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翌日の午後六時少し前、雪乃はマンションを出た。
すると、すぐにマンションの前に停まっている黒塗りの大型車のドアが開き、黒いスーツを 着た男性が降りてきて、雪乃に会釈をした。昨日、電話をかけてきた沢崎という秘書だと、 雪乃はすぐに思った。 車に近づきながら、自分の服装が場違いではないかという不安にかられた。 今日の服装を決める時、自分にふさわしい格好にしようと思い、黄色のワンピースにしたの だが、それはどこにでも売っている普通のものだった。 「お忙しい時にご無理を申しました。それではご案内いたします。」 沢崎は後方のドアを開け、雪乃に乗るように促した。 「私、こんな格好で・・・・・、ご迷惑になりませんでしょうか・・・・。」 雪乃の言葉に、沢崎は一瞬、考えるような表情をしたが、 「会長は吉井雪乃さんにお会いできることを大変楽しみにしております。」 と言った。 その声は、昨日の電話の声と同じに、雪乃の心に静かに入り込んできた。 静かな住宅街の一角に、そのレストランはあった。 外から見たら、レストランとは分からないようなつくりになっているが、店内は落ち着いた 雰囲気で、クラシック音楽が流れていた。 会長は雪乃の姿を見ると、笑顔になり立ち上がった。 次々に運ばれてくる料理を、会長は楽しみながら食べ、雪乃に今まで自分がしてきた仕事の ことを話し続けた。それは雪乃の知らない世界の話であったが、雪乃にも充分楽しめた。 料理が一通り運び終わった時、急に店内のライトが暗くなった。そして、沢崎がケーキを 持って現れた。 驚く雪乃に、会長が、 「雪乃さん、お誕生日おめでとうございます。これは私からのささやかなお誕生日プレゼント です。」 と言った。 今日が12月16日だと、雪乃はその時気づいた。 自分の誕生日を忘れたことなどなかったのに、今年はすっかり忘れていた。 あまりにもいろいろなことがあったからだ、と雪乃は思い、そのケーキを見つめた。 25本のローソクの光が、暗闇の中で静かにゆれていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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