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6月7日の朝にいきます

6月7日の朝にいきます

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2005年08月21日
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キミとの待ち合わせは、大きな書店の歴史書売り場にした。
ここなら皆、書籍探しに夢中だから、誰もキミに気づくことはない。

まだはっきりとは顔を知られていなくても、
ジャケ写やプロモのシルエットで、キミを見分けられる人がいないとは限らない。
ふたりのデート現場を見られるのは危険だった。
見つかってリークされたら…
私たち、別れなくてはいけないかもしれないよね。

目の前にある本を、見るでもなく手に取り、戻してはまた違う本を開く。
キミを待つ。もう付きあい始めて5か月になるのに、まだドキドキするよ。
こんなにも、キミが恋しい。

「瑠璃、待った? ごめんね、少し遅れた」
斜め後ろに人の気配を感じたと同時に、頭の上からキミの声。
「だいじょうぶ。だから書店にしたんだよ。時間がつぶせるでしょ」

「時間、20分しかないんだ。どうしよう? どこ行く?」
エスカレーターまで歩く。
でもキミは急に階段を使うよう目で合図してきた。
キミに従って階段を降りる。

踊り場でいきなりキミは私を抱きしめてきた。
「ここなら誰もいない・・・」
キミの手が、私の髪に触れる。とても冷たい。
だからそっと私の両の手で包んだ。

ずっと、ずっと、時間が許すまで、こうしていたい。

人の気配を感じて、身体を離した。
「・・・お誕生日、おめでとう。プレゼント、用意したんだ。
響司をイメージしたフレグランスオイルなの。オイルだから、手や身体につけて」

キミは包みをほどくと、香りをかいだ。
「いい匂い。オレ、こういう感じ好きだよ。ありがと」おでこにキス。
私たち、本当にキスが好きだね。恋人同士なら、当たり前かな?

時間がなかった。キミは石井プロデューサーと会う。
プロになったんだもの。私よりプロデューサーを大事にしなくちゃいけないね。

ひとりで帰路につく。
途中、どこからか落ち葉を焚く香りが流れてきた。
あ! あのお宅の庭・・・。
すっかり陽は落ちているけれど、細い白煙があがっているのが確認できた。

淋しい気持ちが、煙のようにたゆたう。
一緒にいたかったんだ。本当はね。

・・・キミから電話があった。
時計は11時を回っていた。

「オレ。今、帰った。それがね、すごいんだよ。
石井さんやスタッフの皆と食事してたらさ、楢咲ユミが来たんだ。
でね、オレの曲が好きだから、新曲、頑張って書いてくれって言われた」
嬉しそうな声。私の言葉を待つこともなく、次々と話してくる。

「ユミさんがね、『曲、つけにくい?』って聞いたから、オレ、詩が好きだから頑張る、って言った。
そしたら『あの詩はすごく苦労したの。いままでの感じと変えたくて』って」
そう・・・彼女はそんなことを言ったんだ。したたかな女性。
でもキミにはそうは映らないよね。

「楢咲さんって、すごい売れっ子なのに誰にでも感じがよくって素敵だよ。
でね、30分くらいで帰ったんだけど、バースデープレゼントだって言ってセーターをくれたんだ。
ちゃんとジャケ写の時のスタイリストにサイズを確かめてくれたんだって。
オレ、すごい感動した!」

悔しかった・・・。
セーター、それは私があげたかったものなんだ。
キミの身体を暖かく包むものだから、できれば手編みにしたかった。
でもお母さんに「誰に貰ったの?」って聞かれたら、困ると思ったんだよ。

「瑠璃、聞いてる? そのセーター、すごくきれいな色でね、
あとで石井さんが『これ、瑠璃色っていうんだよ』って教えてくれたんだ。
そっか、瑠璃の色って、こんななんだ。
オレ、瑠璃を来てるんだね」

キミは私に気を遣って言っているわけではない。
キミが嬉しいのは・・・スター・楢咲ユミからセーターをプレゼントされたこと。

それにしても楢咲ユミは、どうしてKYOJIの食事会にまで参加したのだろう。
石井さんは何故、KYOJIのバースデーパーティがそのレストランであることを楢咲ユミに伝えたのだろう。

何かわけがあるはず。
ただユミがKYOJIの曲を気に入り、KYOJIに作曲を頼もうとしているだけではないような気がする。
KYOJIを売り出すための、石井さんの計らい? 
それもこの時期である必要があるのだろうかと考えると「?」だ。

キミの回りで何かが起ころうとしている。
不協和音が胸の中で響き始めた。





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最終更新日  2005年08月22日 04時58分08秒



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