばから１９世紀半ばにかけては、いわゆる小氷期（Little Ice Age, LIA）と呼ばれる寒冷な期間が続くことになり、急激な寒冷化は農作物の生産量の減少に直結し、飢饉が欧羅巴全域で頻繁に発生するようになり、1315年には１５０万人規模の餓死者が記録されているようです。　この時期にアイスランドの人口は半分に減少し、グリーンランドのバイキング植民地は全滅してしまい、加奈陀や北米への渡航を結氷した海が阻むようになり、コロンブス達がバハマ諸島にたどり着く（1492）まで誰も亜米利加大陸には到達していなかったことにされ、西印度諸島は含めてもグリーンランドが新大陸に含まれないことにされているのは御存知の通り（笑）。　もっとも、欧羅巴の寒冷化は新大陸発見後も続いていて、17世紀半ばには、スイス・アルプスの氷河が増大して、谷筋に広がる農場を飲み込み、村を押し潰しながら低地へと広がっていったのですが、逆に言えば、温暖化で氷河が後退しているという主張も、”１２世紀頃の位置に戻っているだけなんじゃないの？”という気がしないでもない。　また、１７～１８世紀頃の話で有名なのは、1607年頃からテムズ川やオランダの運河、河川が一冬の間完全に凍結する年が珍しく無くなっていったことですが、1780年の冬にはニューヨーク湾が凍結し、マンハッタンからスタッテンアイランドへ歩いて渡ることが可能だったというのは実話ですから、温暖化の証拠に氷河の退行現象をカウントされてもねえ？という気がしないでもありません。なお、ここにきて急に、気候変動に関する政府間パネル（IPCC）は、小氷期を「期間中の気温低下が1℃未満に留まる、北半球における弱冷期」であり”世界規模の寒冷化現象ではなかった”とか言い出しているのですが　・・・　弱冷ねえ？初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第９０４話：(2010/09/09)

  2010.09.15

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• 犬神概論

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８９７話　「犬神概論」　至徳２（1385）年に、石と化していた九尾の狐を玄翁和尚が砕いたとき、そのかけらが全国に散り、平成の御世でも一番有名な殺生石は栃木県那須町の那須湯本温泉付近にある溶岩ですが、殺生石が飛散した先として、美作国高田（岡山県真庭市勝山）、越後国高田（新潟県上越市）、安芸国高田（広島県安芸高田市）の３ヶ所が有名だったりします。　他にも、豊後国高田（大分県豊後高田市）といった他の地域でも高田の地名がある場所の中には、該当する殺生石の有無は兎も角、九尾の狐のカケラが飛散してきたという伝承や玄翁和尚縁の寺などがある事があるようです。　ただ、砕かれて全国に散った殺生石のカケラの中でも細かいモノが飛び散った先に四国があるとされ、四国における、いわゆる犬神信仰の犬神の中にこの九尾の狐の欠片に由来するものも含まれているという話があります。　もっとも、四国の犬神信仰は古墳時代以前に遡るという説もあり、そうした本来の犬神信仰に大和朝廷周辺の（例えば陰陽道など）官の呪術が影響を与えていき、長い年月の内に同化していったと解釈してもいいのかもしれませんが、まあ、よくわからない事が多いのが犬神信仰ではあります。　古来、四国には狸はいても狐はいないとされ、その理由として、弘法大師が狸を愛し狐を嫌ったから狐は四国に居られなくなったという伝説もあるのですが、その話には続きがあって、四国と本土（本州）に橋がかかったなら狐は四国に帰ってきて良いとされていて、狐を遮る封印が消えることになっているそうです。　で、ご存じのように、今となっては、四国と本州の間には３本の橋が架かり、そのことによって、昔は夢物語であった四国と本州が橋で結ばれて歩いて渡れる時代が到来したわけですが、不思議なことに、最後の尾道今治ルートの橋が架かった頃から、あちこちで”狐らしき動物を見かけた”という噂が流れるようになってきています。　実際に、狐が橋を渡って帰ってきたのかどうかは知りませんが、奇妙な一致だと思いますし、あれこれ考えていると、それは逆に結界の内側である四国に封じられていた”何か”が本土などへ拡散していくこともまた始まったことを意味しているのではないか？という気がしています。　ただ、四国でも犬神信仰が盛んというか珍しく無かった地域でも過疎化などが進み、過疎化が進む事で伝承が途絶え、以前と比べれば人の動きも増えていて、失伝になりかねないかなあ？と思わないでもありませんし、犬神信仰に限らず、関わってしまうと知らなかったでは済まない事も世の中にはあるわけで、ま、少し書いておこうかなと。　もちろん、そのものズバリを書くには知識不足ですし、私も命は惜しいので、俗説や噂を織り交ぜながら知っている範囲で書いていこうかなと　・・・　ま、実際に関わってしまった人はこんなものを読んでいる場合ではなくなっているでしょうし（笑）。　犬神の正体に関しては、諸説あり、そもそもは狼や山犬が神格化されたもので神ないし神の眷属であるため、犬神を信仰するというのは大元の神様への取り次ぎを頼むことであったという説がありますし、大峰山などの大神が狼と重なるあたりで、稲荷信仰の狐に相当するのが犬神であり狼であるといった理解で良いようです。　いずれにしても、動物霊の信仰ということでは（国内）最強という説もあるのが犬神信仰ですが、その一方で、狐に管狐（くだきつね）の信仰があるように、犬神にもまた、”あれは大きな鼠”を信仰しているのだという説があり、いわゆる犬神憑きの家系といった話になるとき、いささか妖怪じみた話が語られる事があったようです。　また、狐への信仰が金銭や富などに偏重しやすいように、犬神への信仰は呪詛や呪殺に偏重するようで、それ故にガードが堅いというか実際に関わった事がある人以外は”本当のこと”は分からないようですし、関わってしまうと事の詳細を他人にべらべらしゃべる気にはならないようです。　視点を変えれば、四国には狐がいなかったから、狐憑きといわれてもピンとこず、犬神憑きといわれた方が連想しやすかったのかもしれませんし、犬神の憑いている家への対応と、管狐の憑いている家への対応にある程度の類似性があるあたりで、九尾の狐の欠片が四国において犬神となったという説にも一定の説得力があるのかなと。　ちなみに、呪詛銃殺に犬神を用いるという技術体系とは別に、家に犬神が憑く犬神筋の家という話があり、家の軒先などにいて、家の主人や家人が外出すると、それに一緒について行くとも言われていて、主が”欲しい”と思ったものなどをなんとかして持ち帰ろうとすることがあり、それが家の外で犬神に憑かれた人が出る理由とされていたりすることがあるようです。　犬神に憑かれるということは、犬神に体に入り込まれて体を乗っ取られるということのようで、やたらと大食いになり、唸り声を上げたり遠吠えをするようになり、それが目的を達するまで続くとされているのですが、その筋の人達にとって、犬神に限らず、動物霊系の憑き物を落とす事は珍しい話ではなかったりします。　なお、犬神に憑かれるのは女性で男性に乗り移る事は無いという話がある一方で、犬神による呪殺の対象には老若男女に何の差も無いという話もあり、犬神によって死んだ人にはその遺体のどこかに犬に噛まれたような歯形が残るので、間違われる事が無いという話もあります。　この犬神憑きは女性にしか起こらないという説があるということから、犬神憑きというのは一種のヒステリー現象ではないのか？と考える人もおいでなのですが、私的には、”そう思われるのなら、そういった治療をされればいいんじゃないですか？”というだけのことで、赤の他人のために、あ～しなさい、こ～しなさいと関わり合いになる気はサラサラありません。　それはともかく、犬神の家系というか犬神を飼う家が、自ら何匹の犬神を飼っているかを公開することは無いそうですが、犬神が憑いた女を放置しておくと、その家の床下に７５匹の子を産み付ける習性があるという説があり、それ故に、犬神に憑かれないように、特に若い女性は縫い針などを胸元に刺してからでないと、犬神の家の前を横切ることもしなかったという時代はそれほど昔の話でもないそうです。　つまり、犬神の家の誰かが、家の前を横切る年頃の女性をみて”欲しい”と思っただけでも犬神が作動することがありうると考えたというより、過去にそういった事が実際に起こったため対策が広まったと解釈した方が良さそうな風趣ではありますが、対策ということでは、犬神が嫌う梟（ふくろう）の爪を所持したり家にぶら下げておくという方法も知られているのですが、その辺りから、犬神は鼠の大きいものという説が産まれたのかもしれません。　ただ、確かに、梟や鷲、鷹などの猛禽類が犬や狼の天敵となることはありますから、そのあたりから連想して対策に組み込まれたのかもしれません。　モノを集めてくる習性があるだけに、犬神の家は栄えるのも早い一方で、犬科の動物は基本的にリーダーに従いますから、犬神たちがリーダーと認めていた家人が死んで次のリーダーを認めない場合は、家が急速に没落するという話もあります。　まあ、よりブラックな話としては、新しく村にやってきた新参者の家に対して、そうした家がそこそこ裕福だったり家柄が良かったりすると、ただでさえ排他的な地域でやっかみや反感が渦巻いて、村八分にするための言いがかりとして犬神の家とされてしまい、集落内の相手と姻戚関係を結ぶことさえ困難な状況に追い込まれ、覇気がある家人達だとさっさと立ち去ることもあったようです。　それでいて、そうやって新参者を迫害したり追い立てたことへの負い目は感じるようで、それは、”自分が他の地域へ移り住んだ時に、自分たちがやったのと同じ事を移り住んだ先でやられるかもしれない”というある種の強迫観念にまでなっていることがあるようで、その辺りに因果応報を感じないでもありません。　というか、そういった田舎の排他性にうんざりして田舎を捨てて都会へ移り住んだり、田舎を出ると二度と戻らない選択をする若い世代が多かったが故に過疎が進んだ地域もあるのではないか？という気がしないでもないのですが、例えば、東京の下町界隈で人情がどうこうという話がある一方で、実際にやっていることが排他的な田舎の人達と大差が無い地域というのは実在しますから、今となっては犬神も都会の方が住みやすいかもしれません（笑）。　もっとも、家という最小単位でさえ崩壊してきている現在の日本で、親戚や血縁者の多い古くからの集落といった単位が維持できなくなっているのは当然といえば当然の流れでもあり、昔ならば、都会で食い詰めても田舎の親類縁者を頼ってなんとか飯を食うくらいのことはできた人が多かったものですが、今となってはそうした地方社会というセーフティネットも根底から崩壊してきていると言えます。　となれば、大多数の人が田舎で田畑を耕してでしか生きられなかった時代が終わって、人の流動化が加速しているということは、憑き物も特定の地域に固執していると滅びかねなくなったということで、２１世紀に対応して新しい生態系を構築する事が憑き物達にも要求されているのかもしれません。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８９７話：(2010/09/01)

  2010.09.07

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• シオン修道会

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８７９話 「シオン修道会」　日本でシオンといえば、キク科の多年草の”紫苑（しおん）”か、”ボクの地球を守って（日渡早紀）”の主役の一人である紫苑としたものですが（笑）、世界的にシオンといえばエルサレムの古い呼称も知られています。　というか、歴史などによく登場するエルサレムという地名は、本来はエルサレム南東の丘にあって（サムエル後書の5-6によればですが）ダビデ王が征服したとされるエブス人の城塞の名が元になっているそうで、後に、周囲４．５キロの周壁で囲まれたいわゆる旧市街も含めたやや広い範囲がエルサレムと呼ばれるようになっていったようです。　なお、現在のユダヤ人が広義にユダヤ教の信者全般を意味しているのに対して、旧約聖書や新約聖書で語られている本来のユダヤ人というのは、特定の民族の呼称であり、アスケナージ・ユダヤなど実は細かく定義されているのですが、深入りするといろいろな意味で何かとややこしくなるので略とします。　いずれにしても、シオンという名称は古代のユダヤ人にとって古代ユダヤ王国の首都の名称で栄華の象徴でもあり、更に遡れば天にある神都の呼称の一つがシオンであったともされているようですし、古い書物で”シオンの娘ら”と複数形にしてある場合、エルサレムの住人全体を詩的に表現していたり暗示している事が多いようです。　ただし、シオンはユダヤ教だけではなく、同じセム系の一神教とはいえ（だからこそか？）基督教、イスラム教にとっても聖地になる関係で、どの宗教勢力が実行支配を確立するか？という宗教戦争の舞台にもしばしばなっていて、特に十字軍の遠征に伴う基督教徒のイスラム教徒の虐殺は、その後の基督教ＶＳイスラム教の原点となったと言えます。　それはさておき、シオン修道会に話を進めると、シオン修道会といえばテンプル騎士団とセットにして考える必要が出てくるのですが、テンプル騎士団といえば、3-861”マルタの鷹”の回などで少し触れた聖ヨハネ騎士団と同じく、第１次十字軍（1096～1099）の頃から存在している騎士団てあるのは御存知の通り。　とはいうものの、ヨハネ騎士団の正式名称がエルサレム・聖ヨハネ救護騎士修道会で有ることから分かるように、紛争地帯におけるメディックとしての役割というか、主に基督教巡礼者の怪我人や病人の救済で知られた集団であったのに対して、武闘派で知られるテンプル騎士団は、そもそも”基督教が発祥した聖地パレスティナを（イスラム教国である）セルジューク・トルコの占領下から解放する”ことを建前上の主目的としていた十字軍とは別の目的でエルサレム入りしたのではないか？と言われている謎の多い団体であるというのは比較的知られた話だったりします。　正確には、小説”ダヴィンチコード（ダン・ブラウン）”でテンプル騎士団とシオン修道会が取り上げられたことでそういった仮説が一般にも知られるようになり、”ダヴィンチコード”が映画化されたことで世界中に知れ渡ることになったのですが、映画が完成する前から、基督教、ユダヤ教、イスラム教のさまざまな宗派から大反発が生じたのは有名な話で、ノーカット上映されて無風に近かったのは、仏教国というか宗教に関して節操の無い日本位だったのかも知れません（笑）。　歴史的には、第１次十字軍がエルサレム占領（1099）に成功しエルサレム王国（1099～1187（エルサレム陥落）～1291）を建国したこともあって、テンプル騎士団やヨハネ騎士団が小国家並の独立性を手に入れたというか保証されるようになったという説があるのですが、実際には十字軍に参加した段階で十分に独立した騎士団としては機能していたようで、小国家並の待遇を受けるようになったのが第１次十字軍以降の話になるようです。　特にテンプル騎士団に関しては、宗教騎士団というか騎士修道会（Templarii）の代表格として知られているのですが、そもそもは、1118年に仏蘭西はシャンパーニュの騎士ユーグ（ Hugues ）など数名が聖地巡礼の保護を掲げて創設した団体が1128年に教皇が公式に認可され、聖地エルサレムに堅城を築いて十字軍の主戦力として活躍したことで名声と富を手にしたとされているのですが、実際には彼らは聖地で聖杯などの聖遺物の類を探すのが主目的だったという噂もあります。　いずれにしおても、彼らが、国境通過の自由、課税の免除、・・・、教皇以外の者への服従義務の免除といった数々の特権を手にしていたのは確かな話で、修道士として、清潔、貞潔、純潔の誓いを立てている団員が戦場で死ぬ事を神への奉仕としていた団体だけに、ＢＬが喜びそうな話もあるのですが、一頭の馬に二人の騎士が乗っている騎士団の紋章はなかなか暗示に富んでいることは否めません。　いささか、スパルタの戦士達を連想させるところのあるテンプル騎士団ですが、仲間を裏切らない団結力の強い武闘派集団として知られた十字軍に従軍していた主力がエルサレムから帰国すると、テンプル騎士団は（団員や巡礼者が預けた資産が原資という説もあるのですが）ちょっとした国家並の資金を運用する団体にもなっていき、騎士団の支部が置かれた欧羅巴の複数の国の王室では金庫や裏側の連絡網として重宝されていったようですが、彼らが”どうやって巨万の富を手に入れたのか？”は謎のままになっているようです。　というのも、彼らがどうやって巨万の富を手に入れ運用しているか？ということよりも、どうやれば丸ごと自分のものにできるか？ということを優先させた王様がいたためで、1307年に仏蘭西国王フィリップ４世の陰謀によってテンプル騎士団のメンバーは、少なくとも仏蘭西国内にいた全員が異端行為を理由に逮捕された上で大多数が1307/10/13の金曜日に生きたまま火炙りにされて処刑され、財産の大半が没収されたのですが、1312年にはフィリップ４世の共謀者とされる教皇のクレメンス五世にも十分なメリットが生じたためか教皇によって騎士団は解散が命ぜられ、テンプル騎士団の団員や資産の一部はヨハネ騎士団に移されたようなのですが、ヨハネ騎士団が未だに独立小国家並の待遇を国際社会で受けているといのは”マルタの鷹”の回で既に触れたので略とします。＊　この一連の騒動から１３日の金曜日が、基督教徒にとってのアンラッキーデーになっていったという説もあるようです。　現在、テンプル騎士団の名称の由来となったエルサレムのテンプル（寺院）が建っていた場所にはアル＝サクサー・モスクが建っているのですが、テンプル騎士団が彼の地で何の発掘に成功したのか？は謎のままですし、この時、騎士団が発掘に成功した遺物の中に古代の知識に関するモノがあり、その分野を継承した団体がフリーメーソンの中核になっていったという噂があるくらい彼らが発掘した”何か”は謎に満ちています。　もっとも、最大級にブラックな噂としては、テンプル騎士団はキリストの子孫を守るために国家レベルの軍事力にも対抗できる組織を目指して結成され、彼らが何らかの予備知識に基づいてエルサレムで発掘に成功したのは、イエス・キリストに妻と子供がいたという証拠の書類と、キリストの妻の棺という物証だったという説があり、そういった物証を無効化するためにも、マグダラのマリアは娼婦だったという説がカソリックを中心に流布されるようになった　・・・　と話が続くこともあるようです。　で、シオン修道会ですが、こちらの方は、ダ・ヴィンチコードで知られるようになった、”キリストの子孫や関係者達は、５～８世紀に仏蘭西全域を支配したフランク族最初の王朝である”メロヴィング朝”の王室関係者と婚姻することでその血統を存続させていて、そういった秘密を継承するために秘密を知る（継承者の一人とされる）ゴドフ・ロワ・ヴィヨンがシオン修道会を設立したとされるのですが、そのメンバーの名前にニュートン、ユゴー、ドビッシー、・・・、ダ・ビンチなどがあることを考えると、シオン修道会もまたフリーメーソンの母胎の一つになっていた可能性が高いのではないかと考えられます。　テンプル騎士団の財産を横取りするだけでも十分なメリットがあったわけですが、シオン修道会とテンプル騎士団のそもそもの設立理由を知る人達にとっては、仏蘭西国王と羅馬教皇が何を狙っていたのかは自明のことだったようで、自国にあったテンプル騎士団の支部の名称を変更させて別組織として存続させたり、自国の軍隊に団員を紛れ込ませるといった王室が珍しく無かったようですが、何より、結局、仏蘭西王室も羅馬教皇もテンプル騎士団の”物証”を手にすることには失敗したようで、それがまた抑止力にもなっていったようです。　それ故に、例えば、シオン修道会の最後の総長と名乗っていたピエール・プランタールが１９９３年になって唐突に”実はシオン修道会の機密文書とされていたものは捏造品である”と告白したように、”何で今になって？”という素人にさえ裏側の駆け引きを勘ぐらせるには十分な表の騒動が未だに生じていたりしますが、フリー・メーソンに限らず、シオン修道会やテンプル騎士団の流れを汲む組織が表にも裏にも未だに存在していて秘技や物証などを継承しているのではないか？という噂は今後も絶える事が無いのかもしれません　・・・　ま、仏教徒にとってはどうでもいいことのような気がしますが。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８７９話：(2010/08/11)

  2010.08.17

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• 月分け祭

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８４８話　「月分け祭」　漫画”夏目友人帳（緑川ゆき）”の第39話（11巻）に月分祭の話が出てくるのですが、何らかの神事の結果で未来を占うというのは珍しい風習ではありませんでした。　もっとも、”でした。”と過去形で書いている事からお察しの通り、余程メジャーな祭りでもなければ既に廃れた地域や観光資源と化して形骸化が進んだ地域の方が多くなってきています。　日本人の面白いところは、神や仏を信じていない人でも、その御利益は存在すると考え、自分もその分け前を（無条件で）手に入れる権利があると思っている人があまりに多いことで、”なんだかな～”と思わないでもありません（笑）。　それはさておき、話が進むに連れて次第に友人帳とは無縁の話が多くなっていく夏目友人帳ですが、そこで描かれた月分祭というのは　・・・　豊作をかけて勝負事をする類の祭りで　豊作の神とされる「豊月神（ほうづきがみ）」と地枯らしの神とされる「不月神（ふづきかみ）」の二神を模した村人が神の代行として勝負し　豊月神側が勝ちの舞を舞って豊作を願うという祭りで十年に一度行われている。・・・　ということのようです。　で、作品中では、既に人間達はその祭りを行わなくなって久しいのですが、妖かしたちはその祭りが気に入っていて、当の両神様も十年に一度、寄り合って人間不在のまま勝負を繰り返していたのだけれど、今回の月分祭は豊月神が消息不明になったままで　・・・　といった話になっています。　もっとも、この手の事問い系の神事というのは、泣き神事、笑い神事、・・・、一人相撲、綱引き神事などなど、他の地域の人から見れば何か奇妙なものが多いのですが、”まともではないから神意が問える”のかもしれません。　つまり、ある種のトランス状態に入っていくから神意に触れる事ができ、神もまた降りる事ができていたのではないか？ということですが、やっている人達も良く訳が分からなくなっている奇祭の幾つかもその意味ではまた事問い神事の側面があるのかもしれません。　まあ、私はそう考えているので、代表的な蘇民祭（岩手県を中心に伝わる裸祭りで千年以上の歴史があるとされる）として知られる黒石寺蘇民祭の胸毛騒動のときに、（中略）といった、男神の典型である素戔嗚尊を小馬鹿にしてせせら笑っているかのような対応に”むかっ！”としたのですが、地元の信者達が激怒して宗教戦争では珍しくない焼き討ちや自爆テロの類が発生したわけでもないのに、地元民でもない私が激怒するのも筋違いではありますな（笑）。　なぜに、ここで蘇民祭が出てきたのかというと、石黒寺蘇民祭も、それこそ事問い神事の典型だからで、福物の小間木を入れていた蘇民袋が切り裂かれて寺の境内に小間木が撒かれ、その後、切り裂かれた蘇民袋を本来は神事に参加した男達だけが全裸（現在は下帯着用）で奪い合い、最終的に蘇民袋の首に一番近い部分を持っていた人がその年の取主（とりぬし）となり、その年、東西のどちらが豊作になるかも決まるのだそうです。　ちなみに、そもそもの”蘇民将来の話”というのは（再録になりますが）、北海より南方に旅をしていた厄災神（牛頭天王、武塔神、素戔嗚尊）が旅先のとある集落で旅人に化して一夜の宿をこうたところ、兄で富裕な巨旦(こたん)将来は面倒事を嫌ってかこれを拒絶し、弟で貧しい蘇民将来は旅人の困っている様から受け入れて、自分の提供できる精一杯として茅(かや)の床に粟(あわ)の飯で接待するのですが、神様達は翌朝には出立したようです。　数年後、神様達は妻を娶り子も為していた蘇民の所を再訪し、茅の輪と呪文（後に護符の文言となる）を無病息災の印と告げて蘇民の一家に伝授したとされます。　もちろん、その後の話もあり、しばらくして病魔と災厄がその集落を襲い、茅の輪と護符のある家だけが助かって後は死に絶えてしまい、それ以降、厄除けとして茅の輪くぐりと護符（八角柱の木片に”蘇民将来子孫也”の呪を書いたもの）を配布する祭事が広まっていったとされています。　まあ、此の辺りの話は1-183”茅の輪”の回で触れて以降、何度と無く取り上げていますし、ユダヤの2-660”過越し祭”との共通点なども考察したことがあるのですが、原形となるもっと古い神話があるのかもしれません。＊　過ぎ越しの祭りとは、神がエジプトに対して起こした十の災いの十番目となった”人間から家畜に至るまで、エジプトの「すべての初子を撃つ」”という禍から逃れる方法として、神からモーゼに伝えられた印を戸口に印してあった家だけにはその災厄が臨まなかった（過ぎ越された）故事（旧約聖書の”出エジプト記12章）に由来する祭りのこと。映画”十戒”がわかりやすい。　なお、黒石寺に残されている安永２（1773）年の「黒石寺書上」を素直に読む限り、仏教とも結びついていったようですし、安永の頃には蘇民袋を争奪して神意を問う現在の蘇民祭の原形が出来上がっていたようです。　そういえば、蘇民祭が出てきたついでの余談ですが、以前、3-790”戦場ヶ原”の回で、”ひたぎ”の意味をあれこれ考察していて、未だに追跡中なのですが、黒石寺の蘇民祭に、”柴燈木（ひたき）”と呼ばれ、祭りで夜間の蘇民袋の神事に参加する人が手に持って行進する松明があり、神事絡みでほとんど一般に知られていない名詞だけに、これも候補の一つかもな～と考えています（引き続き追跡中）。　蘇民祭のように、参加する人同士が特定の神事を繰り広げて、その結果で神意を占う祭りもあれば、一人相撲のように、目に見えない神様と人の代表が神事を繰り広げてその結果として神意が示されるという祭りもあり、後者の場合は細かく手順などが決まっている祭事も多いのですが、なぜか手順が狂ってしまう事が希にあり、その時に示された神意が的中してしまう話も珍しくありません。　ただ、中には、特定の自然現象から近未来の気象を予報し作柄を予測する神事もあり、意外と科学的に実証できる事触れもあるのですが、例えば、２～３月頃の特定の期間の天候の変化が、その年全体の気候の変化の雛形になっているとする、暦を前提とした一種の天候予測もあり、これが意外と的中率が高い事で（一部では）知られていたりしますから、神事にそういった観察に基づく予測が取り入れられていたとしても不思議では無い気もします。　それくらい、先のことが知りたいという願いが痛切だった時代は長く、豊作で誰も餓死しないで済むようにと願う人が多かった時代も長かったのですが、戦後の高度経済成長の頃から”食べるモノがなければ買えばいい”とか”国内で作ると割高だから海外から買ってくればいい”とあっけらかんと言い出す人が増加し、バブルの頃には、神様は金銭で買収が可能なコンビニエンスな存在のように考える人が増加していったのは御存知の通り。　そうした状況を神々がどのように思われているのかは私には分かりませんが、時を後戻りすることは何時の時代にもかなわなかったことですから、神無きままに進むしか無い人が増加してもそれはそれで仕方がないのかもしれません。　もっとも、バブルが崩壊して以降、日々刻々と生活が悪化する人が多くなり、金銭的に一息ついて勝ち組に属している人でさえ明日の自分に安心できない社会が到来しているようで、困ったときの神頼み時代が到来しているというのは、２００９年末頃から一般人の間にも一気に盛り上がった異様なパワースポットブームに端的に現れているのかもしれません　・・・　蜘蛛の糸に縋る亡者の群れのような気がしないでもありませんが。　その意味では、経済的に豊かになっても人は、老病死苦から逃れることはできないという現実に日本人の多くが再度直面しはじめているということでもあり、金さえ有ればと思って金を手にすればするほど、金があっても解決できないことが重くのしかかってきたということではないかなと　・・・　金のために神様さえ売り飛ばしたのにねえ？（笑）。　もちろん、金を儲け物質的に豊かになることを全否定する神様というのは少数派で、働いて物質的に豊かになる事を奨励する神様の方がよほど多く、印度の神様に痩せて貧相な神様がほとんどいないことから考えても、”まずは、腹一杯食べられるようになりなさい”というのが神意の最初ではなかろうかと私的には愚考していまして、自分が豊かになった上で手にした必要以上の富は手元に死蔵させておかないで循環させなさいというのが次の神意ではないかとも思っています。　あっさり書けば、神様が信じられなければ手元にいくら金があっても不安に感じる心から逃れることはできないとしたものですが、神様が信じられない上に金も無い人よりは遙かにマシな状況で、神様が信じられて財布の中身が気にならない人には劣る状況に過ぎなかったりします。　が、だからといって賽銭箱に幾ら寄付をしたところでその心の闇や不安が埋まるわけもなく、餓鬼の心理状態と大差が無いままで死んでいくことになるのは自覚しておく必要があるかもしれません　・・・　私の知る限り、あの世へ銭金を持って行けた人というのは存在しないのですが、”小切手や紙幣を一緒に火葬にすれば？”とか”骨壺にカードを入れておけば？”と本気で言い出しかねない日本人が多くなっているあたりで、”なんだかな～”と。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８４８話：(2010/07/06)

  2010.07.12

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• 生き神手当

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８４６話　「生き神手当」　神様をヒロインに据えた漫画といえば、”ああ女神様っ（藤島康介）”という横綱級の作品が降臨して久しいのですが、日本の神様に限定するとかなり少なくなり、”かんなぎ（武梨えり）”くらいかもしれません。　もっとも、神様である”なぎ様”は正体不明の神様とされ、寄り代であった御神木も伐採され、祭られていた山も神社ごと整地されてしまっているようで、氏子に忘れられて消えかかっている神様として登場します。　自然界の大きな流れというか律動を神と呼ぶのか？そうした律動を越えたところに神はいるのか？は意見が分かれるところですが、それに気が付かなければ何も無いのと同じことになるわけですから、信者が一人もいなくなった段階で神もまた神としての役割を失うことになります。　此の辺りの法則性を、”かんなぎ”では、”神様というのはアイドルと同じ”と喝破している感があるのですが、特定のアイドルのファン（＝信者）が多ければ多いほど、そのアイドル（＝特定の神様）の知名度と影響力は上昇し、一人もファンがいなくなればアイドルとしては世の中に存在しないのと同じということです。　で、ファンを増加させるには、ファンのニーズを満たす事が手っ取り早い方策であり、神様の場合だと信者（＝氏子）の願い事を叶えることが該当するようですし、アイドルだとファンが好む歌舞演劇などなどファンが求めるものを提供することが該当するのかもしれません。　なぎ様は忘れられ消えかけていた神様が、御神木から掘られた木の精霊像から変成して人間の女の子の姿になって降臨するのですが、やがて高校へ通うようになったことで新たなファン（＝信者）を獲得し、インターネット時代ですから、ネット上のファンも急速に増加したことで神としての力が蘇っていくことになるのですが、そのためかどうかはともかく、現実世界にも影響を与えていくことになります。　作品中では、”なぎ様”が祀られていた神社から分社され、妹に相当する”ざんげちゃん”と名乗る神様も登場するのですが、御神木も健在で、寄り代として涼城 白亜（すずしろ はくあ）の体を使えることから”なぎ様”よりはパワフルに活躍しているものの、それでも全盛期の力は保てなかったようで、地元の神薙町で人々の悩みを聞き相談に応じる地味な布教活動もしているようです。　ただし、”ざんげちゃん”の場合は、”ざんげちゃんFC（ファンクラブ）”を創設しＣＤデビューを画策するなど、ローカルアイドルとして手っ取り早くファン（＝信者）を増加させようと目論んでいる節があり、神としての力を復活させる手法としてアイドル活動に目を付けているようです。　当初、”かんなぎ”はフィクションという立ち位置だったため、モデルとなった神社がどこか？は公表されなかったのですが、ＴＶアニメになったときに、作者の故郷周辺をモデルに各種の設定を詰めたこともあって、宮城県宮城郡七ヶ浜町にある鼻節神社（はなぶしじんじゃ）がモデルになっている　・・・　とファンの間では定説になっているようです。　鼻節神社の奇妙なところは、歴史のある式内社の一社でありながら、祭神が特定できていない時期があることで、現在は猿田彦命を祭神とし海上安全の神徳により航路の守り神として信仰されているのですが、複数の異説があり、例えば、「神名帳考証（1733）」では木花開耶姫と埴安神の二座（二神を祀る座）、「新撰陸奥風土記（1860）」では多力雄神、猿田彦神、和多都美神の三座という説になっているそうです。　では、社伝ではどうなっているのか？というと、鹽竃神社と同じ神が神代に御舟にて鼻節浜に上陸し、孝安天皇の時代に「ほうが崎」に鎮座、社殿が何度となく風雨で損壊したことから光仁天皇の宝亀元（770）年に現在の垂水山に移って鎮座した　・・・　とされているようです。　もちろん、”かんなぎ”が漫画になり、ＴＶアニメ（2008）になったことで、なぎ様の神社のモデルとされた鼻節神社の知名度は一気に一部では上昇し、既に”らきすた（美水かがみ）”のＴＶアニメ化（2007）に伴い、作品中の”鷺宮神社”のモデルになった”鷹宮神社（埼玉県久喜市：旧北葛飾郡鷲宮町 ）”の隆盛が話題になっていただけに、地元の対応も素早かったようです（笑）。　実際、鼻節神社の2009年の参拝客は例年の５倍以上に増加し、日本各地や香港からのファンも初詣に訪れる盛況だったそうなのですが、それを受けて、同神社のある多賀城・七ヶ浜商工会七ヶ浜事務所が、”アニメ「かんなぎ」による観光戦略事業実行委員会”を組織、2009年の夏には、七ヶ浜国際村に「かんなぎ神社」を設置したり、鼻節神社境内の間伐材で作った”木の精霊像”や”マイ箸”を景品として配るといった、かんなぎ観光キャンペーンを実施しています。　ある意味で、”漫画→ＴＶアニメ化→聖地巡礼＝新たな観光資源の掘り起こし”という流れが定着したということで、しかも聖地巡礼者に着々と外国人が増加しているあたり、オタク文化は日本固有の観光資源にも既になってしまっているわけです　・・・　その根の深さと広がりは、上海万博（2010）の日本館におけるオタク系イベントの隆盛でも実証されましたし（大笑）。　神様が少女として受肉するということでは、初潮前の少女を生き神様として祀る地域が幾つかあり、中でもネパールの”クマリ（Kumari、Kumari Devi）”は比較的知られている少女の生き神様ですが、クマリの選定はチベット仏教で生き仏で転生を繰り返しているとされるダライ・ラマが選定されるプロセスに似ているところもあるのですが、”ネワール族の仏教徒の僧侶・金細工師カーストのサキャ(Shakya)の生まれでなければならない。”という家柄の規定があることが大きな違いになるようです。　ちなみに、クマリにはネパール政府からも手当が出ているのですが、急速なインフレを考慮して手当が２５％引き上げられ、宗教行事を管轄する文化省によればですが、月額６０００ルピー（約７０００円）から７５００ルピーに引き上げられ、別途教育費も支給されるそうなのですが、国民の約４人に１人が１日１ドル（計算上月に約３０ドル）以下の収入で生活していると言われても、生き神様にその２～３倍程度の手当でいいの？と。　クマリは密教女神ヴァジラ・デーヴィー、ヒンドゥー教の女神ドゥルガーの２柱が宿り、ネパール王国の守護神である女神タレジュの生まれ変わりとされているものの、大きく２つに分かれ、１つは、国の運命を占う予言者としてカトマンドゥのダルバール広場にあるクマリの館(Kumari Bahal)に住むロイヤル・クマリ、もう一つは、ネパール国内の村や町にも多数存在するローカル・クマリになります。　なお、クマリの役割を終え次代のクマリが選出される合図が初潮とされているのですが、中には５０歳を過ぎても初潮が来ないためにクマリを続けているクマリもいるそうですし、クマリを退任した女性と結婚した男性は半年以内に吐血して死ぬという根拠の無い噂話も流布しているそうですから、生き神様もなにかと大変そうです。　公式行事としては、毎年９月に行われるインドラ・ジャトラの大祭で、クマリの元をネパール国王が訪ねて来て跪いたら祝福のティカを授ける儀式や、山車に乗ってカトマンドゥの町を巡り人々に繁栄と成功の力を与えたりするそうですが、通常は、人々の病気の治療、願望を叶える祈願をしたり、政府関係を含めて預言をしたりしているそうです。　クマリである間は、特別な儀式以外には外出せず、館の中で生活をするのですが、そうした特殊な生活を無事にこなして退任すると、毎月７５００ルピーの恩給が支払われるそうですが、こちらも急激なインフレの影響で引き上げられるそうです。　こうした風習に対して、欧米系というか基督教系の人権団体などが、”社会から断絶されたクマリの状況は幼児虐待や軟禁状態にあたる”とクマリの制度を非難しているのですが、館の外では親も同意して１２歳前後で嫁いで出産する事例さえ珍しくない地域もあるわけで、外の社会が楽園というわけでもないことは批判している人達の頭の中から流出しているのかもしれません。　結局、余所の独立国の伝統文化をあれこれ批判する人権団体組織の多くが、その価値観の根底に唯一絶対神への信仰を最高善とする基督教の尺度しか持っておらず、欧米系の文化を至上とし異なる文化を下等と見下して自分たちの価値観に併せるように強要しているわけですから、そもそも、クマリのような多神教の神の転生体といった宗教文化を理解する気も認める気も端から無いわけで、一種の宗教戦争を一方的に仕掛けているとも言えるわけです。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８４６話：(2010/07/03)

