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昭の視線が、落ち着きなく動く。
昭の席から、真理奈の横顔が見えることに気づいた雪乃は、昭が真理奈に気づいて動揺して いるのだと思った。 結婚して渡米した真理奈が、まさか今夜同じ店にいようなどと、昭は思いもしないだろう。 雪乃はそっと真理奈の様子を伺うが、真理奈は今までと変わりなくナイフとフォークを動か し、 「ここには家族でよく来ていたのよ。雪乃さんと一緒に来れて嬉しい。」 と笑顔で話した。 その時、洗面所から戻ってきた昭の連れを見て、雪乃はさっと視線をテーブルに戻した。 その女性は、菜摘だった。 カッカッと靴音を立てながら歩いてくる菜摘の化粧も服装も、今夜はいつもに増して派手 だった。 菜摘が真理奈がここにいることを気づかずにいることを、雪乃は祈った。 ドキドキする気持ちを抑えて、雪乃は真理奈と会話を続ける。 赤ちゃんは男の子か女の子か、お医者様に聞けば分かるのだけれど、私達はあえて 聞かずにおくことにするのだと、真理奈は言った。 雪のように白い肌、黒い瞳が輝く。 「ちょっと失礼します。」 真理奈はそう言うと、席を静かに立った。洗面所に行くようだった。 真理奈は昭のすぐ傍を歩くことになる。 真理奈は昭に気がつくだろうか・・・・。 部署は違っていたといえ、真理奈は昭の顔を知っているはずだ。 昭が真理奈に憧れていたことは、その当時社内では有名だった。 昭の気持ちを、真理奈は知っていたかもしれない。 真理奈は靴音をさせないで歩き始めた。 お腹のふくらみはまだ目立たない。 背筋を伸ばし、真理奈は昭に近づいていく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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