日本は甘いのか?八坂神社の外国人ガイドによるトラブルが示唆する
日本は甘いのか?八坂神社の外国人ガイドによるトラブルが示唆する、日本の通訳ガイドの問題点6/28(金) 11:02配信JBpress・YAHOOニュース (合同会社かぐやライゼビューロー代表社員:杉江 真理子) 主に海外からの観光客を対象とする旅行会社の代表を務め、インバウンドのニュースサイトにも携わっている杉江真理子氏。今回の八坂神社でのトラブルから見える、意外と知られていない通訳ガイドの実情と問題点について解説する。■ 問題を起こしたガイドは無資格の可能性が高い 京都の八坂神社といえば、地元で「祇園さん」と呼ばれ親しまれているだけでなく、国内外から多くの参拝客が訪れる有名神社だ。そこである事件が起こった。ガイド引率の外国人グループが国宝でもある神社本殿の「鈴の緒」を柵に叩きつけて遊んでいたという。それを地元の日本人女性が見かねて注意したところ、日本在住の外国人の男性ガイドに罵倒されたというのだ。 2024年5月23日夜にX(旧Twitter)に投稿された、その動画が波紋を呼んだ。そこには注意した日本人女性を罵倒するガイドと、翻訳アプリを利用しながら反論する女性の声が生々しく残っていた。あいにく、外国人グループが「鈴の緒」を柵に叩きつけている現場の動画がなく、神社側も公式にはこの様子を把握していないとしている。 Xで該当の動画が拡散され、そのガイドの会社名もすぐにわかった。会社といっても法人登記されていないようなので屋号だろうか。ホームページは消されていたが、ツアー募集をするポータブルサイトには履歴が残っていて、いくつかのウォーキングツアーの募集が載っていた。残念ながら、評判は芳しくないようで否定的なコメントもみかけた。 その男性ガイドの名前もわかったので、私は全国通訳案内士のリストをあたってみたのだが、それらしき名前は見当たらない。京都市には認定通訳ガイドの制度もある。こちらにもガイド登録はないようだ。彼は、まず無資格のガイドとみて間違いないだろう。■ 全国通訳案内士とバスガイド、添乗員の違い 日本で外国人観光客につきそい案内するガイドは、全国通訳案内士という国家資格保持者だ。その他、地域限定の通訳案内士(ガイド)という制度もある。 京都市の認定通訳ガイドになるには研修を受ける前に審査があるなど、なかなか厳しい。私がお世話になっている京都市認定通訳ガイドは、京都の生き字引のような人である。 外国人観光客がたくさん来日する時期は、桜と紅葉のシーズンだ。この時期は、優秀なガイドは引っ張りだこになる。 ところでガイドというと「バスガイド」を思い浮かべる方も多いだろう。バスガイドはバスツアー客の世話をやいてくれたり、観光案内もしてくれるが、「車掌」が正式名称だ。観光バスの入り口付近に運転手名と車掌名が掲示されているが、車掌名のところにはバスガイドの名前がある。 また、団体ツアーに参加するとよく添乗員が同行する。添乗員の正式名称は、「旅程管理主任者」。文字通り旅程を管理するのが仕事だ。わかりやすくいうと、旅行会社の移動社員といった存在である。ツアーを予定通り安全に進めるのが主な仕事ではあるが、観光案内や通訳をすることも。ただし、国によって観光案内は資格をもったガイドの仕事であるので、その場合は現地の法律に従う。私自身も総合旅程管理主任者の資格を持ち、添乗員として働いた経験がある。■ 通訳案内士法の改正で無資格ガイドが横行 このような有資格のガイドがいるのに、どうして無資格のガイドがいるのか。 通訳案内士法が2018年1月4日に改正され、通訳案内士の資格を有さない人も、有償で外国語を用いた観光案内を行うことができるようになった。この時期は、コロナ禍前で東京オリンピックを控えて、たくさんの観光客が日本を訪れると予想されていた。日本人の多くは外国語が苦手で外国人とのコミュニケーションに問題があるかもしれないと政府は考えたようだ。そこで、ガイド不足を補う必要から、無資格でも有償でガイドができるようにしたのかもしれない。 他の思惑もあったのかもしれないが、それはよくわからない。 日本の通訳案内士になる試験には実地試験は含まれておらず、資格はとったものの実際に外国人観光客を案内するスキルが未熟なガイドも多い。そういったガイドはクレームにつながると考えられるのか、ベテランに仕事が集中し、新人のガイドはなかなか仕事にありつけない。 そんな事情がある中で、通訳案内士法が改正された。 もちろん資格をもったガイドにも一定の配慮はある。資格を有さない人は、全国通訳案内士や地域通訳案内士、又はこれに類似する名称を使用することができないとされた。具体的には、日本ガイド、地域名+ガイドなどだ。 今回問題となった男性外国人ガイドのホームページは削除されてしまっているので、彼がどのように自分の職業について説明したかはわからない。