  2010.07.09

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• 川施餓鬼

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８２４話　「川施餓鬼」　かっては、日本のあちこちで施食会(せじきえ)とか施餓鬼供養（せがきくよう）と呼ばれた風習がありまして、死後に餓鬼道(がきどう)に墜ちて飢えと渇きに苦しむ餓鬼と化した人のために飲食を施し、供養することによって餓鬼が救済される事を願う仏道の修法をいいます。　施餓鬼供養は、阿難が初めて行ったとする説があるのですが、中国などでは清浄な地や池などに清浄な水や新鮮な食物を捧げることで餓鬼や悪鬼の類を払えるとする儀式がありますから、仏教オリジナルとも言い切れないところはあるようです。　有名な端午の節句に食べる”粽（ちまき）”の由来として、元々は中国で水神へのささげ物とされていた粽が、汨羅(べきら)の淵に投身した屈原の故事と結びいて、彼の命日である５月５日にその霊をしずめ、投身した屈原の遺体を魚などが食べないように、代わりの餌として粽を投げ入れると同時に、船を繰り出して水上で鉦や太鼓を鳴らして魚等を追い払ったという話があります。　屈原は中国の戦国時代の詩人にして政治家で、名は平、博学で懐王の信任を得て内政に外交にと大活躍したものの讒言によって失脚してしまい、放浪の末、国難に殉じて汨羅(べきら)に入水してしまうのですが、彼の死体が上がらなかったことから、前述したような儀式が屈原の命日に行われるようになり、端午の節句に影響を与えたとされているわけです。　少なくとも、川施餓鬼のルーツの一つに、屈原に限らず、川や池、海などで死んだ人達のための供養があっても不思議ではないと（私は）思っていますが、屈原の命日に行われるそもそもの儀式は、彼の功績を惜しみ、彼の無念を哀れに思い、彼を慕っていた民衆が自発的に始めたようで、どこぞの国王の命令で強要されての事では無かったようです。　施餓鬼供養の中でも特に川辺などで水死した人達を供養する施餓鬼供養を川施餓鬼と分けていて、場所によっては儀式の場所が河岸だけでなく船を用いて船上で行う事もありますから、屈原の供養にまつわる話というのは幾つかの類似した話の集大成になっているのかもしれません。　そうした場合、施餓鬼供養というか法要の後に、船に水死者の法名を記した経木(きょうぎ)や供物、蝋燭の明かりを灯した灯籠などを積んで川や海に流す地域もあれば、河岸や桟橋などから流す地域もあり、それぞれの土地土地で供養の形態は異なるようです。　数は少ないものの、場所によっては、水死者の供養と川の豊漁の祈願が合わさった地域もあり、供養の法要が終わると大きな幟を押し立てて餓鬼供養と豊漁祈願を兼ねて河岸を練り歩くという、一種のお祭になっていたりします。　もっとも、少なくとも川施餓鬼に関しては、本来は時期を限ったものでは無く、水死者が連続したり、一度に大量の水死者が出た場合などにも随時行われていた地域が多かったようですが、盆行事の先祖を送り返す燈籠流しと結びついた地域が珍しくありません。　お盆の行事となった場合としては、川施餓鬼供養の中でも精霊送り（＝燈籠流し）が取り込まれて大かがりになっていった地域が多く、今となっては納涼のイベントとしての要素が大きくなっていったようです。　何故に、地域の行事として行われていた施餓鬼供養の中でも川施餓鬼が、川施餓鬼の中でも燈籠流しの類が残っていったのか？に関しては、第二次世界大戦における住宅街への米軍による無差別爆撃による死者との関連を指摘する人が多く、爆撃に伴う火災に追われて川に逃げて死んでいった人が多かったようです。　大規模火災に追われて川に逃げて大量の死者が出たということでは、関東大震災でも悲惨な話が多く残されていて、川岸まで逃げて一安心していたら次々と避難してくる人がいて川の中に押しやられ、水の中だから大丈夫かと思っていたら、川面を火が渡っていって焼け死ぬという地獄のような光景が広がったそうです。　つまり、比較的川幅が狭い場所で川の両側で建物が燃えて高温になると、やがて川面を浮かぶ可燃性のゴミや人の髪の毛まで自然に火が点くほどの高温となってしまい、川岸に近いほうから順に自然発火していき、まるで川面を火が渡っていったように見えたのだそうです。　火災に追われて、川に飛び込む人もいれば、火災の熱や煙で失神したり、人いきれや圧迫されたことで気絶して川に転落する人も続出したようで、川岸で溺れ死んでいる人の上に次の犠牲者が折り重なって死んでいったりもしたようで、生き残った人の証言には”まさか”というくらい悲惨な話が多かったりします。　東京大空襲でナパーム弾に焼かれながら川へ逃げた人達の目撃談に至っては、赤ん坊を捧げるようにしながら川岸から川の中に入ってきて舟に乗っている人に子供を渡そうとした母親は川に入る前の段階で後ろ半分が燃えて松明のようになっていたそうで、船の人が赤ん坊を受け取り、川に入ったことで火が消えた母親も船に引き上げたら、体のほとんど炭になっていて、なぜ動けたのか分からなかったそうです。　無差別爆撃などで大規模火災が発生した場合、爆撃や火災からなとか逃げ延びても、体中に火傷を負ったり長時間火災にさらされて脱水状態になった人達が、とにかくどんな水でもいいから水が飲みたくなって川岸にやってきて、水を飲んではそのまま力つきて川に顔を突っ込むようにして死んでいるといった光景が、全国のあちこちの河川敷や川原などで生じていたようです。　特に都市部の場合、短時間で大量の死者が火災絡みで発生した場合、身元の確認というか特定が不可能な事が多く、規模によっては家族全員とか親戚一同全員が死亡している事例もあり、身元不明のまま集団で合葬するしかなかったようです。　戦後、軍国主義の否定といえば聞こえが良いですが、なぜか無差別爆撃で問答無用で虐殺され民間人の犠牲まで”無かったこと”にしている人には無神論者が多いようですが、無念の内に死んでいった民間人の犠牲者を供養するどころか貶める事で自分たちは戦争に反対していて自分たちの手は綺麗だとでも言いたげな人まで出るに至っては、日本という国は亡国であり、我々はそこで餓鬼となって生きているのに過ぎないのかもしれません。　そういえば、なぜ国が滅びるというよりも、日本人という民族が遠からず（理論上２００～３００年程で文字通り”０”人になる）消えてしまうスピードで少子化が進んでいて、年間自殺者が１０年以上も３万人を越えていながら効果的な対策が講じられていないのは、何かの呪いのように、何をやっても止まらないからだというもっともな話があります。　まあ、配偶者控除などの廃止と引き替えに導入された”こども手当”のような亡国の愚策に何らかの効果を期待する方がどうかしているとは思いますが、無念のままに水死していった人のオサキとか七人サキの伝承と絡めて考えると、無念の内に死んでいった人達の供養を不要と考えるようになった日本の人口が急速に減少していく事に何の不思議も無いと私には思われます。　そこまで抹香臭く考えなくても、無念のまま死んでいった人を供養しなければ哀れすぎると思わない心根の人が、なぜ子供たちにだけは、無駄に死なないように精一杯生きなさいと教導することができると思うのか？　或いは、年間３万人規模の自殺者が１０年以上も放置されているということは、年間２万人の自殺を食い止めていれば、２０万人以上の子供が余計に産まれていたのに等しい事になるとなぜ思わないのかが私には謎です。　ましてや、”こども手当”というのは、今産まれている子供達が、将来的に日本国が滅んだとしても無縁というか何の義務も債務も負わない外国籍の子供の養育費用まで負担して将来的に返済していくという異様な制度ですから、親が目先の月額数万円に踊って、自分の子供に月額数十万円以上の負担を強いる事になっても是としている光景は、私には地獄で餓鬼が蠢いているようにしか見えません。　う～ん、今回は抹香臭い話になったな～。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８２４話：(2010/06/08)

  2010.06.14

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• 集団呪詛

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８１２話　「集団呪詛」　田舎伝説とでもいいましょうか？日本のどこかに裏の稼業として呪術を生業としている村があり、呪殺まで請け負っているという噂があります。　おそらく、発端となったのは、587年の蘇我一族による物部一族制圧に伴って物部神道の系譜が野に下ったことだと思われます。　興味深いのは、陰陽道の一派とされ、いざなぎ流と称している独特の陰陽道が、土佐国物部村（現・高知県香美市）に伝承されてきていることでしょうか？　陰陽道といえば、京の都で家元的な存在であった賀茂氏や、そこから分派した土御門家などが有名ですが、そうした流れとは歴史的な関連性が確認されていないのが、いざなぎ流の特徴になっています。　私的な仮説ですが、地方の山奥に潜んだ物部神道の末裔が陰陽道を取り入れ、表だってはばれないように再編したのがいざなぎ流ではなかろうか？と考えてしまうことがあるわけです。　いざなぎ流関係者の解説によればですが、”天竺のいざなぎ大王から伝授された２４種の方術に基づく”ということになっているのですが、浅学な私などは正直”何時の時代の誰？”と思ってしまいます。　儀式というか祭儀は”太夫（たゆう）”と呼ばれる神職が行うのですが、太夫になるのに男女の別は無く、特定の家の家元制度でもなければ世襲でもなく、集落の中の適格者が祭文と祭礼の様式を伝承するあたりでも独特な継承体系になっています。　おそらくは、何人（何軒）かで部分を伝承し、表看板として儀式を仕切る一人が選ばれていると考えないと、次代への伝承が終わらない間に当代が急死したような場合にそこで伝承が途絶えてしまいますから、太夫だけが全てを掌握しているとは考えにくいところがあります。　このあたり、例えば、岡山県の竹ノ内流柔術の場合、本家の後継者が絶えかけて、離れた場所で分家による伝承を行っておくことで秘技秘伝などの失伝を防ぎ全伝を継承する必要性が痛感された時期があったように、伝承内容に部外秘が含まれる技芸では何らかの分散伝承をしておかないと常に失伝の可能性を抱えていることになります。　或いは、武芸の達人というのは何世代に１人しか登場しないとしても、武芸十八般など細かく分けていけば、その内の一つは達人級という人が出てくる可能性はもう少し高くなりますし、刀や槍といった一つのジャンルの中でさらに特定の技に関して秘技を伝承するだけで良いとなると、さらに達人が登場する可能性は上昇していきます。　つまり、特定の地域に住む血縁者や地縁者などの中で準達人級の人達がとりあえず修行方法やノウハウを分けて伝承しておいて、何世代に一人程度の割合で達人が誕生したときに、全てを再編することができる体系になっている技芸は意外と多いのではないかということです。　分かりやすく書けば、トライアスロン競技のチャンピオンが達人や太夫だとして、水泳なら水泳、自転車なら自転車、マラソンならマラソンという部分、部分では上位入賞している人達が集団で、見込みのある若い子を教えれば、その中からトライアスロンのチャンピオンが出てくる可能性が高いのではないか？ということ。　実際にそういった伝承方式になっているかどうかはともかく、他の陰陽道と比べたときのいざなぎ流の特徴は、儀式に法具を使わないことと、儀式に応じて和紙の切り紙（御幣：ごへい）を造り分け使い分けることで、独特な祝詞や呪文は体系的に伝承されているものの（当然）部外秘の部分をかなり含んでいるようです。　ま、そこまでいざなぎ神道をあれこれ勘ぐらなくても、四国は拝み屋が珍しくありませんから、呪術村の噂が立つ集落が複数存在してもそれほど驚きませんし、全国を行脚する修験者や修行僧などなど呪術を生業の一つにしている人もまた珍しく無いのが日本という国の特徴でもあるわけです。　或いは、沖縄のユタや青森のイタコなどなど、この世とあの世の取り次ぎを行ったり、日常の悩みごとの相談に応じる霊能者の類もまた全国的に各地域で土着化して地域社会に溶け込んでいたわけで、集落の多くがプロないしセミプロ級の呪術者という集落があってもそれほど珍しいという気は（私はですが）しません。　ところで、呪殺がなぜ成立するのか？という科学的な解説（？）によると、自分が呪われている事を知った対象が、疑心暗鬼になって自滅していくことで呪殺は成立しているとでもいった解説がされることがあります。　ということは、別に何処の誰と特定していなくても、”特定の条件を満たしている誰か”というアバウトな設定でも呪殺が成立するということで、実際、集落などで集団呪詛が行われるときは呪詛の対象が不明なまま行われるケースがあることが知られています　・・・　というか、証拠が無いので断定しないだけというのが実態に近いのかもしれませんが。　例えば、収穫間近の稲が荒らされたとして、荒らしたのは誰かは分からないものの、天罰を下したいと集落全体が同意して呪詛を行った場合、その犯人が集落内の人間だった場合は、自分で自分に呪詛をかけることになり、解呪が理論的には不可能というかかなり難しくなります。　つまり、集落全員の呪いのエネルギーを受けるというだけでなく、自分で自分自身に罪を認めた上で呪詛をかける形になるため呪詛返しが難しいというか成立しないということですが、犯人が集落外の人間の場合は科学的な解説が正しいとすれば呪詛が成立しにくいということにもなります。　この手の話の現代版が、チャット呪詛で、発端はホラー映画などでよくモニター上に短い呪詛めいた単語が延々とリピート表示される光景などがルーツのようですが、技術的には、シンクロチャットなどで複数の人が決められた時間に”萌え～”など決められた単語を一斉に入力して画面を埋め尽くすようになったあたりからかもしれません。　ある意味で、コンピューターネットワーク社会というのは、集団呪詛が成立しやすい環境で、ネット上の仮想社会とネットの外の現実社会の境目が曖昧になってきているだけに、現実社会で起きたことはネットの中でも（擬似的なものを含めて）起こることが予測できます。　ましてや、３Ｄ映像が当たり前の状況になっていったとき、脳が受け取る呪詛系の信号に、仮想空間と現実社会の差がどれほどあるのか考えるとき、ハイテク社会の行き着く先が魔法の国になりかねない事に思い至るわけです。　既にそうした傾向は、ネットワークゲームなどに現れていて、例の有名な”私が寝ちゃうと、みんなが死んじゃうから・・・”というネトゲ廃人の台詞に代表されるように、既に脳内でネットの内側の仮想社会がリアルと大差が無くなってきている人は珍しくなくなってきているわけで、３Ｄ映像などの技術革新はその状況を急速に悪化させかねないと私は予想しています。　まあ、仮想空間と現実社会の混在ということでは、実生活の生情報が垂れ流しになっている事が多いツイッターなどダラダラつぶやき系の板のアカウントが、某ミ○ーに代表されるＳＮＳで検索してヒットするような場合、その対象者は参加しているコミュニティまで遡上されて監視されている可能性さえあるわけで、そうなると、自分以上に自分の日常や個人情報を知っているネットストーカーというかネット霊能者もどきの鴨になっていると言っていいのではありますまいか？　その内、ネトゲ上で、”今夜８時から狩りに行くから・・”といった誘いに、”今夜８時から、○を集団呪詛するから！”といった誘いが普通に混じるようになっても私的にはそれほど驚きませんし、既にどこかで定番行事になっていてカリスマ・ネット呪術者が誕生していると言われれば”ああ、やっぱりそうでしたか・・・”と言う程度でしょうなあ～（笑）。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第８１２話：（2010/05/25）

  2010.05.31

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• 貴船の話

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７５５話　「貴船の話」　貴船神社（きぶねじんじゃ：京都市左京区鞍馬貴船町、貴船社の総本社）は、山奥といえば山奥の神社なのですが、木船とか木布禰と表記されている事例があり、水神のタカオカミ神を祀っているいささか不可解なところのある神社として知られています。　そもそも、記紀によればですが、玉依姫（たまよりひめ：海神の娘にして神武天皇の母）が黄船に乗って、淀川→鴨川→貴船川と遡り、貴船神社の奥宮にある湧水地に祠を建てたのが貴船神社の始まりとされていて、社殿の西側に残る船形石は玉依姫の乗ってきた黄船なのだそうです。　地質学的には、京都の街は盆地として知られているのですが、周囲の山に降った雨のかなりの部分が盆地に流れ込むことと、鴨川→淀川に代表される水の出口が一箇所というか一方向に限定されている上に、その地下の地形故に地底湖と書いてもいいくらいの地下水の溜まりがありますから、考えようによっては京の都は巨大な淡水湖の上に浮かぶ水上都市と言えなくもありません。　歴史的には、延喜式内の名神大社ですし、大和の丹生川上神社（にゅうかわかみじんじゃ：奈良県吉野郡にある上・中・下３社の総称）と貴船神社で”丹貴(にき)二社”と称されることもあるのですが、丹生川上神社の方も、上社はタカオカミ神，中社はミズハノメ神，下社はクラオカミ神を祭神とし、３社とも雨乞いと（逆の）長雨が止む事を祈ると霊験あらたかな神として知られ、中でも中社は雨師の明とされ、蟻通(ありとおし)明神と俗称されているのですが、全国区では貴船神社ほど知られていないようです。　もっとも、貴船神社が全国区で知られているのは必ずしも水神としてだけとは言い難く、いわゆる”丑（ウシ）の刻参り発祥の地”としての方が今となっては有名になってしまっているのは御存知の通り。　ただし、藁人形に五寸釘を打ち込むスタイルの丑の刻参りというのは、室町時代の謡曲”鉄輪（かなわ）”の創作とされ、陰陽道の人形呪法と貴船神社への丑の刻参りが組み合わされた比較的新しいスタイルの　・・・　といっても５００年以上昔の話になる　・・・ようで、巷間に定着するのは江戸時代に入ってからの事になるようです。　この辺り、平家物語の剣巻上によればですが、貴船神社に初めて丑の刻参りをしたのは、嵯峨天皇の時代に実在した公家のお姫様の”橋姫”とされていて、当時の貴族は通い婚が主流だったのですが、他に女が出来て自分の所に通ってこなくなったことで、新しい相手の女を怨み、貴船神社に七日間籠もって”願わくば生きながら鬼に成したまへ、妬ましと思はん女をとり殺さん　・・・”と祈ったとされています。　別の説では、貴船神社の中に縁結びの神として知られる磐長姫命（いわながひめのみこと）が祀られている事から、自分への気持ちが冷めた男との縁を結び直すために七日間籠もったのではないかという話があるのですが、いずれにしても、当時既に貴船神社が何らかの呪詛の神を祀っていると考える人が多かったようです。　ところで、橋姫の祈りに対して”まことに申す所、不憫なり”とした貴船の神の御神託は、”鬼になりたくば、姿をあらためて宇治の河瀬に行きて三十七日浸るべし”という内容だったとされ、橋姫は嬉々としてそれに従ったようで、鬼になって、自分の男を寝取った女と自分への恋がさめて冷たくなった男をとり殺したとされています。　問題は、どのように”姿をあらため”たのか？ということで、その辺りは”白い着物を身に纏い、髪はざんばらにして櫛で梳かず、顔には白粉を塗り、歯にはお歯黒を塗り、唇には真紅の紅をさし、頭には３本の蝋燭を立てた鉄輪を被り、胸には一つの鏡を隠し、足は素足で高下駄を履き、口には櫛をくわえ　・・・　という当時も今も常軌を逸した姿だったようで、そのスタイルが後の丑の刻参りの正装となったとされています　・・・　が、実際には幾つか別のバリエーションが知られていて、例えば、口にくわえるのは櫛ではなく剃刀の類といった話もあります。　ちなみに、神社の杉の古木に藁人形を五寸釘で磔にする場合、丑の刻の頃に人目に付かないように七日間連続して行う事は有名なのですが、結願となった日の帰り道で黒い牛が道に寝そべっていたらそれを躊躇せずに乗り越えて帰る事が満願成就のための最後の障壁とされているようです。　”そんなに都合良く、帰り道に黒い牛が寝そべっているものなのか？”と言われそうですが、もちろん、自然とそうなっていることもあるでしょうが、自分で帰り道に黒い牛を寝そべらせておく仕込みをしてはいけないことにはなっていませんから、そのあたりまで徹底していたのかもしれません。　まあ、呪いが完成するためのハードルを高くすることで、呪いが完成すること自体が目的にすり替わり、結果的に呪いそのものは完成しないように配慮しているような気もするのですが、そうした配慮や慈悲さえ後越えてしまうほどの情念の持ち主は後を絶たないようで、未だに貴船神社などで五寸釘で杉の古木に縫いつけられている藁人形が発見されています。　或いは、貴船神社に限らず、ごく普通の神社で枯れたり折れたりした杉の古木を伐採していて、チェーンソーが五寸釘を噛んで壊れてしまう話もあるそうで、そうした事例では、藁人形は他人に気付かれない内に朽ちて釘だけが残ったのかもしれません。　一応、丑の刻参りに使う五寸釘の方にも一定の処理をすることになっているのですが、まあ、そうした詳細をここで書くのもいかがなモノかと思いますので略とします。　なお、丑の刻参りを解説した書物に曰く、”はかなき女の嫉妬より起こりて人を失い身を失ふ。人を呪わば穴二つほれとはよき近き譬えならん”というのが世間一般の冷めた意見の代表になるようです。　もっとも、まともにやってもかなわない事がわかっている願いがあるからこそ、最後の手段として人は呪詛の類に頼るわけで、そうした通常ならば不可能な願いを叶えるための対価として自分の命を等価交換することになっても、それは覚悟の上という悲しい呪詛が丑の刻参りなのかもしれません。　その意味では、丑の刻参りに限らず呪詛というものは、世俗の権力に対する弱者の抵抗手段でもあると言えなくもないのですが、その辺りの話はまた別の機会に。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７５５話：(2010/03/19)

  2010.03.25

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• 大黒天の謎

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７４７話　「大黒天の謎」　一般に大黒天は、古代印度の暗黒の神とか暴神とされたマハーカーラーが仏教に摩訶迦羅(まかから)として組み込まれた神様の事で、仏教では三面六臂の異形黒色の忿怒神となっています。　元来、戦神だった大黒天のキャラクターは印度から離れるに連れて激変していき、袋を持った姿で、なぜか厨房(台所ですな)の神という特性が加わり、平安時代の頃に辿り着いた最果ての日本では寺院の厨房にまつられたことから僧侶の妻の俗称にまでなってしまいます。　考えてみれば、仏教の開祖である仏陀が出家した時には、奥さんや子供、社会的な地位など全てを捨てているため、仏教が伝来した国や地域で僧侶が結婚して妻子を（少なくとも公式に）持つ事はタブーとなっていますから、日本の仏教はかなり変質していると言えます。　というか、他の宗教でも聖職者は戒律で禁欲を求められる事が多く、妻帯を認めない宗教が多いのですが、これは一つには、妻帯を認めた場合、自分の子供への世襲を画策するしたり、色（異性）と欲（金銭）に耽溺する事例に事欠かないことと無縁ではないようです。　実際、適当にあらゆる宗教から摘み食いしたような教義を唱える事が多い新興宗教の教祖が、女性信者に手当たり次第に手を付けてハーレムを形成し、第１夫人、・・・、第○夫人といった複数の情婦との間に子供が産まれていた場合、教祖の死後に自分（の子）が組織を掌握するために遺族間で派閥闘争を繰り広げた話は珍しくありません。　もっとも、信者の中には開祖の言動に心酔して参集していただけの人が珍しくありませんから、教祖の死後に教団が遺族によって私物化されたり、遺族と幹部クラスの高弟達が組織運営で主導権争いをするようになると、四分五裂してしまうこともまた珍しく無いようです。　そう考えていくと、多くの宗教団体で妻帯を禁じ、後継者が一定の修行も積ますに血筋だけを理由に世襲する事を禁じたり、組織運営を明文化している事が多い現状は、いかに人の欲が凄まじいものであるかという一つの証拠であるとも言えます。　話を戻すと、古代印度の戦闘神が起源の大黒天も日本に定住するようになってからは武闘派からは程遠くなっていき、袋を担いで米俵の上に乗って打ち出の小槌を振り上げるおなじみのポーズを取る福の神と化してしまっているのは御存知の通り。　この大黒天の変貌の大きな原因は、室町時代の頃に大国主命と大黒天が同一視というか混同された事と無縁では無いようで、七福神の一柱となったこともあって福の神の側面しか知らない人も多くなっていったようです。　出雲国風土記においては天地創造神（代表的な国津神）とされている大国主命との混同は、本来は三面六臂である大黒天の人相や風体の大国主命化を進めたようですし、少彦名命とともに国を経営し農作物の栽培法などを普及させたとする伝承からか、恵比寿（えびす）とともに田の神（というか豊饒の神）としての性格を持つに至ったようです。　かくして、江戸時代に入ると、大黒天の姿は、頭に頭巾を被って、大きな袋を肩には担ぎ、手に打出小槌を持って米俵の上に立つ姿で表され、配下に鼠を従えるようになります。　鼠が配下に加わった事で、旧暦の十月の子の日には大黒天を祀る子祭(ねまつり)が行われるようになり、近世の町家では甲子(きのえね)の日を大黒様の縁日とするのが一般的になっていったようです　・・・　今となっては消えつつある風習の一つですが。　大黒にまつわる謎の一つが、大黒柱（だいこくばしら）で、 役柱とか中柱とか呼ばれることもあるのですが、家を支える特に太い中心的な柱ということになり、本来は土間と座敷の境の家としての中央に、上棟の最初に立てていた柱でしたが、なぜにその柱に”大黒”の名が定着したのかが謎なわけです。　前述したように、大黒天には厨房の神という顔がありますから、厨房関連の場所の柱が大黒柱とか、豊饒の神としてなら蔵や倉庫などの柱にその名が付きそうなものですが、家を支える中心の柱ということになると、混同された国津神である大国主命の大国だったものが、混同された渡来神の大黒に置き換わったのか？と邪推しないでもありません。　まあ、大国柱と考えると、国を支えた主神の名の柱で家屋を支える事にそれなりの意味が出てくる気がしますが、本来は戦闘神である大黒天が由来となると、”う～ん”という気がしないでもないわけです　・・・　それはそれで災害などの外からの脅威に強い気もしますが。　ところで、大黒天と同じように七福神の一人で豊饒神として知られる恵比寿は、異郷から漂着し来臨した神で、土着の神で無いことは確かなのですが、大黒天以上に実は起源がはっきりしていません。　三歳になっても足が立たなかった夷三郎が海に流されて漂着した先で神となり恵比寿となったという話もあり、この場合は蛭子(ひるこ)神ということになるのですが、演芸の神とか、豊饒の神の顔を持つことからも、どうもそれだけでは終わりそうもない神様なのですが、ま、そのあたりはまた別の機会に。　　今日では右手に釣ざおを持ち、左わきに大きな鯛を抱えた、狩衣姿の夷三郎が恵比寿の代表的な姿として知られているのですが、恵比寿麦酒の図案が分かりやすいというか目にしやすくなっているかもしれません　・・・　もちろん、他の姿をした恵比寿も存在します。　いずれにしても、恵比寿は海にまつわる逸話が多いことから漁民の神として津々浦々で信仰されるようになり、海底の石や漂流物、時には岸に近づいた鯨までも夷（えびす）として祀っていたようで、まつったが，摂津の西宮(にしのみや)神社を本拠とする〈夷かき〉と称する宗教芸能者の人形芝居により各地に普及，商売繁盛の神となった。　これまた興味深い事に、大黒天も恵比寿も裏の顔というか、大闇黒天や黒恵比寿といった話があるのですが、まあそいういう話もあるという程度で深入りしたくない事はさらっと流して話を先に進めます（笑）。　もっとも、それはそれであんまりかなとも思うので、少し書いておくと、とある場所でとある手順で大黒天の像を使って行う呪法に”大黒降ろし”と呼ばれる術があり、これをやると、大黒天の像に本来の摩訶迦羅が降りるようで（中略）といったことが（一部では）知られていますから、大黒天の像を贈りたがる人というのは疑われても仕方がないと思わないでもありません（笑）。　実際、自分の死後を想定して大黒降ろしを行う人もいれば、祝いの品として大黒降ろしをした大黒天の像を贈る人もいるという、なかなか人の心の闇黒面が全開の話が知られているのですが、いずれにしても強大な神だけに、大黒天の像は自分が購入するものであって他人に貰うものではないと心得ておいた方が良いと（私はですが）思います。　ただし、不思議なくらい、運気が無い人程、その手の呪が施された像が寄って来やすい上に一度手にすると最後まで手放したがらず、運気が強い人ほど巡ってきても手元に置かないか置いている時間が短いようで、”なるほどね～”と思わないでもありませんが、幸か不幸か、この手の事を警告しても変人扱いされるだけですから黙って見ている方が何かと無難だと思われます。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７４７話：(2010/03/10)

