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鎌倉橋残日録  ~井本省吾のOB記者日誌~

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2013.10.04
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カテゴリ:日本
前回のブログで取り上げた鴨下信一著「誰も『戦後』を覚えていない」(文春新書)は、思い出したくない終戦直後の記憶として、「間借り」にまつわる日本人同士のいさかいとは別に、「シベリヤ抑留」を取り上げている。

 終戦直後、60万人以上の日本軍兵士が捕虜としてソ連軍によって抑留され、シベリヤの極寒の地で強制労働を課せられ、6万人以上が死んだ。

 原因は過酷な労働使役による過労と飢え、寒さ。加えて抑留兵士に対する残虐なリンチで死亡する兵士が続出した。ノルマを達成できなかった兵士は極寒の屋外で立木に縛り付けられ、夜じゅう放置され、絶命した。

 だが、それを「思い出したくない」のは残酷だったからだけではない。リンチを命令したのは日本人だったのだ。

 <抑留所の中で日本人が日本人を密告し、私刑し、おたがい疑心暗鬼となっている、そんなことがあっていいだろうか>


 「ソ連の不当な抑留と酷使に対し、日本人同士は助け合って耐えている」――。そう思っていた内地の人々は日本人が日本人を殺害している事実に衝撃を受けた。だが、抑留所ではソ連による「思想教育」が行われていた。

 「洗脳」された日本人の「活動分子」が「反動分子」を密告し、つるし上げる。相手を立たせたまま、数百人が長時間、糾弾する大衆集会。スターリン閣下への忠誠を誓う署名。「祖国モスクワ」と唱え、唱えない人々を迫害し、反動分子は日本に帰国させないよう、ソ連当局に報告すると脅迫する――。

 60万人を超える日本人が終戦のドサクサの中で不当に拉致、抑留され、6万人以上が残酷な死を遂げたのに、それが今日、あまり人々の話題に上らないのはなぜか。鴨下氏はこう分析している。



 <シベリヤ抑留の問題は、日本人同士がこうした醜い人間的側面をさらけ出したことにあるのだろう。そしてそれこそが、シベリヤ抑留を我々に忘れさせている、拉致や抑留がこれほど問題になっている昨今なのに、すこしもこの問題が国民の記憶に蘇ってこない要因になっているのだろう>

 
 「ストックホルム症候群」という精神医学用語がある。誘拐や監禁などで危害を加えてきた犯人に対して被害者が連帯意識や愛情、同情を感じるようになる心理状態のことを指す。心理学は「恐怖心から逃れるための一種のセルフマインドコントロール」だと解釈している。

 恐怖心だけでないと思う。屈辱的な状態にいる自分のプライドをごまかす、あるいは麻痺させるための心理的な「逃避」「麻酔」ではないか。

 シベリヤでもこのストックホルム症候群がソ連の思想教育を容易にしたと考えられる。だが、シベリヤでソ連側に媚びを売り、仲間を密告し、リンチするのは、それだけとも思えない。生き残り、保身、昇進を図る卑しい品性だ。

 上司に媚び、同僚を密告する「社畜」の血は江戸の昔から、日本人の中に流れており、その種の「血液」の多い日本人がソ連の抑留所でも勢力を伸ばした。
 
 自分はそんな卑劣漢とは違う、とは思っていた兵士は多かっただろう。だが、ソ連の思想教育にあからさまに反抗すれば、リンチが待っている。だから、大なり小なり媚びを売る態度をとらざるをえない。そこに内心忸怩たる屈折した思いが残る。だから、思い出したくない。

 でも、シベリヤだけではない。残念ながら、今の日本社会でもそれはある。会社や役所、地域社会の中でに。シベリヤ抑留所の状態を薄めた形で同様の媚びへつらい、密告、左遷、降格という名のリンチが行われているではないか。

 GHQに支配されて以来の日本そのものがそうではないか。占領下、米国やGHQをあからさまに批判する新聞や雑誌は検閲を受け、米国の意のままに法律も教育も変えられて行ったではないか。日本だけが悪かったという東京裁判史観を押し付けられ、われ先にそれに同調するマスコミや文化人が広がったではないか。

 サンフランシスコ講和条約によって占領から解放されて以後も米国政府の顔色をうかがうような政治が日本を覆ってきた。米国の洗脳教育はソ連以上に巧妙だったと見ることもできよう。

 だが、日本人の中に権力に媚びる遺伝子が組み込まれているとも言える。それを直視したくないから、イヤな思い出としてシベリヤ抑留の話から遠ざかるのかも知れない。





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Last updated  2013.10.04 22:41:23
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