カテゴリ:日々のカケラ
セットしたケイタイのアラームが、午前3時に震え出した。浅い眠りから覚めて山小屋の小さな窓を覗き込み、暗闇に目を凝らす。どうやらガスが一面を覆っているようだ。もしかすると今日のご来光はなにも見えないかも知れない。それでも同行の4人に声をかけた。外の様子を見てきたテツオは、10メートル先も見えない、と半分あきらめているようだったが、悪天候は、劇的な風景に出会うチャンスでもあるのだ。よほどの暴風雨でもないかぎり、ぼくはなんの迷いもなく山頂を目指す。学生時代ワンゲルだったナオコが言った。「霧は晴れるよ」。よし、これで決まりだ。今日は晴れるぞ。何年とつき合ってきた3バカトリオの白山登拝なのだ。ダブルシノブのふたりと合わせ、ぼくたちがまっ先に山小屋を発った。 まだ眠っている身体にいきなりの山道は想像以上に辛いものだ。1時間ほどもかけてようやく山頂の奥宮にたどり着いた。吐きそうになるほど疲れたナオコの背中をさする。突然の誘いに予定を変更してまで参加してくれた友らだ。そばにいてくれるだけで、なんだかとてもうれしかった。 日の出を待つ数十人の中のひとりとして、ぼくも岩陰にたたずんだ。ほんとうはひっそりと静寂を楽しんでいたいところだが、学生たちなのかワイワイとにぎやかな声が飛び交っている。立ちこめたガスが一瞬切れて、黎明の空が顔を出した。わぁーと、大勢のため息が同時にもれた。ぼくは平然とシャッターを切る。劇的なショーは今始まったばかりなのだ。感動の声はまだ先に取っておくことにした。 目前に広がる、どでかい雲海。ナオコが教えてくれたばかりの御岳が今朝も雲の上に見える。御前ケ峰に立っていると、いまここから飛び立とうする鳥の気分だ。南の風に乗って雲が足早に過ぎ去ってゆく。予定より少し遅れて、お天道様が現れた。すごい。すごすぎる。何度も登った白山なのに、新しい感動がまたわき上がってきた。冷静なテツオも珍しく感動している。「こんな風景見るの、初めてや。願えば叶うんやね。考え方が変わるわ」。不思議なものだ。なにかを願ったわけじゃない。ナオコもぼくも、ただ晴れるのだと、まるで知っていたかのようだ。 それにしても白山だ。ご縁のある人を誘い出し、頂で大自然の息吹をプレゼントしてくれる。一度でも感動した人は、日常の一瞬にもそれを思い出す。そのとき心は翼を持って、どこまでも広がってゆく。まるで雲海を舞う鳥のように。 めぐり愛・言葉(こころ)がつなぐ幸せ結び お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 9, 2007 06:41:38 PM
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