だが、もし通訳案内士に類似する名称を利用していたとしたら通訳案内士法に抵触する可能性があるだろう。ちなみに1949年に通訳案内士法(旧通訳案内業法)ができてから2018年1月4日の改正時まで、無許可のガイドの取り締まりが行われたことはない。 また、通訳案内士法が改定されたことにより、有資格の全国通訳案内士は、5年に1度、観光庁が登録した研修機関(登録研修機関)が実施する研修受講が義務となった。研修機関によって研修費は異なるものの、研修費はガイドの自腹である。 無資格のガイドには課せられない研修を受けても、仕事の受注に結び付くかどうかわからない状況では理不尽なことではないだろうか。■ オーストリアに比べ、甘い日本のガイド制度 ところで、私が以前働いていたオーストリアのガイド制度についても触れておきたい。コロナ禍前、2017年の統計で、外国人訪問者数は日本は28,691,000人、オーストリアは29,460,000人。数字だけをみるとそんなに変わらないように見える。だが、日本の人口は約1億3000万人、対してオーストリアは約880万人といったらどうだろう。感じ方がずいぶん違ってくるのではないだろうか。 オーストリアは首都ウィーンをはじめとして、モーツァルトの故郷ザルツブルクといった観光資源がある国だ。観光を大切な産業ととらえ、古くから多くの観光客をもてなしている。オーストリアも、日本と同様に観光ガイドは国家資格となっている。だが、ガイドになるための試験、国による扱いも含め、ずいぶん異なる。 州によって試験の頻度は異なるものの、おおむね2年に1回の割合でオーストリア公認ガイドになるための試験が行われる。試験内容は、筆記試験、口頭試問、実地試験である。その試験を受ける前の2年間、ガイド養成学校に行く必要があり、ここでみっちりと授業を受ける。 注目してほしいのは実地試験だ。試験官同乗のうえ、実際に観光バスに乗り、ガイディングだけでなく、適切なルートをとることができるかをも確認される。なお、ガイド養成学校の授業も試験もすべてドイツ語で行われる。日本語、英語、フランス語などの語学に関しては、別途試験を受けることになる。すなわち、まずはドイツ語の公認ガイドになり、その後、たとえば日本語ガイドになるならば、日本語の試験に合格する必要がある。 なお、オーストリアのほか、日本人観光客にも人気があるフランス、スペイン、イタリアなどでもガイドになるには厳しい試験をくぐりぬける必要がある。 日本の全国通訳案内士の試験は筆記試験と口頭試問のみであり、実地試験はない。実際に観光客を案内するスキルがあるかどうかチェックされることはない。 オーストリアの公認ガイドになるには、かなり厳しい道のりだが、その分ガイドは法律で守られている。ガイド免許なしに外国人がガイド業務を行ってはならないと刑法で定められている。違反者は逮捕され、罰金支払いの上、7年間もしくはそれ以上EUに入国禁止となる。実際に逮捕者も出ている。日本人で逮捕された者も複数いる。 残念ながら日本の通訳案内士の資格試験は、古くから観光を大切な産業としてみている国に比べ不十分だと言うしかない。国家資格を持ちながら、ガイドとしての十分なスキルがないというのは、いかがなものだろうか。 日本を訪れる外国人観光客は、他の国の観光の経験もあるだろう。当然、他国のガイドと日本のガイドは比べられることになる。私は、日本の旅行業者のはしくれとして、無資格のガイドが地元の人とトラブルをおこすような現状はとても恥ずかしいと思っている。 今回の八坂神社でのトラブルで表面化したが、質の低い無資格ガイドは日本の観光業にとってマイナスの存在である。最近はSNSの存在もあり、彼らによって日本の評判を落とされる可能性も否定できない。 また、有資格の通訳案内士の仕事を奪っていることも問題だ。実際に彼らは集客に成功し、報酬を得ている。国家資格を取り、5年に1度の研修を受けている有資格者が、なぜ割を食わなくてはならないのだろうか。 一方で、残念ながらスキル不足の通訳案内士がいることも問題だ。観光を大切な産業としている国を参考にし、日本も通訳案内士のレベルアップが必要だろう。 (編集協力:春燈社 小西眞由美)杉江 真理子※「オーストリアの公認ガイドになるには、かなり厳しい道のりだが、その分ガイドは法律で守られている。ガイド免許なしに外国人がガイド業務を行ってはならないと刑法で定められている。違反者は逮捕され、罰金支払いの上、7年間もしくはそれ以上EUに入国禁止となる。実際に逮捕者も出ている。日本人で逮捕された者も複数いる」「質の低い無資格ガイドは日本の観光業にとってマイナスの存在である。最近はSNSの存在もあり、彼らによって日本の評判を落とされる可能性も否定できない」・・・以前、韓国人団体の日本観光で、随行する韓国人ガイドは「これは日本が韓国から盗んだ」「韓国が教えてやった」とか、まるきり「反日ガイド」というのを聞いたコトがある、