今から57年前の春、中学一年生となった私は同じクラスの一人の女性に
夢中でした。スーッとした体型、そして、とても聡明な女性でした。今で
も名前とその姿は記憶として深く残っています。
彼女は関東地方から、お父さんの仕事の都合での転校生と、のちに知り
ました。当時の中学校は大きな小学校A250名、40名くらいの小学校B、
そして私が卒業した32名のC小学校の卒業生約320名で構成された一学年
でした。
当然、A、B小学校卒業生は知る由もありません。彼女はA小学校の卒業
生でした。彼女のイニシャルはY.Mさん。Mさんと二人きりで話したことは
一度もありませんが、小学校時代、1学年1クラスで6年間過ごしてきた私
には、上品な立ち振る舞いに惹かれて、こんな女性も居るんだと新鮮でした。
Mさんとは2年生、3年生と同じクラスになることはありませんでした。
それより、いつの間にかMさんの姿を見かけなくなったのです。どうも、お
父さんの転勤により引っ越した模様。
私がMさんに心を寄せていたことは誰にも話さなかったので「Mさんは転
校するようだよ」と誰も教えてくれませんでした。
一年生のとき、Mさんと私は同じ6組、隣のクラス5組にはIさんという
おかっぱ頭の女性が居ました。派手さは全く無く、大人しそうな女性でした。
私はIさんという名前、部活はテニスクラブに所属していること、それくら
いしか知らず、一言も話したことはありませんでした。
大人になり、Iさんと再会することになりました。二人きりとなったとき、
「私のことを知っていますか、覚えていますか?、中学1年生のときは隣の
クラスに居たんですよ」と話しかけたところ「いえ、全く知りませんでした」
と返ってきたのです。
その後、Iさんといろいろとあり、29歳の春に結婚することになりました。
中学1年生の春、同じ空間に初恋の人と、将来、妻となる人が偶然居たので
す。その妻は8年前の冬、病気で亡くなりました。
今、Mさんは元気だろうか、どのような人生をお過ごしだろうかと思ってい
ます。
中学三年生の卒業時には既に転校していたと思われるMさんの名前は卒業生
名簿に記載されていません。ということは、4年に一度開かれていた同窓会へ
出席されることはない、ということになります。再び、会うことは、もう無い
ということでしょうか。