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6月7日の朝にいきます

6月7日の朝にいきます

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2006年07月10日
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目を閉じてキミを感じている。
私はどれくらい愛されているの? 腕の中にいても不安な気持ちは振り払えない。
けれどもこの一瞬を信じたい。 キミは誰でもない、この私を求めて来てくれている。

「瑠璃はオレの味方だよね」
キミは再び聞いてくる。

キミの望む通りの返答をすれば、今日のこの時間は幸せでいられるだろう。
でも、それでいいの? 
今日、一時的に不安から逃れられたとしても、明日はまた怯えるかもしれない。
キミの前に他の女性が現れることを常に想像して・・・。

「響司が好き。響司がずっと幸せでいられるように、そばにいて力になりたい」
言葉を選んだ。 
まだ迷っている。 キミを怒らせたくない。でもきちんと話さなければならない。

今のままでは、キミはすぐにスタッフと大きくぶつかってしまうだろう。
事務所は売れっ子になったキミ、シンガーソングライターのKYOJIを手放すことはしないに違いない。
けれどもきっと、キミを商品としての価値だけで判断するようになってしまう。

使い捨て・・・。
キミをアーチストとして大きく育てることをあきらめ、
今の人気が続く限りの“期間限定”タレントとして扱うようになるだろう。
少なくとも、私が今まで見聞きしてきた芸能界の多くの事務所がそうだった。

ひとりの新人を抱えた時、その人が長きに渡って第一線で活躍できるよう
バックアップできるスタッフは、そのアーチストに惚れ込んだ人だけ。 
もちろん一人のスタッフだけでは支えきれないから、
事務所が一体となって惚れ込むくらい才能があるか、人間的に魅力のある場合に限られる。 

「やっぱ、瑠璃はオレの味方だね」 キミは、ほほ笑んで言った。

「ねえ、どうすればおふくろがマンションのこと、認めてくれると思う?」
続いたセリフがこれだったことに、少し安心した。 
私にお金の相談を持ちかけてきたら、その時はアウトだと思っていたんだ。

「お母さんはまだしも、事務所に内緒はまずくない?」
キミの顔から笑みが消える。
「どうしてさ。プライベートまでいちいち口出しされたくないよ」

「プライベートまで演出されるのが、この世界でしょ。
響司は今までも作られたKYOJIを演じてきた部分があるじゃない?」
「そんなことないよ。オレはずっとオレでやってきたよ。演じてなんかいないよ」

キミを刺激しないよう、努めてゆっくり話す。
「PV(プロモーション・ビデオ)は? 衣装は? メイクは? 響司そのものとは違うでしょう?」
「・・・」
「響司がアーチストとして注目を浴びられるよう、人気が出るよう、プロデューサーは計算しているわけだから
その計算の中に、プライベートの過ごし方も入っているんだよ。
だから私と別れるようにもさせたんじゃない?」

キミは黙ってしまった。
何を考えているのか不安になる。
でも続けなければいけないね。

「今はね、まだ難しいと思うの。
響司は最初から売れっ子になったけれど、今はまだ事務所の力も大きいよね。
事務所がお金をかけてくれたから、マスメディアにもどんどん進出できたし、CDも聴いてもらえた。
コンサートツアーだって、構成やバックバンドを集めることとか、全部スタッフがやったでしょ」

キミは黙って聞いている。 反発をしないのは理解をしているということ?

「もう1年か2年? そのくらいの辛抱だと思うの。 
アーチストとして不動の位置を確立したら、そこからは響司の思う通りに進められるわ、きっと。
だからもう少し受験生のような気持ちで我慢できない? 
そうでないともったいないもの。 せっかく夢が叶ってきているのだから」

「何もかもは、同時に手に入れられないってこと?」
キミは私の目をしっかりと見て、そう尋ねた。
「今は、たぶん。 でもね、あと少しで手に入れられる。響司なら、ぜったい」

夏の夜明けは早い。
気がついたら窓の外が白み始めている。
「眠いな」 キミがそうつぶやく。

「少し、眠らない?」 と私。
「うん」 私を抱きしめたまま、キミは横になったかと思うと、すぐに寝息を立て始めた。

・・・少年の寝顔が、きれい・・・。





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最終更新日  2006年07月10日 14時16分49秒



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