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北朝鮮内部からの通信:ビックリする北朝鮮の社会風景
1)はじめに。これはビックリする北朝鮮の社会風景だ 論座8月号「市場経済の増殖で激変する北朝鮮」「固定化した北朝鮮モデルを乗り越えよう」、石丸次郎(ジャーナリスト・アジアプレス)の報告は非常に興味深いものであった。 「北朝鮮に対する固定イメージを払拭し、北朝鮮の変化を追尾して実像をとらえることは、なかなか簡単なことではない。それだけ私たちには北朝鮮内部の情報が不足しているのである」「国家から与えられたはずの住宅が『不動産業者』の仲介で売買される。主婦や学生がパートやアルバイトで個人に雇用される。清津市では3分の一が3食とも白米を食べ、子供を塾に通わせ、家庭教師を雇う家族も珍しくはない。都市部の女子学生は厚底サンダルを履き、韓流ドラマを見て韓国訛りで話すのがはやっている」。 石丸はビックリするような北朝鮮社会の変化を報告している。 2)こうした変化を石丸は3つの事例で紹介している。 ○不動産業者によって売買される住宅 住宅の慢性的不足は続き、人々が求める場所、広さが合わない。激変したのは90年の大飢饉が発端であった。食べ物を求めて、最後の手段で住宅を手放した人々、200~300万(推定)の餓死者発生で大量の空室・空き家が生まれた。つまり、住宅の大量供給が突如として発生。ここに、生活に余裕のある層を中心に住宅売買の活性化が始まった。 軍の除隊者の移動。党、警察、情報機関の幹部の異動。しかも国家による住宅割り当てはほとんど行われなくなり、いまは、普通の人でも売買による住宅確保が常態化し始めた。現在、この取引を仲介し、手数料を稼ぐ「コガンクン」が登場。仲介業者が生まれるほど<闇の住宅市場>が定着している。 北朝鮮では国家住宅への入居は、通常、都市経営局住宅配定課が「入舎証」を発給し、入居することが出来る。さすがに売買では所有権の移転はないが、実際の売買は入舎証の名義書き換えで完了する。当局は事実上黙認するが、当然、賄賂で処理される。ブローカが蔓延る一因でもある。 「清津市、ハムン市の場合『二間と台所付きの平屋』が市中心部では2千~3千ドルで売買される。(高嶺の花であった)高層住宅はエレベーターもないし、電力難のせいで水道が出ないので人気がない」。 ○私的雇用が幅を利かせる 「失業のない国」が建前であるが、賃加工(私的な雇用)が登場し、労働市場が出現している。 現状ではあらゆるものの配給は十分でない、労働者は出勤が強要されているので、職場に一定の金額を納めて暇を取り、その間に縫製の仕事をする。 北朝鮮は布地を生産できないから、衣類は中国からの既製品の輸入か、布地を輸入して縫製加工する。 衣類の商売人が北朝鮮で縫い子を組織し、布地と糸を与え、一着当たりいくらかの加工賃で契約縫製させる。また、魚網の縫製も大きな手間賃を生む。漁業協同組合では消耗品の魚網を卸している。ここでの少女の工賃は一日100~150ウォン(約50円)。(50円でとうもろこし3キロ、白米1・5キロが買える)。 教師の給料は月2千~3千ウォン。とても食べていけないので放課後私塾や家庭教師をしている。都市部の塾では、中国語、英語、コンピューターなどが盛んである。国家の側が国民の教育の需要を満たせなくなっているので、違法ではあるが、止めようがなくなっている。 ○情報の流通 5年ほど前から韓国産の韓流映画がブームを起こしている。映像流通を可能にしたのは中国産のビデオ・CD再生機の中古品の大量流入である。中国の朝鮮族が映像から違法コピーし、その商品が国境を越えて流入してくる。取り締まる側も韓流映画のファンなのだ。この「情報の闇流通」で「貧しく抑圧された韓国」というイメージが一変した。太陽政策の影響もあり、北朝鮮人民の韓国に対する警戒感は溶解している。むしろ、豊かで自由な国・韓国は憧れの対象となっている。 3)4月2日(大阪)3日(東京)「北朝鮮内部からの通信・リムジンガン」(日本語版)創刊の記者会見が行われた。国内外のメディア30社70人余が取材に訪れた。 会見では「北朝鮮ジャーナリスト、リ・ジュンのインタビュー映像に加えて、リ・ジュンらが首都平壌の裏通りを極秘撮影した最新映像を紹介、政府の統制を外れて、独自の市場経済がすでに北朝鮮内部に浸透しつつある実態について解説した」 北朝鮮ジャーナリストたちによる内部からの通信という史上初めての試みが始まったこと、今も試行錯誤で進められていることが報告された。画期的なことである。 「北朝鮮内部に住む人たちとチームを組んで取材するようになって5年になる」、この石丸報告の書き出しである。北朝鮮内部に取材チームを結成し、その支援の中で北朝鮮社会の内部の映像や暮らしぶりに接近するという手法である。ある意味では何の変哲もない手法であるが、これを実際に実行するのは大変である。情報管理を徹底し続けている北朝鮮国家が相手では、外の支援者も内部のチームも、命がけである。ここに穴を開けはじめた地味な粘り強い活動に私は敬意を表したい。この粘り強いジャーナリストたちの闘いが北朝鮮社会の実像に迫る報道を生み出し始めたということであろう。 4)周知のように、いま、朝鮮半島は大揺れである。 この局面で、日本社会の中では、北朝鮮像は一面的で誇張され、歪んだ像のままである。拉致事件とその後の北朝鮮制裁論が日本の国家と社会を覆っていた時代に確立されたものである。 反共意識の残像もある。根強い朝鮮蔑視の思想もある。マスコミの責任も大きい。日本のマスコミ報道では、「腐敗する政権、悲惨な民衆」という構図で、金正日政権批判・打倒のための歪んだ報道一色であった。 ここには「支配層」の報道はあっても、市民の暮らしの報道とその視点が欠如していた。 社会主義(?)・北朝鮮に好意的な守旧的左翼勢力はこの構図を批判してはいるが、この金正日政権自身に対する批判の視点が薄弱であるため、この政権と民衆の間の実像に迫り、この実像の中にある北朝鮮社会の矛盾と危機を抉りだし、北朝鮮の「民主と法制」の展望を問う領域を自らに設定できないままであった。 この記者会見で石丸は次のように指摘した。 「情報鎖国の北朝鮮では、北朝鮮人自身が自分の国で何が起きているのかを知らないし、知ることができない。人間が日常生活を営むということは、喜びや悲しみ、不平や不満は当然抱くものである。だが、北朝鮮では、人間としての『普通の』気持ちを表現し、伝える媒体はまったく存在しなかった。こうした人びとにとって、リムジンガンが表現の場となることを、私は期待している。北朝鮮人自身が作り上げるジャーナリズムは、近い将来、きっと北朝鮮に根を張り、花を咲かせることになろう。そして、私たちがそれを支援していくことは時代の要請でもあると感じている。 北朝鮮人ジャーナリストたちによる内部からの通信、という史上初の試みは、稚拙な部分がまだいくつもあるが、現地から報告を送り続ける内部記者たちの熱い思いは、実際にリムジンガンを手にとってお読みいただければきっと感じとっていただけると思っている」 北朝鮮人ジャーナリストたちの登場、北朝鮮人自身が取材し、記録し、伝える北朝鮮こそ「外部世界の人間が知りえない、北朝鮮の核心にもっとも迫るもの」となるに違いない。彼らに学ぶことはたくさんある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.07.20 10:08:38
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