2004年11月に出たばかりの本。フィリップ・モーリッツという、陰鬱な画面に奇妙なユーモアを醸す版画家の作品が表紙扉絵目次の頁とにあしらってあり、こんな題名でもあり、ゴシック怪奇小説の集まった本にも見えるが、そうでもない。詩人でもある作者が、自分の過去の作品を引用しつつ、その過去を否定するような事を書きつつ、しかしこれは小説なのでどこまで本当の気持ちなのかも疑わしく・・・そこが面白い。なかでも『逢引』で大笑いした。こういうのは久し振り。主人公のかつての同性愛の恋人、現代詩人のT・・・という男の詩を繙きながら、「あなたは彼の詩を盗作してきただけじゃない」といちゃもんをつけてくる、かつてのT・・・の恋人という女に振り回されつつ、昔のT・・・との蜜月時代(と主人公は思っている)、男同士の同棲時代を思い出しながら、女を嘲笑しつつ、次第に自分が女を笑えない立場であることに気付かされ、やがて強烈なしっぺ返しを・・・・・・。
『虻』で紹介されていた、マンテーニャの『死せるキリスト』という絵を探してみた。
これ。よく見ると手足に杭が打たれた跡まで描かれている。
引用されている自作詩は、どれも好きにはなれなかった。
新潮社 2004年