アビーロード。ビートルズのメンバー四人が並んで横断歩道をわたる光景は、あまりにも有名だ。しかし、三番目を歩くポール・マッカートニーが煙草を持っているのに気づく人は、そう多くないだろう。面白い記事を読んだ。英国紙サンによると、ある禁煙運動団体がポールの持っていたタバコをコンピュータ処理によって消去したらしい。
WHO(世界保険機関)の試算によると、全世界で年間約二〇〇万以上の人たちが、タバコによって死にいたるとのこと。また、二〇三〇年には、喫煙は単一のものでは死因のトップとなり、年間一〇〇〇万人がその犠牲になるとされている。「世界中で、たばこが原因となり膨大な数の人が命を落としている。喫煙に伴う最大のコストは、疾病、苦しみ、家族の悲しみという甚大な犠牲である。」というのは、WHOブルントラント事務局長の言葉。
「喫煙はがんの原因である。喫煙は心臓病原因である。喫煙で死亡する。喫煙者は早死にする。」これらは私の警告ではない。欧州での、たばこに関する警告表示文である。日本の「あなたの健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう。」という表示文を生ぬるいと感じるのは、私だけであろうか。
悪魔がたばこ畑と引き換えに、牛商人の肉体と霊魂を自分の手にしようとする、という芥川龍之介の短編を思い出した。悪魔の策略は失敗に終わったが、その代わりに、たばこが日本全国に広まったことは言うまでもない。芥川は「悪魔の失敗も、一面成功を伴っていはしないだろうか。悪魔は、ころんでも、ただでは起きない。誘惑に勝ったと思うときにも、人間は存外、負けていることがありはしないだろうか。」と、物語をくくっている。
私は、最後の一本の、煙草の火を消した。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
もっと見る