風狂夜話２

昭和６２年、原一男監督によるドキュメンタリー映画「ゆきゆきて神軍」

が公開された。それは過激な戦争責任者・奥崎謙三が第二次大戦中自ら派遣

されたニューギニア戦線の部隊でおこった上官による部下射殺事件、と兵隊同士

の食人事件の真相を追求する記録作品である。

戦中の記憶を封殺しようとするかつての上官を次々と訪れて食い下がり、時に

暴力で追い込む奥崎の執拗な行動を原一男監督は冷静に撮影する。

もう２０年余の経過をへているが、主人公の奥崎は死去しているが、

今なお衝撃的な映像であることに変わりない。

奥崎謙三は１９２０年に兵庫県明石市に生まれる。元日本軍兵士。

自称非国民、反天皇活動家、アナーキストで、天皇パチンコ事件、天皇ポルノビラ

事件などを実行し、１０年以上の刑に服してきた。

２００５年６月神戸にて死去す。

彼は１９４１年（昭和１６年）岡山連隊に入営。４月に激戦地英領東ニューギニア

に派遣される。最終階級は上等兵。同部隊は敗走をかさね飢えとマラリアに苦しみ

生き残ったのは千数百名のうちわずか３０余名であった。

１９４４年（昭和１９年）米軍に投降。豪州軍の捕虜となる。

１９４６年（昭和２１年）３月復員。奥崎は復員船で復員者の食料を横領しようと

した船長の腹部を刺した。

１９４７年（昭和２２年）三木市で結婚。５１年（昭和２６年）神戸でバッテリー

商を開業す。５６年（昭和３１年）不動産業者とトラブルで殺害し、傷害致死罪で

懲役１０年となる。満期出所する。

６９年皇居の一般参賀で昭和天皇にパチンコ玉を４発撃った事件で懲役１年６カ月

となり、満期出所。

８２年（昭和５７年）奥崎のドキュメント映画が原一男監督の手で「ゆきゆきて

神軍」として撮影開始。広島市の軍隊時代の上官宅で応対に出た男に発砲し、負傷

させる。懲役１２年。奥崎は過激な戦時の部隊上官の犯罪を追及しながら、トラブル

を起こし、９７年（平成９年）満期出所。２００５年（平成１７年）神戸市内の病院

で死去。寸前まで「馬鹿野郎」と喚き散らしていたという。

恐るべきエネルギーである。

原も一時撮影困難を懸念し、ボツになる可能性を考慮した。

しかし奥崎の執念はついに映画を完成させ、鬼気せまるドキュメンタリーを世に送り

出した。奥崎の神がかり的な行動力が観る者を圧倒する。

彼の背後に死屍累々の戦友がいたに違いない。

反戦映画の見事な結晶である。奥崎謙三という個性がいなければ成り立たない。

日本の戦後の闇をグロテスクに暴く絶品。