★ハワイで暮らす日々　BY CHIYO★

私がハワイで出会った究極のスローライフを送る人は、インド人だった。
インド人というと、彫りが深く目が大きい、いわゆる濃い顔を思い浮かべるが、
彼はどちらかといえば、モンゴル系という感じの顔立ちで、
さらに日本語がペラペラだった。

もちろん、それは彼の奥さんが日本人だったこともあるけれど、
その奥さんの話によると、インドにはものすごい数の違った民族がいて、
彼の部族の言語の発音は、日本語にとても近く、彼はあっという間に
日本語を覚えたそうだ。

その奥さんは、大学の研究でインドに行き、その部族の暮らす村で
彼に出会ったということだった。
知的で礼儀正しく、飾り気のない素敵な女性だった。

なぜ全部過去形になっているかというと、彼らはアメリカでのビザがないので
もっとよい仕事を得るために、日本へ行ってしまったからだ。

ある日彼に仕事を頼み、その後日本人のお客さんとこちらのスタッフとで、
ワイキキでパーティーがあった。
私は出席しなかったのだが、夜中の１１時に奥さんから電話があり、
「彼がまだ帰らないんで、ちょっと心配になっちゃって。」ということだった。

結論を言うと、彼はパーティーが終わった後、ワイキキから自宅まで、
１時間半かけて歩いて帰ってきたのだ。
これは後日その奥さんとの笑い話になったのだが・・・。

彼の出身地であるそのインドの村では、隣の村に行くまでに、
歩いて２日ほどかかるそうだ。
何か１つの用事があって隣の村へ行くと、
「せっかく来たんだから、ゆっくりしていけ」ということになり、もてなしを受けたり、
ついでに違う仕事を手伝ったりして、いつ帰ってくるか家族もまったくわからない。
で、２週間くらいして帰ってくると、家族が平然と「あ、おかえり」と言うそうだ。

そんなところで生まれ育った彼に、
「ちょっと遅くなるからって電話１本かけられないの！？」と言っても無理だろう。
彼にはそんな習慣はまったくないのだから。
ましてや、徒歩１時間半という、私などにとってはとんでもないと思われる距離も
隣の村まで２日間歩くという彼には、なんでもないことなのだ。
タクシーに乗るなどということの方が、彼にとってはよっぽど”とんでもないこと”
なのだろう。

奥さんはその前にも、よく私に言ってたっけ。
「彼には、違う時間が流れてるんですよねえ。」

彼はほんとに穏やかな感じの人で、何か彼の周りにはいつもさわやかな
なんとも形容しがたい雰囲気があった。
まさに自然のままに生きているというか、欲がないというか、マイペースというか。
この人怒ったことあるのかなあ？というような。

彼が初めてインドの村を出てハワイに来た時、ここはどんな風に写っただろう。
そして、彼は今奥さんの出身地の東京で、どんな風に暮らしているのだろう。
パソコン、携帯電話、人ごみに、意外にもすんなりなじんでいるのか、
それともどこへ行っても、自分のライフスタイルは変わらないのか・・・。

インドから急に東京に行く前に、まずハワイで少し足慣らし（？）したのは、
よかったのではと思うのだが・・・。
でも彼は、結局どこへ行ってもそのままを受け入れ、流れのままに暮らす、
動じない強さがあるようにも思う。

最後の便りでは、子供が生まれるということだった。
今頃元気な赤ちゃんと、東京で楽しい新生活を築いていることを祈る。