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カテゴリ:四季感慨
筆者の近代縫製新聞連載の論説が、今回で200回となった。そして兼ねてから提唱してきた21世紀の生産理論としての「客業生産」論が具現化するという現実を迎えている。この200回の論説は次のように記載された。筆者にとってもまことに意義深い思いである。
生産の見直し―「客業生産」論の具現化 筆者提唱の「客業生産」論は今から13年前、2002年5月刊行のアパレルビジネスマガジン誌上で「常識守って消滅 常識破って再生 縫製品製造業に問われる存続」と題して、概要次のように論じた。 1)客業個産という常識破り 生産は顧客のために行われるものであり、顧客にとって「適種、適質、適量、適期、適価」な製品を生産するものであるのに、その製品のコストを下げるためにひたすら量産に励むこととなり、その結果生産された製品は顧客に押し付けるという「プロダクトアウト」となって、顧客の嫌うこととなり、大量の売れ残り品の発生を見ることとなった。大量生産は20世紀にはうまく効果を発するように生み出されたものであるが、これをそのまま21世紀に持ち込むことはできない。生産は顧客のために行われるという原点に立たなくてはならない。工業の大量生産という常識を破って客のための業、すなわち「客業」となり、顧客ひとり一人を対象とする「個産」にならなくてはならない。 2)常識破りのセル生産方式 大量生産においてコンベヤーは、フォードが採用して大成功を収めて以来、常識となった設備である。しかし、コンベヤーシステムは在庫の山を前提とし、造り過ぎの欠点を持つ。「セル生産方式」ではコンベヤーを撤去するという常識破りの生産方式で、仕掛かり在庫をなくすものであり、多品種少量生産に向いている。 そして、「客業生産」論の詳細は、2004年5月刊行の拙著「チェックリストによる少量・短納期生産モデル縫製工場ガイド」(繊維流通研究会刊)において説明し、その基礎となる生産理論を添付資料に記述した。当時は「大量生産を止めて、カスタマイゼーションに転換する」という製造業界の常識破りの論旨であった。 そうした中、同年12月にEUの繊維産業連盟(EURATEX)が「繊維産業2020年ビジョン」を発表したが、その中に「大量生産を止めてカスタマイゼーションに移行する」と表明し、筆者はそれを知って大いに心強く感じたことを覚えている。そして、2011年には、何とドイツ政府が「大量生産を止めてカスタマイゼーションに転換し、その生産方式にセル生産方式を採用する」という「インダストリー4.0」プロジェクトを立ち上げて、技術開発に取り組み始めたのである。「インダストリー4.0」とは、2011年11月に公布された「高度技術戦略の2020年に向けた実行計画」というドイツ政府の戦略的施策の1つである。現在の製造業は、大量生産型のビジネスモデルに縛られている。同じものを大量に作ることでコストを下げ、その下がったコストで利益を稼ぐという形だ。しかし、このビジネスモデルは、多くの需要がある市場で、しかも大規模生産が可能な企業力がなければ、成功できない。「少量多品種のものを高効率に生み出すことができれば、新たなビジネスモデルが広がる可能性がある」と、ドイツ機械工業連盟会長ラインホルド・フェステゲ氏は語ったというが、全く同感である。そして「インダストリー4.0は、この方向のプロジェクトで、中小企業が大企業と戦える可能性を作るものだ」と力を込めた。今日、拙著刊行から11年たった。工業生産の行き詰まり感は強くなり、中国でも経済構造改革「新常態」が打ち出され、工業生産も消費者重視に転換し、生産は工業生産から客業生産の方向へ移行する流れとなっている。世の中が「客業生産」へとシフトを始めている。この4月は、ドイツ・ハノーファー・メッセで、「インダストリー4.0」プロジェクトのデモが行われたので、わが国の製造業界も「インダストリー4.0」についての話題が多くなると思われる。生産のあり方を見直す時期となっている。 このように論じたのであるが、筆者の当時は”常識破り”であった「客業生産」の考え方が、今日ではドイツ政府のプロジェクトにおいて具現化し、今や製造業界の常識となりつつあり、この意味で隔世の感を深めているが、筆者の「客業生産」論とドイツのプロジェクト「インダストリー4.0」との接触がそのうち、起こることになるのではないかと思っている。そんなことを考えながら、このプロジェクトの進展を見守っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年04月18日 13時50分05秒
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