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2004年08月26日
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カテゴリ:小説『Atomic City』
    
            第1章

            第6節



青の単色ウエットスーツを装備したコウタの後から7~8歩距離をあけ
海面に続くタラップに向かってカイ.βは 歩き始める。
 
黒いスーツにフィットしたカイ.βの肉体は まるで古代ローマ彫刻のようだった。

少し首を左右に振りながら準備運動でもするかのようにコウタが先に海面
へと消えていく。
コウタの残した波紋と泡が消えるのを待ちカイ.βもタラップから1歩づつ
海中へと身を沈めた。

海のなかに入るとそこは 完全な別世界。
視界は 良くないが深さがそれほどないので先行して潜った照明班のライト
の明かりにはっきりと海底が映っている。
何か公園というより砂漠のようだ。以前有ったであろう地面はなく何もか
も砂が覆っていた。
既に水中ボーリング機が設置班によってロックされているのが見え集塵機
も稼働していた。
掘削ポイントは 既に氷結固定されているようだ。氷結しないと掘って
いる最中に穴が埋まる恐れがあるそうだ。
海底に舞い上がった砂塵が集塵機の吸い込み口に引き寄せられていく。
海水はL字に曲がった排出口から濾過され海面方向に出ていく仕組みになっていた。

数匹のクラゲと小魚がカイ.βの目の前を通り過ぎて行く。
大きな魚は 全くといっていいほど見えず 海底には 藻すら生えていない。
何か殺風景な感じもするほどだ。
水没したニューアイランドコミュティーセンタービルの方は 潮が複雑に
入り組んでいるようだった。
ビルを中心に渦を巻いている部分もあるとか。

この海の枯渇には 紫外線と温暖化そして海水温の上昇による生物の生態系
の変化が影響していた。
沿岸部での7月の最高気温は 52度 海水温の最高は 45.5度を記録。
ほとんどの生物が夏期に水温の低い海に移動するか 移動できないものは
死滅していたのだ。
こういったことは 世界各地の海.河川で起きていた。
浮き上がる魚 熱湯と化す水 藻は 岩からはがれ落ち 水を飲んだ動物は
痙攣を起こし倒れる。 

夏期に生き残る生物の多くは 遺伝研究機関で対干ばつ.対熱などのDNA操作を
受けた新種であった。
もはや原種がまともに繁殖生育できる環境など2190年代の日本には 
無くなっていた。
今は 4月末であるが2000年代の夏よりも暑いそうだ。。

ボリュームを上げたヘッドホンから リスティー.ランサムの歯切れの良い声がした。
「撮影班が潜水するからみんな作業準備急いでね。掘削深度は 予定どうり60mだから。」

底では コウタが設置班と一緒にボーリング機のパワー調整を始めようとしている。
カイ.βは 少し離れたところの海底にゆっくりと降立ち頭上の方を見上げた。
太陽が強く照らしているのがここからでも見て取れる。
次の瞬間ピンクのスーツがカイ.βの視界に入った。
リオナだ。。。
 
撮影のためブーツを履かず足にヒレを付けている。
彼女の泳ぐ姿は とても美しかった。
動きが柔らかいせいか何か優雅に観える。
後ろからスカイブルーとサンセットの模様をしたウエットスーツのパル
が現れ リオナの肩に手を置き自分は下に潜ると合図した。
撮影班のパルと留学生のサナ.アンナハルは 下の作業を撮りリオナは 
上から全体像を撮影する手はずになったようだ。

カイ.βは ゆっくりと体を水中ボーリング機の方に向け海底を歩き始めた。
カイの存在に気付いた照明班がカイ.βにライトの明かりを集め設置班は
少し後ろに下がる。
掘削の先端部分にあたるパイプをコウタから受け取り ボーリング機の中心
にある口径15cmのパイプにがっちりとパイプレンチで締め上げ繋いだ。
先端部分はギザギザになっていて 回転しながらサンプルの地層を掘り下げ
口径15cm長さ5mパイプの空洞部分にくり抜いた層を送りこむ。

回転のスピードや引き抜くタイミングを調整しサンプルの地層が詰まった
パイプを外して新しいパイプと換えるのがカイ.βの 役割だ。

コウタは その補助をすることになっていた。主にサンプルの詰まったパイプ
と新しいパイプを交換する役目だ。

カイ.βが 制御レバーを倒し回転が起こる。
設置班が設置面や海底に打ち込んだアンカーのぶれがないか確認を始めた。
もしこの時点で振れがあれば掘削をするとボーリング機が
持ち上がったり
横転する危険があるからだ。

設置班の数人が船のオペレーターとやり取りをしている。

 
ヘッドホンにオノ教授の声が流れた。
「では 諸君授業開始だ!ロックンロール!」

カイ.βは 掘削レバーを力強く倒した。
モータの回転が水中に振動し激しく回るパイプの先端が底の砂を巻き上げる。
照明がカイ.βの周囲に集まり水温の上昇を感じた。
パイプの先端は 氷結した海底をガリガリ音を立て掘り進んでいく。
数十cmいくと氷結部分を抜け感触がざらざらとしてくる。
どうやら砂と貝殻.鉱物の等の層に入ったようだ。
パイプからジャリジャリとした感覚が伝わってきた。
2m程いくと妙にかたいものにぶつかった。
まるで岩のような感覚。
レバーを倒してもシャリシャリといった強い抵抗感がある。。。
時間は 掛かるがこれを超えないと目標の60mに辿り着けない。
耐水圧ヘルメットをかぶったカイ.βの額から汗が吹き出す。5分ほど格闘の末 2m50cmで貫通。気がつけば少し腕が張っているようだ。
ふと見上げるとリオナが上の方を泳いでいるのが見え カイ.βは なぜか
とても安心した。

右斜め横の海中では 少し離れてパルが撮影をしている。

この後は スムーズに掘り進みまるで手応えの無い層が続いた。
埋立地なので予想はしていたがここまで柔らかいとは 思っていなかった。

60mを掘り終え12本目のパイプを引き抜くと みな水中ボーリング機を
操作していたカイ.βの所に集まって抱き合ったり握手を求めてきた。
みんな笑顔だ。この授業のためかなりのシュミレーションをしてきた成果が
でて嬉しくてたまらない様子である。

しかしそんな時 ヘッドホンにリスティーの声が響いた。
「大変あがって!すぐに船に戻ってください!」

潮の流れが止まったのにカイ.βは 気付いた。
「とまった。。」カイが呟く。

リスティーが叫ぶ
「みんな はやく上がって!!!」

その瞬間 辺り一面に気泡が吹き上がった。。。



 小説『Atomic City』より

 著作権は Kaizuに属します。

    





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最終更新日  2004年09月02日 02時54分47秒
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