  2010.03.17

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• 聖灰

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７３４話　「聖灰」　希代の聖者とペテン師の違いというのは微妙～なもんじゃないのか？という気がするときがあるのですが、ま、今回はそんな話だったりします。　世の中には、特異体質なのか奇跡現象なのかはともかく、金粉現象を引き起こす人が少なからず実在していて、金粉のようなものがいつの間にか掌や周囲に付いている事があります。　もっとも、何か掌がキラキラしているなあという微粒子程度の人から、０．５ミリ角程度の金片らしきものが付着している人までさまざまですが、集めておいてもいつの間にか消えるところは共通しているようです。　それこそ、当事者も”不思議だなあ～”と思いはしても、”そういうことがある”という他に特に意味の無い現象で、スプーンが曲がるとか未来が予知できるとかいった現象は必ずしも付随していません。　ちなみに、周囲に付着しているというのは、そうした現象を引き起こす人が長らく居る場所で掌や箒などを使ってゴミを集めてみると、何かキラキラしたものが大量に出てくるという事ですが、この場合もいつの間にか消えていくようです。 　まあ、汗と一緒にキラキラする何かが体内から出てきているのかもしれず、いつの間にか消えてしまうあたりで今のところ正体の判別に成功したという話も無いようで、今しばらくは謎のままかもしれません。　仮に意図的にトリックを使って金粉を蒔いて”奇跡現象！”と騒いで有名になりたいのなら、金粉を消す必要が無いというか金粉が消えるわけがなく、化学的に分析して金粉であることを特定した方がもっともらしくなるのではないかと。　その意味でも、前述したように”不思議だなあ～”という程度の話ではあっても、トリックにしては辻褄が合わない、当事者にとっては自分でコントロールできないいささか迷惑な能力になっているようです。　超能力の中に、物質を取り寄せるアポーツというジャンルがあり、遠く離れたどこかから目的のモノを引き寄せる現象が知られているのですが、稀に時空を越えて物質を引き寄せてしまうようで、これまた自分ではコントロールできないようです。　物質をテレポーテーションさせているのかどうかは定かでは無いのですが、質量が小さいモノほど引き寄せやすく、自動車や象、あるいは船舶や航空機といった大質量のモノは引き寄せ難いというか引き寄せに成功した話を聞いたことがありません。　逆に言えば、手品で再現することが容易な現象ということでもあり、余程特殊なものが出てこない限りトリックであると言われても言い返せない部分が残るのではないかと思われます。　したがって、過去には、遠く離れた地域の植物とか、その時期に咲いている事が無い花とか、その時代にあるハズが無い植物の種などの引き寄せに成功した場合に、”無視される”という形でそうした現象の存在が立証されてきているようです（笑）。　そのあたり、従来の引き寄せ現象が非常にささやかな、それこそ小さな花が一輪とか種が一粒といった程度の質量で、どこかから偶然迷い込んだのではないかという疑惑が付いて回る程度の話であるのに対して、３０キロ程度の米袋が一杯になるレベルで灰を物質化させるという話があります。　過去の事例を知っていればいるほど、ペテンだろうと素直に思うのですが、そうした現象を起こすサティヤ・サイ・ババ（1926～2011）は”聖者”として数百万人単位の（日本人を含む）信奉者を集めている事で知られています。　彼が腕を少し振ったかと思うと、聖灰（ヴィブーティー）と呼ばれる灰が無尽蔵という感じで出てくる光景は確かに感動的ですらあるのですが、なぜか聖灰が化学的になんなのか？は解明されていなかったりします。　つまり、前述した金粉現象のように、”少量の何か”がいつの間にか表れていつの間にか消えているという話ではなく、意図的に大量に表れて現存し続けるにも関わらず、成分分析から”何を燃やした灰なのか？”が特定されていないわけです。　聖なる灰の正体は、火山灰なのか？植物を燃やした灰なのか？動物を燃やした灰なのか？或いは特定することが不可能なのか？特定すると何かマズイことがあるのか？　それでいて、その聖灰を体に擦りつけたり飲むことで不治の病が治ったり、小児麻痺のために２４年間歩けなかった人が歩けるようになったとかいった話もあり、日本だとかって、御神水で似たような話がありましたが、サイ・ババの場合は裁判沙汰になっていないようです。　まあ、御神水や聖灰ぐらいまでなら許容範囲としても、サイ・ババの場合、なぜか指輪やネックレスといった装飾品や時計も掌に出現させて集まった信奉者に配ることがあり、”へ？”という光景がそこには繰り広げられています。　どう考えても、人の手による加工が少なからず加わっている装飾品や時計がトリック無しに出現するわけがなく、仮にどこかから”引き寄せている”とすれば、無断で持ち去っているのとどれくらい違うのかが分からない行為ではないかと考え込んでしまうわけです。　ある意味で、信者などから寄進された装飾品や時計を集めた部屋があり、そこから引き寄せているというのなら倫理的な問題が無いというか、それこそ奇跡現象だと思いますが　・・・。　なお、サイ・ババは６歳の頃から、友達が欲しがるお菓子や学用品の類を空中から取り出して与えていたという話もあり、半世紀以上もの間、似たような事を延々とやっているようで、かなり年季が入っている芸なのかもしれません。　いただけないのは、次第にサイ・ババの引き起こす現象がエスカレートしてきたことで、壁に掛けたサイ・ババの写真から聖灰が吹き出したとか、アムリタ（正体が特定されていない何らかの蜜らしき液体）が浸みだしたとかいった話になると、眉唾全開ではないかと。　もちろん、そうした写真から延々と聖灰などが噴きだし続けているのならそれは奇跡現象だと思いますが、どうも一回限りの奇跡のようで、トリックを疑う余地が十二分にあるようです。　彫刻や絵画などのキリストやマリアが（血の）涙を流すという現象が世界のあちこちで報告されているのですが、その多くが客寄せのために意図的に仕組まれたトリックというのも有名な話で、公的に奇跡現象と認められるようなケースだと再現性なども検証対象になるようです。　キリストやマリアが滅び行く人類に涙しながら警告しているのなら、人類が滅びるまで泣き続ける事になるでしょうし、涙や血液を分析すれば、既存のどの型とも合致しないか、世界中で共通しているかのいずれかでなければ辻褄が合わないわけです。　サイ・ババのトリックに関しては、ＩＳＲＡ（印度科学合理主義者協会）などが画像を検証し巧妙な手品と結論を出しているのですが、もちろん、信者達がそれを認めることはなく、１４歳から今日まで延々と聖灰を撒いている超能力者として世界的に知られています。　手品であったとしても、（ハイスピードで）カメラ撮影をしてコマ送りで解析できなければ、トリックを見破る事は不可能でしょうし、超一流のマジシャンともなると、カメラの前でも平気でイカサマを行って尻尾をつかませませないことは解説の必要が無いのではないかと（笑）。　というか、”人間性の霊的な復活”と聖灰を撒く事の間にどのような関連性があるのか？というそもそもの点が私には謎で、無尽蔵に湧き出す聖灰で難病患者が医者の治療以上の確率で治癒するのなら、印度から医療革命が起きているのではあるまいか？　ただし、多くの新興宗教などで、教祖が色と欲との二重惚けになっていく事が珍しく無いのに対して、サイ・ババにその手の噂が立つ事が無く、その意味では現代の聖者たりえているのではないかと思いますし、どちらかといえばそちらの資質の方が評価されるべきではないかとも思っています。＊　サイババは心臓・呼吸器不全のため2011/04/24に印度のアンドラ・プラデシュ州の病院で死去した。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７３４話：(2010/02/23)

  2010.03.01

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• 行基の退魔

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７１１話　「行基の退魔」　怪しい話の種本としては、日本の古典だと、3-706”日本霊異記”、今昔物語、・・・、1-261”耳袋” 、甲子夜話などからが多いのですが、今昔物語には日本霊異記を元ネタにしたものが多く、さらに今昔物語から孫引きした後世の著作物も多かったりします。　結果的に、一つの怪異に関して、時代や職業などによって異なる解釈が行われている話もあるのですが、耳袋のように下手な解釈はそれほどせずに、淡々と”こういう話があった”と書きとめている方が分かりやすいような気はしています。　ただし、当時の知識人階級でもかなり上位に属する人達が書き残したものと言っても、下手をすると現代の小中学生でも知っている理化学的な常識や日本や世界の歴史や地理、あるいは動植物に関する博物学的な知識が欠落していることがあります。　もちろん、だからといって収録されている話の全てを否定する必要もなく、御先祖様達も似たような話を耳にしたことがあるのだろうか？その時どんな風に思っただろうか？とか考えたりすると、千年経っても二千年経ってもそれほど進歩していないような気もしてくるわけです（笑）。　それはさておき、今回のお題にある行基（668～749）というのは、行基菩薩と呼ばれることもある奈良時代の僧侶で、薬師寺で学んだ事から日本霊異記に記録が残っているのではないかと推察されます。　また、各地で仏教の民間布教に尽力したこともあってか、数々の民間伝承を持ち、行基図と呼ばれる、平安時代から江戸時代の初期くらいまで重用されていた、おおまかな日本地図を作製したという伝説でも知られていますが、事の真偽は定かでは無いようです。　なにしろ、行基が生まれた年と大化改新（645）の間が２０年くらいしか離れていないわけですから、日本の仏教の起源が聖徳太子と蘇我一族に由来するとすれば、日本に仏教が渡来して定着を初めて１００年も経っていない頃の話で、当時の最先端の知識の一つだった事にもなります。　逆に言えば、一般人にとって仏教そのものが馴染みがなかったわけで、”そもそも仏教って何？神道や修験道なんかとどう違うの？？”という人の方が圧倒的に多かったが故に、布教活動もまた、一般大衆が分かりやすい興味を引く話や仏を信じる事の御利益に仏教的な観点から解説を加えて教化していくノウハウを行基あたりで完成させたということなのかもしれません。　日本霊異記に収録されている行基の話で、退魔というか悪魔払いをした話として有名なのは、中巻３０話”行基太徳子を携ける女人を過去の怨みと視て淵に投げてしめ異しき表を示す縁”ではないかと思うのですが、だいたいの所を意訳すると　・・・　行基が現在の大阪の辺りで布教活動をしていた時のこと、東大阪界隈に住んでいる女性が子供を連れてその法会（説法）を聞きに来た事があったそうです。　その連れてきた子が泣き叫んで話を中断させてしまったのですが、その子供は１０歳ほどになっているのに未だに自分の脚で歩かず、母の乳を飲んで、間無しに物を食べていたそうですが、それを視た行基が”その子供を（母親自ら）堀に捨てなさい！”と言ったそうです。　もちろん、居合わせた人達は、”いったい、行基は何を思ってそんな事を言い出したのか？”が分からず、母親も我が子を捨てることが出来ずに抱きしめたまま行基の説法を聞いていたそうです。　そして、翌日もその母親と子供はやってきて行基の説法を聞こうとしたのですが、子供は先日よりももっと酷く泣き叫んだそうで、集まった人達は話を聞くことができなかったそうです。　事ここに至って、行基に重ねて”その子を淵に捨てよ”と告げられた母親は、怪しみながらも自らの手で深い淵に我が子を投げ入れたそうです。　すると、子供は水の上に浮かんできて、手足をばたつかせ、目を大きく見開いて”悔しい！後、３年程は取り憑いて食い尽くしてやろうと思っていたのに！”と悔しそうに怒鳴ったそうです。　驚いた母親は行基のところに戻ったのですが、行基が”子供を淵に捨てたか？”と聞いたので、これこれこういった事がありましたと詳しく話したそうです。　行基が説明するには、”あなたが前世で、物を作って納める必要があったのに、それを納めていなかったから、それを受け取るはずだった物主が今生であの子供の形となって未納の分を食べていた。”のだそうです。＊　行基によればですが、前世で債務を返済していなかったから、その分を今生で取り立てられていたということで、負債は転生しても付いて回って必ず未来のどこかで取り立てられるということのようです。　話は、出曜経（すくようきょう）に及び、他人に一銭の塩を借りたまま死んだ為、牛に生まれ変わって塩を背負って運ぶことで返済している話というのは、こうしたことを言っているのだ・・・　と解説して話は終わっています。　深く考えずに読んでいるともっともらしい気もしますが、仏教の成立した印度のカースト制度にみられる身分制度社会を支えるロジックではないかと疑いはじめると、支配者階層に都合がよい輪廻転生の法則であるように邪推しないでもありません。　或いは、その辺りの不条理を斟酌していたからこそ、行基は”子供を淵に捨てろ（＝今生をだいなしにしている前世の借金などと決別しろ）”と指示したのかなあと思ったりもするわけです。　つまり、支配者側に迎合しているだけなら、霊視したのであろう前世で女が背負った借りの話をして、今生で前世の債権者が子供に姿を変えて取り立てているのだから、子供の気が済むようにさせなさい。それに耐える事が今生のあなたの修行であり業の浄化なのです　・・・”とかなんとか言ったのではないか？という気がするわけです。　もっとも、こうした推察に答えは無く、実際の輪廻転生の事例ではどうなっているのか？といったあたりから推測していくしかないのですが、その辺りの話はまた別の機会に。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第711話：(2010/01/27)

  2010.02.02

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• 悪魔払い学

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７０９話　「悪魔祓い学」　悪魔払いに関しては、起源は定かではないものの、世界規模でいつの間にか行われていた宗教行事とでもいったことになるのですが、乖離性人格障害（いわゆる多重人格）など、心の病に過ぎないという説もあります。　実際に起きた悪魔憑き事件をモチーフにした映画の”エクソシスト”はあまりに有名ですが、基督教の中でカトリックの場合は、悪魔祓い師がエクソシスト、悪魔払いの儀式がエクソシズムということになっているようです。　また、エクソシストというと基督教の神父や牧師などが行っている印象がありますが、日本で僧侶や神職だけでなく霊能者や拝み屋と呼ばれることのある一部の民間人も悪魔祓いや霊的な浄化を業としているように、海外でも聖職者以外のエクソシストが存在します。　ただし、聖職者以外が悪魔祓いで脚光を浴びて目立ちすぎていると、”あいつは悪魔の親玉だから下っ端の悪魔を追い払うことができるのだ！”といった理屈で排斥されたり、悪魔として抹殺されたことさえ過去にはあったわけで、魔女狩りの中にはそうした事例も含まれています。　もっとも、現在ではカトリック教会などから公認されている民間のエクソシストも存在しますし、特定の教会の熱心な信徒といった繋がり方をしている民間エクソシストも珍しくないようです　・・・　悪魔祓いができる霊能者はいずれにしても希少な存在ですから。　聖者と呼ばれたり、特定の宗教の開祖となった人達にも悪魔祓いのエピソードを持つ人が多く、イエスキリストなどは、聖書などで彼が行ったとされている悪魔払いの方法が、基本としてエクソシスト達に踏襲されているとされていますし、教祖達が悟りを開く前段として”悪魔から誘惑される”というのは一つの定番の通過儀礼になっています。　興味深いのは、乖離性人格障害と診断された人の治療の中に、”そりゃあ、どう見ても悪魔祓いの儀式じゃん？”という方法が含まれていることで、体内に巣くっている悪魔（と主張する人格）を一つ一つ消していく事で治療しているようです。　悪魔祓いを公衆の面前で行って成功させた宗教家の話というのは幾つか伝わっているのですが、基本的なパターンとして、まずは”悪魔が取り憑いている事を明確にする＝取り憑いている悪魔そのものに語らせる”あたりから始まり、”正体の特定と立ち去るように説得”し、”問答で論破して正体をを露見させた上で敗北を認め”させ、”祝福して浄化を完了する”といった流れになっているようです。　なお、多くの宗教において、悪魔はかって神であったか、神と五分の闘いをしたことがある存在とされていて、必ずしも神が悪魔を制御しているとは言いかねるところもあるようです。　というか、宗教者でもある某幻視者の有名なエピソードに、キリストと悪魔が並んで上空から人間界を見下ろし、悪魔がキリストに対して”これこれこういった事を人間に対して行うから○年だけ認めて欲しい”と交渉し、キリストが”認めましょう”と了承したという話があり、悪魔が与える試練もまた人類の成長には必用な刺激とでもいったことになっているのかもしれません。　元来、物質としての自前の肉体というものを神も悪魔も持たず、そのあたりから次元が異なる高次元の存在といった解釈も支持されているわけですが、それ故に、幻影として人と交渉したり、憑依することで人の体を借りて活動したりする事例が知られています。　人の体に憑依するというと、何やら悪魔の独壇場のような印象がありますが、実は神の陣営も人の体に憑依する事は珍しい話ではないようで、その幾つかは奇跡現象として記録されていたりします。　いずれにしても、現世における神と悪魔の勢力が拮抗しているから世界の天秤が極端に傾かずに（人類が滅びずに）済んでいるという説には一定の説得力があります。　ごく普通に生活していた人が、ある時期から乖離性人格障害を患うようになった場合というのは、何らかの強い精神的なストレスから逃れるために、意識的にしろ無意識にしろ、自分の中に直面している状況に対応できる別人格を形成することで本来の人格を守ろうとするためという説があります。　中には、外部の変化に対応しなくてもクレームがつかない年齢層に幼児退行してしまう事例も知られていますが、内側のどこか心の深い部分に潜り込んで避難してしまったオリジナルの人格が復帰できるかどうかは微妙～な話になるようですし、長期化するとどれがオリジナルかわかったものではなくなるようです。　実際、多重人格者の中には、治療を受けている内に、時にはオリジナル人格までも含めて次第に人格が統合されていく事があり、最終的に従来は存在していなかった第３の人格が形成され、その人格で安定してしまう事例も知られていますが、そうなってしまうとその中からオリジナル人格だけをサルベージするのは（現在の技術では）不可能なようです。　カルト集団などによって乖離性人格障害になるところまで追い込まれた場合、各種の暴行や虐待によって精神に強い負荷がかけられている事が珍しく無いそうで、仮に人格をオリジナルに戻してしまうと、過去の暴行や虐待の記憶も蘇ってしまい、かえって日常生活が破綻してしまうケースもあるようです。　悪魔払いの事例の中でも最悪に近いのは、両親が悪魔崇拝者で、子供を生け贄として捧げているようなケースで、こうなると、保護者が信念を持って保護すべき実の子を虐待していくわけですから、発覚も遅れがちになりやすいようです。　そんな連中は少数派だろうというのも、一概には言い切れない御時世となってきていて、景気が低迷し、社会不安が増大して、”やはり神はいない！”と思う人が増加すれば、”この苦境から抜け出させてくれるのなら、神でも悪魔でもかまわない！”と思い始める人だけが減少するとも思えません。　考えてみれば、オーム集団がサリン事件を起こした時期も、バブルが崩壊した後の”失われた１０年”の出来事だったわけで、あれから１０年以上が経過しても、状況は当時よりも悪化しているわけですから、反社会的な行為に出るかどうかはともかく、従来は無かったような形での暴発を警戒しておいて損は無いのではないかと。　そもそも、聖書の中には、神への信仰を示すために自分の子を羊の代わりに生け贄として神に捧げるようにという神託が出たら、実際に生け贄に捧げようとした有名な話もあるわけで、神と悪魔の境界線というか、彼らの価値観を一般人のソレと同じと考える事がそもそも間違っているのかもしれません。　ところで、狐や狸、狢、鼬などと同じように、悪魔が人に取り憑く事があるのか？という素朴な疑問に関しては、これは”何か”が憑く事はあるようで、キリストが、悪魔（＝人格を持つ負の精神エネルギー）を人の体から追い出して豚に移してしまい、その豚を川に投げ込んで殺すことで悪魔払いを終わらせた事例もあるようです。　これも、豚ではなく人形に封じて同じ事を行えば、流し雛と大同小異な行為になるわけで、そうした悪魔祓いの呪術が一定の効果を上げていたからこそ、世界規模で広がり、２１世紀の現在に至っても意外と多くの地域で継承が続いているのではないかとも思うわけです。初出：一夢庵　妖しい話　第３シリーズ　第７０９話：(2010/01/25)

  2010.01.30

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• 箱船の行方

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７００話　「箱船の行方」　世の中を見ていて、特定の集団の主義主張がおかしいのか、マスコミに代表される一般社会の常識がおかしいのか、微妙～な気がしてくる事がここのところ多くなってきていたりします。　まあ、それくらい日本のマスコミの論調が異様な事が多くなってきているのですが、よくしたもので、マスコミが報道したがらないことがネットの海では消えることもなく拡散を続けているのは御存知の通り（笑）。　昔、息子が新聞記者という人が、”自分の息子が新聞記者をやっているのだから、新聞が嘘を書くわけがない！”と主張し、”新聞は意図的に嘘を書くし、時には書かない事で犯罪行為に加担していることだってある。”という冷めた反論に遭遇していたことがありました。　実際、新聞社が自分の会社のオーナー一族の犯罪行為や、複数のメインスポンサーが絡む犯罪行為に関して、あるいは国家レベルの暴走行為に関してきちんと報道してきたかといえば笑うしかない過去が連なっている社が珍しく無いのではなかろうか？　もっとも、日本の特殊な言論統制手法として、ＴＶ放送が始まったときに民放に関しては新聞社を母体にしているところへの放送免許が実質的に優先されたことがあり、ＴＶ局の親会社が新聞社という系列化が珍しく無かったりします。　日本では一般的なこの光景は、実は海外の先進国では稀なケースで、マスメディアと呼べる規模の、新聞、ラジオ、ＴＶなどの媒体を一人ないし一つの資本が独占する事によって生じる情報統制や世論誘導の怖さを警戒しているようです。　ただし、そうはいうものの、金持ちは連むとしたもので（笑）、情報は巧みにコントロールされていたのですが、そのあたりの話はまた別の機会に（笑）。　さて、日本のマスコミの物騒なところに、裁判所を兼ねるという特徴があり、裁判で有罪が確定したわけでもなければ、歴然とした（裁判で採用されるような）証拠があるわけでもないのに、特定個人を犯罪者として糾弾する点があり、ソレが後に勘違いと分かっても修正報道はほとんどしなかったりします。　有名な典型事例の一つが、松本サリン事件の一連の報道騒動ですが、最近では意図的に裁判で有罪になっているわけでもないのに有罪であるかのような世論誘導を行うようになっていて悪化しているような気がしないでもありません。　といった枕を書いておくと、今回の”箱船の行方”の内容が”はは～ん、たぶん”イエスの箱船”の話だな！”と見当が付いた人もおいでではないかと。　といっても、イエスの箱船がマスコミを賑わしたのは１９７０年代末から１９８０年代初頭にかけての話ですから、それ以降に産まれた人達にとっては”何ソレ？”という話になるのかもしれません。　イエスの箱船に関するマスコミ報道は、ろくに取材をしないで思い込みで書くとこうなりますという典型事例で、そもそもの発端は、”婦人公論”が1979年に掲載した記事になりますから、まさに、”あの婦人公論が嘘を書くわけがない”と思った人が多かった事件ではないかと。　この事件の中心人物は、”千石イエス”として知られているのですが、本名は千石剛賢（せんごく・たけよし：1923/07/12～2001/12/11）で、兵庫県出身だそうですが、事業に失敗（1951）して失意の底にいた頃に聖書研究会に出会い、”極東キリスト協会”を設立（1952）して聖書研究に深入りしていったようです。＊　意外かもしれませんが、”千石イエス”という呼称はメディアの造語で、少なくとも本人は一度も名乗ったことが無いそうです。　千石イエスの下に集まった会員は、総勢でも２６名というささやかな規模だったのですが、その半数程が、若い女性（大学生、元ＯＬ、主婦など）だったことと、家族と揉めている会員が多かったことが、マスコミにとっては飯の種に思えたようです。　婦人公論が記事にして以降、瞬く間に、”ハーレム”、”精力絶倫”、”詐欺師”、”不法監禁”といった無いこと無いことを大手を含めて当時のマスコミが全国区で垂れ流したのでした。　なにしろ、千石の当時の住所が近いというだけで”３億円事件の犯人に酷似”とやらかした週刊誌も実際にあったくらいですから、まさにマスコミは自分たちが現代の十字軍で報道の自由の名の下に何でもありと思っていたのではないかと（笑）。　そうした世論の動きに勢いづいたのか、会員の家族の中には、当時、千石達が本拠としていた国分寺のテント小屋に押しかけて暴力を振るうようになったり、力づくで娘を奪還しようとしたようです。　まあ、そういう事をやった会員の家族などからだけ取材して記事にして、千石達への取材をおろそかにしたから話がこじれたとしか思えないのですが、”イエスの箱船”と名称を変えていた千石が主催する聖書研究会の中枢にいた会員達は、騒動の最中、忽然と姿を消してしまったのでした。　この辺りから、全国区のＴＶネタになり始めたのですが、消えた箱船の面々の行方をマスコミが突き止める事はできず、マスコミに煽られて乗せられたかのように警察は逮捕状を申請し、逮捕状が出ると全国指名手配にしてしまったのでした　・・・　が、未成年ならともかく成人が自分の意志で行動を伴にしている場合、何の犯罪が該当するのかは私にはわかりません。＊　異様に偏向したマスコミ報道と、それに煽られた世論という逆風の中で、”サンデー毎日”だけが、妙な先入観や偏見を持たずに、きちんと取材をして客観的な報道を続けたことは有名。　箱船の漂流は２年に及び、大阪～岡山～福岡と漂って、1980年に入って全員が無事に姿を現し、千石が警察に出頭して任意で取り調べを受けているのですが、警察が調べても犯罪行為が成立しなかったようで、翌年には正式に”容疑事実無し”とされ不起訴処分となっています。　逆に言えば、不起訴処分になったのなら、千石を犯罪者呼ばわりしたマスコミは大々的に謝罪キャンペーンを行ってもよさそうなものですが、口をぬぐって知らん顔をするだけで終わったと言われてもしかたがないような対応でした　・・・　当時の報道を知る世代の感想としてはですが（笑）。　というか、2-706”淫祠邪教”のハレンチ教祖とでもいったイメージを抱かされていた世間一般の人達が、”あれ？”と思ったのは、おそらく、千石イエスがＴＶの前に姿を現して気軽に関西弁で話し、会員達が”おっちゃん”と呼んでいる光景が流れたときではなかったかと思われます。　それは、一緒に漂流して行動を伴にしていた女性会員が”私たちが、おっちゃんを無理矢理に引っ張り回した　・・・”と説明するのを聞いて、”そうだろうなあ”と思わせるに足りる光景だったわけで、少なくとも、カリスマ性のある教祖様がマインドコントロールしている光景にはとても見えなかった人が多かったということになるのかもしれません。　現実には、一緒に漂流した会員達が家に帰りたくなかった理由は、それぞれ異なっていたのかもしれませんが、”あんな家には絶対に帰りたくない”という会員達を前にしたとき、千石は”ほな、大阪へでも行こか？”と気軽に応じたようで、自分の我が儘を通す事だとしても、それは自分を愛する事であり、そうした自愛が他人への愛へと繋がっていくとでもいった解釈でいいのかもしれません。　ある意味で、自分で納得できるまで我が儘と言われてもやりたいようにやって答えを見つけてみようやないか？というのが千石イエスの立ち位置だったからこそ、家族に何かしら否定されて閉塞していた会員達は、自分の思いを否定されることの無い箱船の乗員であり続けたのではありますまいか？　考えてみれば、当時でも既に”イエスの箱船”とは根本的な立ち位置が違う、それこそ金とハーレム形成が目当てのような悪質な新興宗教団体が乱立していたのですが、マスコミがそうした団体と信者の家族とのトラブルを箱船の時ほど執拗に報道したか？というと（笑）。　箱船騒動は千石が不起訴処分となった事で終息したのですが、その後、一緒に漂流した会員達と福岡の中洲に移って”シオンの娘”というクラブを経営し、客の悩み事や人生相談に応じながら自活するようになり、病気がちな千石イエスの面倒を見ながら共同生活を送る会員達の生活は、千石が亡くなった後も未亡人を主幹に聖書研究を含めて続いた事で知られています。　もちろん、千石達を犯罪者に仕立て上げたマスコミ各社は、千石達から”捏造と意図的な偏向報道による名誉毀損と社会的、経済的な損失”などで巨額の（亜米利加だと数百億円単位で）損害賠償を要求されても仕方が無い立場だと私は思うのですが、裁判沙汰にされなかったのを良いことに、何も賠償しないままで現在に至っているようです。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７００話：(2010/01/14)

  2010.01.20

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• 死のう団

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６８２輪　「死のう団」　以前、死のう団の資料をたまたま目にしたときに、”死ね死ね団じゃないんですか？”と言い出したおたっきーな後輩がいたのですが、”死のう団”というのは実在した団体だったりします。　逆に言えば、死ね死ね団というのはフィクションの産物（だと思う）なのですが、愛の戦士”レインボーマン”の敵役というか敵対団体として日本で暗躍していることになっています。　本来の設定はかなりブラックな設定で、大東亜戦争絡みの報復として日本人を殺害する事を主目的とするテロリスト集団が死ね死ね団ということになります。　ま、死ね死ね団の目的の是非論は立ち位置で変わってくるわけですが、掲げている大義名分の下で実際にやっていることは、民間人も対象とする無差別テロ以外のなにものでもなく、三分の理さえ無いと言えます。　それはともかく、死のう団ですが、別に自殺を勧誘していた団体ではなく、日蓮会殉教衆青年党に対して当時のマスコミ（というか某新聞社）が付けた呼称が”死のう団”ということになります。　早い話、彼らの間で、”死ぬほどの気持ちで信仰し会の活動を行おう！”とでもいった仲間内の合い言葉のようなものが一人歩きさせられたところがあるわけです。　といっても、最盛期でも正式の関係者は５０名を少し越える程度の規模だったようで、いささか風変わりでエキセントリックな行動をしていなければ、一時的な賛同者を入れても百人前後だったようですから、世間一般に知られることもなかったかも知れません。　彼らの活動がピークに達していた頃は、丁度、3-547”三原山”で触れた昭和８（1933）年（１月８日と２月１２日に実践女学校の生徒が三原山の火口で投身自殺した後、自殺が激増した）のことで、ある意味で時期が悪かったのかもしれません。　もっとも、時期が悪かったからこそ彼らの活動が一種の狂気を孕んでいったのかもしれませんが、昭和８年の三原山だけでも推定で９４４人が投身自殺しているのですから、時代そのものが狂気を孕んでいたのかもしれません。　日蓮会殉教衆青年党が先鋭化したのは、カリスマ的な指導者とされる江川桜堂（えがわ・おうどう：本名は忠治）によるところが大きく、１０代の頃から街頭で辻説法をやっていたそうですが、東京都蒲田村（現在の東京都大田区蒲田）の裕福な地主の次男坊というあたりで、首を傾げるところはあります。　実際、昭和３（1928）年に若干２３歳で日蓮会館を設立したときの費用を出資したのは地域の実力者でもあった江川の父親だったそうですし、江川桜堂が死んだ後の団体が消えていったあたりでも、経済基盤などにかなり問題があったのではないかという気がします。　つまり、会員から会費を集めたり、物販や寄付などで資金を稼いだりするという団体を維持存続させていく上で不可欠な”集金”の部分がどうも、江川家のポケットマネー頼りだったのではないか？という疑念があるということです。　若い桜堂にとっては、世界恐慌の余波で始まった昭和恐慌による農村や都市の疲弊というのは、”国難”のように思えたのかもしれませんし、国難といえば、3-570”立正安国論”の回で少し触れた、元の襲来を預言した日蓮のような存在が必要と考えたのかもしれません。　ちなみに、日蓮は立正安国論などで、”打ち続く天変地異と社会不安について思索した結果として、正法である「法華経」に帰することで国が安泰になる”といった説を唱えていたわけで、かなり排他的な理論展開であり、先鋭化しやすい理屈ではないかと思われます。　この辺り、”自分も日蓮に続いて世の建て直しに邁進しよう！”と桜堂が思ったのかどうかは定かでは無いのですが、日蓮宗の本山である池上本門寺に押しかけて”このクソ坊主ども！”と怒鳴り散らしたり、基督教の救世軍の集会に、団扇太鼓を叩きながら乱入して妨害したりと、その行動を見る限り、自分たち以外は邪教と考えていたようです。　ただ、彼らにとって最大の不運だった事に、昭和７（1932）年に、日蓮の影響を同じように受けていたとされる血盟団が２件の要人テロを起こしていた事があり、今風に言えば”テロ集団”の予備軍として警察にマークされていた事があります。　決定打となったのは、昭和８年に三浦半島の金沢街道（現在の国道16号）を、総勢２８名の男女が”死のう！”、”死のう！”と唱えながら海の方へ南進していたのを、マスコミに”死のう団”と勝手に名付けられて、全国規模で報道されたことで、本来ならば宗教活動の一環だけに逮捕するのも難しい事例だったりします。　しかしながら、全国区のニュース種になれば、担当するお役所が張り切ってしまうのは今も昔も同じようで、当時の警察も血盟団事件のような要人暗殺計画があったかのように逮捕してからでっち上げようとしたようで、性的な暴行を受けた女性会員から発狂者が出るような陰惨な拷問が行われたとされています。　警察の誤算は、相手が日蓮に強い影響を受けている集団である以上は、国家権力による弾圧に妥協したり屈して理念を放棄するくらいなら、死んでもかまわないから徹底抗戦を選ぶという確率が高いことを軽視していたことかもしれませんが、他の大本教の大弾圧などとも併せて考えると、国家神道の強化とリンクしていたのかも知れません。　実際問題として、警察を不法逮捕や人権蹂躙などで告訴して裁判沙汰にしているのですが、当然のように警察側からの弾圧や嫌がらせが始まり、甘言（飴）と恫喝（鞭）の攻勢に晒され、事実上、本部に軟禁されている状態が続くことになったようで、それに対して”切腹して抗議しよう！”という声が会員から上がったようです。　さすがに桜堂は止めているのですが、刃が食い込まないように狭木（はさみぎ）で工夫した刀を使って、皇居前広場などで抗議の”切腹デモンストレーション”を行うところまでは押し切られたようです。　で、実際にそのデモンストレーションは実行され、当然のように実行した５人の会員は逮捕されているのですが、その騒動から約半年後にリーダーの桜堂が結核で病死してしまい、指導者とスポンサーを同時に失った会は存続問題に直面することになります。　その後、桜堂の後を追って５人の会員が次々と自殺したこともあって中核を失った会は自然消滅したようですが、彼らの死後、日本が急速に対外戦争を拡大して世界大戦へと突き進んでいったわけですから、昭和の国難に際しては国が滅ぶのを止められなかったという解釈も可能なのかもしれません。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６８２話：(2009/12/24)

