カテゴリ:本の話(日本の作家・あ行)
町長選挙
町営の診療所しかない都下の離れ小島に赴任することになった、トンデモ精神科医の伊良部。そこは住民の勢力を二分する町長選挙の真っ最中で、なんとか伊良部を自陣営に取り込もうとする住民たちの攻勢に、さすがの伊良部も圧倒されて…なんと引きこもりに!?泣く子も黙る伊良部の暴走が止まらない、絶好調シリーズ第3弾。 伊良部病院シリーズ、『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』につづく作品です。 毎度ハチャメチャな精神科医の伊良部先生。 無愛想でセクシーな看護婦のマユミとともに、三度登場です。 この『町長選挙』、前の2冊とはちょっと趣が違います。 球界再編成でもめるうち「たかが選手が」と口走ってしまった、プロ野球チームのオーナー。 ドラえもんならぬアンパンマンをもじったあだ名を持つ、IT業界の風雲児である会社社長。 ナチュラルなのに太らず、美しく、どの年齢層からも絶大な高感度を誇る、歌劇団出身の女優。 …それぞれの<患者>に、すぐに有名人が思い浮かんでしまいます。ニヤリ。 でも、話はもちろんフィクションです(おそらく)。 それぞれ、人には言えない、自分でもばかばかしいと思えるけれどもどうしようもない症状に、苦しんでいます。 身近な人のすすめで、信頼のおけるあの病院ならば…と伊良部総合病院を訪れてしまう。 そしてその先、驚きの診療が始まるわけです。 たしか『イン・ザ・プール』の帯には、 「ほんとうにこの男、医者か!?」 とありました。 そのくらい破天荒な伊良部先生です。 良く言えば無邪気――ものすごく良く言えば、ですが――な伊良部先生の言動にふりまわされているうちに、どうしようもなかった心の病を克服してしまう、というのがパターン。 まさに「ドギモを抜かれて」、ドギモと一緒に悪かった何かも抜け落ちてしまって、という感じですね。 そんな伊良部先生のはちゃめちゃぶり、3作目になってこの作品では、若干毒気が薄れた感があります。 もしかすると私に毒気の耐性ができてしまったためか? とも思いますが、「癒し系」という言葉も出てきますから、作者もそれは承知のところかも。 一番それがあらわれるのが収録の『町長選挙』です。 これは、すぐに思い浮かぶモデルのある話ではありません。 (似た話は、ニュースで見たことがありますが!) 舞台も都内を離れて南の島へ。 代々二つの勢力が町長の座を争って壮絶な選挙戦を繰り広げる伝統の、村のお話です。 その選挙戦が、伊良部先生を上回る破天荒なもので、笑わずにはいられません。 都庁から出向の宮崎くんという若い職員が、それに巻き込まれて心身症になりかけるのですが、気の毒ながらも、両陣営のやりとりがもう、笑うしかない。 そしてやがて、調子に乗っていた伊良部先生も抜き差しならないことになってしまうのです。 当初はもちろん、腹を立てるやらあきれるやらだった宮崎くんですが、事態の進捗につれて伊良部先生のことが、やがて少しわかるようになります。 その魅力について、分析してしまったりもするのです。 もちろん、好きになったわけではなさそうですけど。 文庫化を待ちに待っていた1冊でしたが、期待通りでした。 五百数十円でこんなに楽しめるんです。 伊良部先生にはまだまだ大暴れしてもらいたいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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