旅先での大夢
旅さきでの大夢 我、未来見らば,今も、過去も、ここになく、 過去見らば,今も未来も、ここになし。 そして,今見らば、ここに未来なく、過去もなし。 思うに,未来も過去も今もなきの、夢中たりし一瞬を、 古来より‘ー所懸命'と称すなりしや、と。 今、何処へ行くべきしか、如何せんかをば、 我、他者に問い、ゆだぬれば、 たちまち過去、今、未来の三界を右往左往し、 身も心も定まらず。 これすなわち'ゆらぎ'と称し、 高ずれば'迷い'に変じ、抜け出るに難しものや。 然らば,人生の醍醐味は, 自らの心をば、自らの意志にて三界に自在に遊ばせ、 時に、一所懸命をなすにあり、 と思い到れり。 これ、これぞ、我が悟なり、と歓喜す。 忘れてならじと、急ぎて手元の箸袋にしたたむ。 やがて酔いて、杯を伏せ、寝入りおり。 朝、目覚めて、これ見るに、 なんと小人の酔うて末の大言たりや、と恥じいりぬ。 これも旅の徒然かと、我を笑いけれ。 旅先の小さな旅籠にて