  2009.12.30

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• サンタの法則

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６７３話　「サンタの法則」　現在、多くの人がサンタクロースと言われて連想する、赤い服を着て白い髭を蓄えた老人の姿というのは１９３１年にコカコーラ社が自社製品のキャンペーンのためにでっちあげたイメージがベースになっているというのが定説だったりします。　シンボルカラーといいましょうか、コカコーラが赤でペプシコーラが青というのは比較的知られているシンボルカラーで、例えば、浜辺に赤くて細長い缶が転がっていればコカコーラを青い缶だとペプシコーラを連想する人は少なくないのではないかと。　もちろん、近寄って確認してみれば、聞いたこともないような林檎ジュースのロゴが缶に印刷してあるのが現実かもしれませんが（笑）。　ところで、何故にコカコーラ社がサンタクロースをキャンペーンのキャラクターに採用したかといえば、単純に冬場は主力商品の炭酸飲料であるコカコーラなどの売り上げが低迷していたためで、クリスマスパーティなどで、ぜひコーラを飲んでね～という程度のキャンペーンだったのではないかと思われます。　では、１９３１年以前のオリジナルのサンタクロースがどのような格好をして何色の服を着ていたのか？といいますと、これが諸説あるようで、赤色の服を着ている図版もあれば、緑色や青色、白色で描かれた図版もあり、ま、なんでもありだったようです。　というのも、１９３０年代といえばまだ映画も写真も白黒が主流だった時代ということもあって、雑誌や書籍などのイラストもカラー印刷されることは極めて稀な時代だったため、当時、何色がサンタの被服の色として主流だったのかは今となっては定かではないわけです。　これは逆に、カラー画像を白黒化してみればわかるのですが、特に赤色は黒色と大差が無い色調となりますし、青色や濃い緑色もそれとわかるかといわれれば無理な事が多いようです。　ただ、サンタクロースの大元のモデルが、四世紀の小アジアのミュラの司教聖ニコラウスで、彼の名がオランダ語で Sint Klaes　なのですが、米国で訛ってサンタクロースになったとされているあたりから考えると、宗教関係者の聖職者としての被服というのはだいたい白か黒で、稀に灰色という事が多いですから、サンタの服の色も本来は白か黒だったのではないかと思われます。　また、同じ材質でも、黒い色の物は白い色の物より熱を集めやすい事は経験的に知られていたでしょうし、冬場に白色の服を着るのはカモフラージュ目的の兵隊くらいのものでしょうから、クリスマス界隈にウロウロして雪中遭難の危険もあるサンタの服は黒っぽい色だったのではないかと私は思います。　このあたり、被服の染色技術ということから考えると、鮮やかな赤色に染める事は化学合成された染料が登場するまではかなり難しかったようですし、天然染料の場合は水洗いしたり直射日光に当てたりすると色落ちしやすいようですし、刺繍などが施される事も多かったためか、洗濯せずに延々と着続けて着潰す事が多かったようで、匂いを誤魔化すためにも香を焚いたようです。　逆に、日本の僧侶の被服にも墨染めの衣という言葉があるのですが、黒色の染色は比較的安価に簡単に行えて、色落ちの心配もそれほど無かったこともあってか、作業着などに多用された藍染め程ではないにしても割と庶民にとってもポピュラーな染色だったようですし、宗教関係を含めて礼服の色として用いられる事があるのはこれまた洋の東西を問わず共通している地域が多いようです。　ちなみに、本来のニコラウスの祝日は12月６日なのですが、その前夜に贈物交換の習慣があり、その風習がニューアムステルダム（現在のニューヨーク）に移住したオランダ系清教徒によって米国に伝えられて伝播したようで、サンタクロースとプレゼントの風習はその段階で本格的に既存のクリスマスの習慣とリンクして一般化していったとされています。　もっとも、冷静に考えると、寒い冬の夜に大きな袋を担いでウロウロしている老人を見かければ、かなりの確率で”不審者”か”犯罪者”と思う人の方が圧倒的に多いのは別に現代人だけの価値観では無かったでしょうから、捕まらないように高速移動させる必要性や、広い亜米利加大陸を一夜で移動するためにもソリを利用させる必要性を感じたのかもしれません（笑）。　その意味でも、白ひげ、赤服、赤ずきん、長靴の老人が、ソリに乗ってプレゼントを配って回るというサンタクロースのスタイルは亜米利加発の現象ということでしょうし、前述したようにサンタクロースがクリスマスプレゼントを”良い子に”配って回るという話も比較的新しい　・・・　小売店やデパートなどがクリスマスセールをするようになってからの風習になるようです。　というか、そもそものクリスマスが、キリスト降誕祭（Christmas）のミサとすれば、そこにサンタが介在する必然性も、プレゼントを誰かから貰ういわれもないわけです　・・・　クリスチャンがそれほど多くない日本ではどうでもいいといえばいいことではありますが（笑）。　ところで、なぜにクリスマスがＣではなくＸなのかといえば、キリスト（＝クリストス）のギリシア語の頭文字がＸだからというのが定説なのですが、なぜにクリスマスだけギリシャ語が優先されたのかは定かではありません。　考えてみれば、クリスマスの呼称そのものが、仏語ではノエル、伊太利亜語でナターレ、独逸語でワイナハテンですから、別にギリシャ語起源でなくてもいいわけで、まだラテン語起源の方が理解しやすいような気がしないでもありません。　面白いのが、クリスマスの風習そのものも四世紀中旬以降の習慣とされていて、ゲルマンの冬至祭ユール、ローマのサトゥルヌス祭、などが”復活”というキーワードで次第に習合されていったようで、キリストの誕生日を祝うだけでなく、冬の終わりと春の到来（太陽の復活）を祝う祭りとキリスト教の行事が結びついていったと解釈した方がよさそうです。　まあ、それが嘘でも、懲りずに何度も繰り返せば本当になっていくという説があるのですが、コカコーラは３３年間もサンタキャンペーンを繰り返し、結果的に”サンタクロースという赤い服を着た白い髭の爺さんがトナカイに引かせたソリに乗ってクリスマスの頃にプレゼントを配って回る”というイメージを定着させることに成功したと言えます。　そして、コカコーラとハンバーガーを世界標準食にすることを天からの使命と考えているのではないかと思われる亜米利加人にとって、海外でもコーラの販売拡大のクリスマス布教に勤しんだであろうことは疑いの余地がないのではないかと　・・・　まあ、アルコールを飲まないで済むのはありがたいという人もいたでしょうが（笑）。　なお、黒いサンタクロースという都市伝説もあって、これは姿形は赤い服を着た従来のサンタクロースとまったく一緒で、服と帽子の色だけが黒色のサンタがいて同じようにプレゼントを配っているという話なのですが、このサンタは贈り物を配るだけではなく、悪い子供は担いでいる袋に入れてさらっていくといった話もあるようです。　或いは、赤いサンタクロースと敵対関係（宗教的な対立説もある）にあって、赤サンタと黒サンタが稀に遭遇すると血で血を洗う抗争が始まるため、返り血が目立たない黒色を着ているとか、本来は白色の被服だったのが返り血で黒く染まったとかいった物騒な設定の話もあるようです。　この手の都市伝説は増えることはあっても減ることはないでしょうが、考えてみれば、もともとが亜米利加商業主義が赤いサンタクロースを一般化させたということは、赤サンタは商業ベースの都市伝説ということですから、それを誰が何色に塗り替えたところで何の問題も無いような気が私はしています。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６７３話；(2009/12/14)

  2009.12.19

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• 中陰の間

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６６９話　「中陰の間」　2009年の12月の初めに、叔父の通夜と告別式に行って骨を拾って帰ったのですが、奇妙なモノで生前の親しさと通夜で泊まり込んだり骨を拾うかどうかは別の話になるようです。　覚えている範囲で最初に骨を拾ったのは小学校に入る前の５歳の頃の事だったのですが、それ以降、普通の人よりはかなり多く骨を拾ってきています。　結果的に、”人は死ぬとモノになる”という身も蓋もない考え方をするようになったのですが、葬儀というのは生きている人が死んだことを納得するための儀式のような気もしています。　もちろん、身も蓋もない事を書けば、死んで腐敗していく遺体をそのまま放置しておけば異臭が漂い見苦しくなっていきますし、病原菌などの巣にもなってしまうため適切な処理が必要という現実もあります。　既に少子高齢化が進行している日本では孤独死をする人が増加していて、異臭がして発見されればまだ良い方で、死後数年経って白骨化してもなお発見されなかった話も増加しています。　以前だと、そうした孤独死して遺体が白骨化していたという話は都会の集合住宅に多かったのですが、最近は田舎も過疎化が進んで来ていますから都会だけの話でもなくなってきているようです。　それはさておき、日本の仏教の考えでは、死後に天国へ行くか地獄へ行くかの判定を受けるため、死者は７日に１度の頻度で７回の裁判を受けるとされ、それ故に”死後４９日目の法要”が必要とされています。　４９日の法要の間も、あれこれと細かな作法を伴う供養を行う宗派が多いのですが、これはテストでいえば”下駄を履かせる”ようなもので、これほど生き残っている人に慕われた人ですと裁判の心証を良くする　・・・　良くできると考えたようです。　まあ、そういった事を考えついたのは大元の印度人や思考がシンプルな日本人ではなく、神様さえ買収可能と考える中国人だと邪推していますが、その程度のことで成仏できるならと思った遺族は多いのかもしれません。　ちなみに、裁判を定期的に受けている４９日の間、死者は一箇所にじ～っとしているのではなく、中陰の世界と呼ばれるどこでもない場所を延々と歩いているとも考えられていて、その旅路のために白装束の旅姿で送り出す宗派が多いようです。　一説には、薄暗くて険しい山道を八百里ほど旅することになっているのですが、それ故に、杖を必需品として棺に入れる事が多いようです。　比較的知られている三途の川は、４９日目に到達するという説が主流ですが、仮死状態から蘇った人の話などから考察する限り、意外と近いところに流れているような、渡るかどうかで生死が分かれると考えた方が良さそうです。　そのあたりの疑問はともかくとして、三途の川を渡る時には、生前の行いによって概ね３つの方法に分かれるとされていて、善行を積んでいる人は橋を渡ったり、渡し船で渡る事ができるとされています。　この三途の川の渡し賃が、なぜか昔から六文とされ、六文の銭が無ければ舟賃として身ぐるみ剥がされるという話や、六文銭を旗印にした真田家など、戦国の武士達の中には戦場に出るときに甲冑や肌着に六文銭を縫いつけていたといった話は以前にしたことがあります。＊　諸説あるのですが、舟の渡し賃が前払いというのは共通しているようで、ということは、渡し賃の六文さえも準備できなかった貧乏人は”生前貧乏であったことが罪”と考えた人がいたということなのかなと。　もっとも、罪状が重い人はそもそも舟に乗る事が許されず、比較的罪が軽ければ三途の川の浅瀬を、罪が深いほど流れが速い深水を渡るとされているようです　・・・　幼子心に金儲けの才能も無さそうだし泳ぎの鍛錬をしておこうと思った由縁ではありますが（笑）。　当然、こうした考えは日本の仏教が主張しているものであって、神道や基督教、イスラム教などはまた別の考え方をしているのですが、意外とエジプトの死者の書などと共通しているところもありますから、根底のところで共通している何かがあるのかもしれません。　で、４９日目に”辿り着いたら”どうなるんですか？と聞かれて、四十九日の話をしたことがあるのですが、一族があの世で暮らしている家に辿り着いて旅装を解き、あの世の一族が出迎えて宴会を開いて出迎えているようです。　その時、生前の行いを省みて、素直にがんばれるだけがんばってここに来れたと思えればそこは極楽でしょうし、合わせる顔が無い身の置き場がないようなら地獄ではないかという気がしないでもありません。　そもそも、地獄と極楽は同じ場所というのが私の結論で、己の心がそこを地獄にも極楽にもしてしまうが故に、胸を張って死んでいけるかどうかが分かれ目になるのではないかと思っていますし、早晩、人の魂が転生しているとすれば、あの世もまた一炊の夢のようなものではないかと。　全般にあの世は薄暗い事が多いのですが、偶に、煌々と明るくなっているときがありますから、やはり心の状態が事象に反映しているのかもしれません。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６６９話：（2009/12/09）

  2009.12.15

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• 忍野八海

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６３３話　「忍野八海」　忍野八海（おしのはっかい）は、忍野村の８つの泉を海に見立てた名称のようで、それぞれの泉に竜王を祀って八大竜王を守護神としているのですが、地下では一つに繋がっているという説もあります。＊　江戸時代くらいまでは、淡水の湖でも、向こう岸が見えないくらいの規模だと、海と称するのは珍しい表現ではなかったりします。　忍野八海に湧き出ている水は、富士山の伏流水と考えられているのですが、湧き出している水は富士山に降った雨や雪が８０年ほどかけて濾過されながら湧き出してきているとされ、水質、水量、景観の良さなどから国の天然記念物に指定され、全国銘水百選にも選ばれています　・・・　・・・　が、観光地として成熟した地域であるためか周辺の都市化が進行したためかは不明ですが、平成１３年頃から水の汚染が指摘されるようになり、水質検査をすると大腸菌群が検出されたり、微量ながら（ドライクリーニングや金属洗浄などに用いられる）テトラクロロエチレンが検出されているそうです。　ちなみに、８つの泉というのは、菖蒲池、鏡池、濁池、湧池、銚子池、お釜池、底抜池、出口池ですが、出口池だけが少し離れた場所にあるのですが、なぜに八泉でなく八海と呼ばれているかといえば、富士講の”八海めぐり”が由来になるそうです。　忍野八海の中で、その名の由来が今ひとつわからない銚子湖に関しては、名前の由来に、酒を杯に注ぐ長柄銚子の形に似ているという説と、結婚式の席でオナラをしてしまった若嫁が、それを恥じて銚子を抱いて泉に身を投げた為という２つの説があり、だいたい、前者の方を支持する人が多いようです。　念のために書いておくと、本来の長柄銚子は、未だに、神前結婚式、屠蘇(とそ)器などに使用されているのを目にする事がありますが、現在では燗(かん)徳利も銚子と呼ぶようになっているため、”銚子”で燗徳利の方を連想するかもしれませんが違います（笑）。　また、池の底がお釜状になっているお釜池は底抜池とセットにもなっていて、底抜池で鍋や食器、野菜などを洗っていてうっかり落として見つからなかったときに、しばらくしてお釜池に浮かんできて見つかったことがあったという話があるのですが、諸国の七不思議の中などにＡ池に中身の入ったお櫃を沈めると、しばらくして、離れた場所のＢ池に空のお櫃が浮かぶといった類似の話があるのは御存知の通り。　なお、一つだけ離れたところにある出口池は、その昔は忍野村の集落の出口が近かったことからその名前が付いたとされているのですが、一つだけ離れたところにあるだけに、今となっては観光客がパスしやすい池としても知られています。　歴史的には、延暦19～20（800～802）年にかけての富士山の噴火で流れ出した溶岩が宇津湖に流れ込んで、山中湖と忍野湖の２つの湖に分かれ、その後、紆余曲折の末、忍野湖は枯れて干上がり盆地となり、そこに忍野村が形成されていったとされています。　したがって、忍野八海は、本来は富士五湖と同時期に形成された、かっての忍野湖の湧水の名残とでもいった存在になると考えていいようですが、水系としては相模川水系に区分されています。　なお、前述した冨士講の”八海めぐり”というのは、そもそもの富士講は、江戸時代に何人かが集まって講を結成して金を出し合い、それを旅費にして富士山登山を順番に行っていく仕組みなのですが、その富士山登山の際に単純に富士山に登るだけでなく、”八海めぐり”と称して富士周辺の霊地を巡ることが行われていて、一種の水垢離とされていたようです　・・・　まあ、実態は滅多に遠方への旅に出ることがなかった江戸時代の人にとって名所を巡る物見遊山の旅だったとは思いますが（笑）。　ちなみに、”八海”と呼ばれる湖や池は、一応、富士山周辺の「元（小）八海（忍野八海）」や「内八海」と、関東～近畿地方に広がる「外八海」とがあり、恐らくは各自の予算に応じて訪れていたのではないかと考えられます。　 内八海は、 ・泉水湖（せんづのうみ）・富士吉田市 ・山中湖 ・明見湖（あすみのうみ）・富士吉田市 ・河口湖 ・西(さい)湖 ・精進(しょうじ)湖 ・本栖(もとす)湖 ・志比礼湖（しびれのうみ）・市川三郷町 が定番だったようですが、昔は八海の一つだった須戸湖（沼津市・富士市）が江戸時代から埋め立てやらなにやらで陸になっていった関係で、泉水湖に替わったそうです。　また、富士五湖（山中湖、河口湖、西湖、精進湖，本栖湖）が含まれていることからわかるように、忍野八海ほどのコンパクトさではないものの、ある程度まとめて訪れる事ができる点で外八海よりはコンパクトに選択されていると言えます。　逆に言えば、外八海というのは、とんでもない広域になるのですが、・二見海（二見浦）・三重県 ・竹生島（琵琶湖）・滋賀県 ・諏訪湖・長野県 ・榛名湖・群馬県 ・日光湖（中禅寺湖）・栃木県 ・佐倉湖（桜ヶ池）・静岡県 ・鹿島湖（霞ヶ浦）・茨城県 ・箱根湖（芦ノ湖）・神奈川県 が選ばれていまして、こうなると、もはや富士山信仰に基づく富士登山がどうしたこうしたというよりも、それを言い訳にした物見遊山の旅以外の何物でも無い気がしてくるのは私だけでしょうか（笑）。　江戸時代の富士講と匹敵するのは、伊勢神宮へ参拝するための伊勢講くらいのものですが、伊勢講が全国規模だったのに対して、冨士講は富士山を御神体とし木花開耶(このはなのさくや)姫を祀る浅間(せんげん)信仰と結びついたこともあってか、江戸八百八講と称するほど江戸の街で発展したのですが、江戸時代は長距離の旅には旅費は当然として手形が必要で、”入り鉄砲に出女”に代表されるように何かと制約が多かった事から、富士登山がかなわない高齢者や女性、子供などの為に、深川や駒込などにミニチュアの富士山を造り、そこに登ってとりあえず満足するという光景もあったようです。＊　実際に富士山の土や溶岩を運んで造られたミニチュアの富士山もあったそうです。　まあ、富士山信仰という観点から考えると、富士山の山頂を土足で踏む事が果たして信心として許されるのかどうか私には疑問なのですが、私が何を疑問に思ったところで、未だに死ぬまでに一度は富士山に登ってみたいという日本人は珍しく無かったりします（笑）。　日本の竜神信仰の場合、河川や湖沼、泉など水と不可分なところがあるのですが、溶岩などを水の一種と見なしたのか、噴火する火山もまた竜神の一つの姿と解釈する事があるようです。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第６３３話：(2009/10/28)

  2009.11.03

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• 聖釘

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第５９５話　「聖　釘」　聖釘というのは、キリストがゴルゴダの丘で十字架に架けられたときにその両の掌と両足の甲を縫い止めた釘のことなのですが、当時の処刑方法から考えると、最低で３本使われていたと考えられます。　しかしながら、なぜか２１世紀の地球上には聖釘とされるモノが３０本以上存在するそうですし、中にはロンバルディアの鉄の王冠のように、聖釘を素材にして造られたとされる王冠が存在する事が知られています。　ちなみに、キリストの処刑に用いられた槍が聖槍（いわゆるロンギヌスの槍）と呼ばれ、”その槍を持つ者は世界を手に入れる事ができる（パワーを秘めている）”という伝承とともに知られているという話は以前に何度か書いたのですが、聖槍も複数本存在する事が知られています。　一番メジャーな聖槍とされているものは、オーストリアのウイーンにあるホーフブルク宮殿に展示されているものではないかと思われますが、アルメニアのエチミアジン大聖堂に展示されている聖槍も知られている方ではないかと。　ただし、独逸がオーストリアを併合したときに、ハプスブルグ家が所蔵していた聖槍をヒトラーが強奪し、ベルリンが陥落する直前にヒトラーと一緒に南米の某国へ渡ったという話も比較的ファンが多い話だったりします。　この話には続きがあって、南米の某国からさらに南極に建設されていたナチスの秘密基地へと渡り、南極大陸の何処かで秘匿されているという話と、南極のナチスの秘密基地を１９５０年代に米軍が急襲したときに押収してスミソニアン博物館の地下倉庫に移送されたという２つの話に分かれているようです。　南極に関しては、その分厚い氷の下に幾つかの大陸規模の島が存在する事が知られていて、石油や天然瓦斯、あるいは各種のレアメタルを含む鉱石の類が手つかずで埋もれている事も知られている関係で、いずれの国も”自国の領土である”と主張したがり、中には南極に建設した観測基地で子供を出産させて南極が自国の領土である根拠の一つとした国も実在します。　もっとも、最低限度の取り決めとして南極の平和利用などを定めた南極条約（1959）が南極を自国の領土と主張している（あるいは、したがっている）国々の間で批准されている事と、南極がやたらと寒い事などから今のところ深刻な軍事衝突は発生していないとされています。　そのあたりから邪推すると、米軍がヒトラーが運び込んだロンギヌスの槍を回収したか、当時の人類の技術では回収が不可能な地点に存在することを確認したのが１９５８～９年頃だったのではないかという気がするのですが、地球温暖化が進行している現在、仮に当時は回収不可能と判断された地点が回収可能な地点になったとしたらどうなるかは興味深いところです　・・・　ヒトラーともどもロンギヌスの槍がベルリンから逃げ延びていて米軍が回収していなればですが（笑）。　キリスト関係の遺物で、聖が付くものには、トリノの聖骸布に代表される、処刑後のキリストの遺体を包んだとされる布も知られていて、こちらも複数存在する事が知られているのですが、金属などと違って布は劣化しやすく裁断もされやすいことから、人の遺体を包むことができるサイズで丸々一枚の布が残っていると、かえって信憑性が低いと考えられているようです。　聖釘、聖槍、聖骸布といったものを聖遺物と総称することもあるのですが、その中で一番正体が不明なのが、以前に触れたことがある聖杯で、そもそも、木製だったのか金属製だったのか、あるいは陶器だったのかという基本的なところさえ実ははっきりしていないようです。　というか、最後の晩餐でキリストが最後に葡萄酒を飲んだコップが聖杯であるという説と、処刑されたキリストから流れ出した血を受けて、キリストの血液で満たされた杯が聖杯であるという説があり、後者の場合、杯ではなく小さなバケツというか手桶のようなものだったとう説もあるようです。　ただ、聖杯が（燃えやすく割れることもある）木製の場合、はたして原形のままで２１世紀まで伝えられているかどうかは微妙な話ですが、そうした常識では図りきれない現象が発生するからこそ聖遺物ということになるのかもしれません。　私的には、一つの可能性として、聖遺物とされていたものが小分けにされて”お守り”に姿を変えた可能性というのは意外と高いのではないかと考えているのですが、もちろん、可能性に過ぎず、どこかにその直後の姿で聖なる遺物たちは眠っているのかもしれません。　話を聖釘に戻すと、聖釘と聖槍に関しては、熱烈な基督教信者に発生する”聖痕現象”とリンクして考えるとき、”う～ん”と考え込んでしまうことになったりします。　聖痕現象に関しても以前に触れた事があるのですが、磔にされたキリストと同じように、掌や足の甲などに、かなりの量の出血を伴う裂傷が唐突に発生する現象で、基督教関連の記録に残っている範囲では１３世紀頃には既に確認されていたようです。　聖痕に関しては、強烈な自己催眠や自己暗示が肉体に影響を及ぼしたのではないかという説に人気があるのですが、確かに、聖痕が自分の体に生じたという人は熱烈な信者に限られ、例えば、キリストという名前くらいは知っているという程度の異教徒の手足に同様の現象が発生した事例は今のところ知られていません。　もちろん、聖痕が体に現れた信者というのは、ある意味で”選ばれた人”なわけですから、信者の中でも一目置かれる存在に昔からなったようですが、それ故に、自分で傷を付けて偽造する人も後を絶たないようです。　ところで、刃物の類を使った殺傷事件で、被害者の傷跡から使われた刃物の形状などがある程度推測できる事は比較的知られた話で、釘や錐、アイスピックなどの先が鋭利で細長い形状のもの残す傷跡と、鋭利な剃刀やカッターナイフなどが残す傷跡が明らかに違ったりするわけです。　となると、聖痕現象で生じた傷の形状が、実際にキリストの体に生じた傷と同じだというのならば、出現した聖痕のサイズや形状が一致していなければ思い込みに過ぎないということになるわけですし、一致していれば、聖痕の形状などからキリストの処刑に使われた釘がどのような形状だったのかも推測できることになる　・・・　ハズです。　というか、あっさり書いてしまえば、聖痕の多くは統一性が無く、形状なども一致しない事が多いというか一致している実例というのに今のところ遭遇していませんから、何か時空を越えた奇跡のパワーで聖痕が出現する可能性はやはり低いのかもしれません。　思い込みということでは、絵画などでは比較的痩せたというかスリムな姿で描かれている事が多いキリストですが、写真もビデオも無い時代だった上に、キリストの（写実的な）肖像がの類が描かれたり彫像が彫られたりするようになったのは彼の死後、ずいぶんと経ってからのことですから、本当のキリストの顔立ちや肌の色が、私たちが知っている宗教画などに描かれているキリストと同じだったかどうかは定かではなかったりします。　つまり、聖書などに、キリストの身長、体重や、瞳や肌の色、髪の毛や髭の有無と色といったパーソナルデータはほとんど記載されていませんから、白人男性として描かれている事が多いキリストが実は阿弗利加系や印度系の血も流れている混血とか、生粋の有色人種だった可能性も否定しきれないのではないかと　・・・　新約聖書の冒頭に血筋に関してはあれこれ記載されている事が多いのは御存知だと思いますが、キリストの頃のユダヤ民族と現在の（中略）といういささかややこしい話になるわけです。　そのあたりに関しては、長くなって参りましたし、意外と深刻で扱いが難しい宗教問題に絡みかねませんから、また機会が有れば考察することもあるかもしれませんし、無いかもしれません。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第５９５話：(2009/09/14)

  2009.09.19

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• 絵　馬

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第５５７話　「絵　馬」　神社などで願を掛けるときに”絵馬（えま）”を使う事があるのですが、そもそも、”絵馬”とは何なのか？　実のところ、絵馬の起源を辿っていくと、神への供物がルーツになるようで、現在の神道でも神様にお願い事をするとき（例えば祝詞をあげるようなときでも）祭壇を築いて海の幸や山の幸を供しているように、古代の日本でも神様へお願い事をするときにはそれなりの対価を供していたということです。　実際、”日本書紀”には、皇極天皇元（６４２）年に、”牛馬を生贄にした”とする記述がありますし、６～７世紀頃の遺跡から祭事に用いられたと考えられる牛の頭骨だけが出土する事例が知られています。　では、当時の貴重な財産であったと考えられる牛馬を生け贄にしてまで何を神様に祈ったのか？ということになると、牛馬は農耕にとって重要な労働力だったと考えられますから、彼らを犠牲にしてもお釣りが来るだけの見返りが有ると考えられる事でないと辻褄が合わなくなります。　また、６世紀以降の遺跡から牛の頭蓋骨が発見されるということは、時期的に考えて、大陸から仏教や道教（仙道）が渡来した頃の話になりますから、仏教が牛を生け贄に要求するとも思えませんから、道教の儀式に由来していると考えるのが筋ではないかと思われます。　このあたり、道教というよりも、大陸の河伯信仰の影響ではないかという説もあるのですが、いずれにしても、牛馬を生け贄に捧げて雨乞いをしたのではないかと考えた人が多いようです。　ちなみに、日本で河伯（かはく、かわはく：Hebo）は河童の別称とする地域があるのですが、本来は中国神話に登場する黄河の神様で、人頭魚体であるとも、人の姿や白龍の姿に変化するとも考えられていたようですが、元々は人間の男性（ヒョウイ）だったものが、黄河で溺れ死んだ後、天帝から黄河の河伯に任じられたとか、仙丹を飲んで仙人になったとかいった来歴になっている話が多いようです。　世界規模で考えると、人頭魚体の神様といえば、人類に最初に文明をもたらした神とする地域もあるわけで、なかなかに意味深な符合ではないかと思われます。　ただし、黄河の河伯に関しては、生け贄に若い娘を要求し、生け贄が途絶えると洪水を起こすとされていて、神様なのか妖怪なのか微妙～な存在になっていくのですが、西遊記に登場する沙悟浄も河伯とされていて首に殺した人間の髑髏を数珠状にしてかけていますから、河伯は人を殺すことに抵抗が無い存在と考えられていたのかもしれません。　いずれにしても、大陸から雨乞い儀礼の一環として、道教の呪術が大和朝廷に伝来したときには、川神（河泊）信仰と習合した形だったようで、さすがに人を生け贄にするわけにはいかなかったから牛馬を捧げるようになっていたと考えておけばいいのかもしれません。　あるいは、奈良時代に成立した”続日本紀”には、神様用の馬として神馬（しんめ、じんめ）を奉納する習慣が存在したことが記述されていますから、大陸では牛でも馬でもよかった雨乞いの生け贄が、日本の場合は主に牛が生け贄とされたのかも知れません。　いずれにしても、神様への供物として牛や馬も対象となっていた時代があったということですが、雨乞いの儀式に関しては、歴史的に見ると次第に弘法大師に代表される密教僧へと主役が交代していきますから、供物としての牛馬の生け贄というのは比較的日本では歴史が短かったようです。　したがって、絵馬の直接の起源は、神様への（乗）馬の奉納の方が残ったと考えられるのですが、その場合でも、”馬を奉納して何を見返りに求めたのか？”という疑問は残りますし、その動機をとりあえずは雨乞い（あるいは、五穀豊穣）としておいても問題は無いのかもしれません。　それはさておき、馬を神様に奉納するとは言っても、そうそう高価な馬を庶民が奉納できるわけもなかったようですし、それを受け入れる寺社の側でも、１～２頭程度ならともかく、奉納された馬が数十頭を越えてくれば、飼料代を含めてその世話をどうするのか？という事が問題になっていったであろうことは想像に難くありません。　そういった現実的な問題の解決策として、生きた馬を奉納できない貧乏人は次第に木や土、あるいは紙などで作った馬を奉納することでこれに代えるようになっていったようで、それに板に描いた馬の絵が加わるようになったのは平安時代の頃の話になるようです。　もちろん、馬といえば戦国時代の頃までは戦争の重要な兵器でしたから、武家の勃興に比例するように、武芸の上達を祈願したり、戦の勝利を祈願する目的で絵馬を奉納することも珍しく無くなっていったようです。　室町時代に入ると、絵馬といいながらも、祈願札の側面が強くなっていったようで、願い事を神様に絵馬に描かれた馬が届けてくれると考えたのか、祈願文が具体的になっていったようです。　また、神様へ願い事を届けるという発想からか、馬ではなく、稲荷神社の場合は、馬の代わりに眷属である狐が描かれることもこの頃から始まったようで、次第に絵馬とはそもそも何だったのか？ということがこの辺りからどうでもよくなっていったようです。　実際、さらに時代が下って室町時代の末か安土桃山時代の始めくらいになると、馬の絵の代わりに、祈願文のみ（夫の浮気防止に”心”の文字だけとか）を書いて絵馬として奉納する人も珍しく無くなっていったようで、簡略化といえば簡略化、現世利益をよりストレートに追求する気風へと代わっていったのかもしれません。　意外だったのが、学問の神として知られる菅原道真を天神様として祀っている天満宮に受験生が合格祈願の絵馬を奉納することが盛んになったのは昭和も戦後になってからの風習ということでしょうか？　もっとも、江戸時代の寺子屋でも天神様を信仰する事が多かったようですし、武芸の上達を願って絵馬を奉納したように、学業成就などを願って絵馬を寺社に奉納する事は江戸時代には始まっていたようですが、昭和も戦前くらいまでは、そもそもの高等教育を受ける人の数が限られていましたから、戦後と比較するのは無理があるかもしれません。　あれこれ考えていくと、受験戦争が盛んになるのに比例して（おそらくは大手予備校などが煽動して）絵馬を合格祈願に奉納する事が個人レベルで一般化し、実際に絵馬を奉納した経験のある人が増加すると、それに伴って”絵馬＝願掛け”という概念が一般化していったのではないか？という仮説が成立します。　それ故に、本来は神様に願を掛けて成就した場合はお礼参りをするのが普通なのに、苦しいときの神頼みの典型である受験祈願の絵馬の奉納の増加は、事が成就した後にお礼参りに行く必要があることを知らない人の増加に繋がったのではあるまいか？　まあ、本来は、生きた馬を奉納するという金も手間もかかる行為を板きれ１枚で代行しておいて、お礼にも行かないで平気という人達が神様を本気で信じているかどうかは微妙～な話になるのかもしれませんが（笑）。　或いは、何を勘違いしたのか呪詛に使っているケースもあるようで、会社の上司や同僚の不幸事を願ったり、恋愛のライバルの不幸事を願った祈願文を書き連ねた絵馬も少なからず奉納されているそうです。　ただ、悩める２１世紀の日本において絵馬に記載される願い事は恋愛関連にしても従来のような男女間のトラブル絡みだけではなく、男男間とか女女間、男男男間とか女男男間や女男女間とかいったぐちゃぐちゃな色恋模様がそこにはあるようです。　ま、”（泉）コナタは俺の嫁じゃ～”と書いた絵馬を奉納する人が複数実在する時代に、神頼みの正統性を考察する方が悪いのかも知れないという気もしてはいるのですが　・・・。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第５５７話：(2009/07/31)

