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6月7日の朝にいきます

6月7日の朝にいきます

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2006年07月28日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
ラジオ出演があるから、そろそろ家を出なくてはならない。
キミとふたりで作ったトマトとスイートバジルの冷製パスタを急いでほお張り、秋色のワンピースに着替える。

「瑠璃、洋服のセンス、変わった?」 
キミが気づいてくれたこと、とても嬉しい。
「うん。スタイリストさんやヘアメイクさんがついてね、プロの目でいろいろ考えてくれたから」

あの日、“瑠璃”のイメージを固定しようと、事務所はスタッフを集めてくれた。
自分でも「積極的にテレビ出演を受けていこう」と決め、スタートラインに立った、そう、あの日。
でも最初につまずいてしまった。 文字通り、登場のシーンで足がからまった。

・・・あれからテレビの話が来ない。 
場慣れさせようと事務所が用意してくれたオウントーク収録を、スケジュールが合わなくて断ってしまった。
きっと私を売り込もうとする意欲を削いでしまったのだろう。

でも響司、キミにネガティヴな話は聞かせたくないんだ。
恋人同士でも、すべてを話せるわけじゃない。
キミのことは全部知っていたいのに・・・勝手だね。

「その服、すごく似合ってる。 前は茶色とかって着なかったよね。
でも、そういう柔らかい感じのデザインなら、瑠璃っぽくて、いい感じ」
モデルのようにクルリと回って、スカートを揺らしてみせる。 
「コンセプトは、フェミニンな中に知性を感じさせる、なんだけれど、どう?」
「うん、感じる、感じる。知性、感じる!」 おどけて言うキミの笑顔が愛おしいよ。

前に渡した鍵を持ってきてはいなかったから、もうひとつの合鍵を預けて、家を出る。
ラジオ、そうだ! 響司に逢いたくて、無理に時間をずらしてもらったのだ。
もちろん本当のことは言えないから、「恩人の告別式に出席する」と嘘をついて。

心が痛む。 
それでも響司、キミに逢えた喜びの方が勝っている。
自然と顔が綻びそうになるのを我慢して、うつむきがちにスタジオ入りをした。

収録は無事に終わった。 
事務所に入る前から準レギュラーのように出演していた番組だ。
ディレクターやパーソナリティとも気心が知れていて、あがることはない。

キミはもう夕方からのテレビリハーサルに入っているね。
私は・・・そうだ! 事務所に寄ろう。
私のプロデュースとマネージメントをしてくれている山室氏に会おう。

アポイントメントを取ってみる。
山室氏は他のタレントの現場にいるが、そろそろ戻る頃だと電話に出たデスクが言う。
現在何人くらいが在社しているか確認して、冷たいフルーツデザートを土産に購入した。

事務所で待つこと、およそ20分。 山室氏が帰社した。
「あれ? 瑠璃さん、どうしたんですか?」
「さっきまでラジオの収録だったので、帰りに寄ってみました。山室さんもすぐにお戻りだとうかがったので」

「じゃあ、ちょっと話をしましょうか」
会議室に移るように促された。 まさか・・・私、クビ? 
山室氏はあまり喜怒哀楽を顔に出さない人だから、何を言われるのか想像もつかない。

「うちのエッセイストの川井由真。ちょっとアクシデントがありましてね。
それで急遽、月刊誌の連載を中断しなくちゃならなくなったんですよ」
「アクシデント?」
「まあ、その辺は詳しくは・・・」

何だろう? 事務所とのトラブル? 
恋愛問題か、もしくは何かマスコミに隠さなければならない事件や事故?
「それで、その穴埋めを探さなくちゃならなかったんですけれど、瑠璃さん、やれます?
新聞の三面を飾るような問題を、ありきたりではない目線で切ってもらいたいんですが・・・」

「・・・」 ありきたりではない目線。 何を期待されているのだろう。
「私の正直な気持ちを書いていいのでしょうか? それでしたら、是非、お受けさせていただきたいのですけれど。
ただ、それが“ありきたりではない目線”となるのかどうか、私にはよく判りません」

「う~ん、今のソフトな瑠璃さんを崩す必要はないのですが、どこか他のコメンテーターとは違う目線というか。
早い話、読者が毎号読みたくなるような切り口、といいますか。それは反感を買うという目立ち方でもいいのですが」

なるほど。
テレビでは、辛口トークを繰り広げたり、人を人とも思わない発言を繰り返す人が、意外な高視聴率を取る。
「こいつ、何を言ってるんだ」と反発を感じながらも、次に何を言うのかが気になって、ついチャンネルを合わせてしまうからだ。

そして、そんな“嫌われキャラ”の人物が、何かの折にしごく正当な発言をしたり、
バラエティ番組に出て、ゲームに挑戦したりすると、一気にその評価は変わる。

私の場合、そこまでは要求されないだろう。 
けれども良識ぶった正論から、少し離れた過激さが求められる、ということか。
「やらせていただきたいです。
ただ、正直に言って、山室さんのおっしゃっている切り口が私にできるか、少し心配です」

「じゃあ、すぐに1本書いてみてください。そうですね、今いちばん世間を騒がせている実の親殺し、あれで」
受けることにした。 
あとは山室氏の判断に任せよう。

文章を書く仕事なら、今日のようにキミがいきなり「逢いたい」と言ってきても、なんとか対応できる。
締め切りより、早め、早めにアップさせればいいのだから。

「テスト原稿は明日の夕方までに・・・」
バッグからスケジュール帳を出し、めくる。

「!!」
気がつかないでいた。 いろんなことがあり過ぎたから。
遅れている。 もう3週間も。
目の前が真っ暗になっていくのを感じている・・・。





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最終更新日  2006年07月28日 09時27分20秒



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