131881 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

6月7日の朝にいきます

6月7日の朝にいきます

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2005年10月25日
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
インターフォンのチャイムが鳴る。
そして、キミの声が流れる。
でも・・・いままでのようにはしゃいだ気持ちで迎えることはできない。
だってキミの心は、もう私には向いていないんだもの。

ドアを開けて部屋に通す。
キミはすごく自然な感じでソファーに座るんだね。
まるで恋人同士だったあのころのように。

「姿勢、すごくよくなったね」
思わず口をついて出ていた。
前は少しだけれど猫背だった。ダンスレッスンを重ねている成果なのだろう。
「うん、最近、よく言われる」

キミは足元にすり寄っていった紫陽子を膝の上に乗せると、私が対面に座るのを待った。
「・・・瑠璃。オレね、よく解らなくなった」
何も返さず、キミの口元を見つめる。次に発せられる言葉は、何?

「ダンススクールでね、プロのバックダンサーの人たちから変な噂を聞いたんだ。
ユミさんには15歳の時からずっと付き合っている人がいたって。
で、その人は、お父さんぐらい歳が離れている人だって」
「・・・?」 

「ユミさんが言ってたんだけれど、彼女は小さい頃にお父さんを亡くして、
それでお母さんがすごく苦労して、ユミさんや妹、弟を育てたって」
「妹さんや弟さんもいるの?」 初耳だった。

「うん。お父さんが亡くなった時、ユミさんは5歳で、妹は2歳、弟は1歳だったって。
でね、お母さんが働きに出て、すごく苦労してるから、
それでユミさんはこの世界に入ったって言ってた。
妹や弟の学費だけでも助けてあげたいから、って。
それで、近い将来に家を建ててあげたいって」

そうなんだ。おそらく本当のことなのだろう。
ただ・・・それをキミに打ち明けた真意は・・・
キミへの印象をよくして、事務所に誘うという魂胆だったんだよね。

「最初、ユミさんはオレを誘ってくれて、オレのこと、好きだって言ってくれた。
あ、ごめん。瑠璃にこんなこと言っちゃいけないのは解ってる。
でも、瑠璃しか相談できない。だって、ユミさんは芸能界の人だからね」

そうか、友達に相談したくても、ユミさんはトップスターだもの。
かといって、スタッフに話すこともできないよね。

キミは何かに夢中になると、他のものが見えなくなる。
私の心も・・・解っていると言いながら、見えてなんかいないんだ。

「それで?」 キミは何が不安なの?
くやしいけれど、聞いてしまう。 突き放せない。

「お父さんぐらい歳の離れた人を7年くらいも好きでいた人が、
どうして年下のオレとつきあう気になったんだろう。
それにね、逢っていても、仕事の話が多いんだ。
クリスマス・イヴって、女の人は恋人と過ごしたがるよね。でも、何も言わない。
予定とか、そういうの、何も聞かない・・・」

前にもあったね、こういうこと。
そう、私の元夫がカメラマンの佐伯だと知ったとき。

キミは一見ひょうひょうとしているように見えるけれど、
実はすぐに心が揺れてしまう弱いところがある。
そんなところに私の母性本能がリンクしたんだね。・・・多分。きっと。

「オレ、思ったんだ。
ユミさんが15の時からずっと付き合った男性って、スタッフじゃないかなって。
だって、普通はあんなに忙しい中でずっ~と付き合っていたらバレるし、
それでも何年も付き合えたってなると、スタッフでないと考えられない」

気がついたの? 磯貝さんのこと。 
「そうなのよ。彼って磯貝さんなの。そして、今でもふたりは別れてなんかいないわ」
そう言ってしまいたい。 でも・・・言えない。

「瑠璃、何か聞いていない? 噂でも何でもいいんだ。
オレ、ユミさんの事務所に入ることはやめようと思ってる。
でもユミさんには何て言ったらいいのか・・・。
ユミさんからも誘われているから、黙っているわけにもいかないし」

キミは察しているんだね。
事務所入りを断ったら、ユミが去って行くかもしれないことを。
でも私、今の響司に何を言えばいいの?

言葉が見つからない。 ユミがキミを愛していないことを知っているから。
その場しのぎの気休めは、キミをただ傷つけるだけだから・・・。

考えるふりをして、お茶を入れた。 
一応用意しておいた小ぶりのクリスマスケーキも、
冷蔵庫から出して、お皿に移し、回りにフルーツを飾る。

キミは何かを書こうとしたの?
いきなりソファーから手が届くところに置いてあるメモスタンドを引き寄せた。
その瞬間、横に立てかけてあったノートが落ちた。

「わっ、ごめん・・・」 慌ててキミはそう言った。
「そのままにしておいて」 軽い気持ちでそう答えた。

「・・・瑠璃、これは、何? 
なんで瑠璃のノートの間に、これが挟まっているの?」

キミは、拾い上げたレポート用紙を凝視していた。
そこには、何度も悩みながら下書きをし、そして完成に至る経過が読み取れる、
ユミの新曲の詩が書かれてあったんだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年10月25日 14時02分36秒



© Rakuten Group, Inc.
X