  2009.08.06

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• 封印地蔵

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第５２３話　「封印地蔵」　日本における地蔵尊への信仰というのは一種独特のもので、例えば、賽の河原で幼子を救っているといった話は根拠となる仏典が存在しないことが知られています。　つまり、日本の土着の宗教と仏教の地蔵に関する話が混じっていく内に、いつの間にか、賽の河原で亡者を救うことも地蔵の活動の一つになっていったということです。　基本的に、釈迦の死後（お釈迦様の場合、死亡ではなく”入滅”と呼ぶのですが）、弥勒菩薩が出現して衆生を救済するまでの間、現世にとどまって生者を救い、冥府に分け入って死者を救済する事を己に課したとされています。　ただし、弥勒がこの世に生まれてくる（”下生（げしょう）”という）のは、釈迦の入滅後５６億７千万年後の事というのが定説ですから、”そんな先のこと知ったことか～”となりそうな設定ではあります。　それはともかく、現世における仏の名代とでもいった役割を地蔵が担ったという地蔵信仰は、中国だと唐代から、日本でも平安時代から盛んになっていくのですが、名もない仏教の僧侶が市井の人々を救済して廻る姿に地蔵の姿を重ねる人も多かったようで、仏僧の姿をした地蔵が主流となっていくのにそれほど時間はかからなかったようです。　つまり、右手に錫杖(しゃくじょう)、左手に宝珠を持つのが地蔵の基本的な姿となったということで、やがて、笠をかぶった姿など、より現実に市井を巡って救いの手を差し伸べている僧侶の姿に近い地蔵も表れてきます。　また、あの世の亡者の救済も管轄していることから、六道(ろくどう)を守護する”六地蔵”の信仰も盛んになり、それはやがて、道祖神信仰や庚申信仰などと習合というかごっちゃになっていくことになったようで地蔵が兼務する仕事は増加していきます。　その結果、時代が下がるほど仏教とは無縁な民間信仰との習合も進み、観音信仰と地蔵尊信仰は庶民にとって宗派を越えた定番の信仰となっていくことになります。　観音信仰との違いとなっているのが、地蔵の活動には死者の救済が含まれていることで、延命地蔵や子安地蔵といった寿命や人の生き死ににかかわる専門の地蔵に分派して目的別に信仰されるようになってもいきます。　地蔵信仰で規模の大きな祀りは残っている事が多いのですが、京都で六地蔵を巡礼する六地蔵巡りは地蔵盆とも呼ばれ、８月23～24日に行われています。　話をややこしくしておくと、そもそもの地蔵盆は、旧暦７月24日の地蔵の縁日の行事のことで、盆祭の終りの日であったことから地蔵盆と呼ばれるようになり、この日は、幼い子どもたちに線香や香花などをお地蔵様へたむけさせるのが年長者の役割だったわけです。　このあたり、昔は乳幼児の死亡率が高かったこともあって、生きている子供が知らないだけで、（密かに）亡くなっている兄弟姉妹がいる家庭というのが多かったことなどから、おおっぴらに弔うことができないでいる親族の救済を地蔵に託して祈ることもあったのかもしれません。　ところで、亡者の救済を地蔵が行っているという信仰は、逆に言えば、改心できないでいる地獄の亡者をお地蔵様が封じているという信仰も産むことになり、怪異が生じている場所に石の地蔵を置くことで悪霊の類を封じる行為が未だに行われていたりします。　この手の怪異封じるための石の地蔵の話で比較的有名なのは、某鉄道の特定の路線の特定の区間への飛び込み自殺が頻発したときに、その飛び込みが集中した場所の近くに、いわゆる”飛び込み地蔵”を建立して供養した話があるのですが、偶然かどうかはともかく、地蔵が建立されてから飛び込み自殺の頻度は目に見えて減少したそうです。　しかしながら、飛び込み自殺の頻度が減少してしばらくしてしまうと、地蔵が何を封じていたのかを深く考えない利口な阿呆が話をややこしくすることになりがちだったりします。　つまり、”あの地蔵を○ｍ程動かすか、完全に撤去してしまえば土地が有効活用できて、これこれこうしたメリットがある！迷信に怯えていてはいけない！”とか主張して、経済合理性では説明がつかない”何か”を封じていた地蔵などを動かしてしまい、結果的に、怪異がぶりかえしてしまったりするわけです。　実際、飛び込み地蔵を動かした直後から、再び飛び込み自殺が頻発するようになっているのですが、そこで地蔵を動かしたのが原因だと認めてしまうと自分の面子が潰れて立場が無くなってしまうといった個人的な理由で、言い出しっぺがその職に就いている間は特に何も手を打たない（手が出せない）でいる事が多いようです。　もっとも、その言い出しっぺが職場を移動したり退職してしまったとしても、地蔵を元の場所に戻せない状況になっている場合もあるわけで、”○線には自殺者が多く遅延しやすい”という不名誉な話が広がり続けたりするわけです。　神道の方でも似たような話はあるようで、神社の参道を横切るように鉄道を通した話の場合、参道の鳥居の真ん前くらいに踏切を設置して”これで参拝はできるから良し”としたようですが、結果的に、その周辺では飛び込み自殺を含めて鉄道事故が頻発し続けている事で有名だったりします。　話を地蔵に戻すと、六地蔵の信仰もあって、六体の地蔵などを設置して”何か”を封じている事があるのですが、その”何か”は無縁仏であったり、無念の事故死を遂げた人であったり、過去に処刑された人であったりと、なにかとワケ有りの死に方をしているようです。　このあたり、怪異の原因に心当たりのある人が多いほど設置する地蔵の数が多くなっていく傾向もあるのですが、地蔵を設置したことで怪異が終息して数十年も経過すると、当時のことを知る人も次第に少なくなり、寂れたり荒れたりしていくことも珍しくなかったりします。　かくして、肝試しスポットとして無謀な若い衆が稀に訪れる場所になってしまうこともあるのですが、不思議なくらい、石の地蔵の頭を欠けさせようとする人が出てくるようで、各地の地蔵で頭が欠落しているものが現存しているのは御存知の通り。　風化などで自然に劣化が進んで首が落ちた場合は、近くに地蔵の頭を置いたりしてある事が多く、誰かが故意に頭を欠かした場合は、その欠かした頭をさらに蹴飛ばしたり投げ飛ばしたり持ち去ったりする事が多いためか、周辺で発見できないことが多いようです。　問題は、地蔵の体が欠損したり本体が倒されたりした場合、地蔵が本来封じていた”何か”の封印が解けてしまう可能性が高いことで、連続して地蔵の頭を欠かせている人というのは、最初の段階で何かに憑依されて地蔵による封印を無効にするように”何か”に知らず知らずの間に操られているのかもしれません　・・・　単に、粗暴癖があるだけかもしれませんが。　過疎化や高齢化などの影響で地蔵尊のメンテナンスが不可能になっていく地域が増加している昨今、石の地蔵尊などが封じていた”何か”がこの世へ浸みだしてくる頻度というのは確実に増加していると考えられるのですが、原因が本人にもよくわからない連続殺傷事件や原因がよくわからない親子の無理心中事件がここまで全国規模で増加している現状を前にすると、事態はかなり深刻なのかもしれません。　逆に言えば、無念の死や不慮の死を遂げた人達の供養というのは、その死が本人にも納得できていない事が多いだけに、できるだけ多くの人の祈りの力が必要ということで、その祈りを集める装置として石の地蔵や石碑の類は昔から活用されていたのかもしれません。　まあ、そうした考え方を”非科学的！”とばっさりと切り捨てて経済優先でやってきた日本の社会がここまで荒廃していることを考えるとき、せめて秋葉原の歩行者天国復活を論じる前に、石の地蔵なり祈念碑なりを設置を提言するくらいの、死者を悼む心を取り戻すのが先ではないかと思うわけです。　ま、”そんな考えは迷信であり、気の迷いに過ぎない！そんなくだらないことに金を使うくらいなら、東京オリンピックの誘致に１円でも余計に金を使うべきだ！”と都政のトップあたりが主張し、それに賛同する人の方が多いのが現在の日本ということなのかもしれません。　或いは、あれだけの騒動になった無差別殺人事件発生から１年後の節目の日に、事件現場に公式に脚を運んで犠牲者に花を手向けた国会議員がどれくらいいたかを考えるとき、この国の”まつりごと（＝政、祀り事）”は、既に機能不全になって久しいのかもしれません。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第５２３話：(2009/06/22)

  2009.06.27

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• 仏壇内乱

  一夢庵　怪しい話　代３シリーズ　第５１２話　「仏壇内乱」　仏壇にまつわる怪異談というのは意外と多く、この世とあの世の窓口は墓地ではなくて仏壇であると主張する人は意外と多かったりもします。　ちなみに、仏壇にまつわる怪異談で比較的多いのは、仏壇が鳴動するといった話で、夜な夜な仏壇が軋んだり、地震などで揺れたわけでもないのに、位牌などがしばしば（それと分かるほど）動いていたりするようです。　ちなみに、仏壇内が乱れる原因となりやすいのは、宗派の異なる先祖が一つの仏壇に混在しているときなどだそうで、分けるか、全てを上へ送るかくらいしか対策は無いようです。　逆に言えば、死んだ人達がさっさと成仏して（転生して）いれば仏壇は不要なわけで、なんらかの未練があってあの世でウロウロしているからこちらへちょっかいを出したがるという解釈も可能ではあります。　もっとも、日本人の宗教観も急速に変化していますし、従来の日本社会の一つの特徴であった檀家制度も衰退してきていますから、仏壇の必要性そのものが年々低下してきていると言えます。　実際問題として、少子高齢化社会の進展ということは、跡継ぎが居ない世帯の増加を意味しているわけで、自分が死ぬまでに自分の家の仏壇などを処分しておかなければならない人が増加していく事も意味していますから、自然と、家としては最後に死ぬことになる自分は散骨してもらいたいという人が増加しているのかもしれません。　つまり、いかに絢爛豪華な仏壇があっても、巨大で豪奢な墓石があっても、家を継いで供養する後継者がいなければ（歴史的な有名人の墓でもないかぎり）傍迷惑なゴミになる日がやってくるということで、ならば自分が納得できるように生前に処分しておいた方が良いと考える人が増えてきているということです。　２１世紀に入ったあたりから、夫婦二人だけの墓や個人墓が珍しくなくなり始め、永代供養料を払って宗派を問わない寺院にそれこそ骨壺一つ分のスペースを確保してもらって墓所とする選択も珍しくなくなっていたりします。　あれこれ考えていくと、結局の所、先祖を祀るということは、”家”という制度が前提となっていたということで、”家”の制度が崩壊して、”死”が個人の問題になってくると、単純に墓所さえあればいいとか、（散骨のように）埋葬の仕方さえ決めておけばいいといった事になるのではないかと。　意外だったのは、田舎の親が死んで後処理をしていたときに、菩提寺の住職に永代供養の相談すると、私がまだ生きているのに永代供養というのはいかがなものかと言われたことで、”田舎を遠く離れて生活していて、いつぽっくりと病気や事故などで逝くかもしれず、後継者もいない状況で従来の大家族社会を前提にした理想論を言われてもなあ？”といった気がしました。　ちなみに、我が家の歴史は菩提寺が建立されるより以前から土着していますから意外と古く（笑）、諸般の事情で複数の宗派に対応していた時代の方が長いそうなのですが、亡父の代で費用がかさむのと儀礼などが煩雑なあたりも嫌になったそうで、一本化に踏み切ったようです。　とはいっても、檀家として寺総代をやっていたこともある亡父は私などよりはよほど信心深かったのでしょうが、亡くなる直前に涙を流して悔しがったのが、先代の住職に”寺総代を務めて貰ったお礼として戒名は無料で進呈する”と確約してもらって楽しみにしていたのを、代が代わったら無かったことにされかかった事で、先代の住職の頃から側で見ていた子からしても、”子供への仕送りまで寄付するくらいあれこれやって、散々自慢していた約束事を死ぬ直前にチャラにされるのはかなり不愉快。”と思うに十分でした。　父にとっては幸いなことに、伯母や叔母が間に入って、”先代が檀家と約束したことを当代が知らないでは済まない”という父の主張が受け入れられて決着したようですが、私的には、戒名はそもそも禅宗の風習なので、関係ないといえば関係ない気がしないでもありません。　ちなみに、お布施の額によって戒名のグレードが決まるというシステムを採用している仏教の宗派は意外と多いそうで、”それって、免罪符の発想とどれくらい違うの？”と信仰とはあまり関係が無い制度に疑問を感じたものでございます。　ただ、怪異談などを蒐集しておりますと、それこそ成仏できるまでは既に死んでいる親族の中でも宗派対立があることを推察させるに十分な話はごろごろしていまして、仏教で言えば、真言宗、天台宗、真宗、浄土真宗　・・・　といった宗派対立があり、そこへ天理教などの新興宗教が絡んでみたり、海外勢の基督教が絡んでみたりと、なかなか悟りへの道は遠いようです。　これも意外だったのは、檀家制度に支えられている葬式仏教と比べると、基督教の方が生前から信者の救済によほど熱心な事で、江戸時代にほぼ現在の形に落ち着いた日本の寺の制度が急速に崩壊している原因の一端はそのあたりにあるのかもしれません。　というか、お盆にお墓参りに行かないで海外旅行を選択する人の数が数十万人という単位になったのは昭和の話ですから、そこに国内旅行なども含めれば、日本の仏教が生きている人から見捨てられはじめたのは四半世紀以上前の事になるのかもしれません。　ちなみに、都市部では人の移動が激しいこともあって檀家制度だけでは寺の維持がかなり難しくなって久しい寺が多いそうで、檀家が当てにできないからサイドビジネスが必須だというどこか本末転倒のような気がする状況だそうです。　一方で過疎化が進む地方では人口の減少で寺の維持が難しくなって無住となったり閉鎖される寺が全国規模で出てきているそうで、死んだ後まで宗教対立をやっている暇は無くなっているのかもしれません。　ちなみに、子孫の供養の仕方が不満で、霊障を起こして抗議する先祖達の話というのも一つの定番なのですが、長くなってきましたから、そのあたりはまた別の機会に。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第５１２話：(2009/06/09)

  2009.06.15

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• 荒神様の御札

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第４９２話　「荒神様の御札」　荒神様の御札といえば、そのパワーが尋常では無い事で知られているのですが、そもそも”荒神（こうじん）”様とは何者なのか？を知らない若い衆も多くなってきていたりします。　怪しい話ではおなじみの神様で、天照大神の弟である素戔嗚尊（すさのおのみこと）の事と書くと、昔だったら説明がいらなかったのですが、ゆとり～君達が増えた現在となっては更に説明が必要なのかもしれません（笑）。　怪しい話のバックナンバーとしては、過去に1-183”茅の輪”の回などで素戔嗚尊に関しては触れているのですが、おおまかな経歴に関しては2-117”月詠”の方が分かりやすいかもしれません　・・・　ま、”一夢庵　風流記”の愛読者にはおなじみの神様ですが。　素戔嗚尊は、神様というには情に厚く、感情の起伏が激しいところがあるのですが、その為か、祟りやすい神様（いわゆる”たたり神”）としても知られるのですが、三宝荒神となると火の神。竈神(かまどがみ)としての性格が強くなるようです。　まあ、その激情というか情熱的なところが火之神を連想させたのかもしれませんが、竈の神様の関連としては、毎月の晦日(みそか：”月末”ですな)の祭を”荒神祓(こうじんはらい)”と呼び、昔は松の小枝に胡粉(ごふん)を塗した荒神松を供える家が珍しくありませんでした。　竈の信仰は全国的なもので、防火というか失火に注意するという意味もあったのでしょうが、竈のそばに神棚を設けて神符や幣束を納める光景は昔は普遍的なものだったのですが、都市化が進むにつれて過去の風物になっていったようです。　意外なことに、東北地方では竈のそばの柱に土製の”ひょっとこ”の面を掛けて釜男（かまおとこ）と称し、魔除けを兼ねた竈の神としている地域があるのですが、東日本のお釜様、関西の荒神様は同じ神様ということになるようです。　もっとも、時代が下ると陰陽道の影響などで中国地方では土公神(どくうじん)とか、ろっくさんと呼ぶ地域も出てくるのですが、日本国内の竈絡みの神様は素戔嗚尊の分神と考えておくとよろしいのではないかと思われます。　ちなみに荒神の中でも、地荒神となると、村落神、同族神、屋敷神といった集団の長としての性格が表に出てくるのですが、この手の性格は高天原を追放された後に際だってくる感がありますし、茅の輪の原形という説もある、中国地方だと特定の荒神森の大樹そのものか、大樹の下に塚を祀り、藁縄(わらなわ)を蛇体(じゃたい)のように巻いたのを供えていた（あるいは、いる）風習から考えても、追放後に少数の仲間と放浪していた時代以降の話が反映しているのかもしれません。　荒神様の他の営業項目としては、牛馬の守護神としても有名ですが、記憶が確かなら、生き馬の皮を剥いで機織り場に投げ込んだ悪戯も高天原追放の一因になったようですから、元来、牛馬の管理が本業の神様だったのかもしれません。　一夢庵としては話を竈神というか、”ひょっとこ”に戻して少し追補しておきたいのですが、そもそも”ひょっとこ”という呼称が”火男（ひおとこ）”のなまりとされていまして、ひよっとこのお面でおなじみの口をとがらせて曲げた滑稽な表情は、竈の火を吹き起こす顔つきから来ているそうです。　一応、里神楽(かぐら)の”ひょっとこ”は正しくは”もどき”というのが正式な呼称なのですが、何故に”もどき”なのかは不明です（追跡中）が、相方のお亀とともに道化役として滑稽な動作などで知られています　・・・　安来節なども典型ですが。　しかし、”ひょっとこ”がそもそも素戔嗚尊から由来するとなると、”お亀（あるいは、文楽人形だと”お多福”）”も普通の女性とは考えない方が無難なわけで、実際、天照大神が天ノ岩戸に閉じこもったときに宴会でエロっぽく踊った事で知られる天鈿女命（あめのうずめのみこと）に由来するともいわれ、狂言面では乙御前(おとごぜ)とか乙といった乙女神の代表のような扱いになるようです。　里神楽(さとかぐら)で”ひょっとこ”と一対の道化として知られるのですが、神楽面としては福神系として扱われていますから、その点でも、天鈿女命が起源という説には説得力があります。　あれこれ調べて状況証拠を並べていくと、天鈿女命が素戔嗚尊と高天原時代に深い仲だった可能性も出てくるのですが（邪推）、事の次第は定かではありません（笑）。　いずれにしても、素戔嗚尊の神様としての力に関しては姉の天照大神に匹敵するか凌ぐレベルだったものの、それゆえに滅せられるのでも封じられるのでもなく仲間はずれにされて追放されたと解釈することもできるのですが、野に下り、やまたのおろちを退治して定住するまでの放浪期間の逸話が荒神に反映されているのかも知れません。　そう考えると、荒神様の御札というのは、日本の神様の御札の中では（ある意味で）最高位なわけで、他の神様の御札と混ぜておくと（高天原追放の因縁もあるのかもしれませんが）割り砕いてしまうという話もあります。　そういえば、基本的に神社の御札の類は貰ってきた神社へ返して焚いてもらうものなのですが、遠隔地の神社に参拝したときに貰ってきた御札など諸般の事情で返しに行けず近所の神社で焚いて貰うこともままあり、それはそれで良しとされているのですが、ただ、荒神様の御札に関しては、自分の神社の系列の札で無いと焚くのを断るようです。　理屈としては、素戔嗚尊を祀っている神社ならば荒神様の御札を焚いても問題無いような気が私はしますが、その辺り、神様の世界では何かと込み入った決まり事があるのかも知れません。　ちなみに、きちんと神気が入った荒神様の御札を手に入れる事がそもそも難しいという話もありまして、正式な荒神様の御札を巡る神秘現象とでもいった話は幾つかあるのですが、長くなって参りましたのでまた別の機会に。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第４９２話：(2009/05/16)

  2009.05.22

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• 一言主神

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第４４６話　「一言主神」　一言主神（ひとことぬしかみ）というのは、日本固有の神様で、大和朝廷の神々より古い時代から日本においでの出雲系の神様だったりします。　曰く”吾は、善い事も悪い事も一言で言い放つ葛城の一言主の大神”ということなので、砕いて言えば、日本における預言者の大本締めというか託宣の神様ということになります。　ちなみに、奈良県と大阪府にかけて広がる葛城山（標高959m）の山麓というのは、大和朝廷にとって禁忌の土地の一つだったようで、敵対するわけではないが完全に服従することもない微妙～な地域だった時代が長かったりします。　もっとも、葛城山といえば役行者（役小角）の活動拠点として知られ、役行者といえば鴨一族であることからわかるように、葛城山界隈は大和朝廷以前から続く古代の豪族の支配する地域であり主に鴨一族の勢力圏だったわけです。　ただし、時代が下がり、鴨一族が朝廷の中に組み込まれて一定の地位を確保するのに比例して独立性を無くしていった事は御存知の通り。　しかしながら、奈良時代くらいまでは大和朝廷にとっても迂闊には手が出せなかった集団であり地域だったようで、その辺りの抗争の象徴が役行者ということになるのかもしれません。　といっても、役行者に関しては”日本霊異記”や”続日本紀”くらいしか文字の公的な記録が残っていないのですが、日本の2-837”修験道”の開祖とされていまして、日本において外来の基督教系やイスラム教系以外の滝行などに代表される山岳修行を行うことのある宗教は大なり小なり影響を受けていると言ってもいいのではないかと。　もっとも、外来の宗教といっても、密教系の仏教とは相性が良かったようですし、陰陽道の知識なども吸収して山岳密教系とでもいった日本独自の根本修行体系が構築され現在まで継承されていることは御存知ではないかと。　分かりやすいところでは前述した滝行は、宗派を越えて基本的というか根本的な修行として採用されている事が多く、武芸者などの宗教関係者以外でさえ修行の一つとして行う事で知られています。　それはともかく、役行者は一言神に裏切られた形で朝廷によって捕らえられて（699）伊豆に流されたことになっている話もあって、当初は（５世紀後半と推定されている）雄略天皇と互角以上に渡り合った一言主が、役行者の頃になると、大和朝廷に泣きついて役行者を排斥しようとするほど零落していたという解釈が可能だったりします。＊　雄略天皇と一言主神の話は日本書紀の雄略天皇４年の条が知られています。　このあたり、役行者の門弟が寝返ったという説もありますし、一言主神の権威を落とすために、一言主神でさえ朝廷の権威に縋ったということにしたかったのかもしれません　・・・　情報操作なんてものは神世の昔からあるわけですから残った朝廷側だけの資料を鵜呑みにするのもどうかと（笑）。　可能性のある推論としては、鴨一族の内紛に朝廷が介入して一時的に鴨一族が弱体化したという解釈などが可能ですが、役行者が朝廷に捕縛された大きな理由が、役行者の母親を捕らえて投降を迫る人質作戦によるものであったことから、かえって役行者への一族の支持は広がったようです。　ちなみに、役行者が朝廷に訴えらえた原因の一つに葛城山から吉野の金峰山に橋を架けようとした事があるとされているのですが、これも木や石で出来た橋ではなく、役行者達の勢力が他の地域と提携したり同盟を結ぼうとした事に一族の保守派が反対したと解釈した方が分かりやすく、保守派の方が少数派だったから大和朝廷という外部の力を借りたという解釈も出来たりします。　いずれにしても、役行者を支持し続ける勢力は一定以上存在していたようで、流刑となっていた役行者は復権するのですが、その後、空海などが大陸から持ち帰った密教がその修行に山々の回峰修行などの修験道の要素も採用しながら勢力を拡大していったこともあってか、次第に一言主神は大勢の神様や仏様の中に埋もれていくことになります。　まあ、もともと鴨一族の祭神が一言主神ですから、複数の氏族が集まって朝廷を形成し、国家の規模が拡大していった場合、特定の氏族にのみ継承される神というのはマイナーになっていく事が不可避ではあります。　その視点から考えると、役行者が一言主教ではなく修験道を確立して間口を広げようとした理由もなんとなく理解できるのですが、そもそも論でいけば、託宣の神が自分の未来を読み違えたということにもなるのかなと。　未来を予知しても、自身の衰滅を回避できないのだとしたら、未来を予知することにどれほどの意味があるのかと考えてしまいますが、それこそ、弘法も筆の誤り、紺屋の白袴、医者の不養生、河童の川流れといった具合にプロが本業でしくじる事例は昔から珍しくないのかもしれません。　ただ、古事記の記載では”悪事も一言、善事も一言で実現できる神”ということになり、予知や預言というよりも、驚異的な願望達成能力を駆使する神という解釈も可能なわけで、そうなると、意図的に、一般化させないで一族で独占したいと考える人達がいても不思議では無い気がします。　あるいは、口にしたことが良いことも悪いことも実現していく神様ということは、いわゆる言霊の神とも言えるわけで、その意味では、”縁起の悪いことを口に出して言うもんじゃありません！本当になったら困るでしょう！”といった言霊を前提とした会話をすんなりと受け入れてしまう日本人は知らない間に一言主神を信じていることになるのかもしれません。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第４４６話：(2009/03/24)

  2009.03.30

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• リリスの謎

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３５８話　「リリスの謎」　　以前、”人類はアダムとイブの子孫ではない”という話をしたことがあるのですが、我等が母にして、アダムの最初の妻であり、失楽園後によりを戻したリリスは謎が多い存在だったりします。　というのも、アダムは、その姿を神に似せて造られた存在であることが明記され、イブはアダムの肋骨から造られた存在であることが明記されているのに、リリスはどうやって誕生したのか？という記述がどこにもないわけです。　仮に、リリスがアダムのように神によって造られた存在であれば、何をモデルにしたのかとか、原材料はアダマー（土）だとか、あるいは誕生にまつわるエピソードの一つや二つはどこかに書いてありそうなものですが、それが無いのです。　また、知恵の実を食べる前からリリスは、神様と交渉を試みるくらい頭が切れていますから、知恵の実を食べる前のアダムやイブが猿のレベルの知能だとすると、リリスは登場した段階から現代人並みの知能を有していた気がしないでもありません。　旧約聖書の創世記（２～３章あたりですな）によれば、アダムとイブの住んでいたエデンの園の中央には、”生命の樹”と”善悪を知る樹”が生えているとは書いてあるのですが、創世記を素直に読む限り、それとは別にイブが蛇にそそのかされてその実を食べた”知恵の樹”も生えていたようです。　まあ、考えてみれば、イブをそそのかした蛇は悪魔が化けていたという説を採用すれば、悪魔も割と堂々とエデンの園に出入りしていたことになりますから、エデンの園が楽園だったのか、単にアダムとイブの知能が低かったから、しょうもないところを楽園だと思っていたのかは微妙な気がしないでもありません（笑）。　ちなみに、アダムとイブを追い出した後のエデンの園は上級天使のケルビムが守っているとされるのですが、ケルビムはアッシリアの守護聖獣”カリブ”を天使化したものと考えられていて、アッシリアにおいてはカリブが”生命の樹を守護する聖獣”とされていたところから、空家となったエデンの園の番人の役割がケルビムに振られたということになるようです。　念のために書いておくと、聖書には旧約聖書と新約聖書があり、旧約聖書は、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教などに共通する聖典であり、新約聖書はキリスト教徒にとっては聖典でも他の宗教からみればキリスト教の教典に過ぎなかったりします。　キリスト教の解釈では、知恵の実を食べたアダムにより人類に”死と罪”がもたらされることになったのだから、その子孫は生まれながらに”原罪”を背負っていることになっています　・・・　ただ、創世記を素直に読む限り、イブによって人類に”死と罪”がもたらされ、アダムだけの責任になっているということは、逆に言えば、キリスト教においても、人類の母はイブではない事を暗に認めているということではなかろうか？　いずれにしても、”原罪”というのはキリスト教の用語（英語では original sin）であり、彼らに言わせれば、人類の始祖アダムとイブの堕罪の結果であり、マリアを除く全人類が生まれながらに負っている罪ということになります。　なぜに、そうした解釈を行ったのかといえば、原罪があるから、人類は神の恩寵(おんちょう)が喪失しているので、（キリスト教を）信仰することによりその汚点を消し去り、神の子として恩寵の対象となるべく再生することが求められる　・・・　と話を続けたかったからのようです（笑）。　が、もちろん、そんな風に解釈しなかった宗教もあれば宗派もありましたし、そもそも、失楽園後にアダムの妻となり子を成したのはイブではなくリリスであるとする説もあるわけで、そうなると、原罪そのものが成立しなくなりますから、キリスト教がリリスを認め（たがら）ない根本的な理由はそのあたりにあるようです。　もっとも、リリスは本来は古代バビロニアの”夜の悪霊”であったという説もあれば、さらに遡ると地母神信仰の大地母神がルーツではないかという説もありますから、多神教時代には女性の妊娠や出産を司る神だったのかなと。　そう考えると、アダムやイブから”こいつら猿か？”という印象を受けるのに対して、リリスが神と互角以上にやりとりする謎も解けるわけで、かなり変わり者の女神様が人間化したという理解でいいのかもしれません。　リリスは、アダムやイブが失楽園するより前に、アダムに愛想を尽かして天界を自分の意志で飛び出している（笑）のですが、その経緯というのも笑える話で、要約すると、アダムのHが下手というかワンパターンだったのが根本的な原因ということになります。　もっとも、アダムがワンパターンの体位しかとらなかったことに腹を立てたリリスは、まずはヤーベ（いわゆる唯一絶対神の”エホバ”ですな）に訴え出て改善を求めているのですが、ヤーベにはなぜにリリスが腹を立てているのか理解できなかったようです　・・・　そりゃあそうでしょう、ヤーベにHをする相手がいたという話はありませんから。　天界を出たリリスが悪魔と交わって複数の子を成したという話も以前に書いたのですが、知恵がついたが故にエデンの園を追い出されたアダムは、一つの体位にこだわらなくなっていたようで、リリスはエバと別れたアダムと寄りを戻し、我々の先祖を産み落としていった　・・・　という説があるわけです。　実際、キリスト教においても、マリアは原罪から除かれているのですが、欧州などで”黒いマリア”の信仰というのがあり、その黒いマリア信仰のルーツというのがリリス信仰であるという説を採用すれば、原罪から除かれているマリアというのはキリストの母であるマリアではなく、”黒いマリア（＝リリス）”は原罪と無縁という事を暗喩しているのではなかろうかと考えたりするわけです。　ところで、旧約聖書において名前が明記されている天使というのは、ミカエルとガブリエルだけなのですが、ガブリエルは受肉していない状態のリリスではないかという説もあります。　一般に、”天使には性別が無い”とされているのですが、ガブリエルに関しては、女性の天使であると明記されていることが多く、なおかつ、新約聖書などによれば、マリアへ受胎告知するときにユリの花を持って訪れ　・・・　そのためか、ユリの花を持った女性の姿で描かれた宗教画が多い　・・・　ています。　つまり、ユリの花はガブリエルの象徴であると複数の宗教において公式に認められているということなのですが、ユリの花がリリーと呼ばれるのは、冥府の女王リリスから来ていたりします。　で、冥府の女王リリスというのは、要は、天界から飛び出した後のリリスの事ですし、ユリがもともと、乙女や豊饒の大地母神のシンボルとされていたようですから、その花をシンボルとして使うガブリエルというのは、リリスの仮の姿という可能性がかなり高いわけです。　ちなみに、ガブリエルの仕事の一つに、天国から産まれようとする魂を導いて受胎させ、その魂が母親の胎内で受肉していく９ヶ月の間を守護する事がある（という信仰がある）そうですから、その意味でもリリスと起源を同じくする可能性があるわけです。　さらに、ガブリエルには一度、神から追放された経験があるという説もあり、追放されていた期間はドビエルという天使が代行していたそうですから、”ガブリエル＝リリス”説は意外と辻褄があってしまったりします（大笑）。　なお、ガブリエルの語源は古代シュメール語の”ガブル（統治者）”から来ているという説もあり、天界と人間界の調整役の大元締めというか、人間に何を教えるかを管轄しているのはガブリエルということになるのかもしれません。　と、考えているのですが、人類がアダムとガブリエル（＝リリス）の間の子孫ということになると、宗教関係者の中にはいろいろと困る人が多いかもしれません（笑）。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３５８話：(2008/12/11)

  2008.12.17

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• 阿弗利加呪術

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３３８話　「阿弗利加呪術」　阿弗利加といっても広いのですが、エジプト、エチオピア、リベリア、南アフリカ共和国以外はすべて第２次世界大戦後の新興独立国というあたりで、まさに欧羅巴諸国が現在進行形で行っている”人道に対する罪”の見本市のような地域ではあります。　怖いのは、阿弗利加からの情報発信が他の地域と比べて圧倒的に少ない事から、阿弗利加では何も起こっていないかのような感覚に（特に日本人は）陥りやすいことで、その意味でも、欧米による阿弗利加からの簒奪は継続中だと言えます。　北阿弗利加には、旧英領のエジプト、スーダン、旧仏領のチュニジア、アルジェリアの各共和国、伊太利亜植民地だったリビア、仏蘭西・西班牙保護領だったモロッコ王国があり、地理的歴史的な流れと、欧羅巴から独立するための武装闘争の手段としてもイスラム勢力が優勢な地域となっています。　そんなわけで、北阿弗利加は侵略者である欧羅巴諸国の多くが信奉する基督教を否定するためにもイスラム教を信奉する必用があったためか、アラブ・アフリカとも呼ばれ、サハラ以南の黒人アフリカ（ブラック・アフリカ）とは異質な文化圏ともなっています　・・・　かなり大雑把な解説ですが。　サハラ以南となると、もう欧羅巴諸国のやりたい放題で、リベリアのような例外を除けば、旧英領、旧英（自治）植民地、旧英信託統治領、旧伊太利亜信託統治領、旧ベルギー領、旧ベルギー信託統治領、旧仏領、旧仏信託統治領、旧葡萄牙領、旧独逸領、旧西班牙領だったという国や地域しか無いといっても過言では無い状況だったりします。　阿弗利加諸国の多くは主に第二次世界大戦後に独立を果たすことができたのですが、旧宗主国であった欧羅巴各国はその後も何かと干渉を続けている事が多く、阿弗利加の戦乱と飢餓の原因を辿ると欧羅巴の”人道に対する罪”というのが浮き彫りになってきたりします。　歴史的には、７世紀に阿弗利加北西部でイスラム化が始まり南東部にまで及んだのですが、１５世紀に葡萄牙人が海路で阿弗利加西海岸に到達し、当初は沿岸国と対等の貿易をしていたものの、欧羅巴の海軍力や海運力が増強されるのに比例して１６世紀ごろから貿易の重点が象牙や金などから奴隷に移行し（大西洋奴隷貿易）１９世紀の中ごろまでに推定で５０００万人以上の阿弗利加人が南北亜米利加へ奴隷として送り込まれることになります。　また、阿弗利加にとっての１９世紀というのは、英、仏、独、伊、葡萄牙、西班牙、ベルギーといった欧羅巴諸国による植民地分割競争（アフリカ分割）が本格化した世紀でもあり、1884～1885年のベルリン会議での議定書で各国の勢力範囲が一方的に確定されてしまい、２０世紀初頭の独立国はエチオピアとリベリアだけという惨状を呈す事になります。　逆に言えば、植民地統治に対する抵抗運動は１９世紀からあり、特に、第２次世界大戦後の民族独立運動で、北阿弗利加のアラブ諸国が独立を獲得したのを皮切りに、各植民地が時に武力衝突を伴いながら独立していくことになります。　しかしながら、旧宗主国を筆頭とする欧米資本主義諸国からの干渉はその後も続き、そこに共産圏やイスラム圏からの干渉も加わった事でコンゴ動乱やナイジェリア内戦（ビアフラ戦争）といった地域紛争が絶えない地域となっているのは御存知の通り。　まあ、ざっと見ただけでも阿弗利加は欧羅巴諸国によって文化的に根無し草にされた国が多いのですが、皮肉なことに、５０００万人が奴隷として強制移住させられた先で新しい文化として再編され、移住先で発展するという現象も発生しています。　キューバを中心とするサンテリア(Santeria)は、ある意味で阿弗利加宗教の典型なのですが、連行された奴隷の大半が西阿弗利加のヨルバ族であったことから、彼らのオロルンという最高神と他の神々を信仰していたのですが、そこにカソリック系の基督教が習合され、西班牙語の「聖人」を意味する「サント」に由来するサンテリアとして再編されていくことになります。　サンテリアは非常に呪術的で阿弗利加色の濃い宗教としても知られるのですが、独自のパントマイムのような舞踏、独特な音楽はキューバを代表する音楽であるルンバにも影響を与えています。　サンテリアとも密接に関係する、２大阿弗利加系宗教の一つである、ブードゥー（vodun）教の場合、ハイチの宗教の一つとされているものの、実態は西阿弗利加～中央阿弗利加諸部族の宗教が迫害されない程度に基督教と融合した新興宗教で、日本人には意外と理解しやすいのですが、至高神の他に多様な神々や祖霊を崇拝する多神教となっています。　ただし、霊的存在が人間へ憑依する事が信仰の中心ですし、ゾンビ粉に代表されるような裏の顔（一種の密教ですな）を持つことでも知られていますが、パウダーや御守り袋といった小道具は阿弗利加系の宗教には普遍的に見られます。　もっとも、ハイチ独立運動の口火を切った1791年の奴隷反乱をブードゥー司祭が指揮した事もあり、ブードゥー教は欧米文化に対するイデオロギー的武器としても強化されていくことになったようです。　２大阿弗利加系宗教のもう一つは南米で普及しているのですが、やはり１６世紀頃から葡萄牙人によって連行されたヨルバ族の信仰や、カソリック系基督教、南米の土着の宗教などが入り交じってマクンバ（Macumba)として再編されることになります。　厳密には、カンドンブレ（Candomble)やウンバンダ（Umbanda)といった幾つかの宗派の総称がマクンバなのですが、集団によって差異はあるものの、守護神を祀り、歌って踊って憑霊現象を引き起こすあたりは共通しているようです。　カンドンブレの方は、ヨルバ族に代表される阿弗利加伝統宗教の影響が濃く、語源も奴隷が働く農場で行われていた阿弗利加由来のカンドンベという（宗教的な）舞踊から来ています。　ウンバダの方は、黒人であることにさほどこだわらない、東洋人、印度人、インディオ、白人まで含めた混血重視の宗教で、南米の土着の宗教はもとより、仏教やヒンドゥー教、イスラム教などなど、より雑多な教義の再編が特徴になっています。　これに対して、プロテスタントの勢力が強かった北米では、阿弗利加系の宗教が再編されたり普及した地域は限られ、ルイジアナ州のニューオリンズで１８～１９世紀に盛んになったフードゥー（Hoodoo)くらいに限定されます。　ちなみに、ニューオリンズは長らくカソリック文化の仏蘭西領であった事と、西班牙からの移民も多かった事、１８世紀にハイチから、奴隷から解放された黒人達が大勢移民してきて、ハイチのブードゥーを持ち込んだことなどなどが、ニューオリンズ・ブードゥーの誕生と普及の背景にはあるようです。　ニューオリンズ・ブードゥー特徴は、各種の呪いと呪術民間療法で、呪術師がルート・ドクターと呼ばれるあたりが、より社会に適応する方向で普及していったということになるかもしれません。　・・・　と、書いたあたりで、長くなって参りましたので、阿弗利加本土の呪術に関してはまた別の機会に。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３３８話：（2008/11/18）

