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6月7日の朝にいきます

6月7日の朝にいきます

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2006年03月26日
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ラジオは生放送であっても、上がることは滅多にない。
もちろん、たったひとりでしゃべらなくてはならない場合は違うのだろうが、
パーソナリティさえいてくれれば、
相手のしゃべりのリズムに誘導されて、なんとか会話を弾ませられる。

曲がかかっている間には雑談もできる。
多くのパーソナリティは、そのわずかな隙間で相手をよりリラックスする技を持ち合わせていた。

出番が来るまでブースの外で番組の進行を聴いている。
耳慣れたイントロが流れ始めた。 
そこにかぶせてパーソナリティの声。

「リクエストは、埼玉県のラジオネーム・KYOJI命さんから。
『KYOJIさんってすごくセクシー。歌詞に出てくる女性って実在するのでしょうか? 
私、KYOJIさんみたいな彼がほしい』
・・・う~ん、解りますね。最近の彼、どんどんセクシーさが増していってるというか、
彼にならめちゃくちゃにされたい! って私だって思っちゃいます」

ハッとした。 
そうか。響司がどんどん魅力的になっているのは、私の前だけではない。
キミはすっかり若い女性のアイドルになっているんだ。 もう私だけの響司ではない・・・。

出演は難なくこなせた。 
でも私の気持ちは落ち込む一方だった。

響司との差がどんどん開いていく。
キミはもう、望む女性を簡単に手に入れられるだけのスターになっている。
それにキミが気づいているのかどうかは別として。

未来(みく)に電話をする。 会いたかった。
響司とのことで相談できるのは、やっぱり未来しかいない。

「現場に来る? そしたら少しは時間が取れると思うよ」
彼女は自分が担当するシンガーの、テレビ収録スタジオを告げた。
書き上げなければならない原稿はあったが、少しの時間でも未来に会いたい。
会って、このいいようもない不安を、どうにかしたかった。

未来は黙って床の1点を見つめ、私の報告を聞いていた。 
私が話し終わるのを待ち、顔をあげる。

「瑠璃。キツイことを言わせてもらうけれど、佐伯さんとの結婚生活から何を学んだの?
瑠璃は肝心な時に自分を信じないよね。 
それって、瑠璃を信じて愛してくれている相手のことも信じていないってことになるんだよ」

・・・そう、私、自信がないの。 
美人じゃないし、スタイルだっていいわけじゃないし、仕事の才能だって私より文章がうまい人はいくらでもいる。
どうして自分がこの業界でやっていかれるのか不思議。 
きっと運がいいだけなんだわ、ってよく思う。

「瑠璃、あなたは・・・、みんなそうかもしれないけれど・・・自己分析ができないでいるんだと思う。
前から思っていたんだけれど、瑠璃って日によって感じが違うの。
一緒にいる相手によっても、どこか少し違って見える。
それ、最初は瑠璃の計算かと思っていたんだ。でも、違うって解った」

「どういうこと?」
そう、確かに私は、その日の陽の当たり方や風の吹き方だけでも微妙に感情が変わる。
自然界のすべてのものに守られているような気分になれる日があるかと思うと、
突然すべての人に、最後通告をされてしまったかのように何の希望も見出せなかったり。

「それはもしかして、性格が形成される子供時代に、母親から愛されているって実感を持てなかったからかもしれない。
いつだって不安定なのは、瑠璃のせいじゃないかもしれない。
でもね、いいかげん瑠璃は幸せになっていいんだよ。もっと自信を持って。
瑠璃は魅力的な人なんだから」

「響司を怒らせてしまったの。もうダメかもしれない」
未来の言葉が届かない。 どうしようもなく不安なの。
「今朝のことで、もう愛想をつかされてしまったかもしれない」
泣いてしまった。 今、響司が離れて行ったら、私・・・私・・・。

「気分を変えて。もう済んでしまったことは忘れて、明るく電話をしてみたらいいのよ。
そうね、最初に『ごめん。どうかしてた。もうグチグチ言わない』って言ってから、明るい話題にすればいいのよ。
響司くんだって、心から嫌いになったわけじゃないんだもの。
響司くんは1度瑠璃と別れて、それでもまた戻ってきたんだよ。ね、自信を持って」

靄(もや)がすっきりと晴れたわけではなかった。
でも、確かにクヨクヨと悩むだけの人を、誰が好きになるだろう。
それは理解できる。 だから無理してでも明るくしなくっちゃ。

「瑠璃。あなたのタレント性は、実はその不安定さにあるんだ。
私、マネージャーっていう仕事をしていて、そう思ったの。だから山室さんに紹介したんだ」

「不安定さ?」
「そう、会うたびに雰囲気が違う瑠璃は、どこかすごく不思議なムードを持っているの。
本人はよく解らないでいるかもしれないけれど、それがセクシーさに繋がっていると山室さんも言ってた」

「セクシー?」 驚いた。自分には縁のない形容だと思っていたから。
「自信を持って。ね、瑠璃、あなたは響司くんに愛される魅力を持っているんだよ」

そうなんだ。 
まだ理解しきれたわけではないけれど、もう落ち込むのはやめよう。
響司を信じよう。

帰宅して郵便ポストを覗いた。
そこには・・・響司に渡した合鍵が無造作に落とされていた・・・。





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最終更新日  2006年03月26日 09時04分07秒



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