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娘が、耳を痛がっていると、幼稚園から呼び出しがあり、迎えに行って耳鼻科へ連れて行く。
耳の治療はよほどイヤとみえ、身をよじって泣き叫ぶ娘を看護婦さんと一緒に押さえつけるのが、ちょっと可哀想だった。 久しぶりに耳鼻科へ行って、安房直子の『鳥』という物語を思い出した。 私は子どものころ、とても耳鼻科にお世話になったから、この話が大好きだった。 あるとき、少女が、耳鼻科の医師のもとへやってくる。 私の耳に入ってしまった「秘密」を、大急ぎで取って下さい――。 お医者さんが耳を覗き込むと、そこは広々とした砂浜で、鳥が飛んでいて。 でも、お医者さんは「秘密」を捕まえることができない。 「秘密」というのが、少女が好きになった少年が、実は魔法にかけられて人間にされた鳥だったという話。その秘密が、誰かに知られたら、少年は魔法が解けて、鳥に戻ってしまう。 少年も知らない秘密。 少年は老いた海女に囚われていて、自由がない。愛し合った二人は手に手を取って逃げ出そうとするのだが、海女はそれを知って激怒し、少女に秘密をばらしてしまう。 だから、そのことを知った少女は大急ぎで、お医者さんのところへやってきた。 でも、叶わず、がっかりして、少女はトボトボと去る。 そして、どういういきさつだったか、お医者さんは、少女もやはり魔法をかけられた鳥だということに気づく。 そして、お医者さんは少女の後を追う。 少女の耳に、もう一つの新しい「秘密」を入れるために――。 手元に本が見当たらないので、うろ覚えだが、こんな話だった。 かわいくて、不思議な話。いろんな読み方ができると思うんだけど…… 恋に落ちるというのはこういうことなんじゃないかな、と思う。 二人とも、人間の世界で、自分を人間だと思って暮らしているんだけど、ある時、相手が鳥だということを知ってしまう。そして、自分も鳥だったということに気づく。 恋ってそういうことじゃないかな。 心のどこかで、ずっと、自分だけが他のみんなと違うような気持ちが、ほんのちょっと、していた。 でも、それなりにうまくやっていたし、人間じゃないかもしれないなんて、考えたこともなかった。 でも、同じ種類の人と出あってしまって、稲妻のように、「秘密」を悟ってしまう。 ほんとうは、今までずっとずっとさみしかった。 ひとりぼっちだった。 それは、魔法をかけられた人間だったからなんだ。 ――私たちは同じもの。他の人たちとは違うもの。 ああ、やっと会えたね。出会えてよかったね。 ……なんて、ね。 生まれた町を 遠く離れても 忘れないでおくれ あの町の風を いつでも誰かが きっとそばにいる そうさきっとおまえが いつもそばにいる いつでも誰かが きっとそばにいる 思い出しておくれ すてきなその名を (上々颱風、「いつでも誰かが」) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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