テーマ:ミステリはお好き?(1431)
カテゴリ:本の話(日本の作家・わ行)
読んだ本の感想です。
死んでも治らない 元警察官・大道寺圭は、一冊の本を書いた。警官時代に出会ったおバカな犯罪者たちのエピソードを綴ったもので、題して『死んでも治らない』。それが呼び水になり、さらなるまぬけな犯罪者たちからつきまとわれて…。大道寺は数々の珍事件・怪事件に巻き込まれてゆく。ブラックな笑いとほろ苦い後味。深い余韻を残す、コージー・ハードボイルドの逸品。 若竹七海は苦味と温かさの両方を併せ持ったミステリを書く方です。 ホラーやバイオレンスに分類されるものも書かれていますが、この光文社文庫に収められているものは「コージー」のジャンルのものが多く、印刷のフォントの読みやすさもあって、順に手にとっていました。 しかしさて、「コージー・ハードボイルド」とは? 「コージー・ミステリ」のコージーとは、もともとティー・コージー、つまりティーポットの保温カバーから作られた言葉です。紅茶を飲みながら…お酒でなく、コーヒーでもない、優しい味わいと香りの紅茶を手に読める、軽くて温かなミステリのこと。 ごく普通の主婦が、いつものように台所で人参を刻んだりスーパーに買い物に行ったりと家事をしながら事件に首を突っ込んでいく、というような主婦探偵ものが多いようです。 一方のハードボイルドは…サングラスにトレンチコート、葉巻にバーボン。ですね。 相容れないように思われるこの2つですが、解説によると、若竹氏は、コージーにおける人参とハードボイルドにおける酒の描写は 「登場人物の性格付けのための小道具、という意味においては全く同じものではないか」 と書かれている由。 いうことで、こちら「コージー・ハードボイルド」です。 確かに主人公の大道寺圭、警察を若くして退職し、文筆業の傍ら巻き込まれる場面での独白は、観察眼は鋭いながらどこか厭世的で、生き方いたってハードボイルド。 一方その彼をめぐる人々は、一癖ふた癖ある人々ばかり。 彼の書いた、お馬鹿な犯罪者の間抜けな仕業を紹介する読み物(たぶん新書ね)が売れたことで、そこに紹介された犯罪者につきまとわれる大道寺ですが、自家用車を乗っ取られて無実を証明せよと迫られたり、家出人探しを依頼されたり… エピソードを紹介したからといって、それはないだろうと悲鳴を上げたくなるような巻き込まれようです。 陰湿な仕返しでないところが笑わせるのですが、そこがまたツボでもあります。 現在の大道寺が巻き込まれる事件が、短編集の形で語られるのですが、各章の間には、彼が警察を辞めるに至った最後の事件が断片的に語られます。 微妙に登場人物がリンクしているところもあり、いい具合の回想記として読みすすめるのですが… 最後に、全てが!と、予告しておくにとどめますね。 全体のタッチは、若竹七海の光文社文庫のシリーズ『ヴィラ・マグノリアの殺人』や『古書店アゼリアの死体』と同じトーンです。犯罪があるけれどどろどろしていない。人が普通に生活している。クスリと笑うシーンがある。ちょっと苦いけれど、読後感は悪くない。 「コージー・ハードボイルド」というブレンドは、私にはとても美味しかったのですが、そのジャンルの話ぬきにしても、十二分に楽しめました。 その味わい。 短編の間に別な話が咬まされていて、最後にうまくリンクする物語。 そして、登場人物です! 先にあげたコージーのシリーズ続編の『猫島ハウスの騒動』にも出てくる「葉崎」・「猫島」はもちろん、 ハードボイルドの御大、角田港大氏。彼らしい登場の仕方で脇役ながら大活躍です。 それから大道寺に筆を握らせる、幼馴染の編集者・彦坂夏見。どこかで聞いた…と思っていたら『スクランブル』に出てくるあの彼女なのでありました!こんなことになっていたのね!! 私の好きな若竹ワールド満喫☆ という一冊でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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