  2008.11.24

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• ヒトラー教

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３２５話　「ヒトラー教」　第二次世界大戦の全責任を押しつけられている感のあるアドルフ・ヒトラー（1889～1945）ですが、そもそもヒトラーはオーストリアの出身で、独逸に移住して第一次大戦に最前線で従軍し伍長で敗戦を迎えています。　一兵卒にとっての第一次世界大戦を描いた名作映画としては、”西部戦線異状なし（All Quiet on the Western Front：1930）”があまりに有名ですが、第一次世界大戦というのは”大量殺戮”の幕開けの戦争と定義されることもあり、それまでの戦争ではまだどこかに牧歌的な　・・・　騎士道精神とか武士道精神とか戦場の浪漫とかが入り込む　・・・　部分があったのに対して、”いかに人間を効率よく殺すか”が各国の総力を上げて追求されるようになったと言えます。　もっとも、第一次世界大戦で独逸が敗北した原因というのは、ヒトラーの解釈よれば、戦場に出てこず弾の飛んでこないところにいる（身内と思っていた）連中の裏切り行為ということに集約されるようで、そのあたりから、政治家にならないと祖国を売り渡した連中に対抗できないという結論に到達したようで、1919年に独逸労働者党（1920年ナチスと改称）に入党したようです。　その後、紆余曲折はあったのですが、合法活動によって党勢を拡張し、1933年には首相に、1934年には大統領を兼ねた総統（フューラー）になってしまいます。　独裁政治体制へ合法的に移行した後、いわゆる第三帝国と称したりもしたのですが、反ユダヤ主義とゲルマン民族の民族としての優越性を主張し、第二次大戦を引き起こしたのですが、ベルリン陥落直前の1945/04/30に防空壕を兼ねていた地下官邸で愛人のエヴァ・ブラウンなど家族とともに自殺したことになっています。　が、ヒトラーの自殺を検証したのが、当時のソ連軍であった事から（後の）西側に情報が全て開示されず、報告書と現場写真が矛盾したり、そもそもヒトラーの遺体が（西側には）確認されていないため、未だに、”ヒトラー生存説”を唱える人は珍しくありません。　実際、そもそも砲弾が直撃して遺体は存在しないとか、ソ連軍が即日焼却処分したとか、ベルリンが陥落する数週間前に国外に脱出して南米へ逃げ延びたとかいう複数の説が存在していても、ヒトラーの遺体が存在しない事だけは確かな話だったりします。　ヒトラーの遺体が存在したという説にしても、その死因が、青酸カリによる服毒死、軍用銃を口にくわえての自殺（凶銃ルガーＰ０８伝説）など複数存在し、極論すれば、エヴァ・ブラウンが死んでいた近くで死んでいたから、そのヒトラーらしき男性はヒトラーなのだろうという程度の話に収斂していくようです。　それはともかく、自殺という手段をヒトラーが採用したとすれば、最終的に彼が信じた宗教が、少なくともユダヤ教やキリスト教ではないことは確かですし、イスラム教などはそれ以前の時点で論外だったようですから、ヒトラーは”古代の神々を蘇らせる”ことも目的の一つであったとする説があります。　これを、英国と独逸との魔術戦争という視点から考えていくと、中世の魔女狩りは英吉利でも欧羅巴大陸でも盛んで、急激に各地の魔術は衰退したのですが、英吉利が英国国教ということで羅馬法王と袂を分かったあたりで風向きが本格的に変わり、ハリーポッターを持ち出すまでもなく、国政に波風を立てない範囲で黙認とでもいった状態を長く続けることになります。　このあたり、英吉利では、魔女狩りの時代に魔法使いとか魔女として処刑された人々の名誉回復や恩赦を求める運動がいまだに盛んですが、同じ案件に関して羅馬法王が公式に謝罪して名誉回復を行ったという話は（今のところ）ありません。　英国と大陸の魔法使いの間に決定的な差が生じ始めるのは、エリザベス一世の統治下に七つの海を支配する日の沈むことのない巨大な帝国が成立したあたりで、英吉利がエジプトを含む中近東や印度といった古い魔術の拠点を勢力下というか、事実上、植民地化した事が大きかったようです。　逆に言えば、だからこそ、ヒトラーは英吉利よりも、より本来の魔術の起源に迫り、英吉利がエジプトや印度を抑えた事で手にしたであろう古代の知識や秘技秘伝を何らかの形で補う必要があったとも言えます。　そうなると、消去法で一発逆転の目が残っているのは、英吉利や中国の魔手がまだ完全には及んでいなかったチベットということになり、印度の宗教に多大な影響を与え、さまざまなシャンバラ伝説を持つチベットの山岳地帯に活路を見いだしたということになるのですが、こうした独逸とチベットとの結びつきは、地政学者のハウスホーファーの影響が大きかったとされています　・・・　亜米利加人のインディージョーンズにしたところで映画では描かれていない裏側で何をやっていたのかは怪しいもんです（笑）。　独逸は何度か調査隊をチベットに送り込んでいるのですが、その他の状況証拠としては、ベルリンが陥落したとき、通信管理センターで千人近いチベット人の遺体が発見されたり、ナチス親衛隊の衣服を身につけ何らかの宗教儀式を行って自決したと思われる”緑の男の会”の構成員らしい７人のチベット人の遺体の話とかが有名ですが、敗色濃厚な戦時下の独逸に留まって命を賭けてまで何を行っていたのかは良くわかっていません。＊　１９２６年頃からベルリンとミュンヘンにはチベット人区が公式に作られていた。　ヒトラーの到達した結論とでもいったことは、バラモン教の思想に欧羅巴の科学といいましょうか、優生遺伝の考えを組み合わせて、欧羅巴型のカースト制度とでもいった序列化に集約されるようで、最後の審判が大前提となるキリスト教やユダヤ教に対して、輪廻転生が大前提となるチベット密教系の影響をかなり受けたようです。　しばしば、魂の不滅（アートマンの永続性）、輪廻転生、霊的なステージ（霊的な世界における魂のピラミッド形階層性）という発想はカルト思想で差別を助長する　・・・　カルマ（業）の理論は、来世を信じることで今生の（理不尽で不合理な）死を肯定することに繋がると批判する人がいるわけですが、果たしてそれが、キリスト教徒達が神の名の下に異教徒に対して行ってきた、十字軍侵攻などの数々の一方的かつ理不尽な虐殺行為を肯定している教義より悪質なのか？と考えると”う～ん”と考え込んでしまうわけです。　例えば、オウム真理教のポアの理屈を単純化すれば、”お前が（今生で）行っていることは（オーム真理教の基準では）悪だ！だから殺してやる。その方がお前の（来世）のためだ”とでもいった身勝手な理屈になり、なぜならば”あの世へ行ったら魂のステージが上がるから　・・・”と続くとなると、傍迷惑を通りこして、かなり危険な教義と言えるわけですが、こうしたロジックそのものは形を変えてほとんどの宗教に内在していて、特に異教徒に対して拡大解釈して適用されてきていることもまた歴史的な事実なわけです。　それ故に、第二次世界大戦後、ほとんどの先進国で政教分離が国政の大原則となったわけですが、自分たちの神の名の下に、自分たちの教義や理念を信じない異教徒が住む国の民を”現代の十字軍”と称して虐殺する行為に某国が熱心なことは御存知の通り。　いずれにしても、ヒトラーが表舞台から姿を消した後も、世界規模で宗教戦争は継続中ということで、その意味では第二次世界大戦は未だに終結していないのかもしれません。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３２５話：(2008/11/03)

  2008.11.08

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• 熊野参り

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３２１話　「熊野参り」　熊野というのは、紀伊半島の南端にある山岳地帯を主に指している名称なのですが、実のところ、どこからどこまでが（何番地から何番地までが）熊野という明確な行政上の定義はありません。　いかんせん、日本書紀によれば、伊弉冉尊が熊野の有馬村に葬られたことになっていますから、記紀の時代以前から霊場となっていたわけですから、日本の霊場の草分け的な存在と書いてもいいのかもしれません。　今なお、怪異が頻発するという噂もある、熊野古道というのは、紀伊路、伊勢路、中辺路、大辺路、小辺路、大峰道（おおみねどう）で、基本的に本宮を中心に開かれていったようです。　考えてみれば、伊勢神宮が奈良や京都からあれほど離れた三重県の伊勢の地にあるのも奇妙な話で、いくら太陽が昇る方向にあるからといっても、日本書紀の記述によれば、大和→ 伊賀→ 近江→ 美濃と、おそらくは先住民達を鎮圧しながら伊勢に入って、五十鈴川を遡って上流へ鎮座したわけですから、その労力というか、そうしなければならなかった理由と言うのが今ひとつ、ぴんときません。　しかも、伊勢神宮は、後醍醐天皇の祥子内親王で廃絶するまでは、斎内親王（未婚の皇女または女王：斎王、御杖代(みつえしろ)、斎宮）を頂点とし、その託宣が国家の命運を左右したことさえあった権威のある組織なわけですから、当時の移動手段から考えて、あまりに都から離れているにも関わらず影響力が大きすぎる気がするわけですが、伊勢神宮に関してはまた別の機会ということで。　あれこれ調べていると、伊勢を含めた霊場としての熊野というか紀伊半島というのは大和朝廷以前に成立していた宗教というか文明と密接な関係があった可能性が高いのですが、死者の霊が籠もる場所という意味で、古文献などに登場する隠国（こもり）とか隠野（こもりの）という名称から熊野に転じたという説もあります。　まあ、それだけ歴史が古い霊地ともなれば、山岳密教や神道、陰陽道、密教系の仏教といった宗教関係者が修行の場としての歴史も古く、そこに浄土信仰などが加わってくると、”なんでもあり”いう状況になっていったようです。　大衆化していく切っ掛けとなったのは、１１世紀に浄土信仰（”南無阿弥陀仏”と唱えれば極楽浄土へ行けるというシンプルな信仰）と熊野の本宮が結びついて以降のことなのですが、平安時代から既に都の貴族が信仰と言うよりも一種のレジャー（今風に言えば、セレブの間では定番のグルメ旅ということか？）として熊野詣でを行っています。　何よりも、宇多上皇が始めた”熊野御幸（ごこう）”は、宗教的な秘技なのか気晴らしなのかは微妙な気がしないでもないものの、鳥羽上皇が２１回、後白河上皇が３４回、後鳥羽上皇は２８回　・・・　といった具合だったそうで、当時の都の貴族達の定番観光スポットと化していた事は確実な気がしないでもありません。　そこへ、熊野本宮が本地仏として阿弥陀如来を祀っていたことから前述したように浄土信仰と結びつき、武家や一般庶民までも”一生に一度は詣でたい”場所になったようで、いわゆる”蟻の熊野詣で”と形容されるほどに訪れる人が多くなっていったようです。　ちなみに、熊野参りというのは、那智の妙法山の伝承で、人は死ぬと、枕飯の炊ける間に、枕元に用意された1-513”樒（しきみ）”を一本持って熊野詣でをするのだそうで、熊野を訪れた亡者は手に持った樒で鐘を撞くので、誰もいない時間帯でも微かに鐘の音が聞こえる事が今でもあるとされています。　こうした熊野参りを含めて、宗教関係者以外の熊野詣でを表の顔とすれば、熊野で修行する宗教関係者のやっていたことは裏の顔というか行の中でも峻烈とでもいった傾向があり、命を賭ける事がそれほど珍しくなかったようです。　比較的有名なのは、法華経の修行者に見られる”火定（かじょう）”で、早い話が自らに火を着けて焼身自殺する行として知られています。　火定は平安時代中期には行われていたようで、応照上人の火定炉の跡などが現存しているのですが、法華経においては如来への供養として最上の行為と解釈されているそうです。　命を捨てたといえば、常世（とこよ）信仰と結びついた補陀落渡海（ふだらくとかい）でも平安時代から江戸時代にかけて記録に残っているだけで２０名を超える渡海者が出ています。　少し説明すると、海の向こうの南海のどこかに補陀落と呼ばれる常世の国があり、そこを目指して、外から釘を打ち付けて密閉した船に乗って船出するのが補陀落渡海で、船に積み込める水や食糧から考えて、難破しなければ餓死したのではないかと思われます。　補陀落渡海の始まりとされているのが、スクナヒコナが熊野の御崎から常世の国を目指して船出したという話というか伝説なのですが、こうした密閉船で片道切符の旅へ出る（出させる）というと2-792”>阿呆船”や虚ろ船の話と大同小異なわけですから、何らかの原形になる話が神世の昔（以前）にあったのかもしれません。　ちなみに、この補陀落渡海のそもそもは四国に起源があるという話もあれば、逆に、熊野の信仰の影響を四国の霊場が受けたという話もあるのですが、少なくとも、四国八十八カ所巡りの遍路寺の多くが海の近くにある理由の一つに補陀落渡海の信仰とでもいったものがあっだと考えられています。　実際、足摺岬の金剛福寺や室戸岬の最御崎寺といった、外海の潮の流れに乗りやすい場所では補陀落渡海が行われたようですが、これが瀬戸内側となると、渡海しようと船出をしても（内海ですから）生きている内にどこかに漂着する事が多かったようで、妥協策として海上で五穀断ちというか木食（もくじき）を行う程度だったようです。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３２１話：(2008/10/29)

  2008.11.04

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• 神喰い

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３０９話　「神喰い」　以前、2-734で”神殺し”に関しては少し書いた事があるのですが、神を殺した後どうしたか？といえば、祭り上げて祟りを回避するパターンと、食べて取り込んでしまうパターンとに大別することができるようです。　意外と全国各地に存在していた、”神喰（かみく）い”の儀式などが、神様を食べてしまうパターンに該当するわけですが、ほとんどの儀式が昭和が終わる頃には廃れていったようです。　もちろん、全てが廃れたわけではなく、例えば、京都の八坂神社の巨旦（きょたん）大鬼王に関する神喰いの儀式は、年越しの儀式に紛れ込ませて伝承されています。　つまり、新年用の神酒は巨旦の血で、新年用の餅は巨旦の肉、その餅用の皿は巨旦の骨　・・・　と言った具合に、年越しの儀式で飲み食いする事がイコール巨旦を食べ尽くす事に見立てられているわけです。　殺した相手を食べることで、その相手の能力を手に入れる事ができるという発想は、人食いの風習にも共通するところがあり、南米の古代文明や、ボルネオの密林の部族の人食いの風習においても、戦争で倒した勇敢な相手を食べる事で、その武勇が自分のものになる（乗り移る）とまとめる事ができるかなと。　もっとも、南米の生け贄の風習に見られたように、人の心臓を生きている内に取り出して太陽に捧げる事で、太陽に活力を与える　・・・　太陽が人を食う事でそのエネルギーを太陽のものとして活性化する　・・・　という発想というか思想は、”食べるということは、生命力のようなものを移し替えること”という考え方が主流だったということかもしれません。　キリスト教のミサにおいても、2-446”ホスティア”の回で書いたように、ホスティア（聖別されたパン）は主の肉、葡萄酒は主の血　・・・　と信じられているわけで、そうなってくると、世界中で神喰いは（遅くても）二千年くらい前から行われていたということになるわけです。　逆に言えば、始まりはいつだったのか定かでは無いということで、人が神という概念を創り出した段階で神殺しや神喰いが発生することは必然だったのかもしれません。　ただ、食用の獣や魚にしても、あるいは穀物などにしても、一定のサイクルで”誕生し、成長し、妊娠し出産し、やがて老いさらばえて死んでいく”わけですから、神もまた殺して食べたとしても黄泉返ってくると考えても不思議ではないだろうなと。　あるいは、アイヌが山神とする熊を殺すことで神の世界へ返すと考えたように、神と見立てたものを殺すことで再生を促す呪術の一環となっているケースもあるわけです。　単純化すれば、殺した神が黄泉返ってくると春になる（次のサイクルが始まる）とでもいった考え方ですが、そう考えると、特定の動物を神に見立てて殺したり、農作物で神の形を作りそれを食べる行為というのは、次のサイクルの豊作や豊漁（猟）を願う儀式でもあるわけです。　ただ、この考え方の延長上にはいささかブラックな思想が広がっていくこともあるわけですが、その前提として、人類の文明がこれまでに４度くらい大崩壊していて、それが一定の周期で繰り返しているとかいった話と結びつくと、そういった大きなサイクルが動いて５度目の大崩壊がやってくるということは、５度目の大崩壊の後に新しい世界が始まるということにもなるわけです。　となれば、大崩壊の後の再生をスムーズに行うために、大規模な生け贄が必用となると考え始める人達が少なからず出てくるということで、大崩壊が単に文明の崩壊だけでなく大量の人死にを伴う事が前提となっていることが既に心理誘導ではないのか？と私などは思うわけです。　さらに一捻りすれば、大量の死者をだせばこれまでのサイクルが終わり、新しいサイクルが始まるのではないか？と考えた人達もいたわけで、それも、死者が大量であればあるほどより大きなサイクルへのシフトが始まると考え立ていた節があります。　一説によれば、神秘主義に傾倒したヒトラーの行き着いた先が、そういった人為的な壊滅に伴う再生とでもいった事だったそうで、滅びることでより強大になって蘇ってくる　・・・　だから、ベルリンが灰燼に帰すまで戦闘が続いたと解説されることもあるわけです。　考えてみれば、日本にしたところで、ほとんど全ての社会資本を失い、戦略的には無意味な民間人の死傷者をあれほど出しておきながら、奇跡の復興を遂げたわけで、新時代が始まる前には過去を断ち切って更地にした方が結果が良いのかもしれません。　そう考えると、焼き畑農業との共通性も見えてくるわけで、火を山腹に放つことで、一時的には焼け野原となるのですが、灰が栄養素となったり、焼けたことで、その後に蒔いた野菜や穀類の種の方が先に発芽して雑草などよりも早く成長していくメリットが出てくるわけです。　焼き畑を行って、それまでの環境が崩壊する事を怖れて低い生産性に甘んじているよりは、変化させた（あるいは、変化してしまった）環境を生かした方が効率が良いという現実を前にするとき、現状維持に力を注ぐことにそれほどの意味があるのか？ということにもなってくるわけです。　そういった考え方の延長上に、万物は流転するのが定めなら、流転するにまかせて対応していくべきで、温暖化を止めるよりも、温暖化の後の世界を前提に今から対応した方が良いのではないかということにも繋がっていくわけです　・・・　既得権益が山のようにある人達には承伏できない考え方かもしれません。　まあ、それゆえに、キリストをして”金持ちが天国の門をくぐるのは、ラクダが針の穴を通るよりも難しい”と言わしめたのかもしれませんが、いずれにしても、精算する時期は近いだろうなと。　ぼちぼち、地球温暖化も本格的な変動期に突入したようなので、そのあたりの話はまたの機会ということで、今回はここまで。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３０９話：(2008/10/15)

  2008.10.21

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• 家電とお祓い

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３００話　「電脳とお祓い」　インターネットの急速な拡大は、電脳怪談とでもいったジャンルの枠をかなり広げることにもなったのですが、怪異と電脳との相性は意外と良かったようで、従来の怪異談がアレンジされるだけでなく、ネットワーク空間ならではの怪異談が登場するようになるまでにさほどの時間は必用としなかったようです。　もっとも、これまでにも何度か書いてきたように、コンピュータそのものが呪具なわけで、ハードもソフトも、太極→陰陽→四柱→八卦といった事が理解できていると話が早かったりします　・・・　結構まじです（笑）。　それはともかくとして、電脳空間という新しい世界が構築されても、しばらくの間はそこには（０と１で構築された仮想）世界はあっても住人が居なかったのですが、あっち側の住人が次第に電脳空間の特性とでもいったものを理解するようになったのか、徐々に住人は増えているようです。　話がややこしくなったのは、月々定額で電話回線が利用できるようになったあたりからで、いわゆる常時接続が一般化するに従って、一度、ネットワーク内に構築された電気信号の流れがリセットされる　・・・　世界が断ち切られる　・・・　事が減るに従って、電脳空間に定住する何かがコピー増殖するよ頻度も上昇したのではないか？という気がしないでもありません。　このあたりは、人の神経回路に例えるとよくわかるのですが、毎回毎回、ダイアルアップして回線を接続する場合は、その度毎に神経に新しく信号を流す必用があるのに対して、常時接続の場合は、一度でも神経に信号が流れると延々とループしながら神経回路の中を回り続けるデータが出てきやすくなるということです。　また、そもそも幽霊が電気信号の一種だから、マイナスイオンが発生するような電位差が大きい場所に出やすいのではないかとか、幽霊が出たときに生臭いにおいがするのはイオン臭ではないのかといった指摘もあるわけで、デジタル写真などでデジタルデータとして取り込まれた幽霊達はネットワーク回線の中で増幅されながら自己複製を重ねるようになったのではないか？という説もあるわけです。　実際、その手のサイトを閲覧している人のパソコンはクラッシュしやすく寿命も短いとか、その手のサイトの常連さんは一度や二度はネットに入っているときに怪奇現象に遭遇しているという怪異談は一つのジャンルになっています。　怪異の側の電脳化が進むのならば、神仏の側の電脳化も進むのが理（ことわり）というもので、例えば、秋葉原にほど近い神田明神は、場所柄もあってか”ＩＴ守護神社というか、ＩＴ関連のお札などを発行していることでも（一部では）知られていたりします。　神社やお寺というのは、意外とホームページ作成にも熱心なところが多く、最近ではバーチャル参拝というか、電脳空間の中に仮想の神社を構築してそこに参拝する事の是非が賛否両論渦巻いている事も珍しくなくなっていたりします。　まあ、神道の基本的な概念でもある、穢れが溜まって災厄を呼ぶのなら、それを祓えばいいという考え方は、現実世界では、神社への参拝や祈祷をして神様の加護を受ける行為に代表されるわけですし、これまでにも、マイカーが普及してくれば、車を買ったときや車に乗っていて怪異や災厄に遭遇したときなどに“（厄）払い”をしたりする新分野が登場して一般化していったのは御存知の通り。　そう考えると、車の穢れを清めることで浄化し、さらに神様に交通安全を祈願するのならば、パソコンに関しても同じ事をやっていいのではないのか？という気がしますし、パソコンも”物”ですから、長らく使えば付喪神になるのかもしれませんしねえ？　さらに、ネットワーク空間内に怪異が跋扈するのならば、一つの関所や浄化場として神社や寺が電脳空間内にも足場を築くようになってきているのは、一つの神仏の仕組みというか計らいという捉え方もできるのかなと。　ちなみに、秋葉原に近い神田明神では平将門命（たいらのまさかどのみこと）だけでなく、大己貴命（おおなむちのみこと）、少彦名命（すくなひこなのみこと）の三柱の神様が祀られていますから、対象とする分野にパソコンや携帯電話が加わっていっても、さほど奇妙ではないのではないかと　・・・　ある意味で、相性がいい神田明神が近くにあったから秋葉がパソコン街としての顔を持ったのかもしれません。＊　ちなみに、神田明神のＩＴお守り（これに関しては実際にある）は、メモリ素子からデザインされたという説があるのですが、実物を見て、”う～ん。今ひとつなんだかはっきりしないな～。”と私は思っています。　本来、神社にも得意分野というか受け持っている分野があり、基本的にそれは祀られている神様で決まると考えられているのですが、何しろ神様ですから、時代によってというか氏子や参拝客などのニーズによって、次第に対象分野が拡大されていく傾向があります。　ある意味で、人がたくさん参拝する神社は願い事も雑多になっていく事が多いためか次第に対象が拡大していく傾向が顕著ですから、交通安全や安産祈願などがほとんどの神社で一般化して対象になっているように、電脳安全もまた一般化していくのかもしれません。　ただ、英吉利生まれで亜米利加育ちのコンピュータは、基本的に（文字通り）魔法の小道具なわけで、東洋の神秘学ともかなり共通している部分があるとは言うものの、果たして神道の禊ぎだけに頼るのが正しいのかどうか？　そのあたり、”レンタル・マギカ（三田誠）”ではないけれど、神道も魔法の一種と考えると魔法には相性がやはりありますから、西洋魔法の理屈を前提とした現在のパソコンを浄化するのはやはり西洋魔法の方が相性がいいのではなかろうか？　かといって、西洋魔術が悪魔払いをするか？と考えると、悪魔などを使役する事が西洋魔術の真骨頂なわけですから、そもそも論として、コンピュータを浄化していいのかどうかという基本的な疑問にぶつかるのでした　・・・　怪しい話ではよくある結末ですが（大笑）。 一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第３００話：(2008/10/04)

  2008.10.10

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• 足裏の闇

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２８０話　「足裏の闇」　その報道を耳にしたとき、”まだ結審していなかったのか？！”と逆に思ったのが、いわゆる”「法の華」詐欺事件”と呼ばれる詐欺事件の裁判でした。　この事件では、宗教法人「法の華三法行」（当時）の施設を訪ねた３１人に対して”足裏診断”と称して面談し、病気を治すための修行代などの名目で（裁判沙汰になっただけでも）約１億４９００万円をだまし取ったということなのですが、被害者も被害金額も氷山の一角にすぎないという話が当時からあります。　最高裁第２小法廷が上告を棄却したため、詐欺罪に問われていた、当時の代表である福永法源（本名・福永輝義）被告（63）への懲役１２年、元職員の前沢あけみ被告（44）への懲役４年という２審判決が確定することになったわけです。　まあ、日本では病気の診断を下す事が出来るのは医者などの一定の国家資格を有する人達に限定されていますから、病気の診断をしていたというだけでも違法行為ということにはなります。　もっとも、この話のグレーゾーンは、”法の華三法行”が”宗教法人”だったことで、宗教関係者は古来より医療活動を布教活動の一環として行う事が洋の東西を問わず珍しくなかったりします。　なるほど、確かに法の華三法行の足裏判断にまつわる一連の行為が悪質な詐欺であった事は間違いが無いのですが、”じゃあ、眼病に効くとか、悪い因縁が切れるとかいった特定の効能をうたってお札の類を売っている宗教団体の類の活動は詐欺じゃないのか？”という素朴な疑問を持ってしまうわけです。　つまり、法の華三法行を擁護するというのではなく、彼らのやっていた詐欺は、大なり小なり他の宗教法人もやっていることではないのか？という気がしてくるのですが？　まあ、本当に足の裏を見れば将来のことが分かるのならば、自分の足の裏を見ていれば詐欺事件の被告として有罪が確定する未来も察知できたのではないかという気がするのですが、占い師や霊能者として御飯を食べている人達の中には、えてして自分の未来を予測しそこねる人が珍しくなかったりします　・・・　それで、どうやって他人にアドバイスしているのかは知りませんが（笑）。　面白いのが、こういった話をしていても、”でも、それは占い師などは自分の未来を占ってはいけないからじゃないんですか？”とその手の詐欺被害にあっていながらまだ擁護する物好きな人がいたりするのですが、占いも行き着くところまで行き着けば予知と大差が無くなってくるという話は以前から怪しい話で何度かしていることは御存知の通り。　自分の死や運命の変動を客観的に直視して必用な対応を行い、時には改変を加える事ができない占い師や霊能者がなぜに他人の未来を変える事ができると考えるのか？　占い師や霊能者などは自分の未来を占ったり予測しない（タブーになっている）というのは俗説で、そもそもが、よりより未来を引き寄せようと我が儘な事を考えないのなら、占いや予知の類は必要ないわけです（大笑）。　ただ、例えば、いわゆる病気を治すと主張している一部の足裏マッサージなどで、施術の結果から考えて（私に言わせればですが）”それってどうよ？”という気がしないでもない高額な価格設定の業者が珍しくなかったりします。　それでいて、実際に雇われて足裏マッサージをしている現場の子たちの多くが、実は正社員ではなくアルバイト扱いで手にしている時給が数百円単位である　・・・　下手をするとスーパーでレジ打ちをしている方が時給が高い　・・・　という業者がこれまた珍しくないという話は、なかば都市伝説となっています。　考えてみれば、”そうだ、足裏マッサージの店を開いて、直営店を経営したり、フランチャイズを含めてチェーン展開しよう！！”と考えたとすれば、実際に仕事をする一定水準の技術を持ったスタッフが必用なわけで、本来は、事業主が金を払いながら育てていくのが筋なわけです。　が、足裏マッサージに限らないのですが、”卒業後は、独立開業したり、本部直営店のスタッフとして働くことができます　・・・”とかなんとかアナウンスして、将来のスタッフ候補生というか正社員希望者から金をとって技術などを教え、その中から一定の条件を満たしている人をスカウトし、残りは”各自でがんばってください”で放り出していくといった大がかりなシステムを構築している業界は幾つか実在します。　そういった組織を経営学的に見ていると、ベースになっているのは、コンビニ経営や居酒屋チェーンなどとも共通するフランチャイズの開店ノウハウではないのかという気がしないでもないのですが、例えば、仮に１時間で３０００円の利益が生じたとして、実際に足の裏を揉んでいるスタッフは時給１０００円以下で固定され、実際に経営している店舗が１５００円以上、上部組織が５００円で固定といった収奪構造がそこに発生しているとすれば、まさに現代版の女工哀史の世界がそこにはあることになります　・・・　あくまで仮定であって、実際の取り分比率がどうなっているかは知りませんが（笑）。　ましてや、スタッフを養成するというか、自腹でスタッフになる資格を習得したがる人のための学校組織を自前で持っていれば、現場のスタッフが疲労などから潰れても次々と新しい子が補充されていくわけで、どちらかといえば一定の割合でスタッフが潰れてくれないと、新しい子に紹介できる職場が無くなると考えているのではないかという噂が流れている業界は実在します。　そう考えていくと、法の華三法行の失敗というのは、あまりにビジネスのシステムが幼稚だった事が原因と言えなくもないわけで、”体の一番下に位置する足の裏には人生の因果が集約されている。そこに現れる歪みを解きほぐしていくことで因果が解消され健康にも繋がっていく　・・・”とか”修行者は、悪因縁に苦しめられている人の足裏を解きほぐす事で自らのカルマも解消されていく。他人の業をほぐすということは自らの業をほぐすことでもあるのだ　・・・”とかそそのかして、一度の施術で３０００～５０００円くらいの価格設定にしておけば、それほど欲張らなくてもシステム化のやり方次第で恒常的に大儲けできたのではないかと。　もっとも、こういった話を常連さんとしていると、”なんで先生は、そうしないんですか？”と聞かれる事があるのですが、自分で”真顔でこんなことを口にするには、あまりに嘘臭せ～理屈だこと　・・・”と思って顔や態度に出てしまう自覚があるからではないかと　・・・　やっぱ人には向き不向きがあるということでしょう（大笑）。　それはともかく、数百年の昔から宗教団体の収入源の一つである、お札やお守りの類にしたところで、原価が数円から数十円程度のモノを、数百円から数千円で販売している事が珍しくないわけで、要はシステムとしての完成度が低いからトラブルが生じているわけです　・・・　良くも悪くも。　少なくとも、足裏マッサージ業界で知らない人はいない某組織のトップたちが、国の内外に別荘を持ち、数億円を超える資産を合法的に手にした事は有名な実話ですから、新興宗教などで比較的耳にする事が多い詐欺呼ばわりされる事が珍しくない客単価が異様に高い経営というか営業というのは、大正や昭和の初期くらいの新興宗教関係の経営モデルから進歩していないだけなのかもしれません。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２８０話（2008/09/11）

