昼下がりの迷宮～

浅田次郎　『沙高樓綺譚』を読み終わりました。

　　沙高樓綺譚

各界の名士たちが集う「沙高樓」。世の高みに登りつめた人々が、女装の主人の元、今夜も秘密を語り始める―。やがて聴衆は畏るべき物語に翻弄され、その重みに立ち上がることもできなくなるのだ。卓抜なる語り部・浅田次郎の傑作ミステリー。

紹介文にある「浅田次郎の傑作ミステリー」。
この言葉に惹かれて手にした本でした。

読み終えて感想を書こうとしている今、迷ったのですが
この日記のカテゴリーは「ミステリー以外」にしました。
謎について語られる、という広義のミステリーではありますが、本格ものを期待していると、
ちょっと違うかな、と思うからです。

だからと言ってこの本の味わいが薄れるということは全くありません。
逆に、安易なキャッチで購買層を広げようとするかのような帯に不満をいだいてしまいます。
もっとも、それで釣られてしまった自分がここにいるので、大きな声では怒れないのだけど…


これは連作短編集です。
刀剣売買の世界を引退して物書きになった男が、その夜知り合いに声をかけられて、
不思議な集まりに顔を出すことになるところから第一話が始まります。
彼が狂言回しになり、その晩、集まりで見聞きした話が
この一冊になっているという趣向です。

収められているのは５話。
語るのは、刀鍛冶、医師、映画カメラマン、ガーデナー、そして極道の親分。
いずれも、一般世間では（最後のお一方はちょっと違いますけども、）
高みに登りつめたといえる人々です。
年齢も職業もまちまちの彼らが、高層ビルのペントハウスに集い、それまで
語りえなかった秘密を披露しあう。都会、というよりこの世の喧騒をいっとき雲の上に逃げ、
誰かの吐き出した心の澱（文中では「毒」とも言われています）を飲み、
そしてまた自らも吐く…というような不思議な集いです。

語られる話には、いかにも不思議な結末のものもあり、
謎を秘めているようで実は意味のわかるものもあり、さまざまです。
ただ、どれもが、この世とあの世の接している縁の部分の物語だとは言えるでしょう。
普通に暮らしていれば、はっきりとわかるはずの、その「きわ」の部分が、実は
曖昧で、幅が広く、そして行き来することができることもあり――
そんな気がしてくる話です。

５話の語り手となる５人は、性別も年恰好も色々なのですが、
描かれようがまったくに見事です。
それぞれ、風貌も語り口も、ありあり書き分けられているばかりでなく、
その人の背負ってきた人生が深く描き出され、短編ながらどれも重厚な味わいでした。
存在感が想像を超えているのです。
筆者はひょっとして、普通の人間の何倍も、人生を味わってきたひとなのでは…
などと思えてくるほどです。

私の好みでは、『雨の夜の刺客』が、ストーリーに謎は少なかったながら一番。
シリーズを書き進んで、筆が沙高楼になじんできた故読みやすかったのかもしれません。

女装の主は　美輪明宏　をイメージしてました　^_^;


＜と、いうわけで、たばささん、先日コメントに書かせていただいた本はこちらでした！＞