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何とも凄まじい話です。
「病魔という悪の物語」 チフスのメアリー 金森 修 著 ¥700 ちくまプリマー新書 素材文として使うなら、私が選ぶのは筆者の主張が際立っていて、現在の話も絡めているp128~p140です。しかし、やはりこの本は通して全部を読んで欲しい。メアリーの生涯を丁寧になぞることで一人の個人の哀切がとても身近に感じることができると思うのです。 歴史的事実としては健康保菌者としてチフス菌のキャリアになったメアリーが、公衆衛生=公共の福祉の名の下に不条理な拘束を一生受けることになった、という話です。健康キャリアは今も昔もたくさんいる。今ならHIVでしょうか。キャリアの管理もなされたこともある。伝染病を当局に届け出るのは現在なら常識です。 しかし、腸チフスという重大な病気とはいえ、「一生」「無期限に」自由を奪われて拘束されるというのは本当に正当なことだったのか? この疑問は、身体壮健ながら、社会的な渦に巻き込まれて、たった一人の「生涯隔離された」メアリーの生涯を淡々と感情を排して(ちょっと入っているけど)描くことで強く読者に迫ってきます。 公共の福祉と個人の人権。最新の科学が本質的にはらむ「間違っているかもしれない」という仮定と確からしさ。この二項対立が本書の軸です。 私は「チフスのメアリー」については「毒薬手帖」の方で読んでいたのですが、記述も短く、さほどの感慨を抱きませんでした。 しかし、今回の本は、泣きました。ただ同情するのではなく、震撼しながら泣きました。これは昔話でないのです。 今でも「チフスのメアリー」は日本でも出現しうると思います。 なるほど腸チフスは良い予防法や治療法ができて、それほど恐れる病気ではなくなりました。でも、多剤耐性結核やHIV、SARSなど、今でもてこずる病気はたくさんあります。チフスのメアリーを生んでしまった扇情的な「イエロージャーナリズム」は日本でもますますひどくなる一方です。 私は・・・イエロージャーナリズムを抑えて、健全な、科学的根拠に基づく予防策をとるのには教育が一番いいと思っています。これまで子供に勧める新書として「健全な市民」「良識あるリーダー」として備えておくべき常識を身につけられる本という観点で挙げてきています。 最後になりましたが、「ちくまプリマー新書」は子供向け新書として非常に優れたラインナップを揃えています。またルビもふってあるので、小学校高学年からでも読みやすいと思います。そのうちまたご紹介します。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.06.15 13:57:11
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