吉本ばなな『キッチン』
1980年代の小説。何度目かの再読。これで手放そう。表紙を開く前に、すでに「あ、これってカツ丼とかき揚げ丼の本だ」と思い出す。それぐらい、強烈に美味しそうに記憶に残っている。当時(20数年前)、私の住む関西では「かき揚げ丼」に馴染みがなくそもそも天丼も、それほど見かけなかったのだ。かき揚げといえば、母親の作る適当な具材のぼってりした天ぷらで「あれをゴハンに載せても、ご馳走にはならないよなぁ」と疑問だった高校生の私。大人になって、大きくてサクサクで、タレも関西とは違うらしい「かき揚げ丼」を知ってああ、あれは、これだったのか、と。10代の私は、本当にこの小説が好きだった。当時、映画化されたのも観た。そのせいで、読み始めたとたん映画化のほうが頭をチラついて。川原亜矢子の白いワンピースは可愛かったなぁ。松田ケイジはイメージじゃない、あんなに下品な感じじゃないよな、とか。そして、美しい母(オカマ)の役を、なぜ橋爪功が演っていたのかと、頭をぐるぐるしだして。そこは女優さんで良かったんじゃないのか、森田芳光監督。キッチン 新潮文庫/吉本ばなな