  2008.09.17

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• 富士山の闇

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２７５話　「富士山の闇」　富士山に関しては、昔から都市伝説めいた話が多く、現代でも、青木ヶ原の樹海や富士山の麓で人気があまり無いような場所には、自殺しようとして死にきれずにいる人達が集落を形成したり溶岩洞窟などに住み着いているという話があります。　ちなみに、そういった集団の主産業は”松茸の栽培と販売”という説もあり、実は既に松茸の自然林を利用した人口栽培は実用化されていて、値崩れを避けるためと、栽培方法や栽培地を秘匿するために、そういった世捨て人達の集落で以前から栽培されている　・・・　という、微妙～に信じたくなるような都市伝説の続きもあったりはします。　最近では、漢方薬の原料としてツチノコの養殖も行われるようになり、一匹単価は百数十万円であるとかいった噂も囁かれるようになっているのですが、そもそもの（天然物の）捕獲や養殖技術は、樹海や山岳地帯を生活圏としていたサンカ（”山家”と書く場合もある）のノウハウであり、未だにサンカ衆は山岳地帯や樹海などを縦横無尽に行き来している　・・・　物品の運び出しや販売もサンカ衆の裏ルートで行われているという、これまた微妙～に嘘臭い解説が付く場合もあります。　まあ、サンカの存在そのものが、ある意味で言い出しっぺの柳田圀男の時代でさえ仮説の域を出なかった事ではないかと思うのですが、彼らが存在しないことの証明は不可能に近い難事でしょうから、伝奇ＳＦ小説などでは定番のネタにはなっています（微妙～）。　それはさておき、富士山ですが、富士山には富士山信仰というものが起源が定かではないほど昔からあり、”不死の山”から転じて”富士の山”となったという説は竹取物語（いわゆる”かぐや姫”の元本）にも採用されているという話は以前にもしたことがあります。　もっとも、竹取物語では、エンディング近くで、かぐや姫がお爺さん、お婆さんの為に残した不死の薬を、お爺さんお婆さんに依頼された帝（の家来でしょうねえ）が月に一番近い山の頂上で燃やしたことから不死の山となったようですが　・・・。　あまり良くわからない辺境の地ということもあったのでしょうが、古来中国では、日本を不死の国ではないか（と疑い）、富士山を蓬莱山ではないかとする説が何故か存在しているのですが、なぜに彼らが大陸の西域の山岳地帯ではなく、東の海の果てに浮かぶ日本に仙境の類を想定するようになったのかは定かではありません　・・・　まあ、現在は伝わっていない中国版の東方見聞録とでもいった本（というか記録）が話題になったことがあったのかもしれませんが。　富士山の麓にはかって古代王朝があり、火山の噴火などで短期間（場合によっては短時間）で壊滅したのではないかという話は以前にも富士古文書群と絡めて少ししたことがあるのですが、日本史では黒歴史になっている大和朝廷が成立する以前の王朝が東日本には複数存在した可能性はかなり高かったりします。　このあたり、現在でも東海地震などの大規模地震による被害が想定されている地域とも重複しますし、過去には浜名湖と太平洋を隔てていた砂州が大規模地震で沈降というか崩壊してしまって湖と海が繋がったりもしたわけですから、過去の大規模地震や火山の噴火などで当時の文明が根こそぎにされていてもさほど不思議ではないのではないかという気がしないでもありません。　安東氏の事例のように、大規模地震とそれに伴う大規模な津波の襲来は沿岸部の拠点を根こそぎにして壊滅させているわけですし　・・・。　そもそも、富士山界隈には奇妙というか起源が定かではない信仰が幾つか存在していたようで、その尻尾のようなものが、江戸時代に流行した富士講（ふじこう）あたりになるとされているのですが、そもそもがよくわかならいということは確かだったりします。　大和朝廷の記録では、富士山の本来の神様は”浅間大神（あさまのおおかみ）”とされているのですが、これは孝霊（こうれい）天皇の時代に富士山が大噴火し垂仁（すいにん）天皇の時代に祀ったとされ、８０６年に坂上田村麻呂が浅間神社（せんげんじんじゃ：富士山本宮浅間大社）を造営したとも言われています。　が、御山としての富士山の開祖ということになると、富士山の人穴でも修行したとされる角行（かくぎょう）とされ、修験道やら浄土信仰やらいろいろ混ざっていったようで、前述した富士講までくると信仰というよりも娯楽を兼ねるようになったのかなと。　以前、出羽三山の即身仏の話をしたときに、即身仏そのものが熱烈な信仰の対象となったというあたりまでは書いたのですが、やがては、即身仏が信者獲得の手段へと変貌し、即身仏になることを暗に強制された僧侶や修験者が出るようにまでなっていたようで、富士山信仰においても、六代目になる身禄（みろく）は、富士山の山頂で即身成仏を遂げてから後の方が（爆発的といってもいいかもしれませんが）信者が増加したようです。　ちなみに、江戸時代には富士講が行われるようになったとはいっても、そうそう簡単に一般人（特に女や子供、高齢者など）が長距離の旅をすることはできませんでしたから、江戸時代の中頃には、御府内の浅間神社の境内などにミニチュアの富士山を築いて”富士塚（ふじづか）”と称し、富士塚に登ることで富士山登山というか富士山信仰の代用としたりもしています。　もっとも、加熱しすぎた富士山信仰になにやら危機感を抱いた幕府は、富士塚を壊したり、あれやこれやと弾圧といえば弾圧、規制といえば規制を加えたようです。　なお、富士塚が富士山の山岳信仰としての行き着いた果てとすると、もう一つの富士山信仰とされる人穴のような溶岩洞窟を信仰する洞窟信仰が存在するのですが、長くなってきましたので、その辺りはまた別の機会に　・・・　書くことがあればですが（笑）。　 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２７５話(2008/09/05)

  2008.09.11

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• 読経と怪談

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２５９話　「読経と怪談」　怪異現象に遭遇したときに、御経を唱えて難を逃れたという話と、御経を唱えたけれど効果がなかったという話があります。　まあ、潜在意識のレベルで御経の効能を信じていない人が御経を唱えても、流行歌を歌っているのと大差が無いといえば無いのですが、逆に言えば、適当な歌（唄）でも念がこもっていればそれなりに効果があることになります。　この辺りのことは、”放歌の効能”の回でも少し触れたのですが、結局は念と念とのぶつかり合いになるわけですから、御経だけに効能があるというわけでは無いと言えます。　例えばキリスト教の聖歌にしたところでそれなりに魔を退けていますし、一人よりも二人、二人よりももっと多くで歌うことで念が強化される傾向があるようです。　もちろん、”これだけ大勢で歌っているのだから自分一人くらいは手を抜いても　・・・”とやらかす人が混じっている場合は、それなりの結果が待っているとは思いますし、信仰を伴わない歌唱と風の音にそれほどの差があるとも思えません　・・・　まあ、信仰を過大評価する気はありませんが。　逆に言えば、特定の資質を持ったアイドルが歌う歌や、アイドルがファンと一体になって数万人を越える規模で歌っているときのパワーというのは未熟な坊主が下手な御経をひとりで淡々と上げているよりも強力なパワーを出しているということになります。　また、ハッピーな歌を歌えばハッピーが、元気を奮い起こす歌を歌えば元気が湧いてきて、魔を退ける歌を歌えば魔が退く事が多いのですが、神への賛歌があれば悪魔への賛歌もあるわけで、歌うことで発生したエネルギーがどちらへ向かうかは歌っている人達やリードする人の想念に左右されることになります。　怪異談では、金縛りにあって、何か幽霊のようなものが近寄ってくる気配がしたので、必死になって目を閉じて御経を唱えたけれど、顔のすぐ横まで気配が近づいてきて”そんなもの効かない　・・・”とぼそっとつぶやかれて気絶したとかいった話が一つの典型になっています（笑）。　或いは、怪異現象が絶えないのでお祓いをしたり、坊主に拝んでもらったりするのですが、神主が祝詞（ノリト）を奏上すれば祝詞が、坊主が御経を上げれば御経が途中から誰かと輪唱しているように聞こえ、神主や坊主たちの方が競り負けて倒れてしまう話もあります。　特に、法力の”力”を追求しすぎて魔道や外道に墜ちた坊主が死んだ場合、死んだ後に悪鬼羅刹の類に変成する事があり、そうなると退魔の坊主としての知識や法力を平均以上に持った魔者が誕生することになるのですが、こうなると生半可な坊主ではどうこうできないようです。　この手の話は昔から意外と多いといか、現在進行形だという話もあるのですが、より強大な法力を体得している坊主に頼るか、何人かがチームになって封じるくらいしか対策が無いようです。　滅するのではなく封じた場合は、その封印を保つために、一定の儀式を定期的に行う必用がある事が多く、それが”祭り”や”集落固有の特殊な儀式や習慣”となっていることもあるようです。　要するに、微弱な霊力であっても、何十人、何百人でかかれば押さえて封じ続ける事くらいはできるということで、封じ続けている内に浄化されていく（こともあるだろう）ということのようです。　問題は、最近は過疎化の進行や若い世代の宗教離れが進行していて、廃れてしまった祭りなどが次第に増加していることで、あちこちで綻んでいるのではないか？ということ。　いずれにしても、物騒な場所には近づかないに越したことはないのですが、怪異談の一つの法則として、怪異が起こるとか幽霊の類がよく目撃されるとかいった場所を訪れたときに、途中で誰にも会わなかったのに、束で燃えている線香が供えられていたとか、人気が無い場所なのにどこか遠くから読経の声が聞こえた（気がする）ときは、いろいろな意味で”当たり”だそうです。　私的には、”当たり”に憑いてくるものを、訪問した人達がお気に召すかどうかまでは知りませんし、そんなところへ興味本位で近づく人の神経が良くわかりませんが　・・・。　そう言えば、下手に般若心経などを写経していると浮遊霊の類が寄ってきてかえってトラブルが増加するという説もあります。　その為か、写経というのは、最初に決めた○百部を書いたら、一定の手順で焚き上げたりお寺に納めて処理してもらうべきで、何時までも手元に置いておくようなものではないという人も珍しく無いようです。　このあたり、最初に決めた部数を書き上げる事が願掛けの満願に相当すると考えると分かりやすいのですが、そう考えると、途中で写経に飽きて止めてしまうことが一番トラブルを呼ぶことになるのかもしれません。　いろいろな意味で、中途半端な信仰くらい役に立たないものは無いということで、それくらいなら念のこもったお守りや数珠といった霊的護身グッズの方がよほど役に立つのかもしれません　・・・　・・・　ちなみに、きちんと念が込められたり浄化されている霊的護身グッズに、雑誌の裏表紙などによくある通販コーナーなどでは遭遇したことが今のところありませんが、あのキャッチコピーには面白いものが多いなと（笑）。　ま、その辺りのことはまた機会があればということで、今回はここまで。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２５９話(2008/08/18)

  2008.08.23

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• イエスの遺灰

  一夢庵　怪しい話第３シリーズ　第２３０話　「イエスの遺灰」　キリスト教徒以外が謎に思っていることの一つに、処刑されたイエスがどこに葬られたのか？という事があるのですが、キリスト教徒にとってはイエスは復活したことになっていますから、仮に一時的に埋葬されていた場所と言い換えてもいいかもしれません。　このあたり、磔（はりつけ）にされたキリストの脇腹を刺して息の根を止めた処刑用の槍が”ロンギヌスの槍”で、槍で突かれてイエスから流れ出た血をイエスの家族の女性たちが受け止めたのが”聖杯”、十字架から降ろされたキリストの遺体に掛けられた布が”トリノの聖骸布”といった具合に、当時は珍しくもなんともなかったであろう道具類が聖遺物と称されることとなり、さまざまな伝説を産みだしていくこととなります。＊　聖杯に関しては、最後の晩餐でキリストが葡萄酒を飲んだコップという説もあれば、両者が同じモノであるとする説もある。　ただ、不思議なことは、”生前にイエスが日常的に愛用していた道具や衣類”の類に関する伝承や、残されたであろうイエスの家族たちに関する記録が皆無に近いことなどにキリスト教関係者が言及しないことがあるかなと。　このあたり、イエスの死後、その家族集団と、高弟集団に分派し、高弟集団が自らの正当性を主張するために家族集団に関する事象を計画的に抹消していったという説があるくらいで、この手の内部抗争は、日本の新興宗教などでも初代の開祖が死んだときに、教団経営を直系の血族が担うか、高弟達が担うかで揉める事が珍しく無い光景を思い浮かべれば足りるのかもしれません。　世界的なベストセラーになった”ダヴィンチ・コード”では、イエスは結婚していて子供もいたとか、少なくとも（イエスの子供かどうかはともかく）イエス・キリストの一族の血統が初期の仏蘭西王朝に混ざっているといった仮説が前提となっていて、カトリック教会を含むキリスト教系の団体の立脚点に暗部があることを暗示しているわけです。　このあたり、イスラム教の方が過激で、スンナ派（正統派）とシーア派（マホメットの女婿を正統とする）の対立も、煎じ詰めれば高弟達が組織として継承するか、家族が血統として組織を統轄するかという勢力争いが根底にあり、両者の間で大規模な殲滅戦が行われた事が記録に残っているのですが、その辺りのことはまた別の機会に。　それはともかく、新約聖書を旗印に”自分たちこそがキリストの正統な弟子である”とイエスの生前からの高弟達が主張するのはまだわからないでもないのですが、最大の問題は、キリスト教を組織化した人達というのは、キリストの死後、あるいはキリストが処刑されたことに触発されて教徒となった人達であって、生前のキリストとは面識が無いケースも珍しく無かったりします。　逆に言えば、キリストの家族達どころか、キリスト生前からの高弟達とも接触が無かった可能性さえもあるわけで、知れば知るほど首を傾げる話が多くなっていく原因が少なからずそのあたりにもあるような気が（私は）しています。　このあたり、キリスト教に関しては、新約聖書が聖典とすれば、偽書、偽典とされる幾つかのイエスに関する記録や、死海文書のように全てが公開されずに判定もされていない資料群が存在するという話はこれまでにも少ししたことがあります。　そうした異端の書物の一つの頂点として知られているのが”フィリポの福音書”で、１９４５年にエジプトのナグハマディで発見された古代エジプト語の書物群の中から発見されています。　同じ書籍群からは”トマスの福音書”も発見されたのですが、フィリポの福音書が有名になったのが、”（母）マリアが精霊によって（イエスを）身ごもったと言っている人がいるが間違っている”とか”イエスの伴侶はマグダラのマリアである”と、主流派のキリスト教徒としては受け入れがたい内容が含まれていたためだったりします。　もっとも、バチカン関係者を震撼させている遺物で最大級の未公認物件といえば、死海文書やフィリポの福音書などもさることながら、１９８０年にイスラエルのタルピオットのマンションの工事現場で発見された墓所から出てきた、いわゆるキリストの骨箱（骨壺と訳している資料もある）の存在だったりします。　骨箱というのは日本人には馴染みが無いのですが、一種の風葬に近いのですが、人が死んだら骨になるまで数年単位で墓所に放置しておいて、墓所に本格的に埋葬するときに、骨をあらためて納めた箱のことで、日本では一般的な火葬した後に骨を（一時的に）入れる骨壺とは異なります。　ちなみに、この墓所からは１０名分の骨箱が出ているのですが、アラム語で書かれた名前が判明しているのが、”イエス、マリア、マグダラのマリア、マタイ、ヨセフ、イエスの息子ユダ”の６名分だったりします。　さすがに、”イエスの息子ユダ”という記述には”まさか　・・・”という意見が多かったようですが、２００７年に、骨に残されていたわずかな筋繊維などを使ってＤＮＡ鑑定を行った結果が公表され、少なくとも、この墓所に納められていたイエスとユダの間には血縁関係があったようです。　もちろん、懐疑派は、発見された骨箱に刻まれていた名前は（当時既に）一般的なものであり、たまたま同姓同名の家族がいたというだけのこと　・・・”と主張しているようです　・・・　この理屈でいけば、同じような墓所がもっとゴロゴロ出土しているような気が私はしていますし、イエスの息子にユダと名づける神経というのもいかがなものがと（笑）。　ただし、確かにマリアという名前の女性は、新約聖書の中で、イエスの母、マグダラ、ヤコブの母、ヨセの母　・・・　と、いった冠付きで複数人が登場しますから、同姓同名説に根拠が無いわけではもちろんありません。　ユダの最後も、首を吊って死んだ事は記録されていても、その後、ユダの死体がどうなったか？に関しては記述が無く、その最後が不明瞭であるが故に、いわゆる”ユダの福音書”の実在が根強く（一部で）囁かれていることは御存知の方もおいでかもしれません。　ユダに関しては、イエスの息子説だけでなく、イエスの愛人説もあるくらいで、いわゆる十二使徒の中で一番イエスに近かった弟子であり、後継者候補ＮＯ．１だったとすれば、キリストが逮捕されたどさくさに紛れて暗殺され”師を裏切った”という汚名を着せられた可能性も否定できないかなと。＊　銀河英雄伝説風に言えば、”教団のＮｏ１とＮｏ２を同時に欠く事態”に陥ったわけです。　それはともかく、判明した６人の中にヨセフの名前があったのも意味深で、羅馬の提督ピラトにかけあって処刑されたイエスの遺体を引き取った男の名前もヨセフですから、仮に同一人物だとすると、マタイ伝だとヨセフも弟子だったということになっていますが、特にキリストの高弟というわけでもない地元の有力者（議員であったとか大金持ちであったとかいった記述は聖書の他の伝にもある）がイエスの遺体を引き取ったことになり、その男と同じ名前の骨箱が出土したということは、イエスの処刑後はヨセフが残されたイエスの主な家族達を保護し、その死後はヨセフ家の墓所で弔っていた可能性さえあるのではなかろうか？　少なくとも、イエスの死後のヨセフの義侠心に富んだ行動や、マグダラのマリアなどのイエスの家族達のイエスの処刑前後の肝の据わった行動などと、イエスが逮捕され処刑された後も大半が逃げ回っていた十二使徒たちの行動を比較するとき、なぜ、十二使徒に代表されるキリストの高弟達とイエスの家族達との関係が疎遠になったのかはわかる気がしないでもない（笑）。　なお、十二使徒というのは、本来はイエス・キリストに選ばれて福音を宣べる事を託された高弟達のことで、ペテロ、ゼベダイの子（大）ヤコブ、福音書記者のヨハネ、アンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの子（小）ヤコブ、タダイ、シモン、イスカリオテのユダということになっています。　ちなみに、イエスの死後は十二使徒の定義に紆余曲折があり、ユダではなくマッテヤが十二使徒とされたり、パウロやイエスの弟（従兄弟という説もある）ヤコブなどを使徒として加える政治的な改変が行われています。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２３０話(2008/07/15)

  2008.07.21

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• ヘソ祭り

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２２０話　「ヘソ祭り」　記憶が確かならば、”ちびまるこちゃん（さくらももこ）”の作中ギャグというかなんというかは微妙ですが、「チョロがまいりました」というのがあります　・・・　たぶん（笑）。　漫画の中で描かれていたチョロは、いわゆる”ちょろけん”の事だと思われるのですが、”ちょろけん”そのものが昭和の初め頃まで見られた京都界隈の正月の門つけの一つだったようですから、意外と高齢なんだと妙な納得をした覚えがあります（大笑）。　元々の”ちょろ”の語源は七福神でおなじみの”長老君（福禄寿＝寿老人）”だそうで、確認できている範囲では江戸の中期頃に、長谷川光信の「絵本家賀御伽」などによれば、福禄寿のコスプレということで長い頭の張りぼてをかぶり、唐人服に唐団扇を持って、三味線や太鼓の囃子で踊っていたようです。＊　寿老人と福禄寿は南極星の化身とされ、同一神として処理されている事が多いのですが、その辺りのことは長くなるので略。　この手の事は”他より目立ってなんぼ”ですから、時間が経過すればするほど奇抜な出で立ちや奇矯な振る舞いをするようになっていく傾向があるのですが、逆に言えば、時代が下がるほど、自分たちがなんでこんなことをやっているのかやっている当事者達が良くわからなくなっていく傾向もあります（笑）。　実際、広辞苑などに掲載されている図などを見る限り、大正から昭和の頃の”ちょろけん”から福禄寿を連想するのはいささか困難な気がするのですが、籠で作った大きな張ぼてを頭に見立て、そこに大きく顔を描きそれを頭から被っています。　このサイズですと、張りぼては頭から腰の辺りまで覆うようになるのですが、結果的に、張りぼての耳のあたりから両手を出すのが基本スタイルになっていたようです。　で、なぜに手を出していたかといえば、手に先端をささらにした青竹（割り竹）を持って、それで地面を叩きながら踊っていたからなのですが、踊り歩いている”ちょろ”の後からは、目鼻を描いた麻布で顔を隠した付添いたちが、三味線を弾いたり太鼓を叩いたりしながら「ちょろが参じました～、大福ちょろが～」と唱えながら一緒に練り歩いていたようです。　一応、初春の喜び事といいましょうか、新春の除災招福の詞にあわせて面白おかしく踊り歩き、その芸に対して御祝儀を貰っていたようですから、獅子舞や猿回しなどと基本的には同じ（季節限定の）大道芸の一種と言っても良いようです。　ちなみに、餅や銭を付添いの男に渡すと、報謝をした家を一軒ずつ訪れて芸（？）を見せていたようですが、別にリクエストが無くても、大店など御祝儀が出そうな家の前で”ちょろが参じました～”とやって御祝儀をねだったり、興が乗れば無料で道端の子供を追いかけたり、見物している若い娘にちょっかいを出したりと、まあ、何時の世もやるようなこともやっていたようです（笑）。　まあ、ぱっと見た目のインパクトが大きければそれで良く、獅子舞や猿回しのような特殊な訓練が必用なわけでもなかったことから、その多くは地元の小遣い銭目当ての若い衆達が正月の暇つぶしの余興半分に演じていた地域が多かったようで、京都界隈でも”まったく知らない”という人も珍しくない地域限定の御当地芸だったようです。　この手の正月の滑稽事は、戦争が本格化してくると当局からの締め付けが厳しくなっていったこともあって姿を急速に消していくことになるのですが、”国運をかけて戦争をしているのに、ふざけた格好をして踊り歩いて楽しむとは不謹慎だ！”と言われても、個人的な恨み辛みのない相手を殺傷する戦争を真面目にやる方が、よほど命というものに対して不謹慎な態度ではなかろうか？　それはともかく、この”ちょろ”というのは、素人でもできてぱっと見た目のインパクトが凄いわけですから、”簡易版ちょろ”といいましょうか、腹に大きく顔を描いて踊る宴会芸というか、特に意味のない一発ギャグである”へそ踊り”の元になったのではないかと私としては愚考していたりします　・・・・　具体的な根拠があっての話ではありませんが。　というか、お座敷芸としても知られる”野球拳（やきゅうけん）”の起源がはっきりしているのに対して、”へそ踊り”の起源は今ひとつはっきりしておらず、類似しているのは”ちょろ”くらいしかないという程度の淡い根拠はあるのですが（笑）。　”へそ踊り”といえば、毎年６月、秋田市河辺地区で催されてきた「へそまつり」が、２００８年から市が補助金を打ち切ったため中止となったそうで、メインイベントの音楽に合わせて踊りを競う”へそ踊りコンテスト”は２００７年が最後となったようです。＊　ヘソ踊りを地域のイベント祭りにしている地域は意外と多く、北海道の”北海へそ踊り大会”などは有名。　もっとも、この「へそまつり」の起源は１９８６年と比較的浅く、秋田市河辺地区が秋田県の中心に位置すると主張して地元住民らが始めたイベントなので、”ちょろ”との直接の関連は皆無だったりします。　ちなみに、祭りを訪れる人は年々増えていたそうで、ここ３年間は会場の「へそ公園」に毎年約８千人程度の集客があったそうですが、平成の大合併ということで、河辺町が秋田市に合併されたことで、旧川辺町が負担していた１００万～１３０万円程度の資金を秋田市が２００８年からは出さなくなったというのが経緯になります。　正確には、合併後の２００５～２００７年の間は、河辺・雄和地域のイベントを支援する「地域個性発揮事業」の一環として、３年間の期限付きで秋田市は年１３０万円を補助しているのですが、４年目からは自立しろということで補助金を打ち切ったということになります。　なお、秋田市の言い分としては、「市の補助金は３年間で財源確保の手法を固めてもらうなど地域の自立を促す目的があった。補助金がなくても町内会で行っている催しもある。今後は情報提供など、支援できる面については検討していきたい」とのことで、秋田市が金銭的な面でも更なるテコ入れをしたり、行政も参加して地元のＴＶ局やラジオ局などを巻き込んで大規模な金がとれるイベントに育てる気はさらさら無いようです。＊　一般論として、”前例が無い”事に熱心な行政組織というは珍しく、”やらない１０の理由”とかを考えるのに熱心な行政組織が今も昔も珍しくない　・・・　ような気がします（笑）。　秋田市が拠出を止めた補助金の１３０万円という金額は、平均的な市職員１人分の期末手当（民間でいうボーナス）よりも下手をすると少額ではないのか？と邪推しているのですが、全国の第３セクター事業などで見られるように、行政が”私がやります”とか”これで（地元の）経済が活性化します！”とか主張して立ち上げた事業の大半が巨額な赤字を発生させて財政を圧迫していることから考えれば、日本の行政組織に経済性とか経営能力とか先見性を求める方が悪いのかもしれません。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２２０話(2008/07/03)

  2008.07.09

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• なまはげ

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２１８話　「なまはげ」　ナマハゲといえば、北海道のローカル番組にして首都圏Ｕ局系を席巻した”水曜どうでしょう”の中で、スズムシとかＣ級タレント呼ばわりされることもあった大泉洋が、”どうでしょう祭り”などの番外企画でナマハゲに扮装して踊った光景が思い浮かぶのですが、かなりアレンジされていた気がしないでもありません。　そもそもは、大晦日に秋田県の男鹿市と三種町、潟上市の一部の地域で各家々を廻って行われる伝統的な民俗行事に登場する鬼がナマハゲということになります。＊　というか、そもそも論を言えば、本来は小正月（旧正月の１５日）の夜の行事になるそうです。　鬼の仮装をして子供を脅す印象が強いのですが、本来の”なまはげ”の行事では、数柱のナマハゲ様が家に押し入って来て、ナマハゲ台帳を元に一家全体の素行について家の主に意見をし、１年後に改善されているかどうかを確認しにくることを約定して立ち去るのが大筋になります。　つまり、子供だけでなく、オトナ達の不行跡も指導する行事なわけで、生身の人間が意見すると波風が立つところを、”なまはげ”という神の化身が意見をするのだから反論を許さないという状況を作った上で、地域社会の総意として改善を求めているところがあるわけです。　これに対して、一定の形式に従って、家の主は正装をして出迎えて問答の受け答えをして”来年までには　・・・　させておきます。”と断りを入れたり、食事を出して接待をし餅などの土産を持たせてお帰りを願うのですが、祭りの形を借りて、地域社会を円滑に運営することに一役買っていたことは間違いないだろうなと。　特に、子供や初嫁がナマハゲ問答の対象となる事が多く、子供の場合は、悪さをしないようにオトナの言うことを聞くように脅し上げる事が主目的だったことでしょうし、初嫁の場合は一家の一員に溶け込ませる事が目的だったのではないかと考えられます。　また、オトナの場合でも、”怠け者”と台帳に記載された家族がいた場合はナマハゲ問答の対象となっていて、このあたりが、閉鎖的な地域社会で波風をできるだけ立てずに社会復帰させる事がナマハゲの目的に含まれていたのではないかという論拠になります。　それこそ、母親の腹の中にいるときから知っている人が多いような狭い地域で、面と向かって”怠けていないで働け！”とか意見すれば、波風が立って気まずい思いをするのは必至なだけに、ナマハゲ様が長らく活躍されているのではないかと。　逆に言えば、東京などの見知らぬ人同士が隣に住んでいる上に、比較的短期間で転居する事が多い都市圏でナマハゲの行事は成立しにくいところがあります。　ただ、ナマハゲの服装を見る限り、雪山から下りてきた山神の一種と考えるのが筋でしょうし、神様が春の始めに来訪して祝福するという信仰が根底にはあるとされていますから、節分のような節季の行事が特化した側面もあるかなと。　多くの地域で現在も続いている、節分の夜に”鬼は外！福は内！”と豆を蒔くのも節季の、古くは”追難の鬼”に遡る、行事なわけで、奈良や京都にあった中央政権の支配下では追われる立場となっている鬼たちが神として振る舞い信仰されているということは、ナマハゲの由来がかなり古いものであることを暗示しているのではないかと思われます。　そもそものナマハゲの語源は、冬に囲炉裏にあたっていて手足にできる火傷を「ナモミ」と呼び、（ナモミが出来るほど火にあたっていた）怠け者のナモミを剥いで怠け者を懲らしめた「ナモミはぎ」から「ナマハゲ」と呼ばれるようになったという説が一般的なようです。　が、先住民や漂着した異人達の言葉などが変化していった可能性もあり、津軽外三郡史や安東一族などの存在から考えても、少なくとも鎌倉初期くらいまでの間は別の政治勢力が存在し、独自の文化圏を形成していた可能性が高いのではないかと私は考えています。　したがって、本来のナマハゲの行事は、九州などにも類似した行事があることからしても、先住民にとっては割とポピュラーな行事が少ずつ形を変えながら中央政権の影響を受けにくい地域で少しづつ形を変えながら継承されていった可能性もあるかなと。　もっとも、主神の座から追われた土俗の神が悪鬼と化していくのは洋の東西を問わない現象で、近年は”ナマハゲ”も堕落が始まったようで、2008年に入り、飲酒して酩酊状態となったナマハゲ（に扮した男性）達が温泉旅館の女性浴場に乱入し、痴漢行為で全国ニュースになったわけで、神さえも指針を無くした国ということになるのかもしれません。　少なくとも、神様の行動の指針を市の行政役人たちが決めるという奇妙な光景がそこにはあるわけで、その内、ナマハゲ達は、右手に包丁、左手に六法全書を持って役所が事前に設定したスケジュールに沿って家々を訪問するようになるのかもしれません　・・・　神も滅びるときに滅びるべきだという事なのかもしれませんが。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第２１８話(2007/07/01)　

  2008.07.07

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• 沖縄ソバ

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第１９７話　「沖縄ソバ」　沖縄ソバの歴史は沖縄の食文化の歴史ということにもなる（６００年以上遡る事ができるという説がある）のですが、勇気があるなあと思ったことの一つに、沖縄ソバのカップ麺の存在があります。　御存知のように、沖縄ソバはソバといいながら、麺にかん水を使っていることや、そもそも蕎麦粉を使っていないことから中華麺に分類されていますし、現実問題として、ラーメンのカップ麺と沖縄ソバのカップ麺との間にほとんど差が無いように（私には）思えました。　そもそも、小麦がとれない沖縄で小麦粉を使った料理は貴重品というか高級料理に属していて、沖縄ソバも琉球王朝の接待料理の一つだったという説もあります。＊　琉球王朝時代の沖縄ソバのレシピは現存しないそうです。　もっとも、明治の終わり頃に沖縄に来た宮崎県出身者が那覇に支那そば屋の”観海楼”を開き、それが沖縄ソバの直系の先祖であるという説が支持されているようです。　いずれにしても、大正の頃には大衆料理の一つになっていたようですから、現在の沖縄ソバの原形は、琉球王朝に求めるよりも、明治末期から大正にかけて沖縄の民間の間で次第に形成されていったと考えた方が無難なようです。　当初の沖縄ソバは、醤油と豚肉のスープが主流で、具も豚肉とネギ程度という当時の支那ソバと大差が無いものだったようですが、徐々に沖縄特有のアレンジが加えられていき、薬味にコーレーグース（島唐辛子泡盛漬け）が採用されたあたりが一つの転機になったのではないかと思われます。　ただ、この戦前の食文化は沖縄で激しい地上戦が行われ民間人にも多数の犠牲が出たこともあって、必ずしも戦後の沖縄ソバとイコールとは言い難いところもあるそうですが、三枚肉（ラフテー）、島かまぼこ、ネギ、紅生姜という基本的なスタイルは戦前に登場していたようです。＊　沖縄地上戦で全てのそば屋が壊滅したとされている。　また、沖縄出身者曰く、”戦後に米軍がもたらした食糧の代表は、小麦粉とスパム”だそうで、沖縄ソバが戦後の早い時期に復興した背景には米軍が小麦粉（とスパム）を大量に供給したこともあったようです。　いずれにしても、沖縄ソバ特有の鰹や昆布をベースにした和風出汁が定番となり、豚の三枚肉、紅生姜、かまぼこ、ネギといった具材などが定着したのは戦後の復興期以降の事にはなるようです。　まあ、沖縄以外の出身者にとっては、”沖縄ソバ”ですが、沖縄では”ソバ”とか”スバ”と言えば沖縄ソバの事だそうで、昭和４７（1972）年に日本に返還されたあたりで、”沖縄ソバ”という呼称が一般化したようですが、逆に言えば、米軍占領下では日本特有のラー麺文化とは隔絶していたわけで、その間に固有の麺文化としての発展を遂げたとも言えるわけです。　ちなみに、巨大なあばら肉が載っているのが特徴の”ソーキそば”の誕生は、返還後の昭和５０（1975）年の事だそうで、名護のそば屋さんが考案したものが広まったとされています。＊　元祖と本家問題がソーキそばにもあるようで、”丸隆そば”と”我部祖河食堂”の二説が有名だそうな。　その意味では、沖縄ソバも日々進化を続けているのですが、日本蕎麦でもなく中華蕎麦でもなく長崎チャンポンでもなく、沖縄ソバは沖縄ソバという一つのジャンルになっているのは確かな事ではないかと。　また、戦前から海外への移民が珍しくなかった沖縄だけあって、沖縄そばの店はブラジルなど日系移民の住む国にも存在し、沖縄出身の移民が多い地域には沖縄ソバありということになっているそうな。　なお、家庭でインスタント沖縄ソバを作るときなどは、三枚肉の代わりにスパムが浮かぶことも珍しくないという。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第１９７話(2008/06/06)

