北 の 狼

2005/04/19(火)01:45

オペラ 「トスカ」

本日、オペラ「トスカ」を観てきましたので、「ホラー映画」は一休みします。 「トスカ」といえば、ご存知プッチーニの代表的名作オペラで、初演は1900年。 この度、金沢観光会館で、オーケストラピットが前3列から6列に拡大され、そのこけら落としとして企画されたのでした。 ソプラノは、地元金沢出身で現在はヨーロッパを中心として活躍中の濱真奈美さん。 イタリアに留学した後、1990年ドイツ・フルト歌劇場にて「蝶々婦人」にてデビューを飾っています。レパートリーは他に「椿姫」、「トロヴァトール」、「ラ・ボエーム」等。 10年ほど前に、彼女が歌う「ある晴れた日に」を目の前で聴いて完全に圧倒され、それ以来私のディーヴァ的存在です。 声は全体的に伸びと厚みがあり、中低音域が特に魅力的です。 彼女の同級生だった人を知っているのですが、その人によると、濱さんは小さい頃から腰周りに迫力があって(ただし、体型は太っているというわけではありません)、オペラ歌手になったと聞いて「ああ、彼女ならおかしくない」と友人同士で納得しあったそうです。 容貌は、前回見たときよりぐっと色っぽくなっていましたし、歌声にもより一層の艶が出てきた印象です。彼女はいまが円熟期といってもよいようです。 そういう彼女が歌ったアリア「歌に生き 愛に生き」、最高でしたね。   歌に生き恋に生き   決して他の人に悪いことなんかしませんでした   多くのかわいそうな人たちに会いました   そのたびにそっと内緒で助けてあげてきました   いつも心から神を信じて祭壇にお祈りを捧げてきました   いつも心から信仰して祭壇にお花を捧げてきました   それなのに神様、この苦しみの時にどうして、   どうして私にこんな仕打ちをなさるのですか   聖母さまのマントに宝石を寄進し   私の歌を星に、天に捧げ   天はその歌に優しく微笑んで下さったではないですか   それなのにこの苦しみの時にどうして、どうして神様、ああ   どうして私にこんな仕打ちをなさるのですか 「歌に生き 愛に生き」の歌詞に象徴されているように、このオペラのテーマは「不条理」です。 ストーリー) 恐怖政治が行われていた1800年のローマ。画家のカヴァラドッシが教会で絵を描いていると、彼の友人で前の領事のアンジェロッティが脱獄してきた。ちょうどそのとき、カヴァラドッシの恋人、美貌の歌姫トスカが来たために、彼はアンジェロッティをかくまう羽目になる。 トスカが帰った後、2人は慌てて逃げる。 警視総監のスカルピアは、脱獄犯を探している最中にトスカと出会う。スカルピアは以前からトスカに横恋慕しており、言葉巧みにトスカの嫉妬心を煽るとともに、カヴァラドッシの隠れ家をつきとめる。 ファルーネーゼ宮殿のスカルピアの執務室に脱獄犯をかくまった罪で、カヴァラドッシが連行されてくる。そこにトスカを呼び、隣室でカヴァラドッシを拷問し、アンジェロッティの隠れ家をトスカに白状させる。 カヴァラドッシは投獄され死刑が宣告される。彼を助けるためには、トスカはスカルピアに身をまかせなければならない。一度はやむなく承諾するが、ふと目にとまったナイフでスカルピアを刺し殺す。 殺害する寸前にスカルピアに書かせた通行証明書を手に、トスカはカヴァラドッシを救いに行く。 死の覚悟を決めたカヴァラドッシのもとにトスカがやってくる。(トスカが身をまかせることと引き換えに、スカルピアの命令で)空砲による偽の銃殺刑を装うことになっており、その後2人で逃走しようという段取り。ところが、実際には実弾が込められており(つまり、スカルピアの命令は偽だったのだ)、トスカの目の前でカヴァラドッシは本当に処刑されてしまう。 絶望したトスカは、「おお、スカルピア、神の御前で!(Avanti a Dio !)」と叫び城の屋上から身を投げる。 歴史的背景) フランス革命の後、ナポレオンは1798年にローマを占領し「ローマ共和国」を建国した。(この時、ナポレオンはカトリックの総本山ヴァティカンなどにあった美術品を数多くフランスに持ち去っている)。しかし、同年11月には、ナポリ王国軍がローマを攻撃しフランス勢力を追い出した。 フランス革命の「自由・平等」の精神を広まったために、「トスカ」に登場するアンジェロッティやカヴァラドッシのように「フランス支配下のローマ共和国」を支持するイタリア人もいた(ヴォルテール主義者=啓蒙思想主義者:理性と自由を掲げて封建制、専制政治、信教に対する不寛容に反対する)。一方、フランス革命は「反キリスト教」的でもあったため、カトリック教会のお膝元イタリアでは、これに抵抗するスカルピアらの勢力もまた強かった(スカルピア男爵は実在の人物で、この歌劇では悪者だが、実際には良い統治を行っていたらしい)。 「トスカ」の時代設定は1800年6月で、イタリア勢力がローマを回復しており、フランス=ナポレオン支持派はローマでは弾圧されていたわけである。「トスカ」第2幕に「ナポレオン敗北の知らせは誤りで、ナポレオンが大勝利を収めている」との知らせが舞い込んでくるシーンがあるが、このマレンゴの戦いは、6月14日、ナポレオンが北イタリアでオーストリア軍を破った戦いである。 そして、1808年に再びフランス軍がローマに侵入し、以後1815年のナポレオン没落までローマはその支配下にあった。 「トスカ」で登場する主要な人物のうち、女性はトスカのみです。また、主要人物の4人(トスカ、カヴァラドッシ、スカルピア、アンジェロッティ)はすべて死亡してしまいます。つまり完全な悲劇なわけです。 4人はそれぞれに思惑や謀(はかりごと)を有していたのですが、ことごとく裏目に出て失敗してしまいます。 物事が成就するには「天の時、地の利、人の和」が必要とされますが、皆これらのうちどれかを欠いていたわけです。 また、スカルピアが劇中で「目的は二つ」と言います。彼の目的とは、トスカをものにし、ヴォルテール主義者を根絶やしにすることです。他方で、トスカの目的は恋人の救出とスカルピアの魔手から逃れること、カヴァラドッシの目的は愛と革命です。彼らは、これら二つの目的を同時に成就させようとするのですが、性格や手法がこれを邪魔します。スカルピオは強引な手法と策を弄しすぎて、トスカは嫉妬心が強すぎて、カヴァラドッシは優柔不断な性格が災いして。 「二兎を追うもの、一兎をもえず」といったところでしょうか。 プッチーニはオスティナートと称される音楽技法を多用しているそうです。 オスチィナートとは、ひとつのモチーフ(動機)が予想以上に長く繰り返されることを指しますが、ベートーヴェンが有名ですね。ベートーヴェンの5番第一楽章は、たったひとつのモチーフで構成されています。 ただし、プッチーニの場合は、モチーフのリズムとメロディ、和声進行はいじりませんが、調性をめくるめく展開させて繰り返しており、真のオスティナートとは異なるようですが。「トスカ」は2時間もありますが、使われているモチーフは、10個にすぎないとのことです。 そうそう、アンドリュー・ロイド・ウェバーの「オペラ座の怪人」もオスティナートが多用されているようで、さらに、メロディラインが「トスカ」にそっくりな部分も数箇所あります(考えすぎか?)。

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