囲碁と将棋
囲碁が始まったのは、約4000年前の中国と言われているが、インドやチベットが起源といった説もあり、はっきりとしたことはわかっていないようだ。さらにいつごろどのようにして日本に伝わってきたのかも、明確には分かっていないようである。ただ大宝律令の中に「碁」に関する記述があることから、5世紀ころに朝鮮を経由して伝わったという説が有力のようだ。また中国とは微妙なルールの違いはあるものの、碁盤や碁石の形や基本的なルールは全く変わらずシンプルなため、現代では全世界に普及している。 一方、将棋のルーツは古代インドで遊ばれていたチャトランガという4人制のサイコロ将棋とされており、これが西側に流れてチェスとなり、東側に流れて将棋となったと言われている。ただし中国の中国将棋と韓国の韓国将棋と日本将棋は全く別物であり、囲碁のような共通性は全くない。 また日本での将棋の始まりだが、少なくとも平安時代には貴族の間で遊ばれていたことが古文書などから推測されている。ただし当時の将棋は、大将棋、大々将棋、中将棋と呼ばれ、盤面が広く駒数も駒種も圧倒的に多い全くの別物であった。これらの将棋は余りにも対局時間がかかり過ぎるため、現在の将棋の型(盤面九×九、駒数四十枚)に落ち着いたのは、安土桃山時代頃だというから、囲碁に比べるとだいぶ歴史が浅いようである。 また囲碁・将棋が現代まで廃れずに続いたのは、徳川家康が囲碁・将棋を自らたしなみ、家臣たちにも奨励しただけではなく、家元制度を保護したことなどが囲碁・将棋の発展と継続に貢献したと言うのが定説となっている。そんなわけで、我々が子供の頃はどこの家にも将棋の駒があり、将棋を知らない男子は皆無だった。また出世した人たちの趣味には読書・囲碁・ゴルフなどが多かった。ところが残念ながら近年になって、この歴史的ゲームに陰りが見え始めているのである。 それはレジャーの多様化に加え、TVゲームやカードゲームなどの新しいゲームの登場や、教育・スポーツなどで忙しい現代の子供たちに、囲碁・将棋という分かり難く古めかしいゲームが馴染まなくなってしまったのが大きな要因であろう。時代の流れだと言ってしまえばそれまでだが、だがこのまませっかく千年以上続いてきた『歴史的文化』が先細りになり、やがて消滅してしまうのでは余りにも悲しいではないか。 将棋に関しては、AIの台頭に脅かされ、また某プロ棋士がAIを利用して対戦したとする報道があったとき、かなりの激震が将棋界を襲ったものである。だが嬉しいことに藤井聡太というスーパーマンが出現し、あっという間に最年少で史上初の八冠王を達成してしまった。そして今やスーパースターとなった彼の対局結果なども、一般ニュースで連日のように放送されるに至り、今まで将棋など見向きもしなかったおばちゃんたちも、将棋を気にかけるようになってしまったのである。 一方囲碁のほうは、かつて『ヒカルの碁』が流行った頃に多少盛り返したものの、最近囲碁を楽しんでいるアマチュアは年配者ばかりで、若者不在の状況がずっと続いている。またプロ棋士たちの多くにも、政治家や歌舞伎役者のように二代目三代目が目立つようになってしまった。 それに将棋の藤井聡太のようなスーパーマンも不在で、ほとんどニュースにもならない。また囲碁は地所を多くとる陣取り合戦であり、ルールも簡単なのだが、イメージ的に将棋よりとっつきが悪いようだ。そのため子供たちには余り人気がないのだろう。 ところが囲碁の普及を世界的にみると、日本だけの将棋に比べて圧倒的に競技人口が多くなんと『アジア大会』の種目にも認定されているのだ。ところが残念ながら、かつての世界戦での栄光は消失し、近年では中国・韓国に圧倒的に水をあけられたばかりか、台湾にまで肉薄を許している悲しい状況にある。 私自身は20代までは子供の頃に覚えた将棋に親しみ、中年以降にはじめた囲碁を定年後に再開した。ただ「王様を取られたら即終了」なので、一手でも悪手は指せない厳しい将棋よりも、ゆったりと楽しみながら右脳を鍛えられる囲碁のほうを選択したのである。だが近年AIの影響により、囲碁も将棋同様ゆったりと打っている余裕がなくなったかもしれない。 まあそんな訳で、最寄りの公民館にて『囲碁・将棋同好会』の世話役を10年以上務めていた。ところが数年前に100名近くいた会員が、最近は大幅に減少して60名になってしまったのである。これはコロナの影響や、老齢化により体調を崩したり死亡した会員が増えたからであるが、団塊世代以下の人が一人も入会してこないのが最大要因であろう。 ただ10年前は2名しかいなかった将棋会員が急増し、もはや囲碁会員を大幅に上回ってしまったのも藤井聡太旋風のお陰であろうか。いずれにせよその将棋人気をもってしても、若い世代は入会してこないので、このままだといずれは『囲碁・将棋同好会』も閉会することになるだろう。 この消滅寸前の歴史的文化遊戯を存続させる方法はないものであろうか……。「ある!」、だが残された方法はただひとつ。以前にも本ブログで『囲碁将棋界の救世主』というタイトルで掲載したことがあるが、「囲碁と将棋を小学校や中学校の学科」に加えてしまえばよいのである。 もちろん他の学科ほどの時間は不要だ。当初は少なくとも一週間に1時限程度の頻度で十分だろう。こうすれば子供たちだけではなく親たちも興味が湧くので、社会全体の中でも囲碁・将棋が脚光を浴びることになるはずである。 その日が訪れれば、囲碁衰退どころか再び世界戦に優勝することも叶うかもしれない。まあそれはさておいても、日本の歴史的文化を守るため、是非ともここは文部科学省に立ち上がってもらいたいものである。作:五林寺隆下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村