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「だまされたと思って読んでみろ」
知人から、口コミで広がっているという、一冊の歌集が回ってきた。 ハードカバーで厚さ3センチくらいなのに、手のひらサイズで妙に軽い。いやに手になじむ独特の浮遊感のある手触りに、鳥肌が立つ。七福神のオーラのようなおめでたい黄色の表紙。金色の田中英樹のイラストがキラキラと白熱灯を照り返して笑う。 嫌だ! 開いちゃいけない。逃げなきゃ! しかし、どうしても、強力な「念力」に操られ、ページを開いてしまう。 エジソンに勝たんと発明繰り返す父の背中の鳩時計鳴る 夏の夜の夢枕に立つ先祖霊供物が足りぬと吾を叱るなり 妹の占星術を嘲笑すプラス思考の兄の初恋 音楽のテストの時間妹に招かれしモーツァルトの霊あわれ 前世の母恋しくて夜泣きする弟に燃ゆ母のジェラシー うわー、だからやだったんだー。驚天動地!抱腹絶倒! 面白すぎる。天才すぎる。 若干28歳の天才歌人、笹公人氏の歌集『念力家族』。 満員電車こころで歌うメロディーを隣の男よなぜ口ずさむ モノクロの写真でいつか見た人がわれに微笑むお盆の夜に 落ちてくる黒板消しを宙に止め3年C組念力先生 むかし野に帰した犬と再会す噛まれてもなお愛しいおまえ ゆらゆらと水を花壇にはこびゆく少女が消えて秘密めく夏 ・・・すごいでしょ。はまってしまう・・・、この感覚。 私たち世代にとってオカルトは、もうギャグであり、カルチャーなのだ。ノストラダムスを怖がり、UFOを呼び、バミューダ三角地帯に夢を馳せる。こっくりさんに恋の行方を聞き、給食のスプーンを念力で曲げようとする。学校の校庭は昔墓地で、トイレには花子さんがいる。音楽室のベートーベンは金曜日の放課後に涙を流し、理科室の白骨標本は夜中に校内を歩き回る。 そういう世界で育ってるから。 占いも幽霊もまるで信じないうちのダンナも、「USO!チャンネル」などオカルト番組が大好きで、恐怖映画も漫画も大好き。「呪怨」や「女優霊」といったVシネマをビデオ屋で端から借りてくる。 「幽霊は信じてないけど、いつか会ってみたい」と真顔で言う。 軽くてクールで乾いた、現代のオカルト感覚。 そういう、私たち世代のオカルト・カルチャー、「オカルト感性」というべきものを、存分に呼吸して、自在に歌い上げている。「こんなの、どうだい?」なんていう楽しそうな声が聞こえてきそう。この新しさとユーモア、かすかなせつなさ、ほんと、クセになる。 寺山修司が21世紀に生まれていたなら、こんな歌を作っていたんじゃないか、と、ちょっと思ったりする。 小さな小さなところから出ているけど、そのうち、幻冬舎とか、角川書店とか、そういう利にさとい大手に目をつけられちゃうんだろうな……。この不思議な装丁、不思議な編集で楽しめるのは、いまのうちかもしれない。 この変った歌集を欲しい人は、いまのうちに。絶対ブレークするから、この人。一円もお金もらったりしてないけど、一人の歌人として(オイ、いつ歌人になったんだー?)おすすめ。 奥付によると、発行所は 有限会社「宝珍」(現在は、インフォバーンから大好評発売中) tel&fax 03-5804-6552 http://hoching.co.jp/ info@hoching.co.jp ちょっと真似して。 一本の人差し指をスイと立て天に突き刺しブレーク予知す 若造のみょうちきりんな念力であやかしの午後七色の吾 うーん。いまいち。わはは。 あ、著者紹介によると、明日は笹氏のバースディだった。 私もナンカの能力があるかも。おめでとう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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