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カテゴリ:シナリオ
首都圏に住んでいる高校の同級生3人が喜寿を迎えたことを契機に始めた街歩き。歴史探訪や文学 散歩を楽しんでいます。今回は「世田谷歴史散歩」。小田急小田原線豪徳寺駅に集まった3人は今 年の浅草寺初詣以来の再会です。世田谷はノブさんの地元。 ノブ: 案内ルートを決めるために改めて世田谷の歴史を調べたよ。今日は戦国時代から幕末にか けての出来事に関連する場所を歩きたいと思う。 ヒデ: 世田谷と言われてもサザエさんの「長谷川美術館」しか思いつかないな。 ヤス: 僕は「ボロ市」。世田谷を歴史の街として見たことがないよ。 ノブ: 今の世田谷は住宅街のイメージが強いから歴史上の出来事と結びつかないのかも知れない ね。世田谷にもこんな歴史遺産があるのだということを知って欲しいな。 3人は、まず豪徳寺にやってきました。ここは世田谷では有名な観光スポットで、境内は桜の名所 としても知られています。 ノブ: 南北朝時代からの名家で世田谷城主であった吉良政忠が豪徳寺を創建したと伝えられて、こ こには井伊家の墓所があり、寺と共に国の史跡に指定されているんだ。 面白いのは「招き猫」だよ。彦根藩2代城主・井伊直孝がこの寺に住む猫の手招きによって 落雷を免れたという言い伝えがあり、招き猫発祥の地とも言われているんだ。 ヒデ: 安政の大獄で有名な幕末の大老・井伊直弼の墓所がここにあるとは知らなかった。 ヤス: オッ!こりゃ~すごい。大変な数の招き猫が奉納されているぞ。壮観だ。 ノブ: ここで招き猫を購入して帰り、願いが叶ったあかつきには、その招き猫を奉納するそうだ。 これだけの招き猫があるということは、この数分の願いが叶ったってことだね。 境内の古木に咲き残っていた桜の花を見上げながら豪徳寺を後にした3人は、世田谷城址公園、さら に勝国寺へと足を運びました。 ノブ:ここは世田谷唯一の「歴史公園」なんだ。世田谷城は戦国時代に小田原北条家の出城になっ ていた。僕たちが2年前に歩いた映画「のぼうの城」で有名な忍城(埼玉県北部の行田市) も北条家の出城だったね。映画では石田三成の水攻めに耐えたことが題材だったね。 この世田谷城も秀吉の小田原征伐で敗れて廃城になった。小田原北条家は今の埼玉県あた りまで勢力があったから、秀吉も自身の力がつくまでは北条家との戦いは控えたらしい。 だから、小田原城攻めは天下統一の最後の戦いになったんだ。 ヒデ: 南北朝時代からの名家・吉良家の城が北条家の出城になったいきさつはどうなの? ノブ: 吉良氏は八代・二百数十年間、ここを居城としていたけど、北条家と姻戚関係を結んだこ とで北条家の出城になったんだ。その結果、北条家と運命を共にして、廃城の憂き目に あってしまったということだね。 ヤス: 勝国寺も立派だね。ここはどういうお寺なの? ノブ:「勝国寺」は世田谷城の裏鬼門として創建されたそうだ。 3人は「松蔭神社」に向かいました。山口県の萩まで行かなくても、ここに吉田松陰を祀る松蔭 神社があるのですね。明治15年に松陰の旧藩士門弟らが中心になって創建しました。境内には松 下村塾も再現されていますが、今回は改修中のため見学できませんでした。 ヒデ: 日本橋で歴史散歩をしたときに江戸伝馬町処刑場跡で松蔭終焉の碑を見たよね。 ノブ: 明治になって高杉晋作らの尽力により、遺骨がここへ移されて埋葬されたんだ。 ヤス: 井伊直弼と吉田松陰がこんなに近くで眠っているとは。これってすごくないか? 3人は電車で数駅の次の目的地、東京都指定史跡「代官屋敷跡と郷土資料館」へ向かいました。3人 が電車に乗り込むと目の前の座席に座っていた先客3人が黙って立ち上がり、席を譲ってくれまし た。若さを自認していても、見た目はそれなりの年代なのです。 代官屋敷では、まず樹齢180年の大きな玉樟(たぶのき)が迎えてくれました。郷土資料館の展示 内容は多岐に渡り博物館並ですよ。ぜひ皆さんも立ち寄ってください。 ヤス: この屋敷の前の通りが「ボロ市」の会場だね。代官屋敷には来たことがあるよ。 ノブ: 郷土資料館の展示物で注目したいのは木製の水道管なんだよ。家康の時代の関東は湿地帯が 多く、どこを掘っても塩水だった。家康は利根川などの大河の流れを変えて、関東平野を 乾燥させ、そしてこの水道管を市中に張り巡らせて飲料水を確保したんだ。飲料水が不自 由なく手に入ったことで江戸に人が集まったのだね。 ヒデ: 聞いた事があるよ。時代劇で長屋のおかみさんたちが井戸を囲んで野菜を洗ったり、洗濯 をしているけど、あれは井戸水を汲み上げているんじゃないんだ。実は長屋の中央に走っ ているこの木製の水道管から水を汲み上げていたんだってね。 ノブ: 東京の水道水の配給システムは家康の時代に作られ、今もまったく変っていないのさ。 代官屋敷を出ると、桜小学校の「オオアカガシ」の古木をみて、「勝光院」へ向かいました。勝光 院は世田谷城主吉良家の菩提寺。境内にある風格のある庭木と美しい竹林が竹垣とあいまって品の よい雰囲気をかもし出しています。 最後の訪問地は「世田谷八幡宮」。この辺りの氏神様です。奥州を平定した源義家公が戦勝のお礼 に創建されたと伝えられています。ここは奉納相撲でも知られており、現在も秋季大祭には学生や 若者の奉納相撲が行われています。今回は約9千歩のウォーキングでした。 ノブ: 今回はここまでだ。過去に歩いた忍城と今回の世田谷城という点と点が結ばれて線になった ことにより、北条家の勢力範囲についての知識が深まったね。 ヒデ: 井伊直弼と松蔭先生がこんなに近くに眠っているとはね。何だか因縁というものを感じた よ。あの二人が現代に生きていたら、この国をどのような形に導きたいと考えるんだろう ね。そしてどんな行動を起こそうとするんだろう? ヤス: 僕は豪徳寺で招き猫を買ってきた。何の願いをかけようかな? ノブ: この俗世に、まだ願い事があるのか?欲張りなヤツだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.04.25 08:07:54
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