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2学期に入り、キミとのランチデートはできなくなった。
下校時間に少しでも逢えるなら、そう思って時間を調節してみた。 でも、学校の傍やキミの家の最寄り駅近くでは、知っている人に見られる可能性は高い。 定期が使える範囲の駅に途中下車してでも、キミは逢いたいと言ってくれた。 ただそれは、家庭教師が来る時間などに合わせると、かなり無理があった。 仕方なく、土曜か日曜で、キミと私のスケジュールが合う時間を探すこととなった。 でも、それもなかなか難しい選択だった。 キミはストレートで大学に受からなくてはならない。 8月末の時点で、キミのデビュー曲はキー局10月の秋ドラ・エンディングテーマに決定した。 それは、よほどの計算違いがない限り、ある程度のヒットは約束されたということだ。 プロモーターの桜井拡から聞き出した話によると、KYOJIはすでに、冬休みと春休みを潰して10曲分のレコーディングを済ませてあるという。 桜井氏は「ここだけの話ですけどね」を幾度も前置きに使いながら、半分は自慢げに、その“秘密”ひけらかしてくれた。 「KYOJIは秋野啓祐の甥っ子だって前に言いましたよね。 秋野さんが“この子はちょっとした逸材だよ”って持ってきた音源に、うちのプロデューサーの石井が乗りまして。 で、これは高校生のうちにデビューさせたいって言い出したんです。 詩の内容が高校生そのものだし、それにまだ高校生の少年が書いた曲ってことで、カリスマ性をつけられますからね。 でももうそれからは、本人や親御さんを説得するのが大変で・・・。 秋野さん、勝手に進めちゃってたみたいで、肝心の本人の意思確認や、親御さんの承諾をまったく得ていなかったんですよ。 で、相談の結果、大学受験を優先させることを条件にレコーディングとなったわけなんです」 つまり、シングルでデビューをさせて、その後にアルバムを出し、大学合格を待って次のシングルをリリースするという計算だ。 キミは大学に受かったらすぐに曲創りを始めて、2枚目のシングルを出さなくてはならない。 それに少なくとも来年の夏休みには、コンサートツアーが予定されているだろう。 CDセールスだけでは、よほどのビッグヒットでも出さない限り大きな儲けには繋がらない。 歌い手は、キャパの大きな会場でのコンサートをこなすことで、1日数百万からキャパ次第では数千万円の収入を得られる。 もちろん、そこから諸経費を引くので純利益は異なるが、会社や事務所は、 そこに至るまでにレコーディングや宣伝の費用など持ち出しばかりが続くため、ようやく潤うことができるのがコンサートなのだ。 キミは、石井氏から具体的な話が出るまでは、詩や曲を創り、歌うことは趣味の範囲を出ていなかったと言う。 「オレね、プロになろうとかは全然思っていなかったんだ。 でも、やっぱ自分で創った歌が認められるなら、それはすごいことだよね」 キミは自分の曲がドラマのエンディングに決まったとき、 どこかで迷いを残しつつも、このチャンスをつかめるものなら・・・と欲を持ち始めていた。 「大学に受かったら、なんとか両立させながら、やれるとこまで挑戦したい。 でね、もし1曲だけとか、1~2年でダメになっちゃうようだったら、他の夢を追う。 ずるいかもしれないけれど、これが今のオレの結論なんだ」 電話の向こうで、勉強の合間にキミはそう話してくれた。 母親の経験談を聞いた上での選択。 そうだよね。キミの考え方は堅実だ。 でもね、私にはなんとなく予感がしていたんだ。 きっと自分が思ってる以上に、キミを取り囲む環境が大きく変わるよ。 そしてキミは、私のことも含め、徐々に冷静な判断ができなくなってしまう・・・よね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年07月25日 17時40分55秒
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