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カテゴリ:国内小説感想
これまで読んだ阿部和重の作品の中では一番面白かった(これまで読んだことのある阿部和重の作品は「こんな無意味なもん読ませるな! 表紙はいいけど・・・」の『インディヴィジュアル・プロジェクション』と「こんなもん書くな!」と憤った『ニッポニア・ニッポン』)。
古井由吉『野川』リョサ『フリアとシナリオライター』と、最近出た本を続けて読んだこともあり、新聞や文芸誌の書評を幾つかチェックして気付いたことがある。自分で読まずに書いてるのではないかと思えるような、あるいはこの作家のこの作品しか読まずにこの作家を語っているような、そんな印象を受ける書評が少なくない。的はずれなことを書いてるのにたまたま当たったためにそう見えるだけかもしれない。 『シンセミア』が上梓された時、まるで『シンセミア』が傑作であることは当然のこととして語られるような書評に幾つか出会った。『シンセミア』の粗筋紹介を読んで読みたくなったものの、うさんくさい『シンセミア』評にうんざりして、読むのは時間を置いてからにしようと、しばらく待った。何しろ、阿部和重の小説が大嫌いだったから。だからこそ、『シンセミア』で大化けしたのかと、期待もあった。 どうしようもない退屈さをもう味わいたいくなくて100ページをめどに本を置こう、としたところ、95ページで女子高生に「『インディヴィジュアル・プロジェクション』て小説読んだけど、イマイチだね」と語らせる場面に出会い、止めるのを先延ばしにすると、ようやく物語が進み始め、あとは不平不満たらたら思いながらも最後まですいすい読めた。 中上健次や、マルケスなどのラテンアメリカ文学に連なるものとして『シンセミア』を語ろうとした人がいた。何の冗談だ。これは『バトルロワイアル』と同じ地平で語られるべき物語だ。『バトルロワイアル』が低俗だと言っているのではなく、『シンセミア』よりは面白いし楽しめる。文芸雑誌で語られるような作品ではないというだけ。 阿部和重を文壇アイドルとして持ち上げて若者読者を取り込もうという意図が見え、若い女性や派手な経歴の人に賞を上げて話題性だけで本を売ろうとする某賞(芥川賞)と同じ趣向が透けて見え、白け、呆れる。 それなりに面白く読めたのに、不平不満たらたらな部分 ・登場人物の性格付けが皆安易(ロリコン警官・盗撮魔・麻薬常習者・不倫教師・ネット中毒・その他) ・「恟然」「驚駭」「忽卒」その他多く、それまでの文章で使われていた語彙からはかけ離れた言葉が突然出てきて面食らう。もっと極端な語があったが探すのめんどくさい。そこで一度首を傾げ立ち止まる。何度も何度も。それで何かの効果を狙ってるのは分かるのだが、出会う度不快感に襲われる。自然ではない。あまりに不自然なのが気に食わなくて。 ・バタバタと人が死んでいく終盤、そのきっかけのほとんどが思慮の浅さが原因。 ・夏の出来事だから、怪事続きだから、洪水で家に帰れないから、いろいろあるとはいえ、みんな簡単にキレすぎ。 ・ラスト結局綺麗にまとめたがり。 ・ラスト結局余韻を残したがり。 以上のことに目を瞑れば楽しく読めた。もう二度と阿部和重を読むことはないだろう。 ロリコン警官・洪水被害など、現実がこの小説を後追いした部分もあるのに、なぜ今、もっとこの本が話題にならないのか。発売された当時のように。 2003年 朝日新聞社 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004/07/29 11:08:34 PM
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