  2008.06.12

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• 寛永寺

  一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第１３７話　「寛永寺」　上野の寛永寺が江戸城から見て鬼門の方向にあり、鬼門封じの呪が寛永寺を中心に上野界隈に施されている（のではないか）という説は根強くあるのですが、不忍池の形状の変化に見られるように、当時と同じかどうかは微妙～な話になっているかもしれません。　上野の寛永寺は、東京都台東区上野にある天台宗の寺で、正式には東叡山寛永寺円頓院ということになるのですが、名前からして、東の比叡山の寛永寺という位置付けである事が宣言されていたりします　・・・　規模は小さいですが。　徳川幕府の初期に暗躍する天海の仕切で1624年着工して1698年に根本中堂が完成して一段落しているのですが、京都の御所から見て鬼門の方向になる比叡山との関係にならって、江戸城から見ての鬼門である上野忍ヶ岡に建てた　・・・　事になっているのですが、寛永寺と江戸城の間にある神田明神も鬼門封じになっているという説がありますから、果たして、どちらが本命だったのか？私的には興味があるとことです。　もちろん、天海が二重三重に呪を施していたとしてもそれはそれで納得するのですが（笑）。　それはさておき、寛永寺は1654年に後水尾天皇の皇子守澄法親王が日光山と寛永寺を統括する座主(ざす)となった事で、輪王寺宮とか管領宮とか日光御門主などと称されることもあったようで、江戸の寺社の中でも別格といえば別格の寺の一つと言えます。　一種の国策事業だったこともあり、各大名の寄進で創建時に３６堂を建設し、その段階で既に別格の光景が広がっていたと言えるのですが、東京の街を御存知の方には説明するまでもなく、関東平野というだけあって、峻険な山というのが都心にはほとんどありませんから、上野程度の盛り上がりでも”上野の山”と呼称して創建時にもさほど違和感は無かったようです。　逆に言えば、戦争状態になったとき、一種の出城として機能する事が寛永寺や上野の山には求められていた事は書くまでも無いことで、実際、幕末の戊辰(ぼしん)戦争の時に、彰義隊が上野の山界隈を根拠としたため全山焦土と化した事は比較的知られている史実だったりします。　映画の”憑き神（2007）”でも、主人公が上野の立て籠もりに参加するシーンがクライマックスになっているのですが、軍事要衝として考えると、神田明神では少し手狭といえば手狭で、その意味では、呪術的な意味合いは神田明神の方が受け持っていたのかもしれません。　というか、比叡山を写したのなら、僧兵が写されていても不思議では無いわけで、天海ならではの仕掛けが目に付かないあたりに施されていたのかもしれませんが、それも今は昔の話になっているといえばなっているかなと。　ただ、天海（1536～1643）というのも謎の塊のような人で、明智光秀が名前を変えて天海になっていたという説があるくらい経歴があやふやといえばあやふやだったりします。　公式記録には、戦国末期～江戸初期の１００年前後の期間にその名前が見られるようなのですが、公式記録に残っている生没年などを鵜呑みにすると、１０７歳くらいで死んだ計算になる上に、その死の直前といっていいくらいまで徳川幕府の（主に呪術面での）ブレーンとして知られていたことになりますから、さすがに”え～っと～”という（笑）。　会津で生まれた天台宗僧侶というプロフィールも怪しいといえば怪しいもので、戦国時代末期までの会津といえば上杉家の所領だったわけで、当時の上杉と徳川の抗争を考えるとき、やはり”え～っと～”という気がしないでもありません。＊　上杉景勝（1555～1623）は上杉謙信（1530～1578）の甥で、謙信の養子になっているのですが、関ヶ原の戦いの直前に徳川家康と敵対し、結果的に出羽米沢３０万石に減封されたのは彼の代の出来事で、細かな経緯は”一夢庵風流記（隆 慶一郎）”などを参照されたい（笑）。　南光坊を号している事が多いのですが、勅諡(ちょくし)号は慈眼(じげん)大師で、以心崇伝と伴に初期の徳川幕府の宗教行政に関して中心的な立場にいた事で、公文書に比較的名前や業績が残っているわけです。　正確には、徳川家というよりも徳川家康の個人的な信任が厚かったようで、家康死去に際して葬儀の導師となったばかりでなく、一度は久能山東照宮に葬って、後（1617年）に日光奥院の宝塔に改葬して、日光山を再興し、非常時にはやはり日光山も軍事拠点として機能するという手間のかかった行政上の仕掛けと宗教上の呪を施したのも、家康ではなく彼の指示によるとする説があったりもします。　家康亡き後も、秀忠、家光と補佐して初期の幕政にまで参与していたあたりから、黒衣の宰相と称されることもあるのですが、実際にはそれほど政治には口を挟まなかったという説もあります。　日本の天台宗は最澄（767～822）が806年比叡山で開宗し、真言宗の東密に対し台密として発展し、距離的に近かったこともあって、朝廷との結びつきが次第に強くなっていくのですが、金と権力が集まるところに紛争は付きまとうとした物で、平安中期には円仁と円珍の衆徒の間に紛争が生じて、山門派と寺門派（園城寺(おんじょうじ)）に分裂し、良源の弟子の源信と覚運の系統も恵心(えしん)流と檀那(だんな)流に分かれ　・・・、鎌倉時代になった頃には、いわゆる台密１３流という異様な数の分派が生じていたようです。　また、僧兵という武装集団を擁することで勢力を拡大し、都の政治や武力抗争にも積極的に介入した事で影響力を増し、”鴨の川の流れと、サイコロの目と、僧兵は思い通りにならない”と白河上皇を嘆かせた逸話は有名。　ただ、武家の台頭とともにその武力的な優位が揺らぎ始め、映画の”新平家物語”のクライマックスで、若き日の平清盛（市川雷蔵）が御輿に弓を射るシーンにそのあたりは集約されているかなと。　鎌倉時代に新仏教を興すこととなった、法然(ほうねん)、親鸞(しんらん)、栄西(えいさい)、日蓮、道元、・・・、といった著名な宗教家も元々は天台派の学僧から経歴が始まっているあたりからも、いかに巨大な宗教集団であったかは伺いしれるのですが、時代が下がるほど俗化が進み、戦国時代末期に信長が比叡山を焼き討ちにしたときには、女人禁制が建前の山門の内側に多数の女性やその子供達が養われていて、僧侶の妻帯や女遊びなどが恒常化していた事が記録に残っていたりもします。　その後、江戸初期に天海が徳川氏の保護のもとに東叡山（寛永寺）、日光山と東国に拠点を建立したことで、西の比叡山と合わせて天台三山と呼ばれるようになり、比叡を輪王寺宮が管領したこともあって繁栄をとりもどした流れから考えると、果たして、比叡山に上野の山に写すほどの呪術的な効能があったのか？という気がしないでもありません。　逆に、上野の山の怪異を封じるために比叡山を写す形で霊的な封印が必用だったのではないか？と考えてしまうのですが、上野の北には谷中の墓地があるわけで、単に、初期の江戸の街の北の要衝として整備されたという理解でもいいのかなと。　江戸時代には、長屋の花見ではありませんが、上野も桜の花見の名所の一つとして知られるようになるのですが、公権で無理矢理何かをさせるというのではなく、自発的に江戸っ子がたむろする事で呪が毎年かけられていく循環型のシステムになっているあたりに天海の仕掛けを感じるのですが、江戸の初期に天海が仕掛けた護法は、幕末に維新軍が進軍する際、念入りに要所を崩しながら北上していった事でも、知っている人は知っていた話なのかもしれません。　その意味で、維新軍にとって彰義隊には上野の山に立て籠もってもらわねば”お山”を焼き討ちする上で都合が悪かったのかもしれず、逆に言えば、江戸時代初期と比べれば圧倒的に進化した鉄砲や大砲の前に（上野の）山が焼き払われる事で、信長の比叡山焼き討ちが再現され”時代が変わった”という事かなと。　その後、寛永寺を含めて上野界隈が再度整備された事などから考えて、明治政府も、あの地に霊的な結界としての役割をある程度期待していたような気がしないでもないのですが、まあ、”雪ととも、明治は遠く　なりにけり”ということで、もはや明治の事でさえ定かではない２１世紀に突入した今となっては推測の域を出ません。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第１３７話(2008/03/21）

  2008.03.27

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• 出羽三山

  怪しい話　第３シリーズ　第１３５話　「出羽三山」　映画の”湯殿山麓呪い村湯殿山麓呪い村(1984)”は、幽海上人が即身仏（そくしんぶつ）になった経緯というか、そのあたりの謎を解く事も目的の一つにして幽海上人の即身仏を発掘しようとして、因果の糸車が回ったかのような連続殺人事件を発生させてしまう推理小説（原作：山村正夫）を映画化したものです。　実際、この映画の以前と以後で、即身仏という言葉の認知度がかなり変わった　・・・　少なくとも、日本に生きながら木乃伊になっていく即身仏という独特の信仰というか風習があった事を知る人は増加したのではないかと。　タイトルにある湯殿山（ゆどのさん）というのは、出羽三山（でわさんざん）の一つなのですが、山形県中部の羽黒山（はぐろさん）、月山(がっさん)，湯殿山の三つの山で出羽三山ということになり、出羽三山神社でも知られています。　その起源が定かではないほど昔から、修験道の場として知られているのですが、磐梯朝日国立公園に属していて、道路なども整備されていますから、以前ほどのオドロオドロさは薄れているそうです。　ちなみに、出羽三山神社というのは、羽黒山、月山、湯殿山の各山頂にある神社を総称しての呼称で、実際には、出羽(いでは)神社、月山神社、湯殿山神社の３社があります。　なお、出羽神社は”イデハ”神社ではなく”デワ”神社とか羽黒神社と呼ばれる事もあるのですが、月山と湯殿山の両社の里宮として三神合祭殿と称して年中の祭事はすべてここで行われているそうです。　その起源が定かではないほど昔とは言うものの、三山神社の創建に関しては、崇峻天皇の子である蜂子皇子（はちこのおうじ）によると伝える文献が多く、中世の頃からは天台系の修験霊場としても栄え、関東～東北の山岳信仰のキーステーションのような役割を果たしていたようです。　蜂子皇子に関しては、残されている肖像画を見る限り、狼男かなにかのようにしか見えない、一種の異形の皇子であったことから、都からはかなり遠い三山神社に事実上封じられることとなったのかもしれません。　事の真偽はともかく、蜂子皇子の伝説が残されていることからも皇室との関係が深かった事が推察されるのですが、武家不入の特権が長らく守られていた上に、山伏達はこの地で霞(かすみ)という檀那(だんな)場組織を形成し、積極的に民間信仰とも結びついていったようで、現在でも羽黒修験道の行事や数々の例祭が行われています。　月山（標高1984m）は日本最大の楯(たて)状火山としても知られているのですが、蜂子皇子より以前から修験の道場として信仰を集めていたようで、ここが最古の地なのかもしれません。　湯殿山（標高1500m）は近世には三山の総奥院と称されされているのですが、湯殿山が加わって三山となったのは戦国期末の事だそうですから、そう古い話ではないようです。　また、地理学的には月山の（南西部にある）寄生火山で、月山の火口壁の一部が山状になっているのが湯殿山だそうですが、月山と湯殿山に関しては、実際の修験者達の修行の場だったと考えるのが筋ではないかと。　見るからに修行の場といった風情の月山、湯殿山と違って、かなり標高が低い羽黒山（標高414m）は、修験者と里人の接点でもあったわけですが、里に近い分だけ神社などの施設は豪華で、五重堂、黄金堂でも知られる他、山麓の手向(とうげ)から特別天然記念物の杉並木の中を石段の参道が通じていたりします。　もっとも、出羽三山の本来の役割は、羽黒山は死者を祀り、月山は阿弥陀如来を祀ることで死者を供養し、湯殿山は大日如来を持仏とする聖山となっているという説があり、人は死んだら山の頂から天に昇っていくという山岳信仰の基本的な教義ともそれぞれ合致しているのかもしれません。　話を即身仏に戻すと、鉄門海上人（てつもんかいしょうにん）、真如海上人（しんにょしょうにん）、本命海上人（ほんめいかいしょうにん）などの即身仏でも出羽三山は知られているのですが、一説には、日本にある事が確認されている２４体の即身仏の少なくとも１／３は出羽三山で修行した修験者とされています。　出羽三山の中でも、即身仏といえば湯殿山が有名で、里の村々が深刻な飢饉に襲われたとき、湯殿山の修験者が飢饉を鎮め、民衆を救済するための呪として即身仏になったのが始まりとされているようです。　実際、湯殿山の中腹（海抜1000m前後）にある仙人沢という沢地に小屋を建てて、２０年前後の修行を行った修験者もいたそうで、この地で３年程度の修行した経験がある修験者は現在でも珍しくないそうです。　ただ、即身仏となるには、前段として２０００日の断食（穀断ち）を行う必用があるとされ、この２０００日の断食が終わった頃には体が既に半分の大きさになっているとも言われています。　その間に、各辺が４ｍ程度の立方体の形に地面に掘り、その穴の中に石室を造っておくのですが、ここに２０００日の断食を達成して満願を迎えた行者が入れば、本格的な即身仏の行が始まります。　正式には、石室には松の木の板で造った二重の座棺が入れられ、その座棺の中に修験者が入るのですが、その上から蓋をして土をかけて埋めてしまうと、行が終わるまではそのまま放置されることになります。　なお、呼吸を確保するために、節を抜いた青だけを一本、換気口として地表に石室から出しておくのですが、そこからは同時に内部の音を聞くこともできるのだそうで、土中の修験者が経文を唱えながら”そろばん”と呼ばれる鐘を叩く音が漏れてくるのだそうです。　記録によると、１～２週間程度で、この”そろばん”の音や経文を唱える声が途絶える事が多いそうですが、音が途絶えてから更に数日待ってから弟子や関係者が土を取り除いて石室を開けて修験者の姿勢を正して、再度、埋め直すのだそうです。　それから３年程経過すると、即身仏の行が完遂されたことになるのですが、再び掘り起こして正装させて秘仏として人目に付かない場所に祀られることもあるとされています。　その一方で、石室が再度開けられる事が無いまま放置されている内に忘れ去られ、古文書や伝承などを頼りに数世紀後に掘り起こしてみると、石室が崩壊していて、即身仏になっていたであろう修験者や僧侶の遺体は風化したのか跡形もなくなっていたという事例も幾つか知られています。　極論すれば、自分で意図的に餓死していく行ですから、途中でおかしくなってしまう行者も出たようで、掘り起こされたときに苦悶の表情を浮かべていたり、もがいたりあがいたりした体勢で硬直したまま死んでいた事例も散見されたようです。　その為か、即身仏になることに失敗して亡霊となって彷徨うようになった行者の霊の話というのもあるそうで、とある霊能者の解説によると、即身仏どころか祟り神に近い状態になってしまっている事例もあるのだそうです。　ただ、出羽三山に限らず、即身仏の信仰が広まると、即身仏を待望する人達も増えてくるわけですから、必ずしも自分の意志で即身仏になろうと思った人だけが即身仏の行を行っていたのかどうかは歴史のグレーゾーンではないかと。　信者の期待に応えて即身仏になったとして、即身仏が信仰されているのはまだましという考え方もあり、前述したように、他の地域では石室の中に放置されたまま忘れ去られているようなケースもあり、年に何度かは集落の人達が手を合わせる事がある無縁仏の方がまだ扱いが良いような気がしないでもありません。　もっとも、即身仏の信仰などに関しては全てが公開されているわけでは無く、謎が多いのですが、それこそ秘してこそ華という事になっているのかもしれません。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第１３５話（2008/03/19）

  2008.03.25

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• 今熊山

  怪しい話　第３シリーズ　第１３２話　「今熊山」　東京都内の怪奇スポット数ある中で、怪というよりは奇に属するスポットの一つが今熊山だったりします。　今熊山（標高：505.7m）は”呼ばわり山”と呼ばれることもあるのですが、八王子市の上川町にあります。　なんとかの近くという言い方をしたいのですが、今熊山はあきる野市が近い八王子の山の一つでして、敢えて近くの目印と言えば、正福寺か？少し離れて新多摩変電所か？？＊　それほど田舎ではないと主張する人も多い　・・・　私的には、八王子が既に（後略）。　なお、今熊神社はこれまでに２度焼失した記録（一度目は、元治元(1864）年、二度目は昭和１７（1942）年の山火事で延焼）があるようですが、２度目の火災で本殿が焼失するまでは今熊山の山頂にあったそうです。　２度目の焼失後、山頂に再建される事は無かったのですが、昭和５１（1976）年に麓近く（川上町19）に再建され、その神社の横の正規の登山道を素直に行けば３０分くらいで山頂に辿り着きます。　今熊神社の歴史は意外と古く、一説には第２７代安閑天皇のお后探しの話の頃には既に建立されていたと考えると、その起源は１５００年以上前ということになります。　安閑天皇のお后探しの話というのは、后宮であった橘の仲皇女が浪花路で行方不明（要するに、奈良から大阪まで旅に出た途中で拉致された）になってしまったとき、天皇の夢枕に神人が立って、”武蔵の国の今熊山の山頂に立って、３度名前を呼ぶと良い”と教えられ、その通りにするとまもなくお后の行方が知れて無事に再開する事ができたというもの。　奈良から大阪への旅行でなぜに行方不明になったのかといった詳細は不明なようですが、いずれにしても、この霊験あらたかな出来事があって以降、今熊山は失せ物から失踪した人まで、ほぼオールマイティに探し出してくれる霊山として有名になった　・・・　そうです。　少なくとも、柳田国男の「山の人生」にも迷子を捜す親が今熊山を訪れる話がありますから、最盛期のにぎわいがどのようなものだったのかは定かではありませんが、明治以降もそれなりに霊験が知られていたようです。　なお、現時点で伝わっている願掛けの方法は、山頂にある祠のまわりを太鼓を叩きながら回って、”○を出してくりょうや～い”と３度叫ぶという方式が正伝になるようです。　一説には、今熊山の近辺は、この世から、何らかの理由で捨てられたもの、何らかの理由で消えたものが妖怪となってたむろしている魔界になっているという話があり、一種の付喪神の集う山麓なのかもしれません。　なお、近くの集落では、時に、そうした妖異たちが宴会を開いて騒いでいるのではないかと思われる、声や音が聞こえてくる夜があったそうですが、八王子といえば高尾山ということで、御多分に漏れず、天狗の話も珍しくない地域だったりします。　つまり、子供や若い娘が行方知れずになったり、天狗にさらわれたりしたときも、今熊山の山頂で３度名前を呼ぶと出てきたといった内容の昔話がある地域ということです。　ただ、今熊神社で興味深いのは、御祭神が建速須佐之男命と月夜見命の２柱となっていることで、紀伊国（和歌山県）の熊野本宮の御分霊を 遷した事から、当初は、”今　熊野　宮”と称したという説が正伝になるようです。＊　怪しい話を長々と読んでいる人にはなんとなく疑念が伝わると思いますが、関東の山奥の神社で須佐之男命（素戔嗚尊）と月夜見命（月読、月詠尊）の２柱だけという組み合わせが意味深ではないかと。＊　というか、八咫烏で知られる熊野から御分霊して素戔嗚尊が祀られるのはともかく、なぜこの２柱が御祭神になると行方知れずの人を探し出せる事になるのか？がよくわからないという段階で謎が多いのですが。＊＊　島根県八束郡八雲村熊野に八岐大蛇を退治した後の素戔嗚尊が住んでいたという伝承があり、この地にも熊野大社がある事は一部では有名。＊＊　和歌山の熊野三山に関しては、込み入りすぎていてめんどくさいから手を付けないかもしれないので、気になる人は自分で調べた方が早いと思います　・・・　楽しちゃいけません（笑）。　もっとも、明治になるまでは今熊野大権現と呼称していたようなので、吉野～熊野系の修験道との関係も深かったのではないかと推察されます。＊　大権現という呼称が、そもそも金星に由来するといった話は、怪しい話の第１期・第３４話「天狗の里」で既に書いたのですが、御存知のようにアレ以来封印された話の一つでございますから再録は考えておりません　・・・　各自でお調べ下さい（笑）。　となると、今閑天皇の后を捜す話というのも、熊野の修験者のネットワークがなんらかの関与をしていた事を暗喩している可能性が出てくるわけですが、それから１５００年以上経過した今となっては真相は闇の中かなと。　比較的近いところでは、神奈川県相模原市の新田稲荷神社（相模原市共和1-1867-2）の呼ばわり山（といっても、高さ７～８ｍ程度の丘）も有名ですが、実はここは、江戸時代に今熊神社が今熊野大権現と呼ばれていた時代に今熊神社から勧請したもので、やはり行方不明の人の名前を”呼ばわり山”の上で鐘や太鼓を叩きながら呼べば再会する事ができるとされています。　合理的に考えれば、通信手段や交通手段が未発達で、遠距離を移動する事が普通の人には困難だった時代に、旅に出た人の安否や行方が知りたい場合、独自のネットワークを持って全国の山々を行き来していた山岳密教の修験者達に依頼する事で行方が知れる事があったのではないか？と思わないでもありません　と書きながら、修験道には失せ物や人を呼び寄せる呪が幾つかあるしなあ？と思ったりもしているので、まあ、合理的に考えなくてもいいかと（笑）。 初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第１３２話（2008/03/15）

  2008.03.21

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• 手振り地蔵

  怪しい話　第３シリーズ　第１０４話　「手振り地蔵」　兵庫県の六甲山といえば、近年はスカイフィッシュの生息地としても有名ですが、一部では肝試し用のスポットが数多く存在する地域として知られています。　手振り地蔵の話も、そうした六甲の怪奇スポットの定番の話の一つで、六甲山のハイウエイの某カーブにある小さな石の地蔵がそれであるとも、別の地点の地蔵がそれであるとも言われています。　ただ、いずれの地点の地蔵が本家本元であったとしても、語られている話の内容は極めてシンプルで、シンプルであるが故に共通している核の部分があるようです。　それは、”自動車で、お地蔵様のところまで行って帰るときに、後ろを振り返って地蔵様を見たとき、お地蔵様が手を振っているように見えていれば無事に家に帰り着けるが、お地蔵様が手招きをして呼び戻しているように見えたときは事故を起こしてしまう”というもの。　もともと、そのお地蔵様は手を振っているような姿で彫られているので、それが手招きをしているように見えるというのが異常事態なわけですが、まあ、そういった体験をした人がどの程度の割合で事故を起こしているのかといった統計資料は例によって存在しません　・・・　ただ、帰り道で事故を起こした人の多くが”実は、手振り地蔵が手招きをしているように見えたけれど　・・・”と語っているに過ぎないわけです。　地蔵和讃などで、１０歳より下の幼子が死んだ場合、三途の川が渡れずに賽の河原で石を積みながら父恋し、母恋しと嘆き悲しむ姿が語られているのですが、地蔵様というのは、幼くして死んで賽の河原で途方に暮れている幼子を成仏させるために賽の河原を見回っている仏であるとも言われています。　ちなみに、一つ積んでは父の為、二つ積んでは母の為、三つ積んでは故郷の兄弟我が身を思って　・・・　こいしい、こいしいと唄いながら石を積み重ねているのですが、その石の塔がある程度の高さになると、地獄の鬼が現れて幼子達が積んだ石の塔を崩してしまい、また最初から積み直すといったことを延々と繰り返しているとも言われています。　そうした賽の河原の描写がどこまで本当の話なのかは知りませんが、今生でも、恐山などの賽の河原と呼ばれる場所では誰が積んだか定かではないものの、石が積まれたり、石で座を造ってそこに風車を刺してある光景が実在します。　風車をそうした場所に置く理由は今ひとつ定かではないのですが、子供の霊を慰めるためという説と、輪廻の車を回すためという説に大別されるようです。　いずれにしても、賽の河原の迷い子達は、地蔵様がやってきて救いの手を差し伸べると、その衣の裾に縋って一緒に歩み去っていくようで、通常の三途の川を渡るルートとは別のルートで転生へと向かうことになるようですが、何時、お地蔵様がやってきて救い上げてくれるか　・・・　或いは、自分でお地蔵様についていこうとするかは定かではないようです。　この幼くして死んだ子供は通常とは別の転生の道を歩むという話は、若宮信仰にも類似の傾向があるような気が私はしているのですが、”死”というものが今ひとつよくわかっていない子供達が死んだ場合、オトナでさえ上へ上がりにくい事があるわけですから、それなりの祀り方をしないと霊障として現れることがあるとされたのではあるまいか？　死んだ後の事なんて、死んでみるまで分からないのだから生きている間は死後の世界を気にするだけ野暮だという明快な人生観を持っている人達もいるわけで、霊感商法に多額の金を巻き上げられたり、スピリチュアル説法に一喜一憂する人達を見ていると、それはそれで一理あるかなと。　実際、海外の旅先で「”あなたのお名前は？”と聞かれて、”Ａ子です。”と答えたら、”そうそう、亡くなられた御主人がＡ子はまだこちらに来なくていい。死んだ時はボクが必ず迎えに行くからとおっしゃってるわ　・・・”と、ヒーリングをやっていて霊が見えるという女性から言われた」と、えらく感動して帰国そうそう話していたので、「はあ？そもそも霊の言っている事が本当にわかっているのなら、”あなたか、娘さんの名前がＡ子さんというんじゃありませんか？”といった尋ね方をしてくるんじゃないですか？？」と指摘すると、盲点を突かれたようで、「あっ、そうか～！！」と言った御婦人が実在します。　なお、「なんで、あっさりそういった矛盾に気が付くんですか？」と聞かれたので、「もし私が休暇旅行中の海外で体調を崩している赤の他人に遭遇したとしても、過去の経歴や持病などを知らない上に求められてもいない状況下で”私はプロの整体師ですが、無料で施術しましょう　・・・”とかいった事は、後々のトラブルを考えても絶対言いませんもん。」と。　もっとも、以前に少しだけ書いた、相手から得た情報を、さも以前から自分が知っていたかのようにすり替えて話を進めていく、典型的なコールドリーディングの手口の一つで、手品のタネと同じで知っている人には感銘を与えにくい手口でしたしねえ？　念のために書いておくと、もっと用心深いペテン師や詐欺師の場合は、事前にスーツケースのラベルをチェックしたり、旅の始まりから添乗員の側にさりげなく貼り付いてツアーの参加者の顔と名前を頭に入れてから、霊視で名前や居住地などのデータを見たかのように語り始めるホットリーディングの手口を使うこともあるようで、まさに”信じる者は騙される”と思っておいた方がよろしいかと。　もちろん、体調を崩している参加者がいれば、添乗員さんに「○さんが体調を崩しているので医者へ連れて行くなり市販薬の類で様子を見るなりしてください・・・」とかいった交渉はするでしょうが、「私のパワーで癒して快復させます」とかいった台詞を口にできる腕前になった覚えもありませんし（笑）。　ちなみに、向こうからホテルの部屋に入り込んできたので、しかたなく話をしていて、”世田谷（区）に持ち家があって（高齢の）一人暮らしの未亡人”だとわかったあたりで、”帰国したらお電話しますから、是非、またお会いしましょう　・・・”と静岡県在住のその（自称）ヒーラーの女性に言われたそうで、「先生、どう思われますか？」と聞かれたので、「はあ、鴨が葱を背負って味噌まで持って、お湯が沸いた鍋の横でたたずんでいるように見えたんじゃないですか？」と素直に答えて多少の解説はしておきましたが（大笑）。　蛇足として書いておけば、私の知る限りはですが、小さい頃から”力”が大きい人ほどトラブルに巻き込まれる機会が多く、トラブルのスケールも大きくなりがちですから、経験的に、そうした能力が有ることを赤の他人の前でオープンにする事は、まずありません　・・・　というか、口コミで持ち込まれる案件を処理するだけでも私生活が無くなるくらい手一杯になっている人が多いようです。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第１０４話　(2008/02/12)

  2008.02.18

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• 胸毛騒動

  怪しい話　第３シリーズ　第７８話　「胸毛騒動」　ちなみに、今回の胸毛騒動というのは、岩手県奥州市の黒石寺で１０００年以上の歴史がある「蘇民祭」という裸祭りのポスターの掲示をＪＲが”ポスターのモデルになっている男性に胸毛が生えていること”を主な理由に拒否した事から派生した一連の騒動のこと。　蘇民祭では、裸（といっても下帯は着用）の男衆が”蘇民袋”の争奪戦を繰り広げるそうですが、疫病除けや五穀豊穣などを祈願する祭りとして知られているそうです。＊　ちなみに、騒動となった2008年は２月１３日夜～１４日未明を予定。　さて、ＪＲが掲示を拒否して話題となった”胸毛ポスター”は写真を３枚を組み合わせてレイアウトを調整したものだそうですが、ひげ面で胸毛の男性が手前でアップに、背後に下帯姿の男性たちといった、ある意味で、祭りのポスターなどではよくある構図になっています。　時系列的には、このポスターを2007/11/30に、奥州市がＪＲ東日本盛岡支社に掲示する許可を求めたところ、ＪＲ側は本社の判断を仰いた上で、2007/12/03に、”図柄を変えない限り掲示できない”と通知したそうです。　これに対して市の側は、ポスターの版下がほぼ完成していたこともあり、下帯など一部の修正をしたものの、ＪＲが求める図柄の全面変更は困難だったことから、最終的にＪＲ側が掲示拒否となったということらしい。　この件に関して、ＪＲ東日本盛岡支社の佐藤英喜（販売促進課副課長）は「セクハラが問題になる中、公共の場でのポスター掲示の基準は厳しくなっている」とし、「単純に裸がダメというわけではないが、胸毛などに特に女性が不快に感じる図柄で、見たくないものを見せるのはセクハラ」と判断したという　・・・　だが、一人前の男に量の差はあっても胸毛が生えているのは生物学的に不思議でもなんでもないあたりまえの光景ではないのか？　そもそも、胸毛や髭など女性が不快に感じる図柄云々という基準になっている統計資料は、何年にどこの誰がどのような対象を相手に調査したものを根拠としているのか？　単に”客観的な数値データは無いが、ＪＲの上層部がそう思っているから”という程度の根拠ならば、それはセクハラに名前を借りた現代の魔女狩り行為ではなかろうか。　男性の胸毛、或いは顎髭や口髭などからセクハラを連想するというのは、個人的な性の嗜好を他者に押しつけているのに過ぎないのではないのか？　胸毛がセクハラだと主張する女性達は、逆に言えば、赤ん坊のように胸毛一つない男性達だけが正常で、それ以外は異常だと主張しているわけだが、その価値観だけがまともで、それに反する価値観はセクハラの名の下に社会的に排除するとＪＲは主張している事になるわけだ。　もう少し踏み込めば、ＪＲは、胸毛の生えている男性は生きているだけでセクハラを犯していると判断していて、そう公式に主張し、そう公式に行動したわけだ。　胸毛は、入れ墨やピアスなどのように人工的に体に追加したものではありませんし、成人に達した人間の男性にとって生物として生えて不思議ではない体毛であり、頭に髪の毛が生えているように、顔に髭が生えているように、自然と生えるものにすぎなかったりします。　前述したように胸毛が生えていることで（或いは、ハゲ頭のように生えていないことで）セクシャルハラスメント（性的な嫌がらせ）が成立するという理屈が良くわからないということです。　”私の息子や旦那や彼氏に胸毛が無いから、胸毛がある男性は生きているだけでセクハラだ”と主張する権利はあるでしょうが、海やプールで胸毛をさらして泳いだり裸祭りに参加する権利を放棄する気は私にはさらさらありません（笑）。　今回の胸毛騒動であれこれ考えていくとき、”見たくないものを見せるのがセクハラ”と主張していながら、その”見たくない”判断の基準が客観的に示せていないわけですから、このまま統制が進行した場合、”お前の顔がセクハラだという女性が一定数存在する。ＪＲを利用したければ帽子を被ってマスクを着用しろ！！”という昔の漫画でさえ描かなかったような話も冗談抜きで成立するわけですが、そのあたりの危険性を理解しているのでしょうか？　ちなみに、奥州市水沢総合支所の佐々木禅（商工観光課長）のコメントは、”市と業者とで図柄を決めた後（の掲示拒否）で、日程的にも変更はできなかった”として”観光客が減るかもしれないが、市内に集中的に張ったり、首都圏の観光施設に掲示をお願いしたりして祭りを盛り上げたい”と私などよりはよほどオトナの話をしているので部外者の私が盛り上がってもしょうがないのですが（笑）。　なお、この騒動はＪＲが掲示を拒否した後、”胸毛がセクハラ”だとしてＪＲ東日本が掲示を拒否した”事で、幸か不幸かポスターに注目が集まり、市に注文が殺到して、市職員は発送作業に追われる事態となったそうな。　しかしながら、そもそも、仮にＪＲがポスターを掲示していたとして、何人の女性が、この裸祭りのポスターを見て”セクハラだから掲示を取りやめろ”とＪＲに抗議しただろうか？という素朴な疑問は残ったままとなっていたりします。　そもそも、胸毛ポスターを見て、”男が胸毛を見せているような祭りには絶対に行かない！”という不快感を持った女性がいたとしても、それはそれで祭りの内容を（片鱗ではあっても）事前に知る事で双方が現場で不愉快な思いをせずにすむ事になったという見方もできるわけで、双方にとって実力行使に及ばなくて済むという観点から幸せなことではなかろうか？　そもそも祭りに参加している男性の上半身が裸（になることも珍しくない）という祭りや、法被などを着ていても前がはだけて胸が剥き出しになるような祭りは全国的に見ても蘇民祭に限った事ではありませんし、それを見たくなければ祭りの場に行かなければいいだけのことで、実際、そうしている女性も昔から多いのではなかろうか？　本来、祭りというのは神事で、神への祈りの儀式の一つであって、ディズニーランドのパレードのようなアトラクションの類とは根底から異なる祭事なわけですから、千年を越える神事に参加する男性の姿がセクハラだと主張して祭りを妨害する行為というのは、男女の別無く、宗教戦争を挑んでいるのに等しいと言えなくもありません　・・・　というか、ＪＲが根拠としたであろう”信仰する宗教別、日本女性の男性の胸毛の露出に関する意識調査”とでもいった資料が公開されたらされたで別の宗教戦争が起きそうな気がしないでもありませんが（大笑）。初出：一夢庵　怪しい話　第３シリーズ　第７８話（2008/01/12）

  2008.01.19

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