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January 10, 2009
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瞑想に絶対的な価値を置くことにより、社会的、歴史的な存在としての自らの責任を忘却してしまった仏教の歴史について、最後に述べたいと思います。

ドイツのヴァイツゼッガー元大統領が来日してとても残念がっていたように、戦後五十周年を経ても、日本は変わりませんでした。変わるどころか、自由主義史観という「開き直り」『忘却』「記憶の暗殺」が、まさに戦後五十周年という時期に堰を切ったようにあふれ出したのです。

その流れに対抗するかのように、アメリカで二つの書物が出版されました。一冊は“ザ・レイプ・オブ・ナンキン”。いわずもがな、自由主義史観論者たちがやっきになって、もみ消そうとしている日本軍による南京大虐殺を、女性に対して加えられた性暴力の観点から描き出した大著です。(自由主義史観の人々の言説は、フェミニズムの立場から批判しうるものではないでしょうか)。出版を妨げようとする動きが日本でありました。記述に勇み足的な部分もありました。しかし、無視はできない問いかけでした。もう一冊は“ゼン・アット・ウォー”。日本の禅仏教が兵隊に「死の哲学」を教え、殺人を賛美したという歴史的事実を、膨大な資料で論証したものです。著者は、ニュージーランドのオークランド大学助教授のブライアン・ヴィクトリアさん。

ヴィクトリアさんも紹介している禅僧の語録を紹介しましょう。近代日本を代表する知識人として、内外に知られている鈴木大拙氏は語ります。

「敢へて敵人を屠らんとするにあらず、敢へて財宝をうばわんとするにあらず、坦々正義のため不正を代表する国民を懲らさんとするのみ」(『新宗教論』)

大拙氏の師、釋宗演氏は語ります。
「我々の勇ましい兵士に仏の崇高な思想を説くことによって生気をたぎらすのです」(『住職のお説教』)

戦後も、禅を名僧としてマスコミでももてはやされ続けた沢木興道氏も負けてはいません。
「法華経の三界は皆是れ我が有なり…ここから出発すれば……世界も我が有の中で秩序を乱すものを征伐するのが即ち正義のいくさである。ここに殺しても殺さんでも不殺生、この不殺生戒剣を揮(ふる)う。この不殺生戒は爆弾を投げる」(『禅戒の本義を語る』)

「爆弾投げる仏教がどこぞにあんねん!」とツッコミたくなります。戦時下の禅宗では「戦禅一道」という言葉がよく使われました。戦争と禅定(瞑想)は一つの道というのです。「参禅一体」つまり「戦争に参加することは、禅定と同じ」とも言っていたのです。

しかも、ヴィクトリアさんが憤(いきどお)るのは、この禅僧たちが海外の講演などでは、まったくこのような事実を隠し、「仏教とは慈悲の宗教であり、長い歴史のなかで戦争を行ったことがない」と語っていたことです。

瞑想――禅定――自体には、正負の価値はありません。それを価値づけるのは、どのような心をもっているかです。どのような行動をしたかです。

瞑想を絶対視することは、偏狭なエゴイズム、ナショナリズムに通じるのだということを、歴史の事実は教えてくれるのです。それこそブッダが批判した邪禅定なのです。

偉大なチェコの作家ミラン・クンデラは瞑想に通じる、「忘我(エクスタシー)」の価値を、それが日常性を打ち破るものであるかぎり、認めつつも、普通の人生の重みをこう言います。

「生きるとは自分自身を見失わず、つねに断固として自分のなかに、自分の立場のなかに存在するための、たえざる重苦しい努力である」(『裏切られた遺言』西永良成訳、集英社)。

ブッダは、またその弟子たちは、重苦しい努力を絶やすことなく続けたのです。対して、安直な瞑想絶対視は、小さな自己の立場を固着し、かえって自分自身を見失うことになるのです。


【ブッダは歩む ブッダは語る――ほんとうの釈尊の姿 そして宗教のあり方を問う】友岡雅弥著/第三文明社





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Last updated  April 30, 2019 01:56:49 PM
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