テーマ:楽器について♪(3648)
カテゴリ:ピアノ雑感
ピアノ工場では仕事の際に作業するべきピアノとともに伝票がまわってくる。
そして作業が終わればそれに自分のサインをしていくわけである。 伝票には作業名と、目安となる作業時間が記入されているが、特に受注品の場合は何かしら手書きで注意事項が書かれている。それは多くの場合作るべき音の指示である。それはあたかも理髪店や美容院で顧客が好みのスタイルを注文するようなものである。 グロトリアンの場合、そういった注文はだいたい次のいずれかに要約されている。これらはピアノの好ましい音を表す代表的な言葉と言えると思う。 ・singend ・rund, voll ・brilliant これらの3つであるがそれぞれどんな意味合いを持つのか、まず最初のsingend(ズィンゲント)から紹介していきたい。 これは歌っている、歌うようなという意味になる。 楽器を歌わせるというのはピアノに限らず、音楽の世界ではどこでも言われていることである。 この言葉をもうすこし詳しく、どのような状況をあらわすのかというと、 1.持続的で延びのある音 2.音の延び具合が曲線的で変化がある と言えよう。 しかし、本質的には打楽器であるピアノにとって、このような音は本来不得意分野である。 一般に人間が自分の不得手とすることを目前にした場合、初めから無理とあきらめるか、さもなくば得意なこと以上に神経を払って努力するであろう。 もしピアノにこのsingendが要求されたならば、それはメーカー、技術者にとって究極の一点を極めることが求められているといって過言ではない。 この部分には響板の作り方と整音が重要になってくるが、今は整音に着目しておく。 整音は主にハンマーフェルトの硬さ、弾力を調節して音を作るが、これによってsingendを実現できる(フェルトの弾力の)状態は非常に限られている。 ハンマーフェルトが硬くて伸びがない状態をklopfen(クロップフェン)と表現する。これは「叩く」という意味になるが、文字通りただ叩く音ばかりで歌う音が聞こえてこない状態。 逆に柔らかいがやはり延びない状態。これはstumpf(シュトゥンプフ)という。つまった鈍い音のことである。ポッポッと最初になるだけであとに続かない。 このように、singend(ズィンゲント)という指示が整音作業にとっていかに厳しいものかお分かりいただけると思う。打楽器に管楽器の音を出させているようなものである。もちろん指示がなくても普段も「理想の状態」としてsingendが念頭に置かれるべきであることはいうまでもない。だが、ピアノの整音の目指すべき方向は必ずしも一次的ではなく、状況によって多様化する。 上記の残りの項目であるrund,vollとbrillantはそのバリエーションとしては主なものである。決してこれらはsingendと比べ「お手柔らか」というわけではなく、むしろそれを踏まえた上での方向性である。 rund,vollとbrilliantについてはまた次回に述べたいと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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