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ネット文芸館 木洩れ日の里

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2024.07.26
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カテゴリ:ショートショート


 親殺しのパラドックスって知っているだろうか?
 例えばタイムマシンを利用して過去の世界に行き、将来自分の父親となる人物を、母親と出会う前に殺してしまったらどうなるかという難問。つまり父親を殺すと自分が産まれてこないため、そもそもそのタイムトラベル自体が発生しない。しかし自分が存在しなければ父親は殺されず、自分が産まれてタイムトラベルをすることになり、父親殺しをすることになってしまうという論理的に矛盾してしまう説。もちろん祖父母殺しのパラドックスも同様である。

 あの有名なタイムトラベル映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、両親が結ばれなくなりそうになると「家族写真が薄くなって消えそうになる」、という屁理屈を使って凌いでいるが、それもコメディー映画ならではのこじつけに過ぎない。だからそもそも過去へのタイムトラベルは不可能だと言われていたのだが、その論理は「パラレルワールド説」により覆された。だがそれも一つの可能性であり、もちろん実証されているわけではない。

 だがやっと本日それを実証できることになった。実は長年ぼくが研究を続けていたタイムマシンが完成したからである。さあこれからこのタイムマシンに搭乗して、祖父が若かった時代に行ってみようではないか。さすがに父を殺す気にはなれないので、ぼくが産まれてまもなく亡くなってしまった祖父の若かりし時代を選んだのである。

 それにしてもなぜぼくが「親殺しのパラドックス」を解明するために、こんな無謀な計画を企んでしまったのか疑問に感じる人もいるだろう。実はぼくの人生は苦々しいものだった。父はぼくに厳しい教育を施し、決してぼくの期待に応えることがなかった。逆に母はいつも優しかったが、ずっと父の支配下に置かれ厳格な子育て方針にも口出しできなかった。そして父のいないところでぼくに謝り続けていた。そんな母が可哀そうでたまらなかった。だからもし父がいなければ、母はもっと幸せになれるだろうと勝手に思い込んでしまったのである。

 そんな子供の頃の思い込みがトラウマになってしまい、もしタイムマシンが完成したら、過去に戻って若かりし頃の父を殺すことで、母との出会いをなかったことにしようと考えてしまったのだろう。ただ先に述べたように、やはり身近な実父を殺すことはためらわれたので、全く記憶にない祖父を殺すことにしたのであった。

 だが祖父を殺せば、父も産まれないが、ぼく自身も産まれなかったことになる。ところが冒頭に記した通り、ぼくが産まれなかったらタイムマシンも完成しないはずだ。と言うことは、現在ぼく自身が存在していて、タイムマシンが完成しているのだから、ぼくが産まれなかったことにはならないだろう。そう自分に都合よく考えて、ぼくはタイムマシンに搭乗したのである。

 そしてタイムマシンは、祖父が若かりし日に住んでいた場所に辿り着いた。だがそこは梨畑で建物はなにもない。たまたま梨を取り込んでいる農家の人に話を聞いたのだが、この土地は市街化調整区域で住宅は建てられないと言うのだ。
 一体どうしてしまったのだろうか。間違えて別の場所に跳んでしまったのかと疑ったのだが、住所はほぼ間違っていなかった。念のために区役所で調べてみても結果は同様であった。しかもこの地域に祖父の戸籍は見当たらないのだ。
 この世界では祖父は存在していないのか、はたまた全く別の場所に住んでいるのであろうか。と言うことは、父も存在していない世界なのかもしれない。

 仕方がないのでタイムマシンで一度元の世界に戻ってから、今度は父が学生時代に住んでいたと言う下宿先まで跳んでみた。だがそこにも父の存在は全く認められなかった。もし虱潰しに調べて祖父や父の存在を発見したとしても、それは多分ぼくの父でも祖父でもないだろう。
 つまりぼくがタイムマシンで跳んだ過去は、すでにパラレルワールドなのだ。だから祖父や父が生存していたとしても、同じ場所で同じように生活している可能性は極めて稀であろう。また父が母と結婚する可能性も少ないし、万一結婚したとしても、一回の〇〇で1億~4億個も発射された精子の中で、ぼくの元になる精子が母の卵子に辿り着く可能性も極少どころか奇蹟的ではないか。

 結局のところ過去は変えられないのだ。そしていつまでも過去に拘っている自分をみつめ、「過去は変わらないが、ぼくが自身が変われば未来は変えられるのだ」ということを悟った。
 ぼくの目は涙で濡れている。そして帰りのタイムマシンの中で覚悟を決めた。これからは厳しかった父の教育に感謝し、年老いた母の優しさを守りながら、過去に干渉することなしに、未来を前向きに生きることにするのだ……と。

​作:五林寺隆​

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最終更新日  2024.07.26 14:35:39
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