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October 10, 2021
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パンデミックの倫理学

児玉 聡

 

世界で猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大。各地では外出や移動の禁止、都市封鎖など、拡大防止策がとられていたが、これらは個人の自由や経済活動の制限も伴うものである。こうした規制はどう正当化できるのか。「パンデミックの倫理学」について研究する児玉聡・東京大学大学院准教授に聞いた。

 

個人の自由は制限できるのか

社会との根源的な問いが

 

正当化できる根拠は

倫理学のテーマの一つに、個人の自由をどこまで尊重するのか、社会は個人の自由をどこまで制限してよいのかといった問いがあります。今回のパンデミック(世界的大流行)では、中国部間で都市封鎖が行われ、ヨーロッパ諸国でも外出や移動が禁止されましたが、こうした個人の自由の制限は何を根拠として正当化できるのか、倫理学は答える必要があると考えています。

例えば、JSミルは個人の自由の制限が正当でありうるのは、他人に危害を加える場合に限られると、『自由論』で論じていますが、この他者気概言説によって、都市封鎖や外出禁止を正当化できるのかなど、倫理学視点からパンデミックの中で行われる政策について考える必要があると思います。

感染が明らかで他者に感染させる可能性がある人を隔離し、自由を制限することは、他者気概原則からするとやむをえない措置と考えられます。しかし、この他者危害原則を感染していない人や感染しているか分からない人に当てはめようとすれば、拡大解釈ということになります。

一方、本人の利益の観点から、「外出すると、他人から感染させられる危険があるから外出は止めなさい」というパターナリズム(父権主義)を根拠とすることもできます。しかし、重症化のリスクが高い高齢者や基礎疾患のある人には当てはまっても、重症化のリスクが低い若者に対しては説得力に欠けるでしょう。

都市を封鎖し、外出や移動まで禁止するのであれば、社会全体の利益をその根拠とすることが最も納得できるものではないでしょうか。人々の健康が危機に瀕しているとき、市民の義務としての自らの自由を制限し、全体の利益に協力するということです。

特に新型コロナウイルスの感染症では、無症状の人が感染を広げる可能性があるなど、皆が協力しなければ、拡大を妨げない感染症であることを認識しておく必要もあります。

 

 

実行に対する透明性の確保を

 

情報公開と説明責任

全体の利益が個人の自由を制限する根拠となったとしても、なお配慮すべき点があります。それは制限の範囲を必要最小限にとどめることや、対策の手続き的正義—市民への情報公開と説明責任という透明性の確保です。さらに自由の制限によって市民が払う犠牲に見合う補償も必要でしょう。

2月、横浜港で乗客・乗員に船内待機が要請されたクルーズ船のケースでは、下船禁止は国内の感染拡大防止のために取られた対策でしたが、船内では感染が拡大しました。下船を禁止された乗務・乗員の利益は適切に考慮されていたのか、自由の制限を最小化する選択肢は他になかったのか、さらに対策の決定、実行に対する透明性についても検証される必要があるでしょう。

同じことは、特措法による緊急事態宣言の発令についてもいえます。発令までに専門家会議と政府との間でどのような議論があったのか、どのような選択肢が考えられ、最終的に宣言の発令が決定したのか、説明する必要があったと考えます。

しかし、そのような課題はありましたが、宣言発令後、日本では東京や大阪などの都市部でも感染が大幅に岩礁し、感染症対策としては有効に機能したようです。

 

差別生まない対策も

一方、緊急事態宣言後、自粛しない市民や店舗を取り締まる「自粛警察」といった現象が生じ、国の規制の在り方が問われました。

法的強制力を持たない特措法が自粛警察などといった同調圧力を生んでいるという批判です。

しかし、同調圧力という話は多義的で、良い方向にも悪い方向にも働く作用があります。周りの人に合わせマスクを着用する人が増えることで感染拡大の防止につながれば、それは社会にとっても個人にとっても利益になります。重要なことは誰もが納得し協力できる説明責任を果たすことです。

また、罰則的の外出禁止令を発令した英国でも、都市部から別荘地に来る人々に対する自警団的な動きが問題になっていました。従って、法的強制力が自粛要請化といった選択ではなく、いずれの場合にも発生する同調圧力のコントロールが大切であるということです。そのためには、市民が市民を力ずくで従わせるということは許されない、そうした認識の共有も必要です。

感染拡大の初期段階には、その防止策が感染者や家族、医療従事者への差別として向けられることもあります。こうした社会の副作用に対しても、政府が事前に議論しガイドライン等を準備しておく必要があると思います。

パンデミックに限らず非常事態が生じたとき、個人の自由の制限はどこまで許されるのか、個人と社会との根源的な問いを立てて、考えておく必要があります。

医療法界が迫るなかで、医療資源の配分を巡って個と全体の利益が相反する事態も生まれることがあるでしょう。医療法界に備えることは当然ですが、それを超える事態が起きたとき、人々に公平に、そして差別を生むことのないようにするには、どのような対策が必要か、その倫理的課題を見つけ、議論しておくことが大切です。

 

 

【文化Culture】聖教新聞2020.10.20






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Last updated  October 10, 2021 05:31:30 AM
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